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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    肥南と主へしとむつんば要素を含みます(混ぜすぎ)
    タイトル通りひぜなんにちょっかい出すというか巻き込まれた主へしとむつんばの話。

    #ひぜなん
    princess
    #主へし
    master
    #むつんば
    six-stringedJapaneseZither

    肥南にちょっかい出す主へしの話「肥前くん、主が呼んでいたよ」
     振り返る。肥前はいつだって南海の顔を真っ直ぐに見るのに、ここのところ、そうするとほんの少しだが目を逸らされることが増えた気がした。なんだよ、と思う。思うだけだ。
    「おれを? なんだって?」
    「さあ。部屋に来て欲しいと言っていたから、直接聞いてみてはどうかな」
    「……分かったよ」
     つまみ食いに忍び込んだ厨を追い出され、時間を持て余していたところだった。ちょうどいいか、とそのまま審神者の部屋へ向かう。肥前がこの本丸に来たのは特命調査の折であった。その時点でも刀の数は多かったが、今や百に届く程の刀剣男士が生活している本丸だ。近侍を務める刀は数振りで、ひとりひとりと話す時間が取れないことを憂いた審神者はこうして時々自室に刀剣男士を呼び出すのだ。不満はないかとか、最近どうだとか、肥前にとってはどうでもいい話ばかりではあったが、何度か呼び出しを無視すると機動の早い近侍が文字通り首根っこを捕まえに来る上に最近では部屋に行くと茶菓子やちょっとしたつまみをふるまわれる。食べ物で釣られている自覚はあったが、適当に話をしていれば損はないのだ。久方ぶりに大人しく呼ばれてやるか、という気持ちだった。

     部屋の戸を開けると、書類に目を落としていた審神者が顔を上げる。
    「おお、今日は大人しく来たな。遅かったらまた長谷部を向かわせるところだったよ」
     当の長谷部は審神者の傍に控えており、審神者が目配せすると頷いて部屋を出て行った。
    「こっちおいで。おやつをあげよう」
    「……食いもんにつられたわけじゃねえからな」
    「はいはい」
     審神者が机の上を片付け、長谷部が湯吞みを二つ持ってくる。と思ったらまたもやすぐに出て行ったので、机におかれたみたらし団子三本の取り分が分からなくなった。
    「全部食べていいよ。嫌いじゃないだろ」
    「……」
     夕餉まではまだ時間がある。長居するつもりはなかったが、断る理由もなかった。まずは1本手に取ると、いつもの質問が始まる。
    「最近どう? 困ってることない?」
    「ねえよ」
    「南海とはどう?」
     心臓が少し早くなる。審神者が肥前と同室の南海についても時折話題に出すのもまたいつものことだった。審神者が言うに、南海は顕現から随分経ったにも関わらず、自身の心や体のことに疎いように見えるのだそうだ。戦闘経験を積み、出陣には問題ないのだからそれでいいだろうと肥前は思うが、確かに遠征先で目を離すとすぐ姿を消すことがあり困ってもいた。大体回収しに行くのは肥前だからだ。
    『ああ、気になることがあるとそれしか見えなくなっちゃう感じだね。個性と言えば個性だけど、何せ長義をはじめ、君たちはちょっと特殊な経緯でうちに来ているからなあ』
     同時期に本丸へ来た肥前と南海は同室を割り当てられている。それは同郷だから、という審神者の配慮であると同時に、他のものよりは肥前の方が南海の相手をしやすいだろうという理由もあったというのは前回審神者の部屋に呼ばれた際聞いた話だ。とは言え、部屋を替えて欲しくなったらいつでも希望を出すように、とも言われている。
     返事が少し遅れたのを、二本目のみたらし団子に手を伸ばして誤魔化す。いつもの質問に、いつものように答えればいいだけだ。
    「別に何もねえよ」
     今日もそう答えて、
    「部屋もそのままでいい」
     と、付け加えた。
    「……部屋?」
     審神者は一瞬きょとんとして首を傾げる。
    「? 部屋割りの話じゃねえのか」
    「ああ、そっちじゃなくて」
    「は?」
    「どこまで進んだの? ってこと。口吸うとこまではいったって聞いたけど」
    「っ、んぐ」
    誤魔化すように団子を頬張りながら話していたのを後悔した。喉を通りそうだった団子が詰まる。目を白黒させていると審神者が慌てて肥前の背中を叩いた。
    「ごめんごめん、そんなに動揺するとは……」
    「! !!」
     言いたいことは色々あったが、ひとまず団子と茶を飲み込む。

