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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    できてる主へし
    審神者の誕生日
    本丸システムごりごりに妄想過多

    #主へし
    master

    何でもない日 時折、思い出す程度の数字の並びだった。
     例えば、必要があり仕方なく広げた書類に、日付を書く時。

    (そういえば、今日だっけ)

     けれど、審神者の手が止まったのは一瞬だ。日付以外に必要な情報も書き記し、受付係に渡す。待機していたこんのすけはふんふんと頷きながら目を通し、「問題ありません」と頭を下げた。
     審神者の継続確認でなぜわざわざ現世の施設まで出向かなくてはいけないのかとか、どうしてこの時代にアナログ式なのかとか、答えてはもらえないそんな質問は最初の数年で出尽くしていた。

     政府から知らせがくる。心身ともに健康であるから、審神者を継続しても良いと許可が出る。許可が出たら、継続する意思があるかどうかを伝え、継続するのであればその手続きをする。実際のところ、継続しなければ身一つで現世に放り出されるだけだ。本丸という閉じられた世界で生活している内に年月の経過も分からなくなり、親兄弟や友人達と違う速度で生きている自分がその後どうなるのか想像もできないので、選択肢は一つだ。そんな事実に気付いて取り乱したこともあったが、今となってはそれも遠い過去のことだった。書いた日付も、意識すれば思い出すが、審神者になる際に本名と一緒に捨てた情報だ。
     心が凪いでいる、と言えば聞こえは良いが、わざわざ憤ったり悲しんだりするのは無駄だし面倒だ、別に本丸での生活が嫌なわけではないし、と極端な結論に達しただけの話だ。審神者でいられる内は諦めた方が楽なのだと、同じ結論に達したのはきっと自分だけではない。待合室にいる審神者の半数ほどは、似たような表情だった。手続きは面倒だけど、現状維持がいちばん楽だ。

    「長谷部、終わったよ。帰ろう」
    「はい、主」

     施設の入口で待っていた長谷部に声をかけ、連れ立って歩き始める。審神者を続ける限りは毎年のことなので、今年もそれについて別段話すことはなかった。本丸へ続くゲートはすぐそこだ。

    「腹減ったなあ。夕飯なんだろ」
    「確か、良い鯵が手に入ったと今朝厨当番が話していました」
    「鯵! いいねえ。鯵のたたきかなあ……なめろうもおいしいし、あ~でも塩焼きもいいよな。天ぷら、煮つけ、……長谷部、何笑ってんの?」
    「いえ、別に」

     年を重ねても、何もかもを諦めても、夕飯が好物だとうれしい。うれしいし、そう感じられる心があることに審神者は安堵している。それを微笑ましいものでも見るように穏やかな顔で笑っている長谷部と無理矢理手を繋ぐ。ゲートはとうに抜けていて、目の前はもう本丸だ。
    「! 主、」
    「俺のこと笑うやつには手繋ぎの刑~。いいじゃんべつに。隠してるわけじゃないし。いや?」
    「そういうわけでは……」
     もごもごと口ごもる長谷部と恋仲になってからも随分と長い年月が過ぎている。それでも未だに人目につく場所で触れることを拒まれるのは今に始まったことではないので、審神者は別段気にしない。気にしないが、普段真面目で凛々しく、仲間には厳しく接している様子も知っているから、態度の違いが面白くて揶揄っている節もあった。
    「じゃあいいだろ。さて、夕飯は鯵の何料理かな~」
     鼻歌交じりで門をくぐる。手は握り返されなかったが、ふり解かれることもなかった。

    ***

    「……全部ある」
     もう準備はできているから、とせかされるまま座って、審神者は食卓に並んだ食事に目を丸くした。鯵の刺身、たたきをはじめ、天ぷら、煮つけ、南蛮漬けなど、思い浮かべていた鯵料理は全て所せましと並んでいる。
    「昨日今日で良い鯵がたくさん手に入ってね」
    「好物だろう? せっかくだから色々作ってみたんだ」
     燭台切、歌仙が得意げに笑っている。
    「あ、この天ぷらは俺が揚げたんだよ」
     湯気が立っている一角を指差し、加州が得意げに言い、横から大和守もにやにやしながら口を挟んだ。
    「主、もう少し早く帰ってくれば面白いものが見られたのに。清光ってばへっぴり腰で、鍋の蓋をこう、盾みたいにしてさ」
    「言ーうーなー!」
    「あはは、がんばってくれたんだな。ありがとう清光」
     せっかくだから熱いうちに、とその天ぷらをとって頬張る。さくっとした衣の触感に、脂がのった身の旨みが口の中に広がった。
    「ん、おいしい」
    「……良かった」
     ほっとしたように息をつく加州を見て、さっきまでからかっていた大和守も満足げだ。
     食卓についた刀達も次々に皿に手を伸ばしていく。おかずだけでなく、骨を使ったせんべいなども追加され、それならばと酒飲み達がそれぞれお気に入りの酒を持ち出してきたので、その日は夕飯から軽い宴会へと発展した。


