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    臓物(GwT)

    @motsu_nikomiSUB

    節操無し置き場。K暁のみ。
    今後こちらには健全なもののみアップしていきます。
    (過去アップした年齢制限付きのものは置いたままにしていますが、メインの更新先はぷらいべったーです)
    書きたいものを書きたい時に。
    かなり拙いので、
    あまり深く考えずにお読みください…。

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    臓物(GwT)

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    暁人くんお誕生日おめでとう!!
    名前に込められた願いと、これから先も続くもののお話。
    ※全員生存している、当社比で超ハッピーな仕上がりになっております。健全です。

    #K暁

    願うもの、繋ぐもの。 ヒトの名前というのは実に厄介なもので、親が子の幸せを願って付けたものもあれば、叶わなかった理想を背負わせるものもある。長い人生の中でそれが祝福に転じても呪詛に穢れ堕ちても、その縛から逃れることは難しい。KKは自ら名を捨て改めて、その縛りから逃れた者である。
     今も昔も、自分は人間・妖怪・霊・マレビト問わず、面倒なモノに絡まれやすいと自覚している。表向きは既に死者として扱われているし、常世の者に真名を握られるのは魂を晒すのに等しい。日夜問わず化け物と関わる仕事をしている以上、リスクを減らすためにも、新しい名前に乗り換えることにさほど抵抗も躊躇もなかった。一緒に切り捨てたつもりでいた人間的な弱さは、結局捨てられなかったけれど。
     そんな自分の相棒の名は“伊月暁人”。──いい名だと思う。夜明け空の眩しさを冠した名前は彼にピッタリだ。両親の深い愛情が感じられる。

    「あの、お客様……プレートにお名前はお入れしますか?」
    「──あ。ああ、はい。お願いします」

     色とりどりのケーキが並ぶショーケースの向こう、怪訝な表情で問いかけてきた店員の声に、KKはハッと我に返った。

    「あきと、で」
    「かしこまりました」

     苺とホイップの間に置かれたクッキープレートに、チョコペンで可愛らしく“あきとくん”と文字が書かれた。子供の誕生日ケーキだと勘違いされたのだろうか。実際は年下の恋人に向けたものでも、たまたま依頼帰りに見かけたケーキ屋の名も知らぬ店員に言うことでもないし、今更書き直させるのもはばかられて、「ありがとうございます」と短く礼を述べた。

    (あー、しまった。……アイツ、また僕のことガキ扱いして〜なんてヘソ曲げたりしてな)

     自分より年若い暁人は子供扱いされるのを嫌がる。かと思えば幼さを利用して甘えてくることもある。朗らかで明るく真面目ちゃんな顔の裏に、少しだけずる賢いところあるのを「このクソガキ」と思うことはあっても、危うさがある小悪魔的な魅力に、見事心を射抜かれている自分も大概だから、偉そうな口はきけない。
     ホールケーキにしたのは夕飯時に伊月兄妹を含めたメンバー全員が勢揃いするからだ。腕時計を確認する。時刻は夕方五時半過ぎ。日が傾いて暗くなり始めた空を見ながら、KKの足は幽玄坂ではなく渋谷駅近くにある花屋に向かっていた。

     ◇

    「いらっしゃいませ」

     店内に入った瞬間、華やかな香りがKKを包んだ。カウンターに控えていた女性の店員に控えめに会釈をする。ケーキが入った箱を斜めにしないよう両手で抱えながら、狭い店内をぐるりと見渡した。薔薇──はキザ過ぎるか。ダリアは、少し派手な気がする。そうやってうんうん唸っているのを見かねてか、助け舟がやってきた。

    「プレゼント用ですか?」
    「はい。えっ……と、オレの、大切なヤツなんですが。今日ソイツの誕生日で」

     誕生日と聞いた花屋の店員は、「まぁ」と口に手を当てて微笑んだ。妙に気恥ずかしくなって、声が小さくなる。

    「知ったのはつい最近だったから。忙しくしているうちに、すっかり用意するのを忘れちまってて」
    「ふふ、余程大事に想っているんですね。がっかりさせたくないって、顔に出てますもの」

