Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 51

    いなばリチウム

    ☆quiet follow

    肥南と主へしとむつんば要素を含みます(混ぜすぎ)
    タイトル通りひぜなんにちょっかい出すというか巻き込まれた主へしとむつんばの話。

    #ひぜなん
    princess
    #主へし
    master
    #むつんば
    six-stringedJapaneseZither

    肥南にちょっかい出す主へしの話「肥前くん、主が呼んでいたよ」
     振り返る。肥前はいつだって南海の顔を真っ直ぐに見るのに、ここのところ、そうするとほんの少しだが目を逸らされることが増えた気がした。なんだよ、と思う。思うだけだ。
    「おれを? なんだって?」
    「さあ。部屋に来て欲しいと言っていたから、直接聞いてみてはどうかな」
    「……分かったよ」
     つまみ食いに忍び込んだ厨を追い出され、時間を持て余していたところだった。ちょうどいいか、とそのまま審神者の部屋へ向かう。肥前がこの本丸に来たのは特命調査の折であった。その時点でも刀の数は多かったが、今や百に届く程の刀剣男士が生活している本丸だ。近侍を務める刀は数振りで、ひとりひとりと話す時間が取れないことを憂いた審神者はこうして時々自室に刀剣男士を呼び出すのだ。不満はないかとか、最近どうだとか、肥前にとってはどうでもいい話ばかりではあったが、何度か呼び出しを無視すると機動の早い近侍が文字通り首根っこを捕まえに来る上に最近では部屋に行くと茶菓子やちょっとしたつまみをふるまわれる。食べ物で釣られている自覚はあったが、適当に話をしていれば損はないのだ。久方ぶりに大人しく呼ばれてやるか、という気持ちだった。

     部屋の戸を開けると、書類に目を落としていた審神者が顔を上げる。
    「おお、今日は大人しく来たな。遅かったらまた長谷部を向かわせるところだったよ」
     当の長谷部は審神者の傍に控えており、審神者が目配せすると頷いて部屋を出て行った。
    「こっちおいで。おやつをあげよう」
    「……食いもんにつられたわけじゃねえからな」
    「はいはい」
     審神者が机の上を片付け、長谷部が湯吞みを二つ持ってくる。と思ったらまたもやすぐに出て行ったので、机におかれたみたらし団子三本の取り分が分からなくなった。
    「全部食べていいよ。嫌いじゃないだろ」
    「……」
     夕餉まではまだ時間がある。長居するつもりはなかったが、断る理由もなかった。まずは1本手に取ると、いつもの質問が始まる。
    「最近どう? 困ってることない?」
    「ねえよ」
    「南海とはどう?」
     心臓が少し早くなる。審神者が肥前と同室の南海についても時折話題に出すのもまたいつものことだった。審神者が言うに、南海は顕現から随分経ったにも関わらず、自身の心や体のことに疎いように見えるのだそうだ。戦闘経験を積み、出陣には問題ないのだからそれでいいだろうと肥前は思うが、確かに遠征先で目を離すとすぐ姿を消すことがあり困ってもいた。大体回収しに行くのは肥前だからだ。
    『ああ、気になることがあるとそれしか見えなくなっちゃう感じだね。個性と言えば個性だけど、何せ長義をはじめ、君たちはちょっと特殊な経緯でうちに来ているからなあ』
     同時期に本丸へ来た肥前と南海は同室を割り当てられている。それは同郷だから、という審神者の配慮であると同時に、他のものよりは肥前の方が南海の相手をしやすいだろうという理由もあったというのは前回審神者の部屋に呼ばれた際聞いた話だ。とは言え、部屋を替えて欲しくなったらいつでも希望を出すように、とも言われている。
     返事が少し遅れたのを、二本目のみたらし団子に手を伸ばして誤魔化す。いつもの質問に、いつものように答えればいいだけだ。
    「別に何もねえよ」
     今日もそう答えて、
    「部屋もそのままでいい」
     と、付け加えた。
    「……部屋?」
     審神者は一瞬きょとんとして首を傾げる。
    「? 部屋割りの話じゃねえのか」
    「ああ、そっちじゃなくて」
    「は?」
    「どこまで進んだの? ってこと。口吸うとこまではいったって聞いたけど」
    「っ、んぐ」
    誤魔化すように団子を頬張りながら話していたのを後悔した。喉を通りそうだった団子が詰まる。目を白黒させていると審神者が慌てて肥前の背中を叩いた。
    「ごめんごめん、そんなに動揺するとは……」
    「! !!」
     言いたいことは色々あったが、ひとまず団子と茶を飲み込む。

