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    raixxx_3am

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    「Dearest」2024年12月15日 COMIC CITY TOKYO151内Splash!21発行
    A5サイズ174頁/1300円
    DF8話での出会いから少し先の未来まで、少しずつお互いを知っていきながら〝ふたりだけの絆〟を築いていくお話。全年齢向け。
    書下ろしからの試し読みです。

    #きすひよ

    ハッピーネバーエンディング「あー、あー、ぁー」
     おおきく口を開けて、なけなしとでも言わんばかりの発声練習に明け暮れる。
     一時期を思えば随分とましにはなったものだけれど、ひどく不明瞭ですべての語尾に濁点がついたようなひどく情けない声色には、ただ苦笑いしか浮かべることが出来ない。
     出席ってどうすればいいんだろう? マスク姿で一生懸命手でも上げていればどうにか気づいてもらえるかな? 誰か仲の良い子に説明してもらう―のも得策ではない気がするし。
     やれやれ、と深いため息を吐きながら、ひとまずはまだたっぷりと目盛りの残ったうがい薬で念入りにうがいをする。

    「熱や頭痛が治まったのならひとまずは問題はないでしょう。日常生活は通常通りに過ごしていただいて構いません。乾燥を防ぐためにも、マスクは任意ですが引き続き着用されることを推奨致します」
     念のために、と朝ご飯の後すぐに受診したお医者さんから告げられた言葉を脳裏で復唱しながら、ストッカーから取り出したマスクの封をやぶって着用し、念のために、と、個包装になった数枚をリュックの外ポケットにしまう。顔半分を覆うような真っ白のマスクをした見慣れない自分の顔は、なんだかいやに大仰に見える。やっぱり色のついたやつでも買っておけばよかったかな、ストリート系のファッションの子がよくしてる真っ黒なやつとか。いや、どこのチーマーだよ、だなんて旭にからかわれるのが関の山か、だったらこれでいいのかな。
     いまから学校に行けば午後の授業には間に合う。サークルのみんなには挨拶くらいは出来るかな、グループメッセージにはまだしばらく顔を出せそうにはないってことは送っておいたけど。
     ひとまずは休んだ間の分のノートとレジュメを手配してもらって、提出期限に間に合わなかった課題のことは個別に先生に質問に行って―みんなにはまだ会えそうにないっていうのは旭か遠野くんあたりに言っておいてもらえばいいと思うけれど、一言くらいは僕からも伝えておいたほうがいいよね。人にうつす心配はないだろうだなんて先生は言ってくれたけど、万が一ってことはあるわけだし。
     ポケットから取り出したスマートフォンには、早速いくつかのメッセージが届いている。

     ――『いいけど無理すんなよ。つまんねえから早く100パーまで治せよな。講義のノート、借りれるあてがないか聞いておいてやるよ』
     いかにも話口調が聞こえてきそうな文面に思わず声を立てずにちいさく笑う。全快になるまでは出来るだけ別行動で、と送ったのをそれなりに堪えてくれているらしい。まぁそりゃあこっちだって寂しいのはおあいこなわけで、いつも通りに口調は荒くとも、気にかけてくれているのは素直に嬉しい。

     ――『ありがとう。今年の風邪はしつこいって先生も言ってたから旭もきをつけてね、そんな暇ないでしょう?』
     なんとかは風邪を~だなんて決まり文句は一応言わないでおく。あんまり辛辣な物言いばかりになるのは、親しき仲にもなんとやらってやつだと思うから。
     すぐさまウインドウを閉じると、遠野くんとのやりとりの履歴を開く。
     ―「ごめんね、帰ってからなんかのどがちくちくしてちょっと咳もでるんだよね。明日の朝になったら病院に行こうと思うので、明日の約束はいったんキャンセルさせてください。遠野くんは気にしないでひとりで出かけてくれていいからね。また埋め合わせさせてもらうね。」
     この時は思いもしなかったよね、まさかこれから丸一週間を棒に振る羽目になんて。ふぅ、と大げさに息を吐き、そこから続く一連のメッセージをぼうっと眺める。

     そう、この日は気になっていた映画を一緒に見て、その後は近くの本屋さんとカフェに寄り道して帰る予定で――レポートの締め切りに、アルバイトに、大切なみんなとの約束に―平日のちょっとした隙間みたいな時間に顔を合わせることくらいは出来ても、半日以上ふたりきりで過ごせる〝デート〟だなんて随分ご無沙汰だったはずなのに。間が悪い時ってあるもんだよね、だなんて、ほとほと呆れた気持ちになったことをありありと思い返す。

