石乙散文 乙骨が石流と一緒に寝泊まりしている寮は、他の学生寮とは少し離れた場所にある。受肉体である石流の監視を兼ねていることが理由の1つであるが、おかげで建物の中の設備はあまり整備されておらず、食事も風呂も他の学生が使う寮に向かわなければならなかった。
しかし、乙骨はともかく石流に学生寮の出入りを自由にさせるわけにも行かず、水回りだけは多少整備されていて、シャワー室と簡単な料理が作れる給仕室は使えるようになっていた。
乙骨が任務から戻れば、部屋には石流の姿がなかったので、シャワー室を経由して給仕室を覗けば、石流が鼻歌交じりに、コンロの火に掛けた鍋をかき混ぜていた。部屋に香る匂いに、乙骨がすんと鼻を鳴らした。
「カレーですか?」
「おう、乙骨、戻ったのかよ」
「はい」
乙骨は給仕室に入り、石流のいるコンロの前に近づいていく。
「オマエのダチが来て野菜をいろいろ置いてったんだよ」
「あ~~で、この間、カレー作ったときの残りのルーを使ったってことですね」
「そーゆーことだ」
よく見ると、カレーでは定番である野菜の他にもナスやキュウリまで入っていて「うわー」と口にした。
「ナスはともかくキュウリまで入れたんですか?」
「カレーなんだから何入れても平気だろ」
「うーーーん……まぁ、カレーだから、いいか…?」
でも味とかどうなんだろうと思えば、石流が小皿にカレーを少し取り「味見するか?」と聞いてきた。
確かに味が気になるなら味見するのが1番だと思って、乙骨が「はい」と言えば。
石流は小皿に掬ったカレーを自分の口に含み──それから、乙骨に屈み込んで、その口を乙骨のそれに押し付けた。
「ん、ぅ……」
乙骨が口を開けば、どろっとしたカレーが口内に入ってくる。口移しでそれを、受け取りながら味の確認をした。
唇を離した後、石流が「どうだよ?」と聞いてくるので、乙骨は口元に手を当てて、チラリと石流を見た。
「……よく分からなかったので、石流さんの口に残ってるのもください」
「へいへい」
石流はそう言うと、乙骨に屈み込みながら、パチンとコンロの火を消した。