    前回この部屋を訪れてから、あった変化と言えば一つ。審神者に話すつもりなどこれっぽっちもなかったが、肥前は南海に「好きだ」と言って、南海はそれを受け入れた。南海も同じ気持ちだとは思わなかった。けれど、興味本位だったとしても、拒まれなかったのが嬉しかった。手を握ってもそうだった。だから、部屋で二人きりの時にそっと唇を重ねた。結果、目を合わせて貰えなくなった。それだけの話だった。だがそれだけの話を審神者が知っていることが問題だった。
    「そんなに睨まなくても、知ってるのは俺と……陸奥と、まんばと長谷部くらいだから」
    「結構知られてるじゃねえか」
     やっと団子が喉を通り過ぎていったのに安心する暇もない。
    「だ、大体、なんで知ってんだよ」
    「知られたくないなら、南海にも口留めしておいた方が良かったかもね」
     ま、もう遅いけど、などと不吉なことを付け加えられた。
    「言っておくけど、俺が無理に聞き出したわけじゃなくてね――」



     数日前、南海の方から「ちょっと聞きたいんだがね」と声をかけられたという。

    刀剣男士の中には、審神者からの呼び出しをきっかけにその際相談事や雑談をまとめてするもの、呼び出しがなくとも、審神者の姿を探して時間を作って欲しいと強請るものに分かれていたが、南海は主に前者だった。だから珍しいと感じつつ、だからこそ緊急の相談事かもしれない、と審神者は彼を自室に招いた。
     部屋には近侍の長谷部、それから初期刀である陸奥守が内番表の組み直しについて話し合っているところだった。本丸の古株であるふたりなので、審神者も部隊編成などを組む際にはこのふたりに声をかけることが多い。内番のローテーションについてある程度組みつつ、審神者に最終確認を頼むため待っていたらしいが、南海と一緒だったのを見て長谷部は「俺達は席を外しましょうか」と気遣った。陸奥守も「急ぎやないき」と応じる。
    「そうだね、じゃあ悪いけどまた後で、」
    「いや、君たちが構わなければ、むしろいてくれた方がいい」
     審神者の言葉を遮るような南海の言葉に、おや、と思ったものの、本人がそういうのであれば、と座布団を進める。
    「実は、肥前君のことで、意見が聞きたくてね」
     そう切り出したので、なるほど、彼のことであれば、主としての自分の意見だけではなく、馴染みのある刀の視点も必要かもしれないな、と審神者は先を促した。すると南海は、ごくごく普通の調子で、まるで戦績を告げるがごとく、滔々と語り始めたのである。
    「肥前君と口を吸い合ったのだけれども、それからどうにも彼の顔を見ることが困難になってね。あ、もちろん口吸いの前に肥前君に想いを伝えられたので同意の上の行為だよ。僕も彼のことは憎からず思っているし、所謂両想いというやつで、だから口吸いに抵抗する理由はないのだけれど、いや、なんというか、ずいぶん、顔が近付くじゃないか、あの行為は。目を閉じるものだと思ってはいたが機を逃してしまってね……それで間近で肥前君の顔を観察してみたのだけど、存外睫毛の量が多いことだとか、唇がひび割れていて痛そうだとか、そんなことに気を取られてしまって……気付いたら肥前君は離れていたのだけど……勿体ない、そうだ、勿体ないことをしたなと思って、しかしもう一度と強請る機も逃してしまって……まあまた機会はあるだろうと思っていたんだが、あれからどうも、肥前君の顔を見ると、何故だか落ち着かない気持ちになってだね……目が合う前につい逸らしてしまって、彼が気を悪くしていなければいいんだが、僕も目を逸らしたくて逸らしているわけではないし、しかし顔を見るとどうしてか顔が勝手に動いて目線が合わないように動いてしまうし……。こういった場合、僕は次にどう動いたらいいだろうか。1人で考えていても最善策が出そうにないので、こうして助言を求めに来たというわけだ」
     南海の長広舌の後、恐らく審神者、長谷部、陸奥守の思うところは同じだっただろう。
    「……惚気?」
     まず口に出したのは審神者だった。南海は「のろけ?」と鸚鵡返しして首を傾げているが、要約すれば、「初めて好きな子とキスしたんだけど、それから相手の顔を直視できなくなっちゃったどうしよ~」という話ではないだろうか。何か相談事かと身構えていたのに恋バナが始まってしまった、と脱力するのも致し方ない。陸奥守はぽかんとしていたし、困惑気味の長谷部は「俺は本当に席を外さなくて良かったのか?」と南海に訊ねている。

