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    カリフラワー

    @4ntm_hns

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    カリフラワー

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    マ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「薔薇の花」
    去年のワンライ『永遠に続けば』の一年後…みたいな話ですが、そこまで関係ない話になりました。
    ゆるーいバレンタインです🌹

    #TGM
    #ルスマヴェ
    rousmavet
    #roosmav

    薔薇色の日 あれが一年前? 信じられない。
    僕が花屋に二本だけ残ったバラを買い占めたバレンタイン。ブラッドリーが花のない花屋でバラの代わりに観葉植物を買った日。あれから一年が経ったなんて。ブラッドリーが買ったサンスベリアは、今もまだ青々とした姿で我が家のリビングに鎮座している。そうか、もうそんなに経ったのか。危うく月日の流れに置いていかれるところだった。

    「ブラッドリー、言いにくいんだけど……」
    今年のバレンタインは僕が残業する番らしい。ブラッドリーを廊下の隅に呼び寄せそう伝えると、彼は明らかにしゅんとした様子で小さく頷いた。
    「そっか、仕方ないよね」
    「ごめんね、絶対に早く終わらせるよ」
    「マーヴ、そんなこと言ったら逆に帰れなくなるよ」
    "すぐ帰る"、"早く仕事を終わらせる"と口にすると、それが現実には起きなくなってしまう。ブラッドリーは一年前の経験から、そんなジンクスを信じていた。
    「大丈夫だよ、今君の目の前にいるのは誰だ?」
    「……? マーヴ」
    「ただのマーヴじゃないよ。君のためならどんなこともできる、君だけのマーヴだ」
    そのマーヴは有言実行できるんだよ。
    「こんなこと誰かに聞かれたら恥ずかしいんだけど……。俺が子どもだと思われるじゃん」
    本当に恥ずかしいと思うのなら、基地の廊下で僕の手を握りながら話を聞くのをやめなさい。
    「とにかく、居残りしてデスクに向き合わされることには慣れてるから、きっとすぐに終わるよ」
    「あ、また言った!」
    大きな声で反応するブラッドリーを嗜め、お互いその場をあとにした。

    やはり"すぐに終わる"なんて言ったのが悪かった。案の定仕事は増える一方で、数分ごとにあの子の顔を思い出しては延び続ける帰宅時間にため息が漏れた。
    「一刻も早くここから出たい……」
    仕事は嫌いではないが、こんな日にまで長々と残ってあげようと思えるほどの親切心は今の僕にはない。一年前のブラッドリーもこんな気持ちだったんだろうか。
    世間話を振り切るのが下手な僕も、今日だけは堂々と話の長い彼らに背を向けられた。「人を待たせているんだ、恋人をね」その恋人は今どこにいるのか。駐車場へと飛び出すと、ポケットでスマートフォンが震えた。
    "お腹空いたからダイナーに来た。何か注文しておくものはある?"
    待ちくたびれたブラッドリーは僕に車を残し、時間を潰すため歩いて近くのダイナーに入っていた。添付された写真には、見慣れないメニューが写っている。バレンタイン・ステーキ……? パートナーや友人と特大ステーキを分け合えということか? ブラッドリーが送った写真はそのステーキのメニュー一枚だけだった。僕は彼の意図を察してやることにした。
    "じゃあその写真のやつをお願いしようかな。一緒に食べてくれるか? 今から向かうから、すぐに着くよ"
    ブラッドリーからは数秒で返事が来た。ハートマークを飛ばすキス顔の絵文字。ようやく仕事はやっつけた。あとは恋人に会うだけ。二人の時間は誰にも邪魔させない。

