芸能パロ石乙 仕事から帰ってきて、ひとっ風呂浴びて、風呂上がりのビールでも飲むかぁってリビングに入ってすぐ。
ソファでテレビを見ていた乙骨に抱きつかれて、何事かと思った。
「……ゆう?」
「龍さんが……死んじゃった」
そしてそんなことを言い出すものだから、なに言ってんだと思って付けたままのテレビに視線を向ければ、ドラマのエンドロールが流れていて、しかもそのドラマは石流が出演していたものだった。
乙骨と共演した刑事ドラマを切欠に、石流は時代劇以外のドラマにも出演するようになった。ただ、件の刑事ドラマでヤクザ役で話題になったこともあり、どうしてもそういう裏社会の人間、という役になりがちだった。
そして今、エンドロールが流れているドラマもチンピラ役として出演していたのだが、そうか、このドラマってこの時間に放送してたのか、なんて今更ながらに気付いた。
更にそこからドラマを見ていた乙骨が急に抱きついて来たのも、「龍さんが死んじゃった」などと言ってきた理由も何となく察しが付いた。
石流の役は、最終回手前で死ぬのだが、どうやらその回が放送されたのが今夜だったというわけで。
石流は小さく息を吐くと、自分に抱きついたままの乙骨に「おい」と声を掛けた。
「龍さんが死んじゃった……」
「いや、俺は死んでねぇよ」
「非道い……確かに死にそうなキャラだと思ったけど、ここまで生きていたから大丈夫だと思ったのに…」
「そんなもんだろ」
「クランクアップしたって言っていたから最終回まで生き残ると思ったのになぁ……」
つらそうに苦しそうにそういう乙骨に呆れつつも少し申し訳なくなってくる。
「俺は今までも死ぬ役は何度もやってたが?」
「……今まで平気だったんですけど、付き合ってから毎週追って見たドラマは今回が初めてだったんで……」
なるほどなぁと思う反面、そういうもんか…?という疑問符も浮かんできた。何はともかく、自分は大丈夫だと伝えるために、再び「ゆう」と声を掛けた。
「顔をあげろ、ちゃんと俺の顔を見ろ、しっかり生きてんだろ?」
そう言えば、乙骨がゆっくりと顔をあげた。もっとふざけている顔をしているかと思ったら、今にも泣きそうな顔をしていたので、本気でショックを受けていたのだと今更気付いた。
(ああもう)
役の自分に対してまで、こんななってしまう彼の今後が心配になるが、自分と同じ姿の役が死んだだけでこんなショックを受けてくれたのは、変な話かもしれないが少し嬉しくもあり。
でもだからこそ、そんな心配はねぇからなって意図を籠めて、その身体を抱き締めた。
「ん……」
そのまま、唇も塞ぐ。
こちらの体温を感じさせるように身体を密着させて、風呂上がりの熱い舌で、彼の口内を撫で回した。
「……ちゃんと俺は生きてるだろ?」
「ん、はい……」
唇を離せば、その顔にはほんのりと赤みが戻っていたのでホッとした。
「…ったく、俺の役が死んだぐれぇで、こんななるなよ…」
思わずそう口にすれば、乙骨はおずおずと「それもそうなんですけど…」と言ってきて。
「その、死に際の龍さんの演技が…」
「うん?」
「血の滴る感じとか表情とか、えっちすぎて、こんなの全国放送して大丈夫かなって……」
ぼそぼそと乙骨が言ってきた内容に、石流は顔をポカンとさせたあと、なんだそりゃ、と息を吐き、それから。
「……そんな目線で俺を見てんのは、オマエぐらいだから安心しろよ…」
そう言って、乙骨の頭をポンと撫でた。