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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    >テレビゲームをする主へしが見てみたいです

    書きました!
    まだできてない二人で主⇐⇐⇐へしくらいの温度感です
    子供のころから本丸で育ってるタイプの審神者

    テレビゲームをする主へし「あっ、これ懐かしい!」
     部屋の奥からそんな声が聞こえる度、長谷部は手を止める羽目になる。本丸の大掃除も佳境だというのに、肝心の審神者の部屋だけがなかなか片付かない。声がする方へ向かってみれば、審神者の私室は案の定、物という物が散乱したままだった。
    「主?」
     つい声に呆れも混じるというものだ。
     振り向いた審神者は「しまった」という顔をしながらも、手に持ったものを長谷部にも見せてくる。良くないと思いながら覗き込めば、それは見たことのない機械だった。手のひらふたつ分くらいの大きさの箱から、コードが伸びて子機のようなものに繋がっている。
    「これ、懐かしくない?子供の頃みんなとやったなあ」
    「……俺は記憶にないです」
    「あっ、そうか」
     悪びれた様子もなく審神者がごく普通に、
    「長谷部はまだいなかったっけ」
     というので歯ぎしりしたくなる。審神者が押し入れから何か見つける度――それは審神者が子供の頃のアルバムであったり、卒業証書であったり、古びた漫画だったりした――長谷部の苛立ちは募った。この部屋は本丸のどの場所よりも審神者の歴史を物語るものたちで溢れていて、審神者にとっての「懐かしい」ものは長谷部にはほとんどが初めて見るものだった。長谷部がこの本丸に顕現したのは数年前で、今やほとんど毎日近侍を任せられる程の信頼を得ているものの、幼少期から本丸で育った審神者や初期刀、それに続く面々のほとんどから見たらまだまだ新参者だ。その事実を、こういう時にいやという程思い知る。その気持ちを知ってか知らずか、眉間にぎゅっと皺の寄った長谷部を横目に、審神者は機械の埃を払うと、ひっくり返したりコードを繋いだりして何やら組み立てている。
    「……主?」
     今度は怪訝な声になった。審神者はまだ幼さの残る顔で「ちょっとだけ」と悪戯っぽく笑う。コードを何本か繋いだ機械の電源を押すと、立ち上げられた液晶がブォン、ジジジ、と音を立てた。
    「長谷部はこっちね」
    「はい。……はい?」
     手渡された子機を反射的に受け取る。柔らかな曲線の、不思議な形をした機械だ。ボタンがいくつかついていて、薄れてはいるが〇や△の文字が印刷されていた。まじまじと観察している間に審神者はあやしげな音を立てる液晶を見ながら、もう一つの子機で何やら操作を進めていた。
    「えっとね、競争ゲームみたいなやつ」
    「競争……」
    「十字キーが方向で、丸が走るボタンね。三角でアイテム使える」
    「はあ……?」
    「やってみればわかるよ。キャラクター選んで……適当でいっか。長谷部はこの緑の帽子被ったキャラね。俺赤いやつ」
     あれよあれよという間に準備は終わったらしい。チカチカと光る画面に、車に乗った二頭身のキャラクターが現れる。長谷部が状況を飲み込みきる前に「よーい、ドン!」と画面から甲高い声が聞こえた。
    「えっ?」
    「長谷部、まる!まるボタン押して!」
    「しゅ、主命とあらば」
     慌てて子機を握り直し、〇ボタンを押すと、赤いキャラクターの背中を追うように、緑帽子のキャラクターが乗った車が走り出す。競争、と審神者は言った。うねうねと曲がりくねった道を走り、順位を競うゲームということらしい。落ち着いてみれば操作は簡単だし、シンプルな作りだ。画面上で前を走る審神者の背中を追うだけで良い。こっそりと審神者を横目で見れば、慣れた様子で指を動かしながら、やはり「懐かしい」と呟いている。素直に、面白くない、と思った。長谷部には馴染みのない機械に楽しそうに向き合う審神者や、その中の思い出に自分がいないことを思うと何とも言い難い悔しさがある。それを置いても今は掃除中で、遊んでいる暇はない。ゲームの操作自体は難しいものではなかったので、長谷部はキャラクターを操作する手は休めないまま口を開いた、が。
     とん、と腕に軽い衝撃があった。
    「あ、ごめん」
     長谷部の腕に体ごと軽くぶつかった審神者がちらりと此方を見上げて困ったように笑う。
    「これ、昔も、ん、クセだったんだよね……つい傾い、あ、またカーブ、あ、あっ」
     画面を見たままの審神者が小さく声をあげ、同時に体が傾いて長谷部に寄りそうように密着する。画面の中でも、審神者が操作するキャラクターが急カーブで車ごと傾いていた。長谷部は手元の十字キーを動かしているだけだが、画面の中の緑帽子は同じように傾いて走り抜けていく。しかし、再びカーブに差し掛かると審神者の体は同じように長谷部の方に傾き、その度に肩や腕が触れ合った。微かな重みと体温が預けられる度、長谷部の心臓は跳ねる。
    「……動く、必要は、ない、のでは」
    「だからクセ、なんだ、ってば、あ、ごめん」
    「っ、いえ」
     長谷部の動揺などつゆ知らず、審神者は少し恥ずかしげに笑って体を離した。長谷部も、つい先ほどまで感じていた苛立ちを忘れて、妙にそわそわとした気持ちでゲームに集中することにした。審神者は再び画面に食い入っている。カーブに差し掛かる度、審神者の体が右に左にと揺れ、左に揺れると長谷部の右腕あたりにぴったりと寄りそった。僅かな重みと体温に頬が緩む。ゲームの操作自体は難しいものではなかったし、審神者が傾く方向に十字キーを倒せばいいだけだった。時折、カーブとは反対側にそっと体を傾けると、こちら側に傾いた審神者と肩が軽くぶつかり合う。
    「わ、逆逆!」
    「すみません、難しいですね」
     どきどきしながら謝ると、審神者もおかしそうに声をあげて笑う。そんな戯れを何度か繰り返すと、画面の中で赤いキャラクターが先にゴールを示すラインを超えた。画面の中でもぴったり寄りそう様に走っていた緑帽子のキャラクターも同じように走り抜ける。
    「はー……久々にやると結構楽しいな。長谷部どうだった? 初めてだったよね」
     そう言ってこちらに笑顔を向ける審神者との距離は今までにないくらい近い。軽くぶつかったり寄りそったりを繰り返している内に慣れてしまったのか、カーブがなくなって、競争が終わっても審神者の肩や腕は長谷部の方に預けられたままだ。審神者が懐かしいといって取り出してきた機械には何の思い入れもなかったし、ゲームそのものも単純で、特別面白みのあるものに思えなかった。しかし。
    「……はい、楽しかったです。とても」
     心が弾み、楽しいひと時を過ごせたのは事実だ。答えれば、審神者も嬉しそうに「良かった!」と笑う。
     その後、掃除の進捗具合を見に来た歌仙に見つかり、ふたり揃って叱られたのは当然の流れだったが。