    ダイナーは様々な客で賑わっていた。カップルや家族、一人客など、バレンタインを好きなように過ごす彼らの表情は皆明るい。ブラッドリーはボックス席から僕に向かって手を振った。
    「お待たせ」
    「ほんと、結構待ったよ」
    「はは、ごめん」
    「キスしてくれたら許してあげる」
    ブラッドリーは笑いながら座席から僕を見上げた。顎を上げて僕が屈むのを待っている。彼の額にキスを落とすと、信じられないとでも言いたげに眉を寄せ、抗議の視線を僕に刺した。
    「マーヴ、ここでしょ、ここ」
    ブラッドリーの人さし指が唇を指した。
    「おっとそうか、間違えた」
    今度は不満げに歪む唇にキスをすると、ブラッドリーは少し考えた後、テーブルに手をつき腰を浮かせて僕ともう一度唇を重ねた。
    「今日だけは許す」
    許してもらえて助かった。ブラッドリーは僕のわざとらしい冗談に満足げに笑った。
    バレンタインサイズらしい特大ステーキは、僕が席に腰を下ろしたのと同時にやって来た。ブラッドリーは鉄皿の上で焼き立ての煙と音を立てる肉にナイフとフォークを突き立て、きっちりと正確に二等分した。
    「それで? 仕事は本当に"すぐ"終わった?」
    ブラッドリーの片眉は意地悪そうに釣り上がっている。
    「いや、君の言う通りだったよ。"すぐに"なんて口に出しちゃいけないみたいだ」
    「ほらね? だからもう言わない方がいいよ。神様は俺らの会話を聞いてるんだよ、俺たちの愛を試すために」
    言いながらブラッドリーは一口サイズに切ったステーキを僕の口元へ近づけた。肉を刺したフォークごと受け取ろうとすると、彼はその手を引っ込めてもう一度僕の方へステーキを向けた。観念して口を開くと、彼は嬉しそうに僕の口の中へステーキを入れた。一人で食べられるんだけどなぁ。
    「定時に仕事が終わるってわかってれば、ロマンチックなレストランも予約したいんだけど」
    ブラッドリーは案外、恋人らしいことやロマンチックなことを経験したいタイプに成長していた。そういうことは過去の恋人と一通り体験した後だと思っていたが、どうやら彼が言いたいのはそういうことではないらしい。
    「マーヴとはまだやってないんだもん。マーヴは平気なの、俺と恋人らしいことを一から経験しなくても?」
    平気わけはない。君と経験していないことは、初めてするのと同じことだ。
    「でしょ。だからこれも、マーヴには初めてだよね」
    ブラッドリーはフォークを置いて座席の傍らから何かを取り出し、僕に腕を伸ばして差し出した。それは真っ赤なバラの花。バレンタインの日であること、僕たちが恋人であること、それらの条件が揃った上で花を贈るのは今日が初めてだと彼は言う。そんな風に条件を設定していたら、僕は死ぬまで初めての経験を積み重ねることになりそうだ。だって彼は、何でもない日に贈る花とバレンタインに贈る花を別物と呼ぶのだから。
    「ハッピーバレンタイン」
    「ブラッドリー、まだ食事中だよ」
    「いいから受け取ってよ。食べ終わるまで我慢できない」
    仕方なく付け合わせのサラダをソーダで流し込み、花束を受け取った。丁寧にラッピングされた包装紙とフィルムがカサカサと音を立てる。中を覗くと、バラの花は六本。
    「今年は買えたんだよ、去年と同じ花屋で。あのままマーヴのこと待ってたら買えないところだったけど」
    照れくさそうに微笑むブラッドリーの頬もバラと同じように赤い。今年もメッセージカードが添えられている。"良いことも悪いことも二人で分かち合おう。ハッピーバレンタイン" ブラッドリーの筆跡が走るカードを指先で撫でると、彼はテーブルの向こうから僕の手元を見つめて微笑んだ。
    「ありがとう、去年の僕より花の本数が多いね」
    「多けりゃ何本でもいいってわけじゃないけどね」
    ああ、意味があるんだっけ。
