全部、腑に落ちた。
主に、最近元気がなかったこと。
戦績は良くなっていってるのに、反比例するように溜息が多かったこと。
どうしたの、悩みでもあんの、俺にできること、ある? って聞いても、困ったように笑って、答えてくれなかったこと。
それが、何日か前から嘘みたいに表情が明るくなって、俺が知らない内に解決したことはなんだかさみしかったけど、よかったなあって、思ってたのに。
昨日の夜、そろそろ寝ようかな、って時間になってから、主に聞きたいことがあったのを思い出した。別に大した内容じゃなかったけど、本丸の仲間が増えて戦力的には安定してきたものの、初期刀のに、主とふたりきりで話す機会は減っていたから、ちょうどいいやとも思ってた。主がもう寝てたら、それはそれで朝起きてからにすればいいんだし、って。部屋を抜け出して廊下に出たら、まさに向かう先の部屋の主が、曲がり角を曲がっていったところだった。あれ? と首をかしげる。主が向かっていたのは、主の部屋とは反対方向だった。良くないと思いながら、俺はそっと後をつけて、見てしまった。三日月宗近の部屋の前で立ち止まった主を。その頬を、襖の隙間からするりと伸ばされた手が撫でたのを。そこは三日月宗近の部屋だし、伸びた手が纏っているのは紺青色の袖だった。廊下の角に隠れていたので声は聞こえなかったけど、主は二言三言口にして、目を細めて笑っていた。くすぐったそうに身を捩り、三日月の両手を絡め取ると、襖の方に顔を寄せる。両手が主の背中に回って、そのまま、主は倒れ込むように部屋の中へ消えていった。
俺は、多分、無意識に自分の部屋に戻ったんだと思う。敷いてあった布団に潜り込んで、ぎゅっと目を瞑って、ああ、そういうことだったんだ、って思ったら、鼻の奥がツンと痛んだ。それから、俺ってなんてばかなんだろうって思った。主に元気がなかったのは、三日月宗近に片思いしていたからで、そんなの、俺にできることなんてあるわけがないのに。それで、知らない内にふたりは両想いになって、あんな風に、夜更けに部屋に行くような関係になって、っていうことは二人は両想いで、それって、うらやましい、って。ずっ、と鼻水を啜って、ばか、ばか、俺のばか、って呻いた。今、主のことが好きだって気付いても遅いのに。二人を祝福したい気持ちより、うらやましい、俺もあんな風に主に触れたい、触れられたい、って思ったって、遅いのに。
でも、でもさ、俺、ずるいから、考えちゃったんだよね。
主は優しいから、お願いしたら、俺のことも、抱いてくれるんじゃないか、って。一度だけ、今夜だけ、ってお願いしたら、聞いてくれるんじゃないかって。今夜だけ、俺のことが好きみたいに、恋人みたいに抱いてもらった、俺はもう、それで満足できるし、ふたりのことも、ちゃんと祝福できるから。
「ねえ、主。おねがい……」
昨日よりもずっと遅い時間、寝室に忍び込むのはどきどきした。すうすうと健康的な寝息をたてている主に覆い被さって、罪悪感に襲われながらも、そっと頬に触れると、それ以上の多幸感があった。頬や鼻先に口付けて、唇にも、と思ったけど、なかなか勇気が出なくて、主の体を跨いだままたじろいでいると、「んぁ……? だれ……?」と寝ぼけまなこの主が声をあげて、体を起こした。
「きよみつ……?」
ふにゃふにゃの声で呼ばれて、俺は泣きそうになりながらここにくるまでのことを話した。最初は半目で頭をぐらぐらさせながらうんうんと頷いていた主は、段々真面目な顔になっていく。あ、もしかしたら、だめかも、と思う。俺のお願いを聞いてくれるかも、って、楽観的すぎたかな。昨日の動揺を引きずったまま、もしかしたら俺は大胆になりすぎたかも、と段々恥ずかしくなってきたけれど、主が、「清光」と今度はしっかりした声で呼んだので、そっと顔をあげる。
「とりあえず、大前提から間違ってるから、そこから答え合わせしていい?」
「……え?」
「それでね、誤解を解いてから、清光のこと、抱きたいんだけど、いい?」
「……え、え?」
昨日と同じかそれ以上に動揺してうまく声が出ない俺に、主は穏やかに笑っていた。
次→答え合わせ
次の次→抱く