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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    https://poipiku.com/594323/6821639.html
    この二人。くっついた後。
    https://twitter.com/inaba_hondego/status/1535233451342696448?s=20&t=iXXV6Tj16FvelFbYmuw40A
    ↑要約
    いなばさんとこの肥前くんはミュ肥前にどういう反応しますか?って聞かれた時のやつです!

    #主肥
    mainFat
    #さにひぜ
    #主刀
    mainBlade

    歌って踊れる肥前忠広なんていませんが? 広報活動の一環で行われている、刀剣男士たちによるライブ活動がある。他所の、それもやや特殊な本丸事情とはいえ、収益だとか、それによる審神者数の増加などはある程度まとめられ、データは広報活動による成果として全審神者に共有される。その中には、実際のライブ映像もあった。
     話を聞いた当初は、そんな広報活動ってあり? という空気だったものの、効果はあるようで、確かにライブを定期的に行うようになった年から新たに就任した審神者の数は右肩上がりだ。とは言え、故意なのか集計不足なのか、引退数については明記されてないので、効果というのはどこまで信じたものやら、という声もある。ただ、自分の本丸にもいる刀剣男士達と全く同じ姿形をした刀達が、アイドルのような衣装を着て歌ったり踊ったりする姿は不思議な感覚がありつつも、見ていて楽しいものだった。刀剣男士本人たちにも好評だと聞いたので、最近では他の本丸でそうしているように、ライブ映像は各自が至急されている自分の端末から見られるように設定してある。今日も、最近行われたライブ映像データを審神者が使用している薄型電子端末に保存し、刀剣男士達の端末からアクセス可能にしたところだった。全員へ簡単に連絡を済ませ、いそいそとデータを開く。今までも本丸にいる男士と同じ刀がライブ映像に出てくることはあったし、それを本人と見たりもしたが、今回は恋仲である一振りの別個体が出ているのでいつもよりも緊張した。後ろめたいわけではないが、そっとイヤホンを耳にさして音漏れしていないかどうかを確認してから、そっと再生ボタンを押す。

    「……おおー」
     なるほど、噂に聞いていた通り、画面の向こうの彼は伸びやかに歌い、普段とは違う少し煌びやかな衣装を身にまとって軽やかに、そして美しく踊っている。漆黒と朱殷に分かれた跳ねっ毛、野良猫のように警戒心が露わになった吊り目。衣装や見たことのない動きには驚かされたものの、その外見は今頃日帰りの遠征に行っているであろう恋仲の男士――肥前忠広と寸分違わぬものだった。



     肥前忠広。彼はほとんどの本丸でそうであるように、当初は政府所属の刀剣男士として接触し、特命調査を経てこの本丸の仲間となった一振りだ。そして今は、紆余曲折色々とあって、審神者と恋仲の刀でもある。外見が同じとはいえ、今までそうだったように、自分の刀と他所の刀を混同したり、まるでうちのこがアイドルになったみたい! と思ったりはしないが、やはり不思議な感覚ではあった。主が、本丸が違うというだけで、他所の肥前は汗をきらきらと散らしながら、やけくそ気味に見えるとは言え、恋がテーマらしい歌を歌ったり、踊ったり、ギターを弾いたり、肌が露わになった衣装を着るのか、と思うし、聞いたことはないけれど、自分の肥前も、歌ってと頼んだら、こんな風に――