    「一つは"あなたに夢中"」
    「それって君そのものだね」
    「俺はマーヴみたいって思ったよ。もう一つの意味は"お互いに敬い、愛し合いましょう"だって」
    ブラッドリーの言葉を聞き、今ようやく自分の贈り物に込められた意味を考え始めた。僕は去年、二本のバラをブラッドリーに贈った。彼はあの時二本のバラの意味を知っていたのだろうか。知らなくたって、きっと後から調べる機会はいくらでもあっただろう。僕はあの時花屋の店員に、二本のバラには"この世界には二人だけ"という意味があるのだと教えらた。それから僕は、まさに僕たちにぴったりだと喜び勇んで残った二本のバラを買い占めた。君も同じように感じてくれた? 六本のバラが表す意味に、僕たちの姿を重ねてくれたのかな。
    「良いことも悪いことも、二人で分かち合う、か……」
    「なに、異論でもある?」
    ブラッドリーは頬杖をついて、面白そうに僕の目をじっと見据えた。ステーキの鉄板はもうとっくに静まり返り、ソーダは氷が溶けてほとんど水の味になっていた。切り分けられたステーキも、ブラッドリーの分はいつの間にかなくなっていた。
    「いきなりだけど、僕たちは今から悪いことを分かち合わないといけないんだ」
    「ええ……なんだろ」
    上着のポケットからはみ出た二つ折りのカードを取り出し、不安げなブラッドリーに差し出した。それはバレンタインらしい、白地に赤いバラが描かれたシンプルなメッセージカード。
    「今年は僕が花を買いそびれてしまったよ。君も予想はしていただろうけど」
    「うん、マーヴが手ぶらで来たからちょっと寂しかった」
    その言葉とは裏腹に、ブラッドリーは何でもないように笑った。花が売り切れ、もはや売る物がなくなり店自体が閉まっていたこと、ダイナーまでの道中でバラの花を贈る方法を色々考えたことや、このメッセージカードが一番可愛らしかったこと。説明できることを全てブラッドリーに話し尽くした。
    「本物の花がなくてごめんね、もっと何か特別な物があればよかったんだけど」
    「それって、これが特別じゃないって言いたいの?」
    ブラッドリーはカードの宛名が書かれた面にキスをして、ゆっくりとカードを開いた。彼がカードを開く時、彼の口からは微かに笑い声が漏れた。
    「"ハッピーバレンタイン、僕は毎日君に恋しているよ"……だって、マーヴ」
    「知ってる、僕が書いたから」
    嬉しそうに口髭が波打ち、ブラッドリーはもう一度同じメッセージを読み上げた。意味を確認するように、ゆっくりと。それから彼はカードを閉じ、バラのイラストを指で優しくなぞった。それを見ながら、身体が熱くなっていくのを感じる。やっぱり目の前で自分のメッセージを読まれるのは恥ずかしいものだ。この顔だって赤くなっているに違いない。
    「見て、マーヴのカードはバラが三本だよ」
    「本当だ。正直本数までは気にしてなかったんだ、ちょっと少ないかな?」
    するとブラッドリーは意味深な笑みを浮かべ、自身のスマートフォンの画面に何かを打ち込んだ。画面を僕に見せながら、そこに映る文字を読み上げる。
    「三本のバラの意味は"告白"、"愛しています"だって。マーヴったら、情熱的」
    そんな意味があるなんて知らなかったんだ。そんなことを言ったって、バレンタインのメッセージカードに愛にまつわる以外の意味があるなんてあり得ないことだが。
    「これはマーヴからの愛の告白?」
    「へ?」
    「マイペースなマーヴのために、詳しい告白はもう少しゆっくり待ってあげようか?」
    言いながらブラッドリーはわざとらしく背筋を伸ばし、きらきらと光る両目で僕の"告白"を待ち構えた。
    「……僕がマイペースだったことなんてあったか?」
    「それはいいから、話をすり替えないで」
