予想外な寮生活転校初日から、まさかのトラブルだった。
「……え、マジで?部屋使えないの?」
寮の事務所前で、肩を落としたスティーブに、寮母は苦笑いで頷いた。
「初日からほんとごめんなさいね…。今日の午後から天井の水漏れがひどくなってね。工事が終わるまで、しばらく別の部屋に移ってもらうしかないのよー。」
「で、どこに?」
「んー、えーと……そう!バーンズくんの部屋に空きがあるのよ。彼に聞いたら“別にいい”って返事だったわよ」
*
「まじで来んのかよ、お前が」
数分後、バッキーは部屋の前で腕を組んでいた。
口調はぶっきらぼうだけど、スティーブが荷物を持って立っているのを見ると、どこか口元が緩んでいた。
「急でごめん。でも、しばらくの間だけだから」
「まあ、俺んとこ来るってのは、歓迎してやらなくもないけどな」
バッキーの部屋は思ったよりも整理されていて、ベッドは部屋の両サイドにあった。
「お前、いびきとかかく?」
「たぶん……かかないと思うけど……」
「じゃあセーフ。俺、神経細いから」
「嘘だ」
「嘘」
そんなふうにふざけながら、ふたりは夕食を終えて、ベッドに寝転んだ。
明かりを落とした部屋で、天井を見上げながら話すのは、不思議な安心感があった。
「なあスティーブ」
「ん?」
「……なんで戻ってきたんだ?」
ふと落ち着いた声でバッキーが言う。スティーブは少しだけ沈黙して、それから言った。
「家の事情もあったけど……戻りたかったんだ。ここに。……君がいる場所に」
バッキーは少しだけ眉をひそめたが、それ以上は何も言わなかった。
バッキーは寝返りをうちながら
「……ふーーん。まぁ俺も、、再会できてうれしいよ」
その夜、彼らは互いの存在を感じながら、静かに眠りについた。
そして数日後――
スティーブの部屋の修理が長引いたという報告が入り、
仮の同室生活は、予想以上に長く続くことになる。