    「また今度ね」
     叱られたあと、審神者が内緒話をするように囁いたので、長谷部にとってはそれでもう、良い思い出になったのだった。


    おわり
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    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり3
    がっつり主清初夜 多分初夜
    主清初夜R18***


    「ん、んぅ、ん……っ!」
     俺がしたのとは違う、唇を合わせるだけじゃなくて、舌がねじこまれて、絡み合って、吸われる、そんな口づけだった。舌先を吸われる度、じゅる、くちゅ、といやらしい音が頭の中に直接響いて、ぼぅっとしてしまう。それだけでもういっぱいいっぱいなのに、主の手が俺の耳朶を撫でて、くにくにと触るものだから、そんなつもりないのに腰が浮いてしまう。
    「っあ、ん……やだ、それ……っ」
    「ふふ、耳よわいんだね」
     口づけの合間に、主が声を立てて笑う。顔が離れたと思ったら、今度は耳に舌がぬるりと這わされて、ぞくぞくした。
    「ひぁ……っ」
     耳の穴に舌を入れられて、舐られる。舌と唾液の音が直接聞こえてきて、舐められていない方の耳も指でいじられるからたまったもんじゃない。ぐちゅぐちゅ聞こえる音が俺の頭の中を搔き乱す。ついさっきまで俺が主を組み敷いていたのに、今はもう完全に逆転していた。暴れそうになる足は主が太股の間に体を押し込んできてもう動かせない。膝頭が足の間に入り込んできて、ぐりぐりと押される。
    3855

    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり2
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    答え合わせ さにみかになるまでと主清のはじまり だってさあ……悩みがあるのか、って聞かれて、実は欲求不満で、とか言えないでしょ、自分の刀に。完全にセクハラだもんな。
    「よっきゅうふまん……?」
     俺の体を跨ぐ形で覆い被さっている清光は、俺の言葉を繰り返して、ぱち、ぱち、と瞬きをした。かわいい。きょとんとしている。
     俺は簡単に説明した。清光に何度も心配されて、まずいな、とは思っていたこと。目を見たら本音を吐きそうで、ふたりきりになるのを避けていたこと。鏡を見れば、自分が思っている以上に陰鬱な顔をしていて、けれど解決策がないまま数ヶ月を過ごしていたこと。審神者になる前は恋人みたいなセフレみたいな存在が常に3~6人はいたんだけど全員にフラれて、まあなんとかなるっしょ、と思ったものの自分が思っていた以上になんともならないくらい、人肌が恋しくなってしまったこと。刀達のことはうっかり口説きそうになるくらい好きなこと。でも臣下に、それもかみさまに手を出すのはさすがにセクハラだし不敬っぽくない? まずくない? と思っていたこと。
    2337

