一緒に年越しする(予定)話 年の瀬も近づいてきたところで、乙骨に年末年始の予定を聞いてみたら、乙骨も大晦日まで仕事らしい。
「え、龍さんも大晦日仕事があるんですか?」
「ああ、年始の番組の撮影でな」
「……年始の番組のために大晦日まで仕事するって元も子もないですよね…」
ははは、と苦笑しながらそういう乙骨に、オマエも似たようなもんだろ、と思う。
「じゃあ、正月に実家に帰省とかはしねぇのか?」
「そうですね。一日は休みなんですが、二日から仕事なので…あ、もちろん1月半ばにまとまった休みはもらえるんですけど!」
乙骨がわたわたとそう言ってきて、石流は「フーン」と思った。
「だったら年越しはうちに来ねぇか?」
「え?」
「一緒に正月すごさねぇかって言ってんだよ」
そうハッキリと言ってやれば、乙骨はキョトンとした目を向けてきた後、頬をほんのりと赤く染めて「は、はい…!」と返事をしてきた。
その反応がかわいくて「じゃあ大晦日の仕事が終わったらうちに来いよ」と言って乙骨の頭を撫でた。
そんな約束をして大晦日を迎えたのだが──夜になっても乙骨は家に来ないし、何の連絡も来なかった。
(仕事は夕方には終わるって言ってたんだがな…大方飲みにでも誘われたんだろうが…)
それだったら一言連絡を寄越してもよいだろうと思うのだが、思わずスマホを見ながらムスッとしてしまう。
すると不意にピコンと通知音がして1つのメッセージを受信した。一瞬乙骨かと思ったら、相手は元共演者の家入で、なんだよと思ってその内容を見て目を見開いた。
『もしかして、今日乙骨くんと何か約束してたりする?ココにいるらしいから必要なら引き取ってあげなよ』
ご丁寧に目的地の地図が載ったリンクまで貼られていて、なんで乙骨と約束してんのバレてんだ、とか、それをどうしてオマエが連絡して来るんだ、とか、突っ込みどころが満載なのだけれど。
ああくそと思いながら、石流はジャケットを持って家を飛び出した。
石流が向かった先は歓楽街の飲み屋で、仮にも芸能人がこんなところに来るなよ、と呆れつつ目的の店に向かえば、1人の青年に声を掛けられた。
「えっと、石流龍さんですよね?」
「そうだけど…あんたは、確か…」
「伏黒恵です。家入さん経由であなたに連絡入れてもらったのは俺です」
伏黒はそう言ってから「こっちです」と言って店の中に入っていき、石流もそれに続いた。
その店は完全個室のようで廊下は壁で仕切られていた。そして伏黒が入っていった部屋に石流も入れば、その先のソファーで乙骨が眠りこけていた。
「うわー…」
「乙骨さん、全然起きないし、いつまでもここにいられないし、どうしようかと思って、何となく家入さんに愚痴ったらあなたに連絡してみるって言われて」
「あ~~なるほど、だからあいつから連絡来たのか…」
家入から連絡が来た事情を察して呆れてそう言えば、伏黒がチラリと石流を見てきた。
「その……乙骨さんのこと、任せても問題ないですか?」
少し戸惑い気味にそう聞いてくる伏黒に、石流は眉を捻る。
「…念のための確認だが、ここで俺が関係ねぇって言ったら、オマエはどうするんだ?」
「え~~~……とりあえず、俺んちに連れて行くしかないかなって、思ってました……」
家族にも確認しなきゃとは思ってますけど、とは言いつつ、とりあえず、乙骨を放置するつもりはなかったようならそれでいいかと思った。
石流はひとつ息を吐くと、乙骨に近づき、その身体を抱え上げた。
「あ……」
「安心しろ、こいつのことは俺が預かる。元々仕事終わったら俺んちに来るってことになってたからな」
「……そうなんですか」
伏黒が瞬きをしながらそう言ってきて、石流が「ああ」と頷けば。
「……あの、」
「あ?」
「石流さんは、乙骨さんと、そういう関係なんですか?」
そう問われて、でもぼかした聞き方をされたので、こっちも曖昧に返してやれと思って「さぁな」と返す。
「でもこいつのことを大事に思っているのは本当だから、気にせず任せろよ」