     ──そんなに、わかりやすいだろうか。
     店員はKKの動揺は気にせずに、ウェーブがかった茶髪を揺らしながら季節の花のコーナーに歩いていった。手に持った辞典を見ながら、細い指が品物を吟味していく。

    「今日は九月八日だから……良かった、誕生日の贈り物にピッタリな花がありますよ。こちらです」

     指し示された先には小さな白い花があった。バケツに付けられた名札には“ゼフィランサス”とある。

    「ゼフィランサスといって、お相手さまの誕生花です。花言葉は“汚れなき愛”、お客さまの気持ちを伝えるのに、これ以上適した花は無いかと」
    「愛らしい花ですね」
    「そうでしょう?」

     白く可憐な花びらが、暁人の笑顔を思い起こさせる。白い品種は寒さに強いそうで、身に秘めた生きる力や強さも彼を表すかのようで好ましい。

    「では、それを」
    「かしこまりました。ゼフィランサスに合う花をいくつか合わせていきますね」

     結局、あれやこれやと聞かされて、花束は太く豪華なものになっていった。まんまと乗せられた感は否めないが、閉店間際まで付き合ってもらった礼として追加でラッピングも頼んだ。
     両手いっぱいに荷物を抱えて慎重にアパートの外階段を上り、アジトの扉を開けると、帰りを待っていたらしい暁人が腰に手を当ててこちらを見ていた。

    「もう先にお夕飯頂いたよ。メッセージ飛ばしたのに、返事が来ないから心配したんだぞ」
    「悪かったって。持ってる物が多くて、もう近くまで来てたし、ポケットに入れてそのままにしてたんだ。遅くなったのは、これを選んでたからだよ」

     そう言って青いリボンが巻かれた花束を押しつけた。いざ本人を目の前にすると、緊張してぶっきらぼうになってしまう。いい歳をして、恋を覚えたての中学生でもあるまいに。

    「……何?……あ、もしかしてこれ」

     怪訝な顔をしながら花束を見ていた暁人は、タグのメッセージを見るなり鳶色の瞳を丸くした。頬がほんのり赤く上気して、何を言ったものかと逡巡した後に口を開いた。

    「僕の誕生日、覚えててくれたんだ」
    「……おう。いや、正直言うと準備はできてなかったけどよ、何も渡せないのは嫌だったから」
    「──嬉しい」

     暁人は目を閉じて、花束をぎゅっと抱きしめた。思った通り、ゼフィランサスの花は彼によく似合っている。その様子を見て安堵したKKがふっと笑ったところで、暁人の背中側、リビングに繋がる扉の向こうから、ひょこひょこと仲間たちが顔を出した。

    「お兄ちゃん、良かったね!」
    「誕生日おめでとう、暁人さん!」
    「わっ!ま、麻里……絵梨佳ちゃんまで!?」
    『意外だな、こんなにマメな気遣いができる男だったとは。ボクはてっきりキミはもう暁人のことを忘れていて、今日は何事もない普通の一日として過ぎるものかとばかり思っていたよ』
    「うるせーな、オレだってこれでも色々考えてんだよ。なんだよオイ……そのニヤケ面やめろ、デイルオマエもだ!」
    「玄関先で騒がないの、近所迷惑でしょ」

     二人揃って慌てて対応していた野次馬は、凛子の一声でそそくさと引っ込んだ。壁に寄りかかる彼女は呆れた顔をして溜息をついたが、その横顔は柔らかい。

    「手に持っているのはケーキかしら?丁度小腹が空いてきた頃合だ。突発ではあるけど、アタシたちもご相伴にあずかっても良ければ、暁人くんの誕生日会を開きましょうか」
    「いいんですか?」