    前回この部屋を訪れてから、あった変化と言えば一つ。審神者に話すつもりなどこれっぽっちもなかったが、肥前は南海に「好きだ」と言って、南海はそれを受け入れた。南海も同じ気持ちだとは思わなかった。けれど、興味本位だったとしても、拒まれなかったのが嬉しかった。手を握ってもそうだった。だから、部屋で二人きりの時にそっと唇を重ねた。結果、目を合わせて貰えなくなった。それだけの話だった。だがそれだけの話を審神者が知っていることが問題だった。
    「そんなに睨まなくても、知ってるのは俺と……陸奥と、まんばと長谷部くらいだから」
    「結構知られてるじゃねえか」
     やっと団子が喉を通り過ぎていったのに安心する暇もない。
    「だ、大体、なんで知ってんだよ」
    「知られたくないなら、南海にも口留めしておいた方が良かったかもね」
     ま、もう遅いけど、などと不吉なことを付け加えられた。
    「言っておくけど、俺が無理に聞き出したわけじゃなくてね――」



     数日前、南海の方から「ちょっと聞きたいんだがね」と声をかけられたという。

    刀剣男士の中には、審神者からの呼び出しをきっかけにその際相談事や雑談をまとめてするもの、呼び出しがなくとも、審神者の姿を探して時間を作って欲しいと強請るものに分かれていたが、南海は主に前者だった。だから珍しいと感じつつ、だからこそ緊急の相談事かもしれない、と審神者は彼を自室に招いた。
     部屋には近侍の長谷部、それから初期刀である陸奥守が内番表の組み直しについて話し合っているところだった。本丸の古株であるふたりなので、審神者も部隊編成などを組む際にはこのふたりに声をかけることが多い。内番のローテーションについてある程度組みつつ、審神者に最終確認を頼むため待っていたらしいが、南海と一緒だったのを見て長谷部は「俺達は席を外しましょうか」と気遣った。陸奥守も「急ぎやないき」と応じる。
    「そうだね、じゃあ悪いけどまた後で、」
    「いや、君たちが構わなければ、むしろいてくれた方がいい」
     審神者の言葉を遮るような南海の言葉に、おや、と思ったものの、本人がそういうのであれば、と座布団を進める。
    「実は、肥前君のことで、意見が聞きたくてね」
     そう切り出したので、なるほど、彼のことであれば、主としての自分の意見だけではなく、馴染みのある刀の視点も必要かもしれないな、と審神者は先を促した。すると南海は、ごくごく普通の調子で、まるで戦績を告げるがごとく、滔々と語り始めたのである。
    「肥前君と口を吸い合ったのだけれども、それからどうにも彼の顔を見ることが困難になってね。あ、もちろん口吸いの前に肥前君に想いを伝えられたので同意の上の行為だよ。僕も彼のことは憎からず思っているし、所謂両想いというやつで、だから口吸いに抵抗する理由はないのだけれど、いや、なんというか、ずいぶん、顔が近付くじゃないか、あの行為は。目を閉じるものだと思ってはいたが機を逃してしまってね……それで間近で肥前君の顔を観察してみたのだけど、存外睫毛の量が多いことだとか、唇がひび割れていて痛そうだとか、そんなことに気を取られてしまって……気付いたら肥前君は離れていたのだけど……勿体ない、そうだ、勿体ないことをしたなと思って、しかしもう一度と強請る機も逃してしまって……まあまた機会はあるだろうと思っていたんだが、あれからどうも、肥前君の顔を見ると、何故だか落ち着かない気持ちになってだね……目が合う前につい逸らしてしまって、彼が気を悪くしていなければいいんだが、僕も目を逸らしたくて逸らしているわけではないし、しかし顔を見るとどうしてか顔が勝手に動いて目線が合わないように動いてしまうし……。こういった場合、僕は次にどう動いたらいいだろうか。1人で考えていても最善策が出そうにないので、こうして助言を求めに来たというわけだ」
     南海の長広舌の後、恐らく審神者、長谷部、陸奥守の思うところは同じだっただろう。
    「……惚気?」
     まず口に出したのは審神者だった。南海は「のろけ?」と鸚鵡返しして首を傾げているが、要約すれば、「初めて好きな子とキスしたんだけど、それから相手の顔を直視できなくなっちゃったどうしよ~」という話ではないだろうか。何か相談事かと身構えていたのに恋バナが始まってしまった、と脱力するのも致し方ない。陸奥守はぽかんとしていたし、困惑気味の長谷部は「俺は本当に席を外さなくて良かったのか?」と南海に訊ねている。