     ――『そうなんだ、残念だけどお大事にしてね。くれぐれも無理はしないように気をつけてください。連絡は元気になってからで構わないからね。』
     すぐ後に通話のマークが続く。迷惑かな、とは思ったけれど、どうしても声が聞きたくなったから。
     この時はよかったんだよね、まだ。すかすかに掠れた息を吐きながら、一週間ばかり前の自分に無意味に嫉妬してしまう。

     ――『ほんとにごめんね、ありがとう。電波越しだとうつさないで済むから安心だよね。ちゃんと治すから、そしたらまたね。』
     ――『気晴らしになったんならよかったけど、くれぐれも安静に過ごしてね。』
     このまま会えないままなのが長引くのなら寂しくなるから。続く言葉を身勝手に想像して、じわりと胸の奥を温められるような心地を味わう。

     ――『お医者さんに診てもらいました。しばらくは安静にしておくようにだって。たぶん週明けには平気になってると思うんだけど、ひとまず来週いっぱいはみんなとは会わないようにしたほうがいいのかも。寂しいけど仕方ないよね。』
     ――『熱があがってきちゃって、関節もぎしぎしてる。思ったよりも結構手強いかも。寝てばっかなんだけど、風邪の時って変な夢たくさんみるよね。起きると忘れちゃうんだけどさ。遠野くんも怖い夢見たりしたら教えてね。』
     ――『心配しないでいいよ、でもありがとう。鴫野くんもなにか不安なことでもあれば何でも聞かせてね。』

     語り口がそのまま聞こえてきそうな優しい言葉に、思わずきゅっと胸の奥が疼くような心地にさせられる。
     ああ、早く声が聞きたいな。一言だけでも構わないから。もどかしい気持ちに駆られながら、順にスクロールをして、ようやく時間軸が〝いま〟へと追いつく。

     ――『だいぶ熱も下がりました、心配してくれてありがとう。すごく励みになりました。そろそろ学校にも行けるみたい。また連絡するね。』
     ――『こちらもじゃまになってたらごめんね、少しでも楽になってきたのなら安心しました。無理はしないように気をつけてね。』
     短いメッセージの後には、すっかりお馴染みのマフラーを巻いたしろくまが手を振りながら「お大事に」を告げてくれるスタンプが続く。

     実家を離れてひとり暮らし中の遠野くんとは違って、こちらは居候の身だ。万が一のことを思えばお見舞いに来てもらえないのは好都合とも言えるのだけれど、少なからずの「申し訳ない」だなんて気持ちはあるのだろう。半ば強引に押し掛けるような形でお見舞いに伺わせてもらった経験が過去にあるのだからこそ、余計に。
     ……あの時は思ってもなかったんだよな、こんな関係になれるだなんて。
     時間にしてしまえばほんの数ヶ月、そのはずなのに―まるでもう何年も前に過ぎ去った時間みたいに思えるのだからつくづく不思議だ。
     すごいよね、ほんとうに。両思いって奇跡みたいなことだよな、だなんてことをこんなにも確かな実感として得られたのなんて、もしかしたら生まれて初めてな気がする。
     ちらりと画面の隅の時間表示を確認し、そろりとちいさく息を吐く。
     ……思い出に耽るのもほどほどにしないと、「いま」が何よりも一番大事なことくらいは知ってるし。

    「いってきまぁす」

     無人になった家の中へと、不織布越しになけなしの掠れる声で言葉を掛けながら久方ぶりの「社会復帰」へと一歩を踏み出す。



    〝声〟って思っていた以上に大切な伝達手段だったんだな。当たり前みたいに行使していたおかげでちっとも気づけなかったけど。半日あまりの時間を過ごして見て、あらためて実感したのがそんな感慨深い気持ちだった。 
     折よく昼休憩のタイミングでたどり着いた学校でお馴染みのみんなと顔を合わせてすぐさま、マスク越しのざらついてすかすかの声で「久しぶり」だなんて口にすれば、たちまちに広がるのは痛ましそうな表情―そんな顔させたいわけじゃなかったんだけどな、仕方ないけどね。
     すぐさま、家を出る前にインストールしたばかりの読み上げアプリにピンチヒッターを頼む。
    「ごめんね、もう熱はないし、ふつうに出歩いていいみたいなんだけど声だけまだこんなで」
     ロボットになって帰ってきたような心地は、どうにも居心地が悪くて仕方ない。元来おしゃべりな性分だからこそ余計に。
    「そっか、大変だね。無理しないでいいよ。出欠の時とかは代わりに先生に説明するね」
    「休んでた間のノートとレジュメ取っておいてあるよ。写真で送ればいいかなって思ったけど、直接のほうが見やすいでしょ?」
    「先輩にも鴫野くんは声が出づらいみたいでってこっちから話しとくから安心してね」
     口々に掛けられる言葉に、「ありがとう」の文字を打ち込むのも面倒で、ひとまずは、とぺこぺこ頭を下げて答えれば、人影の向こうに見知った姿がちらりと覗く。ハルと―時々一緒にいる、同じゼミの男の子だ。
     相変わらず既読は付かずじまいのままだったけれど、ちらりとこちらを伺うまなざしはいつもとは打って変わって、ほんの少しだけの憂いを帯びた色が覗く。旭から聞いたんだろうな、たぶん。
     文字通りの〝言葉にならない〟もどかしさに、息苦しさがぐっと喉元までせり上がる。
     申し訳ないな、なんだか。そんなこと言ったって、「仕方ないだろ」だなんて言われて終わりなのは目に見えているけれど。
     ひとしきりのやりとりの途切れたタイミングで、ポケットにしまい込んだスマホを取り出してメッセージを打ち込む。