    「おい」
    「ウワッ」
     イヤホンから漏れる音をかき消す程すぐ近くから低い声で呼ばれ、審神者は文字通り飛び上がる。声をかけた方もその勢いに驚いたようで、若干顔を引きつらせながら仰け反った。今まさに思い浮かべていた顔がすぐ近くにあって、あたふたとイヤホンを外す。
    「……声、かけたからな」
    「え、あ、ごめん……おかえり」
     歯切れの悪い様子に、遠征から戻った第二部隊隊長である肥前の視線は自然と今まで審神者が向かっていた電子端末に向く。
    「なんかやってんなら、報告は後に、」
     反射的に一時停止にしていたせいで、画面はちょうどライブ中の肥前が挑発的な笑みを浮かべ、カメラ、つまりこちらを向いているところだった。こちらの肥前と、画面の中の肥前が向かい合う形になり、審神者はしまった、と思う。やましい気持ちはないものの、なんだか気まずい。しかし、そう感じる一方でほんの少し期待する気持ちが芽生える。このライブ映像は全審神者に共有されているので、演練や会議などで他の審神者と交流する際に話題にあがることも少なくない。そして、その中心は映像そのものだけではなく、それぞれの本丸にいる男士の反応も多かった。『うちの江たちも真似してレッスンってやつをしているが、結構いい線いっていると思う』だの、『清光が「主は俺よりもこっちの清光の方がいいの!?」ってやきもち妬いて大変だった』だの、大体は自分の刀自慢だったり、苦労話に見せかけたノロケだったりしたが、後者の方を少し羨ましく感じていたのだ。
    (……肥前も、妬いたりするのかな)
     恋仲になってそこそこの月日が流れたものの、日頃肥前を誘うのは審神者の方が多いし、構うのも圧倒的に審神者の方だし、嫌がられてないからまあそれが答えだろうという気持ちで接していて現状に大きな不満はないものの、恋人にやきもちを妬かれてみたい、という思いもあるにはある。
    「えーと、広報のデータの、新しいやつ見てたんだよね」
     映像と同じように固まったまま肥前と沈黙には耐えきれなかったので、審神者はおそるおそる口を開いた。視線がこちらに向く。
    「……知ってる。前に先生に見せてもらった。これはしらねえけど」
    「最新のやつだからね。さっきアクセス権限追加したばっかりだよ。今回は肥前も出てて、」
    「しらねえって」
    「ん?」
     不機嫌そうな声音に首を傾げると、肥前の眉間の皺が深くなる。これは、もしかして? と思うと、肥前は端末を伏せてしまった。
    「これはおれじゃねえ」
     妬いた? と声に出す前に、きっぱりとそう言われたので、口元が少し緩む。
    「いや、確かに他の本丸の肥前なんだけどさあ、」
    「は?」
    「ん?」
    「は??」
     二度目の「は??」は、何度も何度も肥前を怒らせたことがある審神者でも聞いたことがないくらいドスがきいてたので、口を噤んだ。妬いた、という軽い反応ではないことを悟る。肥前は眉間に皺を寄せたままだったが、それでいて戸惑うように視線を彷徨わせた。
    「……『肥前忠広』じゃねえ」
    「んん……?」
    「『おれ』じゃねえし、しらねえやつだよそんなのは」
     どうやら想像よりも複雑だった。審神者は首を傾げ、伏せられた端末を起こした。画面はさっきと変わっていない。
    「肥前、ではあるだろ。え? っていうか今ばっちり画面見てたし」
    「は? みてねえよ」
    「いや見てたよ……」
    「みてねえ」
    「見てたって、ほら」
    「しらねえって言ってんだろ」
     しまいには唸り声をあげ、肥前は立ち上がった。そのまま端末の横に報告書を置くと、ぽかんとしている審神者も置き去りにして部屋を出て行ってしまう。
    「ええ……」
     取り残され、困惑の声が漏れる。持ち上げた拍子に再生ボタンを押したのか、映像の中の肥前はくるりとターンすると、こちらの肥前と同じように視界から去っていった。




     肥前の反応を思い返し、反芻し、やっぱりワンチャンやきもちなのでは? とポジティブに考えた審神者は、再びライブ映像を電子端末に映し、肥前がやってくるタイミングで再生する、ということを何度か試してみたが、結果は同じだった。
    『は? ……おれじゃねえだろ、それ』
    『そういうのができるタイプじゃねえよ』
    『みてねえからわかんねえが、おれじゃねえことだけは確かだよ』
    『チッ しつこい』
    『うぜぇ』
    『は?』
    『ああ?』
     ――と、大体そんな感じだった。最後の方は審神者があまりにも「いやこれ、よそのだけど肥前なんだって」「見た目が肥前なの、見たらわかるだろ?」「ちょっとこっち見て、ちょっとでいいから」などと端末を手に迫ったのでとうとう言葉を返されなくなった。肥前が認めないものだから、ムキになってしまった感は否めない。