    「むしろいてくれた方が助かるんだよ」
    先程と同じようなことを言い、南海はにこやかに続けた。
    「経験者の助言を求めたいと思っていたところだからね」
    しん、と静まり返る。
    「……と、言うと」
    冷や汗を流しながら口火を切ったのは審神者だった。経験者とは、誰を指すのか、と暗に込めて、それが自分ではありませんようにと願った。しかし、その願いもむなしく、南海は答える。
    「主と、長谷部くん」
     すぐ傍で息を呑む気配があり、
    「あと、陸奥守くんと山姥切くん」
     ひぇ、と声にならない声があった。
    「恋仲、というやつだろう? 同じ……だから、おや? 違ったかね」
    「……うーんと」
     審神者が手を前に出し『待った』のポーズをとる。南海の言葉通り、審神者は長谷部と近侍以上の仲だった。それは南海や肥前が本丸にやってくるよりもずっと前からのことで、そんな関係になるまでにひと悶着あったこともあり、陸奥守を始め古参と呼ばれる面々には周知の事実である。けれど、公言しているわけでもなかったので今や知らないものも多い。主と臣下が深い仲というのも体裁が良くないという後ろめたい気持ちもあったので行動には注意していたはずだった。
    陸奥守と山姥切の仲に至ってはいつの間にかそうなっていたのかという感じで、審神者自身は陸奥守から打ち明けられるまでは知らずにいた。その上、山姥切が恥ずかしがるというので口外しないことを約束していた。部屋替えの折に便宜を図ったことはあったが。初期刀である陸奥守だけでなく、山姥切とも付き合いは比較的長いが、審神者ですらその程度の認識だ。南海に知られたところで問題はないといえばないが、やはり気恥ずかしさと、なぜ、という気持ちが勝る。
     何とも言い難い空気が流れるが、審神者はじわじわと赤くなっている長谷部を見て、既に真っ赤になっている陸奥守を見て、自身も似たような表情だろうなと自覚しつつ、口を開いた。しかし、言葉が出る前に部屋の外から「主、少しいいか」と声がかかると同時に襖ががらりと開く。噂をすれば、山姥切国広であった。部屋に男が四人、集っていることに気付くとほんの少し目を見開く。見開いた目と審神者の目がぱちりと合い、予感がしたのかくるりと踵を返した。山姥切もまた、この本丸では古参に部類する刀で、審神者との付き合いは長いのだ。
    「すまない、出直す」
    「まあまあ、ゆっくりしていきなよ」
     審神者が言うと同時に、座していた長谷部が山姥切の腕を掴んでいた。もう片方の腕を審神者が掴み、そうすれば力加減が出来なくなって本格的に山姥切は膝をついてしまう。
    「や、やめろ! 離せ! 大声で兄弟を呼ぶぞ!」
    「どこで覚えるんだそういうの! っちょっとだけ! ちょっとだけだから! こうなったらもうお前も巻き込ませてもらう!」
    「なんの話だか分からんが嫌な予感しかしない!」
     長谷部に抵抗する力を出せば審神者を傷つけてしまいかねないが、審神者を傷つけないように力加減すると長谷部にそのまま引きずられてしまう。布の奥で、困り果てた目が陸奥守を捉える。
    「吉行……」
    「うっ」
     助けを求めるような視線と声に陸奥守は胸を押さえて倒れこんだ。大丈夫かね、と南海が顔を覗きこんでいる。
    「っおい、そうじゃなくて主を何とか……」
    「まあまあまあ、いいからいいから」
     じたばたしている山姥切を陸奥守の隣にそっと添え、長谷部が部屋の入口に座り込んで退路を塞ぐ。
    「……俺は関係ない」
    「関係あるんだなあそれが」
    「そうだね。君の意見も聞いておきたいな、僕は」
     開き直って悪そうな笑顔を見せる審神者、のほほんと笑っている南海、諦めろとでもいうような憮然とした表情の長谷部、それから申し訳なさそうに眉尻を下げる陸奥守を順繰りに見遣り、山姥切はようやく観念したように座り直したのだった。



