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    CMYKkentei

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    CMYKkentei

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    綾滝すれ違い。ゆくゆくはちゃんと綾滝になるけど綾→仙ぽい描写あり。文仙と同じ生産ラインで作られているので匂わせがあります。全然途中だから完成出来たらいいなの気持ち。

    #綾滝

    恋とはどんなものかしら「私は失恋したのか」と理解をしたのは、恋をしていたのだと自覚したのと同時だった。その後に池を覗きこんで反射させた自分の顔は、美しく整ったいつものものであるというのに、笑顔がほんの少しだけ滑稽に見えた。

    少し前に時を遡り、考えていた事を話すとするならば、この平滝夜叉丸は恋というものをしらないな、と思い巡らしていた。
    というのも、この圧倒的な美貌、才能をもってしてモテるな、という方が無理な話であると自覚はしているというのに、自身がその感覚を知らない、というのは些か失礼な気がしたからだ。それから、自分が誰が好きかを考えてみた。同級生は好きだ。でもそれは所謂「同じ釜の飯を食った」仲だからとも言えるものだし、慕ってくれる後輩も、導いてくれる先輩も、等しく好ましく思ってはいるが、話に聞く「甘酸っぱい痛み」とは違うと断言出来た。
    そう、「甘酸っぱい痛み」とやらを知りたいのだ。
    恋、に興味を持ち始めてから、成績優秀な忍たまよろしく、まずは図書室に足を運んだ。そこでもあらゆる恋にまつわる本を読み漁り、任務や休日で街に赴けば流行りの恋愛小説なんかを見繕って読みふけった。
    「げっ何それ」
    何故かやたらと装飾が凝った表紙を見て、同室の綾部喜八郎は眉をひそめた。
    「どうやら、ロマンス小説と言うらしいぞ。」
    「…面白いの?」
    「中々興味深いな」
    「おやまぁ」
    きっとこの「おやまぁ」は「そうなんだ」という気のない返事である。4年も月日が経過すれば、この同室の雑な返事の言わんとすることも理解できるようになってきた。目の端で、土に塗れた手が本に伸びるのが見えて、その甲をパシン、と叩いた。
    「汚れるだろう。先に風呂に入ってこい。」
    ぴしゃり、と叱ると、眉間に皺を寄せて口を尖らせ、ありありと表情に不機嫌さを纏わせた喜八郎がこちらを睨みつけていた。しかし、触ろうとした本が図書室のものだと気づいたのか、図書委員会委員長を思い浮かべたらしくおずおずとその手を引っこめながら、じっとこちらを見てきた。
    「おやまぁ、お前の手も汚れたね。」
    表情こそ平坦なままだが、声は楽しそうな音を含んでいた。この悪戯猫じみたそれに、はぁ、とため息を吐いてから、本に栞を挟んで閉じた。
    「私もそろそろ湯浴みでもするか。」
    そう提案すると、喜八郎は大人しく踏子を立てかけてから箪笥に向かった。そのままでは寝巻きの着流しが汚れてしまう、と思った為に、自身の手ぬぐいで派手に汚れている箇所を拭っていると、不意に喜八郎と目が合った。そして少しだけ何かと繋がりそうな感覚があった。
    ふむ、と考えながら風呂に向かっていると、面倒くさそうにため息をついた喜八郎が「何?」と尋ねながらこちらに目だけで視線をよこした。
    「何とは?」
    「何ってこっちが聞いてるんだ。そんなこれ見よがしに考えてるフリをして。」
    「お前!私が何を考えているかわかるというのか!」
    「分からないから聞いてるんでしょう」
    「そうかそうか、私のことが気になるか!」
    「おやまぁ」
    これは、呆れ返っている「おやまぁ」だと、今ならハッキリと分かるけれど、この時ばかりは自分の頭の中の問題の答え合わせに必死で全く気にも止めていなかった。
    さて、その答え合わせとやらが何かというと、ずっと議題に出ている「恋」についてである。
    さっきの目が合ったことも、相手の考えていることが分かったり、分からなかったら知りたいと思ったり、そういう事について、最近良く読んでいるからである。
    そう、それで導き出せる答えは「喜八郎は私に恋をしている。」ということである。
    その瞬間、パッと何かが晴れた気がして、ならばその感覚を知りたいと彼に問いただそう、としたその瞬間である。
    「き…」
    「喜八郎じゃないか」
    爽やかで、凛とした声だ。自身のハッキリとした声も無論大好きだが、それも耳馴染みがよく、そして滝夜叉丸も誰か直ぐにわかるほどその人に良く似合った声をしている。
    そして、こちらを見ていた目が戻って、顔ごと喜八郎は後ろへ向けた。
    「立花先輩。」
    そう、立花仙蔵。名は体を表すとはよく言ったもので水仙のように真っ直ぐ伸びた背と髪を持つ人だ。そして、呼びかけようと喜八郎へやった視線は彼を追って、その彼は自身の先輩へと駆け寄って行った。
    「お前も今からか?」
    と、問いかける声が聞こえた。はい、と澄まして答えているが、私が促さないと腰を上げ無かったくせに、なんて思ってしまう。さっきまで晴れやかだった気持ちに、まるで暗雲が立ち込めるようだった。沢山勉強をしたから、きっと間違ってないだろうと、思っているのに。
    「私は!用事を、思い出したので…」
    切り出した声が思ったより大きく出てしまって、自分でも驚いた。それに驚いたらしい仙蔵と喜八郎の表情はよく似ていた。そういえば、好意を抱くと似てくるとも、どれかの本に書いていたような、書いていなかったような気もする。
    つかつかと足を早めて、その場を離れても呼び止める声はなかった。離れてから振り返ると、喜八郎はそのまま背を向けて風呂に向かっていくようだった。
    「滝夜叉丸?」
    「潮江先輩?」
    どうしたんだこんな所で、と尋ねた彼の手には桶が抱えられていた。この方はこのまま風呂に向かうのか、と思い至りながらも、何となく自身はそこに戻る気にはなれなかった。
    「あ、えっと、もう少し鍛錬をしようかと」
    アハハ、と笑ってはぐらかそうとすると、彼は怪訝そうな顔をしながら「それを持ってか?」と尋ねた。言葉に詰まっていると、その様子を見ていた彼は、ふむ、と呟いてから「ついてこい」とだけ告げた。
    「ここなら今は誰もいない。何かあるなら話してみろ。」
    「いやぁ……」
    困ったな、と思いながらも、真っ直ぐに見つめてくるその人を、邪険にはできず、相談する相手を間違えているとは重々承知で、滝夜叉丸はおもむろに切り出した。
    「恋、について潮江先輩はご存知でしょうか」
    「知ってる」
    「いや、意味などという話ではなく、その感情だったり、当事者として知っているかという話でして。」
    「だから、知ってると言ってるだろう。」
    その返事に思わずしばらく固まってから、「えぇ!?」と驚きの声を上げると、頭の上に彼の拳骨が落ちてきた。
    「失礼だな」
    「だってぇ……」
    まさか、堅物で、ギンギンに忍者しているその人に限って、そんな浮ついたことは無縁だろうと思っていたというのに、スーパースターである自身よりもそれを知っているというのはあまりにも信じられなかった。けれど、彼はため息をついてから「真剣に聞いているだろう」と、続きを促していた。
    「本などで調べてみたのですが、色々な情報があり、更に明確に知りたいのでお話を聞きたいと思った次第なのですが……」
    自分で切り出しておきながら、委員会などの直属の先輩でも無い相手と話すのもおかしな内容であり、僅かに目が泳いだ。しかし、相手は真面目に考えてから、ポツリ、と話し出した。
    「似てきた、と言われたことがあったな。互いに、振る舞いや言動が相手に近しくなってしまっているのだと。」
    自覚はないのだが、というその言葉に、少しだけ背中がひやりとするのを感じた。それを、さっき、思った気がする。その言葉に、滝夜叉丸の表情が濁ったのを知ってか知らずか、その人は話を続けた。
    「あとは、やたらと気にかけたり、その人を無意識に目で追っていたりするだろうか。」
    それならば、まだ、あの可能性も無くなっていない、と思った。なぜなら、喜八郎はよく自身を見ているからだ。
    「そうですか、とても参考になりました。」
    そう返すと、まだ納得のいっていない表情を浮かべた潮江は、ガシガシと頭を掻いてから、「風呂に入るか」と提案した。それに頷いて、風呂場に戻る頃には、仙蔵も喜八郎も、とうにそこにはいなかった。