    「どう思う?」
    「わしらに聞かれてもにゃあ」
     肥前のいない隙に、土佐部屋として割り当てている部屋へやってきた審神者に、陸奥守は困ったように南海を見る。
    「主もなかなか頑固だねえ」
     南海が手にしている電子端末にも、既に何回も見た映像が映っている。
    「だってさあ、ここまで否定されるとなんかこっちもやきもちって認めさせたいというか……」
    「やきもちやか……? わしにはそがな風には見えんけども……」
    「ただ歌って踊る別個体の存在が認められないだけじゃないかな。僕らが見ている時も似たような反応だったからね」
    「っは~~~ 二人がそういうならそうだよな~~~ NOやきもちかあ」
     がっくりと項垂れる審神者だったが、陸奥守がそっと肩を叩こうとする前に「ま、いいか」と顔を上げたのでたたらを踏む羽目になった。
    「まあ、別にやきもちじゃなくてもいいんだよね。今ちょっと楽しいことになってるからさ」
    「主がええならええけども……楽しいことっちゅうんは」
    「それは内緒。そろそろ部屋戻ろうかな。お邪魔しました~」
     来た時と同じく唐突に去っていった審神者に、陸奥守はぽかんとして再び南海を見る。南海の興味は既に電子端末に戻っていたが、手元に目をやったまま、ぽつりと言った。
    「惚気られてしまったねえ」
    「おおの……」


     部屋に戻ると、ここ最近そうしていたように、電子端末を机の上に置き、音を出さないまま映像を流しておく。そろそろか、というタイミングで、部屋の戸が開いた。
    「おい、厨当番からだ」
     顔を覗かせた肥前の手には二人分の間食がお盆に載せられている。今日は抜け出して少しばかりさぼってはいたが、普段は八つ時になると近侍が審神者の休憩も兼ねて間食を持ってくるのが習慣になっていた。
    「ありがとう。ここ空けるよ」
     置きっぱなしになっていた書類を脇に避けると、肥前は空いたスペースにお盆を置き、動かされなかった端末を目にして、む、と僅かに唇を歪めた。そのままどすんと審神者の横に腰を下ろすと、体重をかけるように寄りかかり、机に置かれている端末を伏せる。そうして何事もなかったかのように皿に乗った今日の間食、茶饅頭を取って食べ始めた。体重はこちらに預けられたままなので、体の片側だけが重い。気を許してくれたと思った野良猫が、気を許すを通り越してどんどん大胆になっていく様を見ているようで、審神者の口元は緩む。伏せられた端末をもう一度立てようと手を伸ばすと、「んん」と低い唸り声と共に、机と審神者の間に体を捩じ込んできたのでもう諦めた。ゆるされた分の重みと温もりを感じた多幸感を、自分の分の茶饅頭と一緒に噛み締める。

     実のところ、肥前との押し問答も、それがやきもちじゃなかったとしても、審神者にとってはほとんどどうでも良くなっていた。そうだったらちょっと嬉しいな、とは思っていたが、多分あの別個体の肥前は、こちらの肥前の許容範囲を大幅に超えていて、やきもちだとかそういう段階の話にはならないのだろう。だとしても、審神者が目の前であの映像を見る素振りを見せれば、それを邪魔するためとは言えいつも以上に構ってくれるのだからそれだけで十分だった。審神者と端末の間に入るためとは言え、こうして肥前から体を寄せているのも普段なら考えられないことだ。
    「……なに笑ってんだよ」
    「別に。……あ、ほっぺた、ついてるよ」
     肥前の頬についた餡子を取ろうとしたのに、ふいと顔を逸らして避けると、乱暴に自分の袖で拭いてしまう。しっかり体重を預けているわりには抵抗するのが余計に可愛く思えて、審神者は我慢できずに声をあげて笑った。
    「んだよ」
    「いやあ、別に、ああー……じゃなくて、」
     同じように誤魔化しかけて、審神者は言い直す。
    「俺の肥前が、一番可愛いなって改めて思っただけだよ」
    「……はあ?」
     肥前はまた低く怪訝な声を出したが、耳にかかった髪を撫でると、僅かに覗いた耳がほんのりと赤く染まっているし、撫でている手は避けられも振り払われもしない。
    「……っ悪趣味なんだよ、おまえは……」
     その代わりに今にも舌打ちしそうな顔をしているが、腕はぎこちなく背中に回された。そういうところが、と言いかけて、やめる。耳からじわじわと頬まで赤くなった顔に唇を寄せても、やはり避けられることはなかった。