    「むしろいてくれた方が助かるんだよ」
    先程と同じようなことを言い、南海はにこやかに続けた。
    「経験者の助言を求めたいと思っていたところだからね」
    しん、と静まり返る。
    「……と、言うと」
    冷や汗を流しながら口火を切ったのは審神者だった。経験者とは、誰を指すのか、と暗に込めて、それが自分ではありませんようにと願った。しかし、その願いもむなしく、南海は答える。
    「主と、長谷部くん」
     すぐ傍で息を呑む気配があり、
    「あと、陸奥守くんと山姥切くん」
     ひぇ、と声にならない声があった。
    「恋仲、というやつだろう? 同じ……だから、おや? 違ったかね」
    「……うーんと」
     審神者が手を前に出し『待った』のポーズをとる。南海の言葉通り、審神者は長谷部と近侍以上の仲だった。それは南海や肥前が本丸にやってくるよりもずっと前からのことで、そんな関係になるまでにひと悶着あったこともあり、陸奥守を始め古参と呼ばれる面々には周知の事実である。けれど、公言しているわけでもなかったので今や知らないものも多い。主と臣下が深い仲というのも体裁が良くないという後ろめたい気持ちもあったので行動には注意していたはずだった。
    陸奥守と山姥切の仲に至ってはいつの間にかそうなっていたのかという感じで、審神者自身は陸奥守から打ち明けられるまでは知らずにいた。その上、山姥切が恥ずかしがるというので口外しないことを約束していた。部屋替えの折に便宜を図ったことはあったが。初期刀である陸奥守だけでなく、山姥切とも付き合いは比較的長いが、審神者ですらその程度の認識だ。南海に知られたところで問題はないといえばないが、やはり気恥ずかしさと、なぜ、という気持ちが勝る。
     何とも言い難い空気が流れるが、審神者はじわじわと赤くなっている長谷部を見て、既に真っ赤になっている陸奥守を見て、自身も似たような表情だろうなと自覚しつつ、口を開いた。しかし、言葉が出る前に部屋の外から「主、少しいいか」と声がかかると同時に襖ががらりと開く。噂をすれば、山姥切国広であった。部屋に男が四人、集っていることに気付くとほんの少し目を見開く。見開いた目と審神者の目がぱちりと合い、予感がしたのかくるりと踵を返した。山姥切もまた、この本丸では古参に部類する刀で、審神者との付き合いは長いのだ。
    「すまない、出直す」
    「まあまあ、ゆっくりしていきなよ」
     審神者が言うと同時に、座していた長谷部が山姥切の腕を掴んでいた。もう片方の腕を審神者が掴み、そうすれば力加減が出来なくなって本格的に山姥切は膝をついてしまう。
    「や、やめろ! 離せ! 大声で兄弟を呼ぶぞ!」
    「どこで覚えるんだそういうの! っちょっとだけ! ちょっとだけだから! こうなったらもうお前も巻き込ませてもらう!」
    「なんの話だか分からんが嫌な予感しかしない!」
     長谷部に抵抗する力を出せば審神者を傷つけてしまいかねないが、審神者を傷つけないように力加減すると長谷部にそのまま引きずられてしまう。布の奥で、困り果てた目が陸奥守を捉える。
    「吉行……」
    「うっ」
     助けを求めるような視線と声に陸奥守は胸を押さえて倒れこんだ。大丈夫かね、と南海が顔を覗きこんでいる。
    「っおい、そうじゃなくて主を何とか……」
    「まあまあまあ、いいからいいから」
     じたばたしている山姥切を陸奥守の隣にそっと添え、長谷部が部屋の入口に座り込んで退路を塞ぐ。
    「……俺は関係ない」
    「関係あるんだなあそれが」
    「そうだね。君の意見も聞いておきたいな、僕は」
     開き直って悪そうな笑顔を見せる審神者、のほほんと笑っている南海、諦めろとでもいうような憮然とした表情の長谷部、それから申し訳なさそうに眉尻を下げる陸奥守を順繰りに見遣り、山姥切はようやく観念したように座り直したのだった。



