Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    🌸Sakura

    @sakurax666sword

    MHRのウツハン♀の民。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 10

    🌸Sakura

    ☆quiet follow

    ウツハン♀
    ハンター上位に上がって少しした頃の愛弟子。

    #ウツハン
    downyMildew

    七転び八起きの合間に。「クエストの報告、お願いします…。」
    「はい、お疲れさまでした。…あら?ハンターさん?」
    ミノトさんの顔が見られない。教官の顔はもっと見られない。クエストの報告を提出するなり、集会所を足早に出た。


    どんより、としか言いようのない顔をしていると思う。思い出したくもない今日の失態が次々浮かんでくる。2回も力尽きてキャンプ送りになり、鉄蟲糸技も格好悪く空振って…。
    「あああ〜」
    声を出して、延々と脳内を行き交う失態の映像集を振り払う。
    「最近ちょっとは上手く狩れるようになったと思ってたんだけどなぁ」
    今日は要請を受けて狩りに合流したのにこんな有様で、一緒に狩ったハンター達に申し訳無かった。何度も倒したことのあるアンジャナフ相手だったし、良いところ見せよう、ぐらいの気持ちだった。教官にもつい先日、アンジャナフの頭を狙って攻撃を当てられるようになった、炎ブレスや突進も少ない動きで効率的に躱せるようになったと報告して、いつものように大袈裟に誉めてもらって…それなのに…
    恥ずかしい。恥ずかしい。自分なんて上位ハンターを名乗っちゃいけない。
    蹲った姿勢から更に顔がどんどん沈んでいく。
    誰にも会いたくない、と思いながらも、こういう時は絶対に…

    「大丈夫かい?」
    ほら来た。
    「………体調は大丈夫です。」
    「それは良かった。でも、じゃあどうしたの?」
    顔は下げたまま、自分の足と地面だけの視界。じゃり、と土を踏む音とともに影がさす。
    「教官は、分かってるんじゃないですか…?私が受けたクエストも、かかった時間も、ご存じでしょう。」
    「アンジャナフの突進を正面から計4回、炎は立て続けに2回食らって、鉄蟲糸技をなぜか誰もいないところで空振って、移動するアンジャナフを追いかけようとしたけど飛距離を見誤って崖から落ちて翔蟲の回復をじーっと待って…」
    「いやあああああ。って言うか全部見てたんですか…」
    長い溜め息をつく。数々の失態も一緒に体から出ていってくれないかな、とお腹の底から長く長く。
    じゃりじゃりとまた音がして、自分の足と地面の隙間にジンオウガ色の装備が見えた。大きな体がすぐ隣に腰を下ろした気配を感じる。
    「ちゃんと最後は倒したし、大きな怪我もせず帰ってきたじゃないか。」
    温かい声が間近で聞こえて、鼻のあたりがつんとしてしまう。いやいや、こんなことで泣くのは恥の上塗り過ぎる。残った微かな自尊心を掻き集め、普段通りの声を出す。
    「最近、本当にミスが多くて。調子に乗ってるつもりはないんですけど、やっぱり油断があるんでしょうか。」
    「うーん、今までと同じようにモンスターから目を離さず、集中しているように見えるけどねぇ。でも古龍相手の方が慎重に攻撃を避けられているよね。油断と言うか、慣れたモンスターだと相手が攻撃に転じた瞬間も深追いして、もう一撃入れようとしてしまっているんじゃないかな?特に今までに倒した数の多いモンスターにはその傾向が出やすいよね。最速を目指すのは素晴らしい挑戦だと思うけれど。」
    「どれだけ見に来てるんですか!」
    クエストの様子を見られていたのは今日だけじゃないのか…と呆れ、思わず顔を上げる。教官は急に動いた私に目を瞬かせるが、すぐにいつもの穏やかな目つきになる。まあ、自分のこの体たらくでは心配されて狩りを見に来られても仕方無いか、とまた鬱々としてくる。
    「…教官」
    「ん?」
    「何か、気分転換できることってありませんか?」
    教官は顎に手を当てて空を仰ぐ。
    「俺だったら、デカめのモンスターでも」
    「狩りのことで落ち込んでるんです!それ以外で!」
    「狩り以外かぁ…」
    しばし沈黙が落ちる。
    さわさわと木々の葉が風に揺れる。里でよく見かける鳥が、抜けるような空を渡って行く…。返事が返ってくる気配が無い。
    「教官の頭は狩りのことでいっぱいですね。」
    モンスターのことや武器のこと、狩猟に関する質問なら何でもすぐ分かりやすく解説してくれるのに。聞く相手を間違えたか。
    「うーん…。掃除、とか?」
    掃除。
    生活感溢れる提案だ。教官も一人で細々と家の掃除をすることがあるんだろうか、と変な想像が頭をよぎる。
    気分転換と言ったら水回りの掃除かな、でもルームサービスさんが普段から整えてくれているから、あとはいつもは深追いしない箇所の掃除か、いっそ棚とかを作って模様替えしてみるか。想像していたら悪くない気がしてきた。
    「…そうですね、ちょっと想像したら気分が変わってきました。やってみます。」
    「うん!それは良かった。じゃあさっそく始めようか。」
    「はい。…え、教官も?」
    さっさと立ち上がり、教官はもう歩き始めている。
    「そろそろ掃除しなきゃなって思ってたんだよ、俺の家の。」


