Sip, Don't Sink「ごめんね、ちょっとお手洗い借りるね?」
「いいけど、黙って帰らないでね。やだよ、そんなの」
いつもよりも舌っ足らずでおぼろげな声色にとろりと潤んだ瞳――ひどく無防備で甘えたそんな態度を前に、思わずちくりと胸が痛む。
困ったなぁ本当に、どうしてこんなふうになっちゃったんだろう? これじゃあ心臓がちっとも持たないんだけれど。
後ろ髪を引かれるような思いで居住空間を後にし、短い廊下に出たところでポケットに押し込んだスマートフォンをそっと取り出す。
うまくタイミングが合えばいいのだけれど――あまりスマホの通知ばかり気にするのは、目の前にいてくれる相手に失礼だから。
ふぅと小さく息を吐き、もどかしく震える指先で画面をタップしてトークルームを開くと、ひとまずは、と手短にメッセージを打ち込む。
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