なぁ、運命のキスって信じる?「今度の飲み会やっぱ行くわ」
「あれ?オレらとつるみすぎて彼女に怒られたって言ってなかったっけ?」
オレとケンチンは、世間一般にいう腐れ縁ってヤツなんだと思う。学校卒業して、職場まで一緒。周りからオマエらデキてんのかなんて茶化されるのにも、もう慣れた。だけどその実、ケンチンは来るもの拒まずでめちゃくちゃな数の元カノがいる。
「もう振られた」
「ぶはっ、ダセェ」
短かったな、なんて笑いながら。たった数週間だけケンチンのオンナの座に居座ったヤツらを、オレは羨ましくて妬ましくて、一人残らず覚えていたりする。
オレはガキの頃からずっと、この男だけが好きなのだ。
「彼女以外と会わずに生活するなんて無理に決まってんだろ」
「わかってねぇなぁ、ケンチンは」
ダチには義理堅いとか人情味があると言われるケンチン。恋愛に興味がねぇのか、育った環境で周りの大人が良い恋愛をしていなかったのか。恋心をまるで理解できていない。
歴代のケンチンの元カノたちは、ケンチンにとって特別な人間になれてないのがわかってるから、そばにいて欲しいって言ったんだろう。
オレはどうだろう。ケンチンにとって、特別な人間であることは間違いねぇ。だけどケンチンに初めて彼女が出来た時。オレは男ってだけで、どれだけ特別でも一生恋愛対象にはなれないことを悟った。
どっちが幸せかなんて、考えるまでもない。オレは一生この恋心を隠し通して、ケンチンにとっての特別な人間の座に居座ることに決めた。今となってはケンチンに彼女が出来ても笑っておめでとうと言える。痛む心臓に気付かない振りをして、笑顔を浮かべることにも慣れたもんだ。
「わかってねぇのなんて、マイキーもだろ」
「なんでだよ」
なにせケンチンは恋心というものをまるで理解していない。オレがケンチンを好きだなんて、考えたこともないに決まってる。そんな風に、油断してたのかもしれない。
「マイキーだって恋人全然作んねぇじゃん」
「オレはずっと片想いなだけで、好きなヤツはいるもーんだ」
バレるわけねぇから。嘘つくことでもねぇから。そんな軽い気持ちだった。
「は?」
ケンチンが、見たこともない顔をした。オレは無敵のままチームを解散させたわけだけど、不良時代もしオレがケンカに負けたらケンチンはこんな顔したかもしれない。それくらい、信じられないものを見たって顔だ。
「誰?」
「……内緒」
てへって笑って誤魔化そうとしたけど、もう遅い。
「オレが知ってるヤツ?」
「うーん、まぁ、そう」
「え、いつから?学校卒業する前?」
「うーん、まぁ、そう」
「誰だよ!?」
「内緒!」
めちゃくちゃ質問責めにされて、逃げるように帰ってきた。オレは負けてねぇ、戦略的撤退ってヤツだ。
まさかケンチンがオレの好きなヤツ探し始めるなんて、思わねぇじゃん!
そんな蝉の鳴き声がうるせぇ夏真っ盛りのある日から、ケンチンのオレの好きな人探しが始まった。
「ケンチンがずっとオレの好きなヤツ探ってくる!」
好きなヤツから話題にされる好きなヤツの話、一言で言うと地獄である。そのうち飽きるかと思いきや、隙あらば聞かれる。うっかりバレねぇように気を張るのにも疲れて、オレは三ツ谷を呼び出して泣きついた。
「え、ドラケンってマイキーがドラケン好きって知らねぇの?」
「なんで三ツ谷が知ってんだよ!?」
言っておくけど、オレはこの秘密の恋心を誰にも明かしたことはない。言ったら心地のいい関係が変わってしまう気がして、苦しくてもずっと自分の中にしまってたのだ。
「見てたらわかるよ」
「嘘!?」
しまえてなかったってこと?漏れ出てたの?秘密の恋してると思ってた思春期のオレ恥ずかしすぎねぇ?
