懐かしいアップルパイ秋も中頃、街路樹の葉はところどころ色づき始めていた。
風邪をひいたあの日から少しずつ、季節と一緒に何となく空気も少しずつ変わってきた気がした――そんなある日。
放課後、なにげない会話を交わしながら並んで歩く二人。
そんな時、バッキーがふとスマホを見て声を上げる。
「お、見てみろよスティーブ。この前、授業で観た映画――週末にリバイバル上映だってさ」
「ほんとだ…すごい偶然だな」
画面を覗き込んだスティーブが、どこか懐かしそうに笑う。
バッキーは少し冷たい風に軽く肩をすくめて、ポケットに手を突っ込みながら言った。
「あの時、せんせーには真面目に観ろって言われてたけど、正直あんま頭に入ってなかったんだよな。…せっかくだし、観に行くか?」
あくまで自然に、誘いの言葉を差し出す。
それが、どれほどスティーブの胸を跳ねさせたか、バッキーは気づいていない。
「うん、行こう。もう一度じっくり見たかったんだよね。それに君と一緒なら…もっと楽しめそうだし」
できるだけ平静を装ってそう答えながら、スティーブはその瞬間を密かに噛み締めた。
そして、その週末。
映画館に向かう途中、スティーブがふと口を開いた。
「映画の前に、ちょっと寄ってみたい店があるんだ。気になってたカフェでさ、秋限定のアップルパイが人気なんだって」
「へぇ、スイーツ男子かよ」
呆れたように笑いながらも、バッキーはすんなり歩調を合わせる。
そのとき、ふと脳裏をよぎったのは、まだお互い幼かった頃の記憶だった。
スティーブの家で、スティーブの母・サラが焼いてくれたアップルパイ。
焼きたての甘い香りに包まれながら、スティーブが「バッキーの分もちゃんとあるよ」って嬉しそうに皿を差し出してきた、あの午後。
あの頃からずっと――スティーブの優しさは、変わっていないのかもしれない。