夢魔の見る夢は ここは何処だろう?
セルフィは微笑む。黒花もこちらに駆け寄ってくる。三人で仲良く笑い合う。そんな当たり前の時間、でもリリスにとってかけがえのない時間。
ああ、そうだ。ここは……
リリスは目を覚ます。
随分と懐かしい夢を見た。あれは数年前、まだ幼馴染み三人で仲良く過ごしてた時の記憶だ。
今はもうセルフィは家出をして連絡は取れないし、黒花のアーデルハイト一族は滅ぼされてしまった。
自分は夢魔の第一王女だ。〝夢〟なら何でも思い通りに出来るのに……現実の〝夢〟は叶いそうにない。
今は天秤の月、月末には自分の誕生日だ。
いなくなった二人を想い孤独だと感じるけれど、別に本当に一人になったわけではない。毎年両親は誕生日を祝ってくれるし、プレゼントだってしてくれる。
今までだって色々貰ってきたのだ。服や装飾品、それに御方に頂いた指輪は今でも一番宝物だとおもう。
本当に全てを失った人達だっているのだ。それに比べればリリスは恵まれていると思う。それでも
「誕生日……もしも〝夢〟を見てもいいのなら……」
本当に欲しいのは〝物〟ではなく〝者〟
また時々でもいいから一緒に笑い合えたらいいのに。
現実は夢のようにはならないのも知っている。
それでもこんな孤独を知る人をこれ以上増やしたくはない。現実で自分にできるのは会議の為に力を尽くす事くらいだけど、それでも何もやらないよりはいい。
そう思い決意を新たにするリリスは知るよしもない。
――懐かしい夢を見た朝と同じ朝、遠く離れた大陸で一人の魔王は呪われて子供になっていた事を――
今日は天秤の月の31日
今年も両親は祝ってくれる。素敵なプレゼントにお祝いの言葉。自分に向けてくれる笑顔。
もちろんそれら全て嬉しい。毎年祝ってもらえている自分は幸せだと思う。
でも、どんな物より一番嬉しいのは先日二人と再会出来た事だ。もう夢でしか会えないと思っていたのに。
もちろん現実は夢のようにはいかない。再会した黒花は失明していたし、思わぬトラブルだってあった。
これからもきっと色々とあるのだろう。それでも自分はこの現実を頑張って生きていこうと思う。
もう大切なものを無くさないために。
来年の誕生日も幸せで笑っていられるように。
この後、ひと月とたたず島で釣り大会をする羽目になり、夢に帰りたいと思ってしまうのはまた別の話。