「みんな知ってると思うけど」
「みんなって誰だよ!」
こういう時のみんなっていうのは、大抵誇張されてんだよ。焦ってはいけない。と思ったのに、三ツ谷が東卍創設六人のグループラインに爆弾発言を投下した。
『ドラケン、マイキーの好きなヤツ知らねぇんだって』
「のわー!?」
こんな時にケンチンのいるグループでこんなこと言うヤツいる?いねぇよなぁ!?いたんだけど。混乱するあまり心の中で三段活用叫んじまった。
そうこうしてるうちに早速ラインに反応がきた。
『え、オレらに言ってねぇだけで付き合ってんのかと思ってた』
これは場地。恋愛に興味なさそうなコイツにもバレてんの?
『オレバカだけど、さすがにわかってたぞ』
これはパー。バカなパーにも分かるほどオレわかりやすかった?
『月九ドラマ七話目くらいの両片思いかと思ってた』
これは一虎。
「え、一虎?なにこの超絶わかりにくい例え」
「今好きな女優が月九に出てんだって」
『え、知らねぇのオレだけってこと?』
これはケンチン。めちゃくちゃ当事者なオレだけど、文字からもしょんぼりしてるのが伝わってきてケンチン可哀想なんて思ってしまった。
「いや、知られたくねぇんだけど!?」
「こういう時は、飲んで騒いで誤魔化すしかないんじゃねぇ?」
そうして東卍創設六人定例飲み会の開催が決定した。いや、コイツら飲みたいだけだろ。
「なんでみんな知ってんの」
「見てたらわかるし」
飲み会当日、乾杯した途端むっすりしたケンチンがやけ酒を始めた。
「長い付き合いだしな。テレパシー的な?」
「は?オレ受信してねぇんだけど」
まぁな。世の中にはタイムリープできるヤツもいるらしいから、テレパシーできるヤツもいるかも。いや、いるか?場地が酒に夢中で適当に言い過ぎなんだけど。
「マイキー、オレにもテレパシー送ってみて」
「しょうがねぇなぁ。いくぞ!」
オレもちょっと酒が入ってたもんで、目をぎゅっと瞑ってケンチン大好き!と念じてやった。そんでそっと目を開けると、悔しそうな顔したケンチンがいる。
「……受信しねぇな」
「バカか!テレパシーなんてねぇよ!」
ノリで大好きとか考えちまっただろ恥ずかしい!さてはケンチン酔ってんじゃねぇかな。
「ドラケンが分かってねぇのはマイキーのことじゃねぇ!恋愛のことだ!」
ここで突然一虎が立ち上がった。コイツも多分酔ってる。
「目と目が合ってキュンとときめくとか、デート誘うのに心臓バクバクするとか、好きって言うのに声が上擦っちゃうとか!そういうの経験ねぇの!?」
「ねぇな。自分から誘わねぇし。好きじゃなくてもいいから付き合ってって告られんだけど、好きになってくれないって振られんだよ」
「それでモテるとかクソが!」
月九を毎週視聴してる一虎には許せねぇ思想だったらしい。
「よし、オレらでドラケンに教えてやろうぜ!ときめきってヤツを!」
オレの片想い誤魔化してくれる話どこいった?ときめきを教えてどうすんだよ。
そこからまた六人の予定が合った日、一番広いパーの家に集まった。一虎主催の『ドラケンに胸キュンを体験させようの会』である。
「借りてきた。DVD旧作五枚で千円」
「え、場地が選んだの?コレを?」
各自役割分担して持ち寄ったものを見せ合って、場地が似合わないモン出してきたのをみんなでジロジロ眺める。ちょっと前に泣けるだとかときめくだとか流行ってた恋愛映画だ。
「いや、千冬チョイス」
「千冬にオレらが見るって知られてるってこと?場地一人で見るって言えよ」
「絶対ねぇだろ」
千冬、成人済み野郎六人で恋愛映画鑑賞会するって聞いてどう思ったかな。オレらの先輩としての威厳、大丈夫か?