    「―――とまあ、そんな感じで、不可抗力だったってことは伝わった?」
    「……」
     大体の流れは理解できたが、納得はできないという気持ちだった。それが顔に出ていたのか、審神者は苦笑いを浮かべる。
    「南海にはその場でそれ以上話を他に広げないように言っておいたから、本当にそれ以上は広まってないよ」
    「そういう問題じゃねえよ……」
    「ははは」
    「笑ってんじゃねえ」
     審神者は小さく肩を竦めた。
    「でもま、分かったでしょ。南海は放っておくと斜め上の行動をとるって。っていうか、俺より付き合い長いんだから、予想できたんじゃないの?」
    「……できるかよ。先生だぞ」
    「……それもそうか」
     予想できていたら、こんなことにはなっていないだろう。肥前には南海の考えが分からない。ただ、審神者の話で彼が口付けが嫌だったわけではないこと、どうやら想いが一方通行ではないことが分かったので、少し安心していた。
    「南海は話し過ぎだし、肥前は話さなさすぎなんだよなあ。バランスはいいかもしれないけどさ」
    「……ふん」
    「南海とちゃんと話してきな」
     俺達がまた巻き込まれる前にね、と審神者が至極真面目な顔で言うので、肥前は渋々頷いたのだった。







    【その後の主へし】

    「……ふふ」
    「主?」
     肥前と入れ違いに部屋に入った長谷部は、机に残された湯吞みと皿を片付けながら、審神者の小さな笑い声に顔を上げた。
    「あ、ごめん、なんか、初々しいなあと思ってさ」
    「……ああ、あの二人ですか」
     南海の相談事を聞いた時の一件を思い出す。長い付き合いとは言え、第三者がいる場で自分達の関係を指摘されたり、その後同じように暴露された陸奥守と山姥切としばらく顔を合わせづらくなったりと色々あったが、南海の相談自体は、今思えば昔の自分を重ねるくらいには身に覚えのある内容だった。
    「長谷部も、そうだった?」
    「……そう、とは」
     こちらを窺う審神者の含み笑いに、わざとらしく首を傾げる。揶揄われているのは分かっていた。お互いに。審神者の手が伸びてきて、長谷部の顎を捕らえる。引き寄せられるまま、唇を重ねた。一瞬触れるだけのそれに、懐かしさすら覚える。
    「分かってるくせに」
    「主こそ」
     互いに目を細め、くすくすと笑い合う。初めて唇を重ねた時、こんな余裕はなかった。一瞬、ほんの少し唇の表面が触れたかどうかくらいの感触に動揺して、目が合わせられなくて、もう一度してもいいだろうか、嫌じゃないだろうか、なんて、色々考えて。だから南海の気持ちはよく分かった。うまくいくといいな、とも思う。もちろん、もう巻き込まれるのは困るが。


