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    raixxx_3am

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    きすひよ、幾度目かのふたりで迎える春(2025/06/20)

    #きすひよ

    春告鳥 鳥の囀る声は求愛のためのアプローチだなんて話を、いつかずっと昔に聞いた憶えがある。こうして微睡みながら耳にする澄んだ歌声は自分たちと同じように、大切な相手へ愛の言葉を伝えるために紡がれているのだと思えば、ただそれだけで、胸の内には幾重にも折り重なったあたたかな色が宿る。

    「ねえ日和、春告鳥が鳴いてるよ」
     聞こえる? 少し低めのやわらかくくぐもった声が、そっと耳朶を湿らせるかのようにやさしく響き渡る。
     ふたりぶんの体温ですっかり温められたシーツの上、心地よい繭の中に身を預けながらそっと足と足とを絡めあい、ぬるい息を吐き出す。
     あたたかな掌はそっと髪をかき回し、少し重たげな瞼はうんとゆっくりの瞬きを溢しながら、じいっとこちらを捉える。切れ長の瞳を縁取る長い睫毛、とろりと甘く潤んだ、眩い光を放つ少し色の薄い虹彩――明け方のベッドの中で見つめる恋人の姿は穏やかに縁が滲んで、どこかあやふやで、まるでこの時間すべてが夢の続きのように思える。
    「……うん、」
     くぐもった声でぽつりと答えながら、なだらかな頬をそっと指先でなぞる。少しばかりの気恥ずかしさと誇らしさ、その両方を混ぜ合わせたかのようにやわらかく瞼を細めた優しい笑顔にじわりと心地よく胸を締め付けられるのにただ身を任せる。
    「そんな季節なんだね、もう」
     ゆっくりと瞬きを落としながら、離れがたいような気持ちでぎゅっと身を寄せて、深く息を吐く。
     ぼんやりとピントの合わない世界はまだ半分夢の中の世界の続きにいるようで、ひどく曖昧で――それでも、触れ合った肌と肌の境目を緩やかに溶かし合うかのようなこの熱は、その存在の確かさをありありとこうして教えてくれるから、離れ難い気持ちをますます高めていく。
     鶯の別名は春告鳥――その名のとおり、春の訪れを教えてくれる歌声を、長い冬が明けることを待ち侘びた人たちが軽やかなその囀りに焦がれてそう呼ぶようになったから――そんな逸話を教わったのもまた、いつかのおなじ季節の、こんなあやふやな時間だったことをぼんやりと思い返す。
    「……きすみ、」
    「うん」
     くしゃくしゃになったやわらかな髪をそっとかき回しながら、くぐもったあやふやな囁き声を肩口へとそっと落とす。
    「こうしてていい? もうちょっとだけ……」
    「いいよ、そんなの」
     ひどく不器用な愛の囀りは、どうやらちゃんと受け取ってもらえたらしい。いつもよりも少しトーンを落とし気味の囁き混じりのやわらかくくぐもった返答の言葉はじわりと鼓膜を伝って、心の奥までひたひたと湿らせていく。
    「好きだよ……、すごく」
    「うん」
     どちらともなくそっと告げ合う愛の囀りは、朝の光の中に包まれるようにしながら、音も立てず、ただたおやかに溶けていく。
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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DONEすごくいまさらな日和くんのお誕生日ネタ。ふたりで公園に寄り道して一緒に帰るお話。恋愛未満、×ではなく+の距離感。貴澄くんのバスケ部での戦績などいろいろ捏造があります。(2023/05/05)
    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
     いつものように、くるくるとよく動くあざやかな光を宿した瞳でじいっとこちらを捉えるように見つめながら、やわらかに耳朶をくすぐるようなささやき声が落とされる。
     身長のほぼ変わらない鴫野くんとはこうして隣を歩いていても歩幅を合わせる必要がないだなんてことや、ごく自然に目の高さが合うからこそ、いつもまっすぐにあたたかなまなざしが届いて、その度にどこか照れくさいような気持ちになるだなんてことも、ふたりで過ごす時間ができてからすぐに気づいた、いままでにはなかった小さな変化のひとつだ。
    11803

    raixxx_3am

    DOODLEDF8話エンディング後の個人的な妄想というか願望。あの後は貴澄くんがみんなの元へ一緒に案内してくれたことで打ち解けられたんじゃないかなぁと。正直あんなかかわり方になってしまったら罪悪感と気まずさで相当ぎくしゃくするだろうし、そんな中で水泳とは直接かかわりあいのない貴澄くんが人懐っこい笑顔で話しかけてくれることが日和くんにとっては随分と救いになったんじゃないかなと思っています。
    ゆうがたフレンド「遠野くんってさ、郁弥と知り合ったのはいつからなの?」
     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
    「遠野くんも水泳留学してたんだね、さすがだよね」
    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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