     ――『しばらく風邪で休んでたんだけどきょうから学校にきてます。まだちょっと声だけ出ないから、念のためみんなと会うのはもうすこし遠慮しておくね。本調子に戻ったら復帰記念にバスケやりたいから、真琴からハルのこと誘っておいてね』
     本人にいくら送ったところで、既読が吐くことすら稀なことを思うと、こうして確実なパイプラインがあることはありがたいことこの上ない。 

    「きす――」
     廊下の向こう側から、すっかり見慣れた気安い笑顔とくっきりと鮮やかな輪郭を携えた明るい声に呼び止められる。声をあげてすぐさま飲み込むあたり、ちゃんと「わかって」くれているようなのがなんだかひどくもどかしい。
    (あさひ)
     マスクを顎までずらして口の動きだけで伝えればどうにか読みとってくれたらしく、こくこく、と大げさに頷いてくれることで返答が返される。
    「ごめんな、呼び止めて。こっちはいまから練習。まだちょっと早いけど自主練してていいって言ってもらえて。おまえは? なんか困ったこととかなかった?」
    (だいじょうぶ)
     いつもよりも心なしか大げさに首を振って、身振り手振り混じりに答える。
    「こっちも調子狂うから、大変だと思うけど早く治せよな。そうだ、あときょう―」
    「おい、椎名ー!」
     何か口にしかけたタイミングで、かぶさるように呼び声がかかる。
    「あぁ、ごめん―大したことじゃないから。また今度な」
     ぽんぽんと、子どもを宥めるような仕草で軽く肩を叩かれると、どこかしらわだかまりめいた気持ちがうっすらと残る。
    「悪ぃな呼び止めて、また連絡するから。病み上がりなんだから無理すんなよ」
     すぐ行くから! きっぱりと大きな声で呼びかけながら、肩にずさりとのしかかる如何にも重たそうなカバンなんてすこしも気にもとめない様子で走り去っていく姿をどこか惚けた気持ちでぼうっと眺める。
     やっぱりやだな、こういうのって。旭はちっとも悪くなんてないけれど、なんだか置き去りにされたような気持ちになるから。 
     ちいさくため息をこぼし、ずらしたマスクを口元へと戻しながら一路、図書館へと足取りを進める。サークルにはまだ顔を出せないし、勿論叔父さんのところにも――時間も、その間にこなすべきことも沢山あるのがまだしもの幸いだ。
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    raixxx_3am

    DONEブックサンタ企画で書いたお話、恋愛未満。
    日和くんにとっての愛情や好意は相手に「都合のいい役割」をこなすことで得られる成果報酬のようなものとして捉えていたからこそ、貴澄くんが「当たり前のもの」として差し出してくれる好意に戸惑いながらも少しずつ心を開いていけるようになったんじゃないかと思っています。
    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEきすひよ。いちゃいちゃしてほしかっただけ。相変わらず受けと攻めが不確定。欲望を明け渡しあうことよりも緩やかで優しいスキンシップでお互いを満たしあうことを大切にしているうちにゆっくりその先に進むこともあるんじゃないのかな、ふたりにはそんな関係でいてほしいなという気持ちで生産工場は稼働しています。
    (2024/07/19)
    butterfly kiss「あのね、遠野くん。ちょっとだけ聞いておきたくて」
     ふぅ、とひどく慎重に息を吐き、プレゼントの包みをそうっとほどくようなたおやかさで言葉が続く。
    「遠野くんはさ、僕にしてほしいことってあったりする? その、そういう時に」
     行儀良く膝の上に置いた指をもどかしげに絡ませるようにしながらぽつり、と吐き出されるおだやかな言葉に、息苦しいほどのあまやかな気配が立ちのぼる。こちらをまっすぐに見据えるかのようなまなざしはいつも通りにひどく穏やかで温かいのに、その奥には確かな〝予感〟を帯びた色が隠されているのがありありと伝わるから、いびつに揺らいだ心は音も立てずにぐらりと心地よく軋む。
    「あぁ……えっと、その」
     答えに窮したまま、手元のクッションをぎゅっと掴めば、気遣うようなやさしいまなざしがこちらへと注がれる。
    4603