    おわり
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    とうとう買ってしまった。刀剣男士をイメージして作られているといううさぎのぬいぐるみの、恋仲と同じ濃茶色に鮮やかな赤色が入った毛並みのものが手の中にある。
    「ううん、この年で買うにはいささか可愛すぎるが……」
    どうして手にしたかというと、恋仲になってからきちんと好意を伝えることが気恥ずかしくておろそかになっていやしないか不安になったのだ。親子ほども年が離れて見える彼に好きだというのがどうしてもためらわれてしまって、それではいけないとその練習のために買った。
    「いつまでもうだうだしてても仕方ない」
    意を決してうさぎに向かって好きだよという傍から見れば恥ずかしい練習をしていると、がたんと背後で音がした。振り返ると目を見開いた肥前くんがいた。
    「……邪魔したな」
    「ま、待っておくれ!」
    肥前くんに見られてしまった。くるっと回れ右して去って行こうとする赤いパーカーの腕をとっさに掴んで引き寄せようとした。けれども彼の脚はその場に根が張ったようにピクリとも動かない。
    「なんだよ。人斬りの刀には飽きたんだろ。その畜生とよろしくやってれば良い」
    「うっ……いや、でもこれはちがうんだよ」
    「何が違うってん 1061

    いなばリチウム

    DONEhttps://poipiku.com/594323/6821639.html
    この二人。くっついた後。
    https://twitter.com/inaba_hondego/status/1535233451342696448?s=20&t=iXXV6Tj16FvelFbYmuw40A
    ↑要約
    いなばさんとこの肥前くんはミュ肥前にどういう反応しますか?って聞かれた時のやつです!
    歌って踊れる肥前忠広なんていませんが? 広報活動の一環で行われている、刀剣男士たちによるライブ活動がある。他所の、それもやや特殊な本丸事情とはいえ、収益だとか、それによる審神者数の増加などはある程度まとめられ、データは広報活動による成果として全審神者に共有される。その中には、実際のライブ映像もあった。
     話を聞いた当初は、そんな広報活動ってあり? という空気だったものの、効果はあるようで、確かにライブを定期的に行うようになった年から新たに就任した審神者の数は右肩上がりだ。とは言え、故意なのか集計不足なのか、引退数については明記されてないので、効果というのはどこまで信じたものやら、という声もある。ただ、自分の本丸にもいる刀剣男士達と全く同じ姿形をした刀達が、アイドルのような衣装を着て歌ったり踊ったりする姿は不思議な感覚がありつつも、見ていて楽しいものだった。刀剣男士本人たちにも好評だと聞いたので、最近では他の本丸でそうしているように、ライブ映像は各自が至急されている自分の端末から見られるように設定してある。今日も、最近行われたライブ映像データを審神者が使用している薄型電子端末に保存し、刀剣男士達の端末からアクセス可能にしたところだった。全員へ簡単に連絡を済ませ、いそいそとデータを開く。今までも本丸にいる男士と同じ刀がライブ映像に出てくることはあったし、それを本人と見たりもしたが、今回は恋仲である一振りの別個体が出ているのでいつもよりも緊張した。後ろめたいわけではないが、そっとイヤホンを耳にさして音漏れしていないかどうかを確認してから、そっと再生ボタンを押す。
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    いなばリチウム

    DONE主肥だけど主肥未満のような。
    https://poipiku.com/594323/6821639.html
    ↑これの二人。まだデキてない。
    元ツイ⇒https://twitter.com/mob__178/status/1530166495048654848?s=20&t=UJpK7xz1Hwh4phyVPzoD8g
    気付いたら背負い投げされてた審神者と肥前君の主肥刀剣男士は主を傷つけない。
    刀剣男士は人間より強い。
    けれども主には逆らわない。
    逆らえないのではなく、逆らわない。
    殺せないのではなく、殺さない。(主本人が命じればまた話は別だが、この本丸には関係のない話だ)