そう言って乙骨を抱えたまま部屋を出ようとすれば、乙骨がむにゃむにゃと寝言で、「…りゅうしゃぁん…」と囁いた。そのことに「ん?」と反応するが、乙骨は顔を赤くさせたまますぅすぅと寝息を立てている。ほんっとこいつに酒飲ませるのはダメだなと思いつつ、溜め息をひとつ吐けば。
「すみません、俺、ひとつウソ吐きました」
伏黒がおもむろにそう口を開いてきて、石流が伏黒の方を見る。
「あん?」
「家入さんに愚痴ったんじゃなくて、乙骨さんがあなたの名前を呼んでいたから、あなたに連絡した方がいいかなって思って、家入さんに相談して連絡取ってもらったんです」
石流を真っ直ぐと見つめてそういう伏黒に、石流はパチクリと瞬きをしながら、頭では伏黒に試されていたのだということに気付いた。
それに苦笑して、石流は「そうかよ」と言う。
「乙骨ってわりと厄介なファンが多いよな~」
「いい人なんで仕方ないです。それにこの人、お人好しでぽやぽやしてて危なっかしいんですよね」
「それは同感」
「そのくせ演技ではバッチリ決めるからギャップがヤバいです。尊敬します」
「そういうのは本人が起きてる時に直接言ってやれよ」
笑いながらそう言って、石流は店を出ると、適当にタクシーを拾って乙骨を押し込み自分も乗り込んだ。
「石流さん」
そんな石流に、伏黒が声を掛けてきた。
「乙骨さんのことよろしくお願いします。それと、よいお年を」
俺への挨拶はついでかよと苦笑しながら「こっちこそありがとな、よいお年を」と返して石流は運転手に目的地を告げて、タクシーは走り出した。
タクシーに乗っている間も、乙骨は石流の腕に抱きついたまま、すよすよと眠っていた。
石流の自宅があるマンションに着き、乙骨を引き摺りながら部屋に向かった。途中で乙骨が目を覚まし、石流に向かって唇を突き出してきたのを適当にあしらい、そそくさと部屋に向かった。
玄関の鍵を開けて、先に乙骨を部屋に押し込んでから部屋に入り鍵を掛けた。
「…りゅうしゃん…?」
赤い顔をした乙骨は首を傾げながらそんな風に呼んでくる。石流は深く息を吐き出しながら、乙骨の肩を抱いて、部屋の奥に入っていった。
とりあえず水でも飲ませるかと思って乙骨をリビングのソファに座らせた。キッチンの水道から水を汲んできて、乙骨の元に戻れば、再び微睡み舟を漕いでいた。
「…乙骨、水飲めるか?」
「んー…?」
「……ダメそうだな…」
その状態に呆れつつ、石流は乙骨の隣に座ると、自分の口に水を含んでから乙骨に屈み込み、その口を塞いだ。
「ん……」
口移しで乙骨の口内へ水を流し込めば、乙骨の喉がこくんと波打ち飲み込んでいく。それを確認して唇を離せば、飲みきれなかった水が、口元から滴り落ちて、あーあと慌ててそれも唇で舐め取った。
「ん、ふぁ…」
その口付けを受ける乙骨はとろんとした目でされるがままだ。そのことに石流は眉を寄せつつ、ひとつ息を吐いた。
「……なぁ、オマエは酒が入ると、誰にでもこんな感じなのかよ?」
「ふ、へ…?」
首を傾げてくる乙骨に目を細めて、その肩を押せば、そのまま乙骨の身体はごろんとソファの上に倒れ込み、後を追うように覆い被さった。
口付けながら、着ているシャツのボタンを外していけば、身動ぎはするが抵抗はしてこない。
「ん、ぅ…」
むしろ誘うような声を漏らすので、煽られると同時に心が冷えてくる。だが。
「んぅ、りゅうしゃぁん……」
ぎゅっと抱きついて来ながらそう呼んでくる乙骨に、目を見開き、それから「あ~~~~~」と声を漏らした。
(……正直、誰に対しても無防備なのか?以前に、酔ったら俺の名前を連呼するのを何とかするべきな気がしてくるな…)
そう考えたら、変な嫉妬心も一気に冷めてしまって、深く長く息を吐きながら、石流は身体を起こした。
「ん、……りゅうしゃん…もっと、キス……」
「……うるさい…オマエは少し酔いを覚ませよ」
とりあえず、乙骨に頭から毛布を被せてやる。するとしばらくしたらまた寝息が聞こえてきて、それにホッとしたようなドッと疲れたような。
「…とりあえず、年越しソバでも食うかな…」
本当はふたりでたべたかったのだが、まぁ乙骨が起きたらまた食べてもいいし、明日は一日一緒にいられるのだからその時に精算するでもいいかなと思いながら、石流は重い腰をあげた。