    ***
     刀達との宴会は楽しいが、それほどアルコールに強いわけでもなく、軽く付き合うのみにして審神者はそっと広間を抜け出した。少し酔いをさまそうと縁側に出ると、そこには先客がいる。
    「あれ、長谷部?」
    「主、」
     月明りに照らされながら、長谷部は一人で杯を傾けていた。
    「手酌? 中で飲まないの?」
    「いえこれは、待ってる間、手持ち無沙汰で……」
    「待ってる間?」
    「はい。……主を、待っていました」
    「……俺を?」
     首を傾げながらも隣に腰を下ろす。杯に残ったものをぐっと飲み干し、長谷部は据わった目で審神者を見つめると、手を伸ばしてその顎を捉えた。
    「はせ、んぅ」
     避ける間もなく、唇が重なる。
    「ん、ふぁ、」
     重なるだけでなく薄く開いた唇から舌がさしこまれた。濃い酒の味が残る舌が絡まり、舐られる。
    「…っ、ん、んむ」
    「は、ぁ……」
     ちゅ、と音を立てて舌を吸われ、離れていった。
    「……」
    「……」
     互いに無言だった。審神者の手は宙を彷徨い、長谷部に触れそうになったものの、広間から漏れる笑い声にびくりと肩を震わせ、また所在無さげに下ろされる。
    「な、に? 急に……ここ、廊下なんだけど……」
     非難するような声は審神者の方から出たが、いつもならこんな状況を普段厭うのは長谷部の方だった。二人が唇を重ねるのも、触れ合うのも、決まってふたりきりの時だけだ。今もふたりきりと言えばふたりきりだが、いつ広間へ続く襖が開くかも分からないというのに。
    「いいじゃないですか、別に……」
     長谷部にしては珍しく、拗ねたような口ぶりは夕方の審神者自身と髣髴とさせるので、審神者は思わず噴き出した。
    「っふ、はは」
    「! 何故笑うんです」
    「ふふ、いやあ、ごめんごめん」
     笑いながら、長谷部の手に触れる。酔いのせいか、じんわりと熱かった。
    「何でもない日でも、ここにいると毎日楽しいなあって、実感しただけだよ」
    「……」
     複雑そうな顔をした長谷部に「それで?」と畳みかける。触れた手の甲に指を這わせ、袖口から覗いた手首をするりと撫でた。
    「キスだけ? 酔いが回って、もう何もできないってことはないよな?」
    「……もちろん」
     挑発に乗った手が、審神者の手を握り替えす。
    「……部屋に、伺っても?」
     手と同じくらい熱い視線に、審神者も同じように「もちろん」と返し、今度は自分から噛みつくように口づけた。



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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    DONE情けない攻めはかわいいねお題ガチャ
    https://odaibako.net/gacha/1462?share=tw
    これで出たお題ガチャは全部!微妙に消化しきれてない部分もあるけどお付き合いいただきありがとうございました!
    情けない攻めの審神者×長谷部シリーズ④・長谷部にハイキックで倒されるモブを見て自分も蹴られたくなる審神者
    ・暴漢に襲われかけた審神者と、その暴漢を正当防衛の範囲内で捻りあげ社会的死に追い込み審神者を救出する強くて怖い長谷部。


    【報道】
     
     政府施設内コンビニエンスストアで強盗 男を逮捕

     ×日、政府施設内コンビニエンスストアで店員に刃物を突き付け、現金を奪おうとしたとして無職の男が逮捕された。
     男は、施設に出入りを許可された運送会社の制服をネットオークションで購入し、施設内に侵入したと思われる。運送会社の管理の杜撰さ、政府施設のセキュリティの甘さが浮き彫りになった形だ。
     店内にはアルバイトの女性店員と審神者職男性がおり、この男性が容疑者を取り押さえたという。女性店員に怪我はなかった。この勇敢な男性は本誌の取材に対し「自分は何もしていない」「店員に怪我がなくてよかった」と答えた。なお、容疑者は取り押さえられた際に軽傷を負ったが、命に別状はないという―――
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    いなばリチウム