     暁人の問いに凛子が頷く。

    「勿論。お祝いしなきゃねって、皆とも話していたし。そうね……二人共、お使いを頼まれてくれない?絵梨佳たちにはジュース、アタシたちにはビールやチューハイがあれば良いわね。おつまみも」
    「オレはいいが──」

     今夜の主役まで使いっぱしりにするのか?と言いかけて、彼女が意図していることに気付いたKKは口を閉じた。ケーキを凛子に預けた暁人は、奥から財布やエコバッグを持ってきて、凛子に向かい会釈をした。

    「行ってきます。……凛子さん、ありがとうございます」
    「いいのよ。ケーキは取っておくから、アタシたちのことは気にせず、仲良くお散歩に行ってらっしゃい」

     ◇

     痩せた月とビルの窓から漏れる灯りが、KKと暁人の影をアスファルトに伸ばす。ななほしまーとまでの短い道のりを一歩一歩ゆっくりと歩く。

    「改めてお礼を言わせて。誕生日のお祝い、ありがとう、KK」
    「いいってことよ。一昨年も去年も、人体消失の件の事後処理やら、盆の繁忙期に受けた依頼の後始末が重なって仕事仕事……祝うどころじゃなかったからな。オマエが喜んでくれてホッとしてる」

     ぽつぽつと言葉を交わす。KKが立ち止まると、暁人も足を止めた。

    「急ごしらえだったとはいえ、花束だけってのもな。他に欲しいもんあったら言えよ?買ってやるから」
    「ううん、いい。KKが僕のために選んできてくれた。それだけでいいんだ」
    「そうかい。……この際だから、今のうちに弱音も吐いちまうかな。だらしない男だなと思っても構わない、笑いたきゃ笑えよ」
    「笑わないよ。聞かせて」

     涼しさを纏った秋風が、夜道に立つ二人の間を通り抜けていく。すぅっと息を深く吸って、吐いた。

    「暁人、オレはな、オマエに感謝してるんだ。あの時オマエがあの場に居なかったら、一緒に戦ってくれなかったら、今はなかった。もう枯れきったと思ったここに、もう一度火を灯してくれたのはオマエなんだ」

     自分の胸を拳で叩いてから、暁人の胸にもトンと拳をつける。淡い色の虹彩が薄闇の中でキラキラと光っている。この優しくて暖かい瞳が時に熱く燃えて、太陽のようにKKを導いてくれた。何があっても光を見失わない強い意志を宿した眼差しに、何度助けられたことか。

    「それでも、時々怖くなる。奇跡みたいな毎日と道標が、突然目の前から消えちまったら、って。……だから、オレは決めたよ」

     空のエコバッグをぶら下げた右腕を強く引いた。バランスを崩した暁人を腕の中に収める。街の喧騒がふわっと遠くなって、清潔感のある石鹸の香りの髪がKKの鼻先に触れた。

    「け、けぇけぇ?」
    「もう二度と失わないように、守るよ。この先何が起きてもオレがオマエを守ってやる。呼んでくれたら何処であろうと駆けつける」
    「……!」
    「じゃなきゃ、見守ってくれてるオマエの父ちゃんと母ちゃんに顔向けできないしな。すぐに大したもんは用意できなくても、誓いの言葉なら捧げられる。これが今オレが渡せる精一杯のプレゼントだ」
    「っ、……うん」

     背を撫でながら言うと、肩口でずずっと鼻をすする音がした。普段の自分なら「シャツを汚すなよ」と叱っていたかもしれない。でも今夜くらいは特別、目の前の青年に甘えさせてやろうと思う。

    「誓いの言葉なんて、キザなセリフだね」
    「教会じゃなくて街中で言うのは風情がなかったかもな、お気に召さなかったか?」
    「ううん、最高のプレゼントだ。もらってばかりじゃいけないから、僕にもお返しさせてくれよ」
    「オレとオマエの仲だろ。そう細かく気を遣わなくて、も」