    「―――とまあ、そんな感じで、不可抗力だったってことは伝わった?」
    「……」
     大体の流れは理解できたが、納得はできないという気持ちだった。それが顔に出ていたのか、審神者は苦笑いを浮かべる。
    「南海にはその場でそれ以上話を他に広げないように言っておいたから、本当にそれ以上は広まってないよ」
    「そういう問題じゃねえよ……」
    「ははは」
    「笑ってんじゃねえ」
     審神者は小さく肩を竦めた。
    「でもま、分かったでしょ。南海は放っておくと斜め上の行動をとるって。っていうか、俺より付き合い長いんだから、予想できたんじゃないの?」
    「……できるかよ。先生だぞ」
    「……それもそうか」
     予想できていたら、こんなことにはなっていないだろう。肥前には南海の考えが分からない。ただ、審神者の話で彼が口付けが嫌だったわけではないこと、どうやら想いが一方通行ではないことが分かったので、少し安心していた。
    「南海は話し過ぎだし、肥前は話さなさすぎなんだよなあ。バランスはいいかもしれないけどさ」
    「……ふん」
    「南海とちゃんと話してきな」
     俺達がまた巻き込まれる前にね、と審神者が至極真面目な顔で言うので、肥前は渋々頷いたのだった。







    【その後の主へし】

    「……ふふ」
    「主?」
     肥前と入れ違いに部屋に入った長谷部は、机に残された湯吞みと皿を片付けながら、審神者の小さな笑い声に顔を上げた。
    「あ、ごめん、なんか、初々しいなあと思ってさ」
    「……ああ、あの二人ですか」
     南海の相談事を聞いた時の一件を思い出す。長い付き合いとは言え、第三者がいる場で自分達の関係を指摘されたり、その後同じように暴露された陸奥守と山姥切としばらく顔を合わせづらくなったりと色々あったが、南海の相談自体は、今思えば昔の自分を重ねるくらいには身に覚えのある内容だった。
    「長谷部も、そうだった?」
    「……そう、とは」
     こちらを窺う審神者の含み笑いに、わざとらしく首を傾げる。揶揄われているのは分かっていた。お互いに。審神者の手が伸びてきて、長谷部の顎を捕らえる。引き寄せられるまま、唇を重ねた。一瞬触れるだけのそれに、懐かしさすら覚える。
    「分かってるくせに」
    「主こそ」
     互いに目を細め、くすくすと笑い合う。初めて唇を重ねた時、こんな余裕はなかった。一瞬、ほんの少し唇の表面が触れたかどうかくらいの感触に動揺して、目が合わせられなくて、もう一度してもいいだろうか、嫌じゃないだろうか、なんて、色々考えて。だから南海の気持ちはよく分かった。うまくいくといいな、とも思う。もちろん、もう巻き込まれるのは困るが。


