触れる★SIDE・K
長い残暑から一転し、一気に秋めいた空気に肌がカサつく。KKは、洗面台に向かって、顔や身体に入念にクリームやボディミルクを塗って保湿を施す暁人を、ジトリと見詰めていた。曰く、今は男もスキンケアを大事にする時代──とかで。確かにそんなCMが最近増えた気がするが。
「KK、手荒れ酷いね。クリーム使ってみる?」
「オレはいいよ、今更そんな事気にするような歳でもなし」
善意からの提案を柄ではないからと断った──断った筈なのに。まんまと手を握られてしまっている。正直、この青年の押しの強さを舐めていた。
「金木犀の香りなんだ。甘くていい匂いでしょ」
骨張っていて存外男らしい暁人の手が自分の手を包み揉んだり、指の間をなぞったりして乳白色のクリームを伸ばしていく様は、何だか色っぽい。
「オレはいいって言ったのによ」
「放って置くと切れて、結構痛いんだよ。まぁ、KKのちょっとカサカサした掌、僕は好きだけどね」
「……おお?」
邪な考えが浮かんだのを誤魔化そうとしたのに、思わぬ返答が返ってきて間抜けな声が出た。
ひとりでに上がろうとする口角を必死に抑える。今夜はいつもより多めに、彼の瑞々しくキメの細かい肌をこの手で撫でてやろう──そう思った。
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★SIDE・A
ぱちん、ぱちん。アジトのリビングに軽い音が響く。キッチンで皿を洗っていた暁人が音の出元を辿ってみると、KKがソファの上で背を丸めて、手の爪を切っていた。
「あれ、この前も切ってなかった?」
「おう。また少し伸びたんでな」
ローテーブルに広げられたティッシュには、薄く細い半月状の切れ端がポロポロと落ちている。
「あまり頻繁にやってると深爪になるよ」
「少しでもオマエを傷付けたくないんだ、わかるだろ。多少深爪になるくらいならどうってことねーや」
「えー……、え?」
ヤスリがけをしながらボソリと呟くように吐き出された言葉に、カカカ……と顔が熱くなる。
「ほれ見ろ、慣れたもんだろう?完璧だ」
目の前に差し出された働き者の手は綺麗に爪が切り揃えられ、ヤスリで角も取られている。確かに、完璧だ。
暁人は、無骨でありながら自分への気遣いが見える手を自分の両の手で握り、包み、そろりと撫でた。
「──楽しみにしてるね」
黒褐色の瞳に映る顔は、薄ら点った欲でとろりと溶け始めている。高まる期待に、ごくりと喉が鳴った。