    【その後のむつんば】


    「国広~ まだ怒っちゅう?」
    「……怒ってない」
     布団に入ったものの、こちらに背を向けている山姥切に、陸奥守の眉尻はへにょりと下がる。昼間、南海に二人の仲を暴露された上に色々と、それはもう色々と根掘り葉掘り聞かれて、これ以上は赤くならないというくらい耳まで真っ赤にしていた山姥切を可愛いと思ったが、一通り話終わって部屋に戻ってからはずっとそんな調子だった。審神者に捕まった時に助け舟を出さなかったのを根に持っているらしい。もちろん、意地悪などで助けなかったわけではなかった。陸奥守自身も余裕がなかったし、困り果てて、涙目でこちらを見上げた顔が可愛すぎて力が抜けた、とも伝えづらい。しかし、久しぶりに翌日の非番が重なった夜ということもあって、そのまま寝てしまうには惜しいという思いが勝った。
    「寂しいぜよ~」
    「なん、うわっ、入ってくるな」
     わざわざ離して並べられてしまった布団の隙間を乗り越えて山姥切の布団に潜り込むと、容赦なく手を突っぱねられる。とは言え、決して強い力ではなかった。布団の中でそっと足をくっつけると、陸奥守の方が体温が高く、冷えた足にじんわりと熱がうつっていく。そうして暫くくっついていると、やれやれと言いたげな溜息が耳に届いた。
    「怒っちょらんなら、一緒に寝てもええ?」
    「……寝るだけ、か?」
    「うっ」
     ぴったりと寄せた足が、遠慮がちに絡んでくる。控えめな誘いに、陸奥守はまた胸を押さえ込む羽目になった。


    【その後の肥南】


    「おや、長かったのだね」
     肥前が部屋に戻ると、そこらじゅうに書物を散らかした南海が「おかえり」と笑った。
    「色々、あったからな」
    「なるほど、……おや?」
     何から話せばいいのか、むしろ何も話さなくてもいいのか迷ったものの、南海は肥前の顔をまっすぐに見つめた。目を逸らされないのは久しぶりのことだった。
    「な、に」
    「ふふ、付いてるよ」
     目を細めて笑った南海の手が伸びてきて、唇の端をそっと、指先で拭われる。
    「っ、」
     指が離れていく前に、咄嗟に手を掴むと、南海は目を丸くした。指の腹が拭き取ったのはみたらしのたれだった。食べている途中で驚かされてそのまま話し込まれたせいか気付かなかったし、審神者も指摘しなかったようだ。こうなるからか? と疑わないでもなかったが、それよりも。
    「ひぜ、ん、くん」
     指先についたそれを舐めとると、さすがに狼狽したような声だった。
    「……いやかよ、先生」
    「……いや、とは?」
    「おれに、こういうこと、されるの」
     ちゅ、ともう一度、今度は触れるだけの口づけを指先に落とす。びくっ、と僅かに肩を揺らした南海の耳がじわじわと赤くなっていくのが分かった。
     審神者の話を一通り聞いて、理解はしたものの、それでも。
    「言わなきゃ、分かんねえよ、おれは」
     また目を逸らされそうになって、頬を挟み込むように捕らえる。
    「わ、」
     微かに声があがったものの、拒絶らしい拒絶はなかった。しかし、それを答えと受け取れるほどの自信はない。
    「せんせ……」
     顔を寄せる。鼻先を近付け、吐息が届く程の距離で、止まる。南海の瞳の中には、目をぎらつかせた自分が映っていた。南海が息を飲む。その音すら聞こえる距離だ。
    「……ん、」
    「っ!」
    「あ、っと、すまない」
     一瞬だけ触れた唇がすぐに離れて行って、南海は照れたように笑う。
    「言う前に、してしまったね。……いやあ、うまくいかないものだ」
    「……んだよ」
     すぐに口づけられる程の距離に近付いておきながらバツが悪くなり、南海の顔を離す。しかし、その手を今度は南海が掴んだ。
    「肥前くん」
     上擦った声が、鼓膜を揺らす。
    「いやじゃないよ」
    「……」
    「いやじゃない。きみに触れられることも、触れることも……」
    顔を上げると、困ったような顔で笑っている。握られた手も、肥前の手も、じわじわと熱くなる。
    「もう一度、したいと、思っていたよ。……ふふ、参ったね。主には淀みなく話せたのに、きみに直接伝えるのは、なかなかどうして……ん、」
     言葉の途中で、引き寄せて唇を塞いだ。もうじゅうぶん伝わったと思ったし、南海の言葉を全て待てるほど、肥前は気が長くはなかった。