    「遅かったじゃないか」
    部屋へ戻ると、とっくに布団を敷いていた喜八郎がそういった。ああ、と返事をしてから、滝夜叉丸は緊張した面持ちで、彼の側へと居住まいを正した。その違和感に気づいた喜八郎は、「何?」と眉間に皺を寄せている。
    「確認したいことがあるのだが」
    「何?」
    「お前は、私のことが好きなのか?」
    「…はぁ?」
    じっと目を見て問い詰めると、喜八郎は心底理解できないという表情を浮かべながら端的に返事をした。その居心地の悪さに、思わず怯みそうになるが、負けてはならない、とさらにまくし立てた。
    「だってお前はいつも私をみてるだろう?良く目が合うし。」
    「お前が見てるから合うんだよ。」
    「あと私が何を考えてるか気になるんだろう?」
    「お前が話したがってるんだよ。」
    「あとは、あとは私のそばによく居るじゃないか。」
    「同室だし、じゃなきゃ勝手にお前が世話を焼いていたりするからだろうね。」
    だって、とはもう続かなかった。ことごとく自分の仮説が喜八郎によって論破されていく中で、気付いたことがひとつあった。
    喜八郎を見ているのは私で、考えてることを知って欲しいのも私で、世話を焼くのも私だった。
    それから、導き出された答えは、あまり受け入れたくないものだったが、優秀な脳みそはいやでもその間違いを訂正し、正そうとしていた。
    「喜八郎が滝夜叉丸を好きなのではなく、この滝夜叉丸が喜八郎を慕っている。」
    そうか、と腑に落ちた。そして自分の心が晴れたり、曇ったりすることも合点がいった。
    そして、それから、「私は失恋したのか」と理解をした。
    喜八郎を思って、見ていたからこそ、喜八郎が誰を見つめて、誰を気にかけて、誰と似てきたのかを、悟ってしまっていたから。
    恋とは、 「甘酸っぱい痛み」とは、自身が想像していたものよりずっと、泣きたくなるぐらい痛かった。
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