    そもそも僕たちは何の話をしていた? ブラッドリーの目の中で飛び交う星々や、彼の周囲を彩るハートマークの幻を見ていたら何もかも忘れてしまった。今思い出せるのは、今日がバレンタインデーあることと、ブラッドリーが僕の愛しい恋人であることだけ。たぶん、それが今この瞬間の全てでもある。そしてその恋人は、僕に何度も愛を打ち明けさせる。聞き飽きた素振りも見せずに。
    「一度しか言わないよ」
    ブラッドリーが大きく頷いた。
    「ブラッドリー、君のことが好きだ、愛してる。来年は必ず本物のバラの花を君に贈りたい。だからそれまでの一年、毎日僕に君を愛させてくれないか」
    ブラッドリーは首を傾げて尋ねる。
    「本物のバラを贈った後は、もう俺を愛してくれなくなっちゃうの?」
    そんなわけない。君だってわかってるくせに。
    「僕の告白に完璧さを求めないでくれ」
    「わかったよ、マーヴにも下手なことはあるもんね」
    ブラッドリーはいたずらっ子のように笑った。ああそうさ、僕にだってなかなか上達しないことはある。まして今の言葉はアドリブだ。僕はアドリブはあまり上手くない方なんだ。だけど君はこの先また何度でも、僕に上達の機会を与えてくれるだろうね。そうしたら君は毎度、初めて求愛されたみたいに喜ぶんだ。
    「マーヴが俺を好きでいてくれるなら、本物のバラなんていらないよ」
    「でもバレンタインにバラの花は付き物だろ」
    「もう、俺の言いたいことわからない? 俺が欲しいのはマーヴだけ」
    僕が欲しいのもブラッドリーだけ。彼はそう言われるのを待っている。
    「恋人らしいことがしたいんだろう? 僕の身一つで満足するにはまだ早いんじゃないか」
    ロマンチックなレストランで食事をしたり、お互いにバラのブーケを贈り合って美しい香りに深呼吸したり、あとは……何がある?
    「本当はね、マーヴだけで十分。でもマーヴの言う通り、俺たちはまだお互いの存在だけで満足するほどたくさんの時間は過ごしてないもんね」
    「ああ、その通りだ」
    それなら何もすることがなくなるまで、君のためにあらゆる経験を贈るよ。僕の君を想う心と共に。
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    DONEマ右ワンライ/ルスマヴェ/お題「昼寝」
    同棲ルマツイートの一つを薄く伸ばして書いたのですが、既に投稿として表に出したネタなのでルール違反だったら消します。すみません。
    読んでて集中できない仕上がりになりました…これこそ寝落ちしそうな出来💤
    Sound of Wind, Chips, and Your Dream 昼下がり。なんとなく口寂しい時間。マーヴはガレージに篭っている。つまり今すぐお菓子を取り行けば、マーヴにバレずに小腹を満たせるということ。
    今日の天気は快晴で、気温も風も心地良い。家のところどころで窓を開け、部屋の中まで風の匂いを感じる。こういう日はのんびりと過ごしたい。
    「確かあの棚にアレがあったはず……」
    収納場所を一ヶ所ずつ思い出しながらキッチンを目指した。そうだ、冷えた炭酸水をお供にしよう。シュガーフリーのドリンクなら大丈夫。決意してキッチンに入ると、思わぬ先客がいた。
    「あれ、マーヴ? ここにいたん……あ、」
    見るとマーヴはキッチンカウンターに突っ伏して眠っている。思わず言葉が途切れ、足もぴたりと止まった。ガレージにいると思ってたのに。どうやらマーヴを起こさないようにしておやつを用意するしかないらしい。慣れてはいるが、やはり緊張はする。目当ての棚はマーヴの真後ろにあり、ぐるりとカウンターを回り込まなければならない。そっとマーヴに近づき今一度様子を確認すると、彼は小さな寝息を立てている。
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