    刀剣男士が本気になればただの人間である審神者は手も足も出ない。
    押し倒すことも、肌に触れることも、それ以上をすることもできない。
    刀剣男士はその力を行使して拒むことが出来る。
    ほとんどの場合そうしないのは、主であるから、というのが大きい。
    それほどまでに、刀剣男士にとっての”主”は深い意味を持っている。


     つまり、肥前が審神者を背負い投げで襖に投げつけてしまったのは不幸な事故だった。

    「ッ、あ……!」
     やっちまった、と思う。いつも、思った時には手遅れだった。ただ、そのまま床に叩きつけそうになったところを、背負った時点でどうにか方向転換したので、それほど痛みを与える結果にはならなかったはずだ。ならなかったと思いたいが、審神者が吹っ飛んでいった先の襖は、当然その重みと勢いに耐えきれず審神者の体と一緒に廊下に倒れてしまったし、物音を聞き付けて数振りが「なんだなんだ」と駆けつけたので手遅れという事実は変わらなかった。
    2697

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    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    PASTさに(→)←ちょも
    山鳥毛のピアスに目が行く審神者
    最近どうも気になることがある。気になることは突き詰めておきたい性分故か、見入ってしまっていた。
    「どうした、小鳥」
     一文字一家の長であるというこの刀は、顕現したばかりだが近侍としての能力全般に長けており気づけば持ち回りだった近侍の任が固定になった。
     一日の大半を一緒に過ごすようになって、つい目を引かれてしまうようになったのはいつからだったか。特に隠すことでもないので、問いかけに応えることにした。
    「ピアスが気になって」
    「この巣には装飾品を身につけているものは少なくないと思うが」
     言われてみれば確かにと気づく。80振りを越えた本丸内では趣向を凝らした戦装束をまとって顕現される。その中には当然のように現代の装飾品を身につけている刀もいて、大分親しみやすい形でいるのだなと妙に感心した記憶がある。たまにやれ片方落としただの金具が壊れただのというちょっとした騒動が起こることがあるのだが、それはまあおいておく。
     さて、ではなぜ山鳥毛にかぎってやたらと気になるのかと首を傾げていると、ずいと身を乗り出し耳元でささやかれた。
    「小鳥は私のことが気になっているのかな?」
    「あー……?」
    ちょっと 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    極になって柔らかくなった大倶利伽羅に宣戦布告する片想いしてる主
    ポーカーフェイスの君にキスをしよう


    「大倶利伽羅」

    ひとつ呼ぶ。それだけで君は振り向いて、こちらを見てくれる。
    それだけでどうしようもなく締め付けられる胸が煩わしくて、ずたずたに切り裂かれてしまえとも思う。

    「なんだ」

    いつもと変わらぬ表情で、そよ風のように耳馴染みの良い声がこたえる。初めて顔を合わせた時より幾分も優しい声音に勘違いをしそうになる。
    真っ直ぐ見つめる君に純真な心で対面できなくなったのはいつからだったっけ、と考えてはやめてを繰り返す。
    君はこちらのことをなんとも思っていないのだろう。一人で勝手に出て行こうとした時は愛想を尽かされたか、それとも気づかれたのかと膝から力が抜け落ちそうになったが、4日後に帰ってきた姿に安堵した。
    だから、審神者としては認めてくれているのだろう。
    年々距離が縮まっているんじゃないかと錯覚させるような台詞をくれる彼が、とうとう跪座までして挨拶をくれた。泣くかと思った。
    自分はそれに、頼りにしていると答えた。模範的な返しだろう。私情を挟まないように、審神者であることを心がけて生きてきた。

    だけど、やっぱり俺は人間で。
    生きている限り希望や 1288

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    寒くなってきたのにわざわざ主の部屋まできて布団に潜り込んできた大倶利伽羅
    秋から冬へ、熱を求めて