    里の外れ、他の家々から少し離れた場所にある教官の家。
    教官はガラガラと戸を開けて、振り返る。「愛弟子が来るのは久しぶりだね。」
    確かに、どれくらいぶりだろう。教官に続いて足を踏み入れる。
    外から差し込んだ陽光に、細かな埃が照らされる。室内の暗さに目を慣らしながら見渡すが、前に出入りしていた時とあまり変わっていないように見える。教官の家は物が少ない。狩猟の道具も全て仕舞われているようだし、目につくものと言えば、座敷の隅の彫りかけのお面と彫刻刀一式ぐらい。特に散らかっているようには見えないが…。
    「きれいじゃないですか?」
    「あ、ここじゃなくて。こっちこっち。」
    教官は更に奥へ進んでいく。その背を追って進み、座敷の前を横切る。お面以外に、目につくものがまだあった。
    「教官」
    「え?」
    「掃除ですよね?」
    「うん」
    「なら、これもう片付けましょうよ。」
    壁に、わざわざ額に入れて飾ってある拙い絵を指す。
    「駄目だ。」
    「めったに言わない本気の口調で拒否しないで下さい。」
    改めて絵をちらりと見る。自由で勢いのある筆使い、と言えば聞こえは良いが、まあ子どもらしい絵だ。緑と黒で境界をはみ出して塗りたくられ、絵の下部にはところどころ鏡文字になりながら『ウツシおにいちゃん だいすき』と書かれている。5、6歳くらいの時だったか。
    「まだ飾ってあるとは…。」
    「宝物だからね。」
    片付けてもらうのは無理そうなので、小さく息をついてまた教官の後を追う。
    狩猟用の道具箱やら着替えなどの諸々を仕舞ってあるだろう行李やらを通り過ぎ、木の扉の前で教官が足を止める。
    「ここだよ。」
    「物置…?」
    何度か中を見たことはある。確か、たまにしか使わない作業用の刃物とか、備蓄として水や携帯食料を並べた棚とか、普段は使わない雑多なものが詰め込まれていたはず。
    軋んだ音を立てて扉が開かれる。微かに黴臭い匂いがして、思っていたより多くの物が視界に入ってきた。扉を開け閉めできるぎりぎりのところまで荷物が置かれている。この家に物が少ない、というのは撤回しよう。
    「普段使わない物は、ついここに置くだけになっちゃってねぇ。」
    気まずそうに頭を掻いて、教官は近くに積んであった葛籠や木箱をいくつか降ろして床に並べていく。足元に置かれた木箱の一つを開けてみる。
    「紙?」
    「あ、その3箱は全部、百竜夜行の観測記録の古いものだね。」
    葛籠を開ける。
    「それは失敗作のお面や、その端切れだね…。それもまとめて処分しようかな。」
    麻袋を開く。
    別の木箱を開ける。
    棚に並んでいる物を下ろして奥を覗く。
    次から次へと色々な遺物が顔を出し、私は教官の指示に沿って土間に運んで積み上げたり、また後で物置に入れ直すために脇に置いたりしていく。
    体を動かしていると気分が晴れるし、物を仕分けることで頭の中も整理されていく心地がする。それに、人と一緒の作業だと、思考が暗い方へ向かわずに済む。
    幾分気持ちがすっきりしてきたのを感じながら、教官の背に向けて心の中でお礼を言う。いつの間にか左肩や腰の装備を外していて、広い背中がよく見える。
    今日の自分は重ね着しているところもあれど基本的にはカムラの装で、周りにぶつかることもない身軽な装備なのでそのまま作業していた。それにしても屋内で作業するにはこの装備も多少煩わしい。私も教官に倣って、手甲や腰巻、それから首に巻いた上衣の一部を外すことにした。
    もそもそと装備を脱ぐ私を教官はちらりと見て、また荷解きや仕分けに戻っていった。
    外した装備を片隅に寄せる。うん、インナー程ではないけど楽になった。さて今度は何を運ぶか…。教官、と声を掛けようとして、またその背中が目に留まる。今は屈んで何やら雑多な物を仕分けしているが、そんな体勢でも安定感のある背中だ。
    乗っかってみたい。
    不意に湧いた心の声に従い、教官の後ろから手を回しておぶさる。私が近付いたことに当然気付いただろう教官は、体勢を崩さず、受け入れるようにふわりと少し前に傾く。
    少し硬めの髪が頬をくすぐる。肩や背中の逞しい隆起から体温が伝わる。いつもはお互い装備を付けているから、こんなに体の形をはっきりと感じられない。この締まった筋肉が伸び縮みして、あの流れるような剣技になるんだなぁ。
    心地良いその香りも胸一杯に吸う。安心する、いつもいつも傍で感じてきた香りだ。
    「………?」
    …つい、好き放題してしまった。さっきまで熱心に作業していた教官の動きが完全に止まっている。怒っていることはないと思うけれど…。
    「…教官?」
    「はいっ!!!?」
    くっ付いている分、大音量が振動ごと伝わってきた。