    いなばリチウム

    DOODLE複数の刀に手を出すタイプのクズ審神者の始まり1.5
    さにみか要素がほんの少しある主清です。
    一個前の答え合わせだけど審神者メインで他の本丸の審神者との交流とかなので読み飛ばしてもいいやつです
    答え合わせ 審神者くわしくサイド 一応ね、俺も、俺がちょっとおかしいってことは分かってるんだけどね。おかしい、って分かった上で、今、ここにいる。

     審神者になる前、俺は常に最低3人、多くて6人、恋人ないしセフレがいた。
     昔から、俺はどうにも”重い”らしく、恋人が出来ても大体一ヶ月くらいでフラれるばかりだった。俺は毎日好きって言いたいし毎日キスしたいし毎日くっついていたいし毎日好きな子を抱きたいのに、それがだめらしい。体目当てみたいでいやだ、と言われたので、昼間のデートもみっちりプランを立てて楽しく過ごしてみたものの、大学に通いながらデートしてその上で夜は夜でセックスするの体力やばすぎるむり、って言われてフラれる。メンヘラも俺と付き合うと根負けするレベル、って大学の頃噂されたっけ……。非常に遺憾だった。なんでだ。幸い、縁があってフラれてもまた別の子と付き合えることが多かったけど、そんなことが続いたので遊び人と認定されちゃうし……。
    3828

    recommended works

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ(男審神者×小竜)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    小竜視点で自分の代わりだと言われてずっと考えてくれるのは嬉しいけどやっぱり自分がいい小竜
    「ね、みてこれ! 小竜のが出たんだよー」
    「へーえ……」
    我ながら冷めきった声だった。
    遠征帰りの俺に主が見せてきたのは俺の髪の色と同じ毛皮のうさぎのぬいぐるみだった。マントを羽織って足裏には刀紋まで入ってるから見れば小竜景光をイメージしてるってのはよくわかる。
    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
    「んー、でも出かけてていない時とかこれ見て小竜のこと考えてるんだ」
    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
    「は……初めて小竜からしてくれた!」
    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも
    リクエスト企画でかいたもの
    霊力のあれやそれやで獣化してしまったちょもさんが部屋を抜け出してたのでそれを迎えに行く主
    白銀に包まれて


    共寝したはずの山鳥毛がいない。
    審神者は身体を起こして寝ぼけた頭を掻く。シーツはまだ暖かい。
    いつもなら山鳥毛が先に目を覚まし、なにが面白いのか寝顔を見つめる赤い瞳と目が合うはずなのにそれがない。
    「どこいったんだ……?」
    おはよう小鳥、とたおやかな手で撫でられるような声で心穏やかに目覚めることもなければ、背中の引っ掻き傷を見て口元を大きな手で覆って赤面する山鳥毛を見られないのも味気ない。
    「迎えに行くか」
    寝起きのまま部屋を後にする。向かう先は恋刀の身内の部屋だ。
    「おはよう南泉。山鳥毛はいるな」
    「あ、主……」
    自身の部屋の前で障子を背に正座をしている南泉がいた。寝起きなのか寝癖がついたまま、困惑といった表情で審神者を見上げでいた。
    「今は部屋に通せない、にゃ」
    「主たる俺の命でもか」
    うぐっと言葉を詰まらせる南泉にはぁとため息をついて後頭部を掻く。
    「俺が勝手に入るなら問題ないな」
    「え、あっちょ、主!」
    横をすり抜けてすぱんと障子を開け放つと部屋には白銀の翼が蹲っていた。
    「山鳥毛、迎えにきたぞ」
    「……小鳥」
    のそりと翼から顔を覗かせた山鳥毛は髪型を整えて 2059

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    軽装に騒ぐ主を黙らせる大倶利伽羅

    軽装に騒いだのは私です。
    「これで満足か」
     はあ、とくそでかいため息をつきながらもこちらに軽装を着て見せてくれた大倶利伽羅にぶんぶんと首を縦に振る。
     大倶利伽羅の周りをぐるぐる回りながら上から下まで眺め回す。
    「鬱陶しい」
    「んぎゃ!だからって顔つかむなよ!」
     アイアンクローで動きを止められておとなしく正面に立つ。
     ぐるぐる回ってるときに気づいたが角度によって模様が浮き出たり無くなったりしていてさりげないおしゃれとはこういうものなんだろうか。
     普段出さない足も想像よりごつごつしていて男くささがでている。
     あのほっそい腰はどこに行ったのかと思うほど完璧に着こなしていて拝むしかない。
    「ねえ拝んでいい?」
    「……医者が必要か」
     わりと辛辣なことを言われた。けちーと言いながら少し長めに思える左腕の袖をつかむとそこには柄がなかった。
    「あれ、こっちだけ無地なの?」
    「あぁ、それは」
     大倶利伽羅の左腕が持ち上がって頬に素手が触れる。一歩詰められてゼロ距離になる。肘がさがって、袖が落ちて、するりと竜がのぞいた。
    「ここにいるからな」
     ひえ、と口からもれた。至近距離でさらりと流し目を食らったらそらもう冗談で 738

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    桃を剥いてたべるだけのさにちょも
    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588