    raixxx_3am

    DOODLEひよちゃんは幼少期のコミュニケーションが足りていないことと「察する」能力の高さから本音を押し殺すのが常になってしまったんだろうし、郁弥くんとは真逆のタイプな貴澄くんに心地よさを感じる反面、甘えすぎていないか不安になるんじゃないかな、ふたりには沢山お話をしてお互いの気持ちを確かめ合って欲しいな、と思うあまりに話ばっかしてんな僕の小説。
    (2024/05/12)
    君のこと なんて曇りのひとつもない、おだやかな優しい顔で笑う人なんだろう。たぶんそれが、はじめて彼の存在を胸に焼き付けられたその瞬間からいままで、変わらずにあり続ける想いだった。


    「あのね、鴫野くん。聞きたいことがあるんだけど……すこしだけ」
    「ん、なあに?」
     二人掛けのごくこじんまりとしたソファのもう片側――いつしか定位置となった場所に腰を下ろした相手からは、ぱちぱち、とゆっくりのまばたきをこぼしながら、まばゆい光を放つような、あたたかなまなざしがまっすぐにこちらへと注がれる。
     些か慎重すぎたろうか――いや、大切なことを話すのには、最低限の礼儀作法は欠かせないことなはずだし。そっと胸に手を当て、ささやかな決意を込めるかのように僕は話を切り出す。
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    raixxx_3am

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    (2024.12.22)
     幼い頃からずっと、クリスマスの訪れを手放しで喜ぶことが出来ないままだった。
     片付けるのが面倒だから、と申し訳程度に出された卓上サイズのクリマスツリーは高学年に上がる頃には出番すら無くなっていたし、サンタさんからのプレゼントは如何にも大人が選んだお行儀の良さそうな本、と相場が決まっていて、〝本当に欲しいもの〟を貰えたことは一度もなかった。
     ただでさえ慌ただしい年末の貴重な時間を割いてまで、他の子どもたちと同じように、一年に一度の特別な日を演出してくれたことへの感謝が少しもないわけではない。
     仕事帰りにデパートで買ってきてくれたとってきのご馳走、お砂糖細工のサンタさんが乗ったぴかぴかのクリスマスケーキ、「いい子にして早く寝ないとサンタさんが来てくれないわよ」だなんてお決まりの文句とともに追いやられた子供部屋でベットサイドの明かりを頼りに読んだ本――ふわふわのベッドにはふかふかのあたたかな毛布、寂しい時にはいつだって寄り添ってくれた大きなしろくまのぬいぐるみ、本棚の中には、部屋の中に居ながら世界中のあちこちへの旅に連れ出してくれる沢山の本たち――申し分なんてないほど何もかもに恵まれたこの暮らしこそが何よりものかけがえのない〝贈り物〟で、愛情の証だなんてもので、それらを疑うつもりはすこしもなくて、それでも――ほんとうに欲しいものはいつだってお金でなんて買えないもので、けれども、それらをありのままに口にするのはいつでも躊躇われるばかりだった。
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    raixxx_3am

    DOODLEDF8話エンディング後の個人的な妄想というか願望。あの後は貴澄くんがみんなの元へ一緒に案内してくれたことで打ち解けられたんじゃないかなぁと。正直あんなかかわり方になってしまったら罪悪感と気まずさで相当ぎくしゃくするだろうし、そんな中で水泳とは直接かかわりあいのない貴澄くんが人懐っこい笑顔で話しかけてくれることが日和くんにとっては随分と救いになったんじゃないかなと思っています。
    ゆうがたフレンド「遠野くんってさ、郁弥と知り合ったのはいつからなの?」
     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
    「遠野くんも水泳留学してたんだね、さすがだよね」
    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
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    raixxx_3am

    DONEすごくいまさらな日和くんのお誕生日ネタ。ふたりで公園に寄り道して一緒に帰るお話。恋愛未満、×ではなく+の距離感。貴澄くんのバスケ部での戦績などいろいろ捏造があります。(2023/05/05)
    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
     いつものように、くるくるとよく動くあざやかな光を宿した瞳でじいっとこちらを捉えるように見つめながら、やわらかに耳朶をくすぐるようなささやき声が落とされる。
     身長のほぼ変わらない鴫野くんとはこうして隣を歩いていても歩幅を合わせる必要がないだなんてことや、ごく自然に目の高さが合うからこそ、いつもまっすぐにあたたかなまなざしが届いて、その度にどこか照れくさいような気持ちになるだなんてことも、ふたりで過ごす時間ができてからすぐに気づいた、いままでにはなかった小さな変化のひとつだ。
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