    「わあうるさい。え、どうしたんですか…。」
    「いやキミこそどうしたの…、うるさいって言った?」
    「言ってません。」
    「言ったよね…?」
    「全然言ってません。」
    「……」
    ふ、と吐息のような笑いが聞こえ、
    「今日のクエストのことを気にしてるのかい?」
    殊更に優しい声が続いた。
    胸の深くまでその優しい響きが沁みていくよう。気にしている、そうなのかもしれない。掃除をしていて少し気分を変えられたと思ったけれど、なんだか無性に甘えたい。
    「教官は…」
    「ん?」
    「教官は、もしも私がなかなかなかなか上達できなくても教官でいてくれますか。」
    「もちろんだよ。」
    「ずっと、一緒に過ごしてくれますか。」
    「何度でも、いつでも付き合うよ。大丈夫、キミはちゃんと日々成長している!」
    「そうでしょうか…。せっかく教官がたくさん丁寧に教えてくれているのに、身に付かなくて。もし、もしも、強いハンターになれなくても、傍にいてほしいです…。でも教官は、期待に応えられない私を嫌いに…」
    甘えてうじうじと泣き言を連ねていたものの、最後に出かかった不安を言葉にするのは恐くなり、口を噤む。
    万一突き放されたら立ち直れない気がする。ものの数秒の沈黙を重たく感じる。
    「教官の愛が、伝わっていないようだね。」
    「え?」
    「それとも、教官の愛じゃ足りないかい?」
    「……?」
    教官の言葉の意味が分からず、でも何かを期待するように鼓動が早くなる。
    ずっと教官に乗っかっていた私の足に腕が回され、あやすようにゆらゆらと背中が揺れる。先程の絵が脳裏に浮かぶ。
    「お兄ちゃんになってほしい訳じゃ、ないです。」
    少し口を尖らせて言う。こういうところが子ども扱いされてしまうのか。でも、そうじゃなくて、私が欲しいのは。
    教官が腕をほどいてゆっくりと体を起こし、私はその背中を辿るように滑り落ちる。すとん、と着地する。
    教官も立ち上がってこちらに向き直る。その表情が見えたか見えないうちに、教官の香りに包まれた。クエストを終えた時のいつもの力強い抱擁とは違う、柔らかい、優しい、でもどこか切実に求められるような触れ方だ。
    ふわふわと幸せな感覚と、いつもと違う触れ方に少し緊張する感覚が混じり合う。
    額の端に熱を感じた。
    視線だけ動かすと、よく見えないが教官の顔がある。口元の覆いは外されていないようだが、かかる息の熱さと、口が押し当てられている感触を生々しく感じる。
    これは、口付け、なのだろうか。
    経験したことの無い触れられ方と、どう受け止めていいか分からない状況にひどく混乱し、思考が停止してしまう。疑問の言葉だけが頭を繰り返し行き来する中で、何か思い出しそうになった。顔が熱い、この感じをどこかで…。
    熱が、私の顔の輪郭をなぞるようにゆっくり、ゆっくりと下りてくる。同時に背中に回されていた手が始めは撫でるように、その後だんだんと力を込めて、私の形を確認するように這い回る。甘い痺れが全身に行き渡るようで、体を震わせてしまう。知らない感覚から逃れようと身を引きかけるが、腰に絡めたもう一方の腕に力を込められ阻まれる。それでも私は更に抜け出ようと―――
    「あっ!!!」
    急に上げた私の大声に、教官が動きを止める。
    「えっ?…ごめん、嫌だっ」
    「アンジャナフ!!」
    「……えっ?」
    「顔が焦げそうに熱い感じで思い出しました!アンジャナフの炎!あれ、あのタイミングでこう避けてこういけば…」
    「愛弟子…?」
    後退の仕方を全力で考えていたら、良さそうな避け方が閃きかけた。これは、うまくいけば反撃に繋げられそう。ちょっと実際に武器を持って試してみたい。
    「教官、ありがとうございます!なんだかうまくできそうな気がしてきました!修練場に行ってきます!」
    一気に言って、置いておいた装備を抱えて走り出す。
    修練場のからくりで、立ち位置を確認できるかな。からくりは炎を吐かないけど、アンジャナフの炎は一直線だし、地面に線を書けば目安になるか。修練場に着いてからのことを思い描き、逸る気持ちを抑えもせずに翔蟲を飛ばす。


    「狩りのことで頭がいっぱいなのは、キミの方じゃないかな。」
    教官一人が残された家の中で、誇らしく笑うような、少し残念がるような声が響いた。
    「あと俺、そんな焦げそうなぐらい体温高い…?」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭🙏🙏❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works