    ひとりで布団にくるまっていると誰かが部屋へと入ってくる。こんな時間に来るのなんて決まってる。寝たふりをしているとすぐ近くまで来た気配が止まってしまう。ここまできたんなら入ってくれば良いのに、仕方なく布団を持ちあげると潜り込んできて冷えた足をすり寄せてくる。いつも熱いくらいの足を挟んでて温めてやると、ゆっくりと身体の力が抜けていくのがわかる。じわりと同じ温度になっていく足をすり合わせながら抱きしめた。
    「……おやすみ、大倶利伽羅」
    返事は腰に回った腕だった。

    ふ、と意識が浮上する。まだ暗い。しかしからりとした喉が水を欲していた。乾燥してきたからかなと起き上がると大倶利伽羅がうっすらと目蓋を持ち上げる。戦場に身を置くからか隣で動き出すとどうしても起こしてしまう。
    「まだ暗いから寝とけ」
    「……ん、だが」
    頭を撫でれば寝ぼけ半分だったのがあっさりと夢に落ちていった。寝付きの良さにちょっと笑ってから隣の部屋へと移動して簡易的な流しの蛇口を捻る。水を適当なコップに溜めて飲むとするりと落ちていくのがわかった。
    「つめた」
    乾きはなくなったが水の冷たさに目がさえてしまっ 1160

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    冬至の日に書いた
    いっしょにゆず湯に入るだけの話
    冬至の柚子湯


    一年で一番日が短い日、普段は刀剣男士たちが使っている大浴場に来た。仕事を片付けてからきたから誰もいない。
    服を脱いで適当に畳んでから、旅館のような脱衣籠に置いておく。磨りガラスのはめ込んである木枠の戸を横にひけばふわりと柔らかい湯気があたり、それにつられて奥を見てみれば大きな檜風呂には黄色くて丸いものが浮かんでいた。
    普段は審神者の部屋に備えてある個人用の風呂を使っているのだが、近侍から今日の大浴場は柚子湯にするから是非入ってくれと言われたのだ。冬至に柚子湯という刀剣男士たちが心を砕いてくれた証に彼らの思いに応えられるような審神者になろうと気が引き締まる。
    「柚子湯なんて本丸くるまでしたことなかったな」
    檜に近寄って掛け湯をするだけでもゆずの香りが心を安らげてくれる。
    さて洗おうかと鏡の前へ椅子を置いて腰掛けた時、脱衣所への戸が音を立てた。
    「ここにいたのか」
    「なんだ、まだだったのか」
    素っ裸の大倶利伽羅が前を隠しもせずはいってくる。まあ男湯だし当然なのだが。
    探していたのかと聞けばまた遅くまで仕事をしているのかと思ってなと返されてしまう。日頃の行いを振り返っている 1909

    いなばリチウム

    MOURNING六年近く前(メモを見る限りだと2016年4月)に利き主へし小説企画で「初夜」をテーマに書いた話です。他にもいくつか初夜ネタを書いてたのでまとめてpixivに載せるつもりだったんですけど全然書ききれないので一旦ここに載せておきます!
    当時いつも書いてた主へしの作風とすこし雰囲気変えたので楽しかったし、性癖の一つでもあったので今読んでも好きな話です。
    CPではない二人の話です。長谷部が可哀想かも。
    夜な夜な(主へし R18) その日は朝から体がだるかった。
     目を覚ますと、頭は内側から叩かれているように錯覚するぐらい痛み、窓から差し込む朝日や鳥の囀りがひどく耳障りで、長谷部はそう感じてしまう思考と体の不調にただただ戸惑った。しかし、昨日はいつも通り出陣したはずだったし、今日もそれは変わりない。死ななければどうということはないが、あまりひどければ出陣に、ひいては主の戦績に支障が出る。長引くようであれば手入れ部屋へ入ることも検討しなければ、と考える。
     着替えてからだるい体を引きずって部屋を出ると、「長谷部、」と今まさに長谷部の部屋の戸に手を掛けようとしたらしく、手を中途半端に宙に浮かせて困ったように佇んでいる審神者がいた。無意識に背筋が伸びる。
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