     もっちりとした感触のものが自分の唇に触れたのを感じて、KKは目を見開いた。筋の通った鼻から微かに息が漏れる。形の良い眉の下、閉じられた長いまつ毛に乗った涙の粒が、震えに合わせて弾けて落ちた。
     時間にすれば三秒ほど。触れ合うだけの軽い口付けである。しかし自分に合わせて少し背伸びをした暁人の健気な様は、彼より場馴れしているはずのKKを赤面させるのには充分だった。

    「こういう時は目を閉じるものだって、前に言ってなかった?」
    「おッ、暁、オッ……マエ……!」

     キョロキョロと辺りを見回す。人通りが少ないことを知っていて、抱きしめて甘い誓いを囁いたのは自分が先でも、誰ぞ今のを見ていやしなかったかと。幸い、歩き去っていく人々は皆自分のことで手一杯で(もしくは関わり合いにならないのを選んだか)、こちらを気にする素振りは見せなかった。名残惜しそうに離れた暁人は、「ふはっ」と満足そうに笑う。

    「照れてる、珍しい。でも、今ならKKが桜に向かって言ったクサいセリフも、そうかもって飲み込めるかな。“赤くなるのは”ってヤツ」

     そういえばそんなことも言ったなと思いつつ、後でこのクソガキをどう料理してやろうかと、顔に集まった熱を誤魔化すために指で鼻をこすった。まだほんのりと石鹸と汗の香りが残っている。

    「僕のこと、守ってくれるんだろ?まずは夜道で転ばないように、手、繋いでよ」
    「オマエ、そんなひ弱じゃないだろ」
    「いいから」

     差し出された右手から視線を上に向ける。淡い月光に照らされた自分を見る暁人の顔も、照れ臭さから赤くなっているのが見えて、思わずくつくつと笑った。今回は引き分け。どんなに強気でいても、互いに互いが弱点というわけだ。大いに結構、お似合いじゃないか。彼の前に恭しく跪いて手を取った。

    「あーあ、わがままな姫さんもらっちまったな。……いいぜ、仰せのままに」

     まだ滑らかさを残す白い手が、カサついて傷だらけの手のひらの上に重なった。立ち上がり、指を絡めてしっかり握ってやる。最初のエスコートくらい、簡単に済ませてみせなければ。
     城に向かう道でもバージンロードでもない、なんてことない買い物の道中だが、この先はもっと遠くまで、未来に繋がっている。
     名を捨てた独りぼっちの男は、暁人の名に込められた願いと祈りに救われて騎士となった。その灯りを消してしまわぬよう、隣に立って守をするのがこれからの自分の役目だ。

    (悪いな爺さん、ちょっとばかし生きることに欲が出ちまった。そっちに行くまで、もう少しかかりそうだ。それから──)

     KKは上機嫌に鼻歌をうたう暁人をちらりと見てから、また前を向いた。彼の両親にもこの想いが届けば良い、と願いながら。

    (アンタたちの願いも祈りも、オレが引き継いで行くよ。オレの目の黒いうちは……いや、たとえ死んでも飛び戻って、この子を守ってみせる)

     だからどうか、オレたち二人を見守っていてほしい。
     そう思いながら見上げた夜空、月の隣で光る星が、返事をするように一層輝きを増した気がした。

     ◇ ◇ ◇

     暁人の誕生日会は日付けを越すまで盛大に行われた。可愛らしいプレートに書かれた“あきとくん”が皆に暫くネタにされ続けることとなったが、それはまた別の話だ。

    「暁人くん、そこの資料取ってくれない?……わざとじゃないからね」
    『コーヒーを持ってきてくれてありがとう。あきとくんは気が利くな』
    「アキトくん!ビーフコロッケ食べるかい?」
    「あきとく、あ。暁人さんごめんなさい、つい……!」
    「みんなに頼りにされるあきとくん、私の自慢のお兄ちゃんだよ」

    「KK!なんでくん付けなんてしたんだ!」
    「だーッもう、慣れないことはするもんじゃねぇってのはこのことだな!……っくく、な、お暁人クン」
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