    MOURNING六年近く前(メモを見る限りだと2016年4月)に利き主へし小説企画で「初夜」をテーマに書いた話です。他にもいくつか初夜ネタを書いてたのでまとめてpixivに載せるつもりだったんですけど全然書ききれないので一旦ここに載せておきます!
    当時いつも書いてた主へしの作風とすこし雰囲気変えたので楽しかったし、性癖の一つでもあったので今読んでも好きな話です。
    CPではない二人の話です。長谷部が可哀想かも。
    夜な夜な(主へし R18) その日は朝から体がだるかった。
     目を覚ますと、頭は内側から叩かれているように錯覚するぐらい痛み、窓から差し込む朝日や鳥の囀りがひどく耳障りで、長谷部はそう感じてしまう思考と体の不調にただただ戸惑った。しかし、昨日はいつも通り出陣したはずだったし、今日もそれは変わりない。死ななければどうということはないが、あまりひどければ出陣に、ひいては主の戦績に支障が出る。長引くようであれば手入れ部屋へ入ることも検討しなければ、と考える。
     着替えてからだるい体を引きずって部屋を出ると、「長谷部、」と今まさに長谷部の部屋の戸に手を掛けようとしたらしく、手を中途半端に宙に浮かせて困ったように佇んでいる審神者がいた。無意識に背筋が伸びる。
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    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
    「うさぎのぬいぐるみだって」
    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    ちょもさんが女体化したけど動じない主と前例があると知ってちょっと勘ぐるちょもさん
    滅茶苦茶短い
    「おお、美人じゃん」
    「呑気だな、君は……」

     ある日、目覚めたら女の形になっていた。

    「まぁ、初めてじゃないしな。これまでも何振りか女になってるし、毎回ちゃんと戻ってるし」
    「ほう」

     気にすんな、といつものように書類に視線を落とした主に、地面を震わせるような声が出た。身体が変化して、それが戻ったことを実際に確認したのだろうかと考えが巡ってしまったのだ。

    「変な勘ぐりすんなよ」
    「変とは?」
    「いくら男所帯だからって女になった奴に手出したりなんかしてねーよ。だから殺気出して睨んでくんな」

     そこまで言われてしまえば渋々でも引き下がるしかない。以前初期刀からも山鳥毛が来るまでどの刀とも懇ろな関係になってはいないと聞いている。
     それにしても、やけにあっさりしていて面白くない。主が言ったように、人の美醜には詳しくはないがそこそこな見目だと思ったのだ。

    「あぁでも今回は別な」
    「何が別なんだ」
    「今晩はお前に手を出すってこと。隅々まで可愛がらせてくれよ」

     折角だからなと頬杖をつきながらにやりとこちらを見る主に、できたばかりの腹の奥が疼いた。たった一言で舞い上がってしまったこ 530

    Norskskogkatta

    DONE主さみ(男審神者×五月雨江)
    顕現したばかりの五月雨を散歩に誘う話
    まだお互い意識する前
    きみの生まれた季節は


    午前中から睨みつけていた画面から顔をあげ伸びをすれば身体中からばきごきと音がした。
    秘宝の里を駆け抜けて新しい仲間を迎え入れたと思ったら間髪入れずに連隊戦で、しばらく暇を持て余していた極の刀たちが意気揚々と戦場に向かっている。その間指示を出したり事務処理をしたりと忙しさが降り積もり、気づけば缶詰になることも珍しくない。
    「とはいえ流石に動かなさすぎるな」
    重くなってきた身体をしゃっきりさせようと締め切っていた障子を開ければ一面の銀世界と雪をかぶった山茶花が静かに立っていた。
    そういえば景趣を変えたんだったなと身を包む寒さで思い出す。冷たい空気を肺に取り入れ吐き出せば白くなって消えていく。まさしく冬だなと気を抜いていたときだった。
    「どうかされましたか」
    「うわ、びっくりした五月雨か、こんなところで何してるんだ」
    新入りの五月雨江が板張りの廊下に座していた。
    「頭に護衛が付かないのもおかしいと思い、忍んでおりました」
    「本丸内だから滅多なことはそうそうないと思うが……まあ、ありがとうな」
    顕現したばかりの刀剣によくあるやる気の現れのような行動に仕方なく思いつつ、 1555