    おわり
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💕💕💞👍💖💖☺🙏💘💗🍼😭😭💗💗😭💗😭😭😭😭💞👍☺💖🙏💕💒🙏💘💖💕💕💕💕🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

    related works

    いなばリチウム

    DONE情けない攻めはかわいいねお題ガチャ
    https://odaibako.net/gacha/1462?share=tw
    これで出たお題ガチャは全部!微妙に消化しきれてない部分もあるけどお付き合いいただきありがとうございました!
    情けない攻めの審神者×長谷部シリーズ④・長谷部にハイキックで倒されるモブを見て自分も蹴られたくなる審神者
    ・暴漢に襲われかけた審神者と、その暴漢を正当防衛の範囲内で捻りあげ社会的死に追い込み審神者を救出する強くて怖い長谷部。


    【報道】
     
     政府施設内コンビニエンスストアで強盗 男を逮捕

     ×日、政府施設内コンビニエンスストアで店員に刃物を突き付け、現金を奪おうとしたとして無職の男が逮捕された。
     男は、施設に出入りを許可された運送会社の制服をネットオークションで購入し、施設内に侵入したと思われる。運送会社の管理の杜撰さ、政府施設のセキュリティの甘さが浮き彫りになった形だ。
     店内にはアルバイトの女性店員と審神者職男性がおり、この男性が容疑者を取り押さえたという。女性店員に怪我はなかった。この勇敢な男性は本誌の取材に対し「自分は何もしていない」「店員に怪我がなくてよかった」と答えた。なお、容疑者は取り押さえられた際に軽傷を負ったが、命に別状はないという―――
    4579

    いなばリチウム

    MOURNING六年近く前(メモを見る限りだと2016年4月)に利き主へし小説企画で「初夜」をテーマに書いた話です。他にもいくつか初夜ネタを書いてたのでまとめてpixivに載せるつもりだったんですけど全然書ききれないので一旦ここに載せておきます!
    当時いつも書いてた主へしの作風とすこし雰囲気変えたので楽しかったし、性癖の一つでもあったので今読んでも好きな話です。
    CPではない二人の話です。長谷部が可哀想かも。
    夜な夜な(主へし R18) その日は朝から体がだるかった。
     目を覚ますと、頭は内側から叩かれているように錯覚するぐらい痛み、窓から差し込む朝日や鳥の囀りがひどく耳障りで、長谷部はそう感じてしまう思考と体の不調にただただ戸惑った。しかし、昨日はいつも通り出陣したはずだったし、今日もそれは変わりない。死ななければどうということはないが、あまりひどければ出陣に、ひいては主の戦績に支障が出る。長引くようであれば手入れ部屋へ入ることも検討しなければ、と考える。
     着替えてからだるい体を引きずって部屋を出ると、「長谷部、」と今まさに長谷部の部屋の戸に手を掛けようとしたらしく、手を中途半端に宙に浮かせて困ったように佇んでいる審神者がいた。無意識に背筋が伸びる。
    6533

