再会《高校2年の春、スティーブが突然編入してくる。数年前に家の事情でブルックリンを離れ、遠くの街で静かに暮らしていたが、母の転勤をきっかけに、彼は再び生まれ育ったブルックリンの地に戻る。
転校先は、かつての親友バッキー・バーンズが通う高校だった――》
─── ただいま ───
ニューヨークの空は、少し曇っていた。
でもスティーブ・ロジャースの胸は、確かに晴れ晴れとしていた。
数年ぶりに戻ってきた故郷。
そして、今日から通うことになるマーベルアカデミー。
懐かしい町の通学路を歩きながら、彼は何度も深呼吸をした。
ここには再会するはずの人がいる。ずっと心に残っていた人。
――ジェームズ・ブキャナン・バーンズ。
校門をくぐって、まだ少しだけ頼りない足取りで廊下を歩いていた時のことだった。
前方に、見覚えのある後ろ姿が見えた。
肩幅が広くなっていて、髪が少し伸びていて、それでも背中から感じる雰囲気は、何も変わっていなかった。
「……バッキー!」
思わず声が出た。自然と、足が速まる。
バッキーは足を止めて振り返るが、すぐには気づかない様子で首をかしげた。
「ん? ……アンタ誰だ?」
スティーブは胸の高鳴りを押し込めながら、少し照れたように笑った。
「俺だよ。スティーブ……スティーブ・ロジャース!」
一拍おいて、バッキーの目が一気に見開かれる。
「…え……は!? ちょ、お前……え、まじで!?」
バッキーが歩み寄りながらスティーブの肩を思いっきり叩いてくる。
「なんだよお前、見違えたじゃねーか!! えっ、ガチでスティーブ!? あの、もやしみてぇな野郎だった!?」
「その言い方……ひどくない?」
笑いながらスティーブが言うと、バッキーは頭をぐしゃっとかきながら、「いや、嬉しすぎて頭追いつかねえって……」と顔をほころばせた。
「昔はさ、身体弱くて風邪ばっか引いて体育いつも休んでたくせに……。よく戻ってきたな!」
「でも……絵の授業はちゃんと出てたろ? 君が描いた酷い似顔絵、まだ持ってるよ」
「うわー最悪!! 捨てろよそんなの! 恥ずかしい!!」
赤くなった顔をそむけながらも、バッキーの声はどこか楽しげで、スティーブも笑った。
――ああ、これだ。
このやりとり、この空気、この笑顔。ずっと、戻ってきたかった理由。
スティーブはこの瞬間、強く思った。
「ただいま」って、今なら心から言える。