    【その後のむつんば】


    「国広~ まだ怒っちゅう?」
    「……怒ってない」
     布団に入ったものの、こちらに背を向けている山姥切に、陸奥守の眉尻はへにょりと下がる。昼間、南海に二人の仲を暴露された上に色々と、それはもう色々と根掘り葉掘り聞かれて、これ以上は赤くならないというくらい耳まで真っ赤にしていた山姥切を可愛いと思ったが、一通り話終わって部屋に戻ってからはずっとそんな調子だった。審神者に捕まった時に助け舟を出さなかったのを根に持っているらしい。もちろん、意地悪などで助けなかったわけではなかった。陸奥守自身も余裕がなかったし、困り果てて、涙目でこちらを見上げた顔が可愛すぎて力が抜けた、とも伝えづらい。しかし、久しぶりに翌日の非番が重なった夜ということもあって、そのまま寝てしまうには惜しいという思いが勝った。
    「寂しいぜよ~」
    「なん、うわっ、入ってくるな」
     わざわざ離して並べられてしまった布団の隙間を乗り越えて山姥切の布団に潜り込むと、容赦なく手を突っぱねられる。とは言え、決して強い力ではなかった。布団の中でそっと足をくっつけると、陸奥守の方が体温が高く、冷えた足にじんわりと熱がうつっていく。そうして暫くくっついていると、やれやれと言いたげな溜息が耳に届いた。
    「怒っちょらんなら、一緒に寝てもええ?」
    「……寝るだけ、か?」
    「うっ」
     ぴったりと寄せた足が、遠慮がちに絡んでくる。控えめな誘いに、陸奥守はまた胸を押さえ込む羽目になった。


    【その後の肥南】


    「おや、長かったのだね」
     肥前が部屋に戻ると、そこらじゅうに書物を散らかした南海が「おかえり」と笑った。
    「色々、あったからな」
    「なるほど、……おや?」
     何から話せばいいのか、むしろ何も話さなくてもいいのか迷ったものの、南海は肥前の顔をまっすぐに見つめた。目を逸らされないのは久しぶりのことだった。
    「な、に」
    「ふふ、付いてるよ」
     目を細めて笑った南海の手が伸びてきて、唇の端をそっと、指先で拭われる。
    「っ、」
     指が離れていく前に、咄嗟に手を掴むと、南海は目を丸くした。指の腹が拭き取ったのはみたらしのたれだった。食べている途中で驚かされてそのまま話し込まれたせいか気付かなかったし、審神者も指摘しなかったようだ。こうなるからか? と疑わないでもなかったが、それよりも。
    「ひぜ、ん、くん」
     指先についたそれを舐めとると、さすがに狼狽したような声だった。
    「……いやかよ、先生」
    「……いや、とは?」
    「おれに、こういうこと、されるの」
     ちゅ、ともう一度、今度は触れるだけの口づけを指先に落とす。びくっ、と僅かに肩を揺らした南海の耳がじわじわと赤くなっていくのが分かった。
     審神者の話を一通り聞いて、理解はしたものの、それでも。
    「言わなきゃ、分かんねえよ、おれは」
     また目を逸らされそうになって、頬を挟み込むように捕らえる。
    「わ、」
     微かに声があがったものの、拒絶らしい拒絶はなかった。しかし、それを答えと受け取れるほどの自信はない。
    「せんせ……」
     顔を寄せる。鼻先を近付け、吐息が届く程の距離で、止まる。南海の瞳の中には、目をぎらつかせた自分が映っていた。南海が息を飲む。その音すら聞こえる距離だ。
    「……ん、」
    「っ!」
    「あ、っと、すまない」
     一瞬だけ触れた唇がすぐに離れて行って、南海は照れたように笑う。
    「言う前に、してしまったね。……いやあ、うまくいかないものだ」
    「……んだよ」
     すぐに口づけられる程の距離に近付いておきながらバツが悪くなり、南海の顔を離す。しかし、その手を今度は南海が掴んだ。
    「肥前くん」
     上擦った声が、鼓膜を揺らす。
    「いやじゃないよ」
    「……」
    「いやじゃない。きみに触れられることも、触れることも……」
    顔を上げると、困ったような顔で笑っている。握られた手も、肥前の手も、じわじわと熱くなる。
    「もう一度、したいと、思っていたよ。……ふふ、参ったね。主には淀みなく話せたのに、きみに直接伝えるのは、なかなかどうして……ん、」
     言葉の途中で、引き寄せて唇を塞いだ。もうじゅうぶん伝わったと思ったし、南海の言葉を全て待てるほど、肥前は気が長くはなかった。