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PAST主麿(男審神者×清麿)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    今まで審神者の分は買ってなかったのに唐突に自分の時だけ買ってきて見せつけてくる主におこな清麿
    「ほらこれ、清麿のうさぎな」
    「買ったんだね」
    主に渡されたのは最近売り出されているという僕ら刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。面白がって新しい物が出るたびに本刃に買い与えているこの主はそろそろ博多藤四郎あたりからお小言を食らうと思う。
    今回は僕の番みたいで手渡された薄紫色の、光の当たり具合で白色に見える毛皮のうさぎに一度だけ視線を落としてから主の机の上にあるもうひとつの僕を模したうさぎを見やった。
    「そちらは? 水心子にかな」
    「ほんと水心子のこと好きな」
    机に頬杖を突きながらやれやれと言った感じで言う主に首をかしげる。時折本丸内で仲のよい男士同士に互いの物を送っていたからてっきりそうだと思ったのに。
    「でも残念、これは俺の」
    では何故、という疑問はこの一言ですぐに解消された。けれどもそれは僕の動きを一瞬で止めさせるものだった。
    いつも心がけている笑顔から頬を動かすことができない。ぴしりと固まった僕の反応にほほうと妙に感心する主にほんの少しだけ苛立ちが生まれた。
    「お前でもそんな顔すんのね」
    いいもん見たわーと言いながらうさぎを持ち上げ抱く主に今度こそ表情が抜け落ちるのが 506

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    菊酒をのんで酔い潰れた後日、大倶利伽羅が好きだなぁと自覚しなおした審神者と日を改めて飲み直し、仲良し()するまで。
    月色、金色、蜂蜜色


    急に熱さが和らいで、秋らしい涼やかな風が吹く。
    空には満月が浮かんで明るい夜だ。
    今は大倶利伽羅とふたり、自室の縁側で並んで酒をちびちびとなめている。徳利は一本しか用意しなかった。
    「あまり飲みすぎるなよ」
    「わかってるよ、昨日は運ばせて悪かったって」
    「あんたひとりを運ぶのは何でもないし、謝られるいわれもない」
    「じゃあなんだよ……」
    「昨日は生殺しだったんでね」
    言葉終わりに煽った酒を吹き出すかと思った。大倶利伽羅は気を付けろなんて言いながら徳利の酒を注いでくる。それを奪い取って大倶利伽羅の空いた杯にも酒を満たす。
    「……だから今日誘ったんだ」
    「しってる」
    静かな返答に頭をかいた。顔が熱い。
    以前に忙しいからと大倶利伽羅が望むのを遮って喧嘩紛いのことをした。それから時間が取れるようになったらと約束もしたがなかなか忙しが緩まずに秋になってしまった。
    だいぶ待たせてしまったとは思う。俺だってその間なにも感じなかったわけじゃないが、無理くり休暇を捻じ込むのも身体目的みたいで躊躇われた。
    そして昨日の、重陽の節句にと大倶利伽羅が作ってくれた酒が嬉しくて酔い潰れてし 1657

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    冬至の日に書いた
    いっしょにゆず湯に入るだけの話
    冬至の柚子湯


    一年で一番日が短い日、普段は刀剣男士たちが使っている大浴場に来た。仕事を片付けてからきたから誰もいない。
    服を脱いで適当に畳んでから、旅館のような脱衣籠に置いておく。磨りガラスのはめ込んである木枠の戸を横にひけばふわりと柔らかい湯気があたり、それにつられて奥を見てみれば大きな檜風呂には黄色くて丸いものが浮かんでいた。
    普段は審神者の部屋に備えてある個人用の風呂を使っているのだが、近侍から今日の大浴場は柚子湯にするから是非入ってくれと言われたのだ。冬至に柚子湯という刀剣男士たちが心を砕いてくれた証に彼らの思いに応えられるような審神者になろうと気が引き締まる。
    「柚子湯なんて本丸くるまでしたことなかったな」
    檜に近寄って掛け湯をするだけでもゆずの香りが心を安らげてくれる。
    さて洗おうかと鏡の前へ椅子を置いて腰掛けた時、脱衣所への戸が音を立てた。
    「ここにいたのか」
    「なんだ、まだだったのか」
    素っ裸の大倶利伽羅が前を隠しもせずはいってくる。まあ男湯だし当然なのだが。
    探していたのかと聞けばまた遅くまで仕事をしているのかと思ってなと返されてしまう。日頃の行いを振り返っている 1909