    おわり
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    PASTさに(→)←ちょも
    山鳥毛のピアスに目が行く審神者
    最近どうも気になることがある。気になることは突き詰めておきたい性分故か、見入ってしまっていた。
    「どうした、小鳥」
     一文字一家の長であるというこの刀は、顕現したばかりだが近侍としての能力全般に長けており気づけば持ち回りだった近侍の任が固定になった。
     一日の大半を一緒に過ごすようになって、つい目を引かれてしまうようになったのはいつからだったか。特に隠すことでもないので、問いかけに応えることにした。
    「ピアスが気になって」
    「この巣には装飾品を身につけているものは少なくないと思うが」
     言われてみれば確かにと気づく。80振りを越えた本丸内では趣向を凝らした戦装束をまとって顕現される。その中には当然のように現代の装飾品を身につけている刀もいて、大分親しみやすい形でいるのだなと妙に感心した記憶がある。たまにやれ片方落としただの金具が壊れただのというちょっとした騒動が起こることがあるのだが、それはまあおいておく。
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    「小鳥は私のことが気になっているのかな?」
    「あー……?」
    ちょっと 1374

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    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    たまには大倶利伽羅と遊ぼうと思ったら返り討ちにあう主
    とりっくおあとりーと


    今日はハロウィンだ。いつのまにか現世の知識をつけた刀たちによって朝から賑やかで飾り付けやら甘い匂いやらが本丸中にちらばっていた。
    いつもよりちょっと豪華な夕飯も終えて、たまには大倶利伽羅と遊ぶのもいいかと思ってあいつの部屋に行くと文机に向かっている黒い背中があった。
    「と、トリックオアトリート!菓子くれなきゃいたずらするぞ」
    「……あんたもはしゃぐことがあるんだな」
    「真面目に返すのやめてくれよ……」
    振り返った大倶利伽羅はいつもの穏やかな顔だった。出鼻を挫かれがっくりと膝をついてしまう。
    「それで、菓子はいるのか」
    「え? ああ、あるならそれもらってもいいか」
    「……そうしたらあんたはどうするんだ」
    「うーん、部屋戻るかお前が許してくれるなら少し話していこうかと思ってるけど」
    ちょっとだけ不服そうな顔をした大倶利伽羅は文机に向き直るとがさがさと音を立てて包みを取り出した。
    「お、クッキーか。小豆とか燭台切とか大量に作ってたな」
    「そうだな」
    そう言いながらリボンを解いてオレンジ色の一枚を取り出す。俺がもらったやつと同じならジャックオランタンのクッキーだ。
    877

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    徹夜してたら大倶利伽羅が部屋にきた話
    眠気覚ましの生姜葛湯


     徹夜続きでそろそろ眠気覚ましにコーヒーでもいれるかと伸びをしたのと開くはずのない障子が空いたのは同時だった。
    「まだ起きていたのか」
     こんな夜更けに現れたのは呆れたような、怒ったような顔の大倶利伽羅だった。
    「あー、はは……なんで起きてるってわかったんだ」
    「灯りが付いていれば誰だってわかる」
     我が物顔ですたすた入ってきた暗がりに紛れがちな手に湯呑みが乗った盆がある。
    「終わったのか」
    「いやまだ。飲み物でも淹れようかなって」
    「またこーひー、とか言うやつか」
     どうにも刀剣男士には馴染みがなくて受け入れられていないのか、飲もうとすると止められることが多い。
     それもこれも仕事が忙しい時や徹夜をするときに飲むのが多くなるからなのだが審神者は気づかない。
    「あれは胃が荒れるんだろ、これにしておけ」
     湯呑みを審神者の前に置いた。ほわほわと立ち上る湯気に混じってほのかな甘味とじんとする香りがする。
    「これなんだ?」
    「生姜の葛湯だ」
     これまた身体が温まりそうだ、と一口飲むとびりりとした辛味が舌をさした。
    「うお、辛い」
    「眠気覚ましだからな」
     しれっと言 764