「オレは映画鑑賞会って聞いたからコレにした」
「おぉ、さすが三ツ谷!」
三ツ谷がフライパンで作るポップコーンキットを取り出すと、途端にみんなのテンションが上がりだす。
「オレ持ち物なしって聞いてたんだけど」
「ドラケンはときめく心だけあればいいんだよ」
「あるかな……」
一虎の無茶振りがすごすぎる。ケンチンめちゃくちゃ戸惑った顔してんじゃねぇか。
「オレは酒持ってきた!」
やっぱり一虎、飲み会したかっただけだろ。六人で集まんの大好きなんだから。
「マイキーおやつ係だろ。何持ってきた?」
「たい焼き」
「マイキーしか喜ばねぇヤツじゃん!」
みんなにブーイングくらったからブーイング返しといた。オレだって片想いしてるケンチンが恋愛に興味持つかもしんねぇ会なんて嫌なんだからな!?それでも六人で集まんの大好きだから、意地でも欠席しねぇけど。オレ以外の五人で遊ぶとかぜってぇ許さねぇし。
「オレは晩飯用に肉買っといた!後で焼肉しようぜ」
「肉!?」
「ケンチンがときめいた顔してる」
「まだときめきポイントじゃねぇけど!?」
パーに高そうな肉見せられて、ケンチンが嬉しそうに頬を赤らめた。なにその顔、好き!でもオレのたい焼きにはそんな顔しなかったくせに、ちょっと悔しい。
そんなオレよりケンチンにときめきを教えたい一虎の方がよっぽど悔しいようで、早々に恋愛映画鑑賞会を始めることになった。
まずは一作目。
「なんでこんなヤツのこと好きになんの?」
オレ様で第一印象最悪な男の優しい一面を知って好きになる主人公に、ケンチンは最初から優しいヤツの方がいいんじゃねぇかと悩んでる。
次に二作目。
「このライバルのヤツぶん殴った方がよくねぇか?」
主人公を好きだからって、主人公の好きな男には忘れられねぇ元カノがいるだとか嘘をつく当て馬のヤツにケンチンの苛立ちがマックスである。
そんで三作目。
「ときめくどころじゃねぇわ」
主人公が病気で死んだ。以上。
「あと二本も見んの?」
場地が借りてきたのは五作なんだけど、まぁ飽きたよな。
「ケンチンにときめきの才能はなかったってことでよくねぇ?たい焼き食おうぜ!」
「ときめきの才能ってなんだよ」
彼女できんのはしょうがねぇけど、オレとしてはこのまま誰のことも好きにならないで欲しい。
「こんなヤツに惚れる女の子が可哀想だろ!失恋確定じゃん」
「可哀想って言われてもなぁ。なんで好かれてんのかもわかんねぇし」
一虎に責められるケンチンは、女が可哀想だと言われて居心地悪そうだ。なんだかんだ優しいんだよな。
対してケンチンの人生で大した思い入れも持たれなかった数いる元カノたちにザマァ見ろなんて思ってるオレは、我ながら酷いヤツだけどどうしようもない。
結局大した成果も残さず、この日は酒飲んでポップコーン食べて解散した。たい焼き?全部オレが食べたけど?
基本その場のノリで生きてるオレたちなので、ケンチンにときめきを教えようブームはすぐに終わった。それでもなんでか、ケンチンはそれから誰とも付き合っていない。
二人して仕事が休みの今日、オレの部屋にきて人のベッドでダラダラと雑誌を読んでいる。
「なーにいじけてんだよ」
明日はオレの誕生日だったりするので、どうせいつもの六人で集まって飲む予定なのだ。それなのにわざわざ前日に人のベッドに転がりにくるとは、襲われてぇのか?なんて本人には絶対聞けないことを思ってみる。
「オレ、マイキーのこと自分が一番わかってるつもりになってたけど、アイツらの方がわかってんだなってこの前ちょっとショックだった」
こんなこと、面白くなさそうな顔で言われてみ?これで脈アリじゃないってなんなの?
「来るもの拒まずで彼女切らさなかったケンチンが、恋愛に興味持ったってこと?」
次は本気で好きになった女と付き合うとか言われたら、暴れる自信あるけど。
「マイキーが好きなヤツのこと、好きになったのってなんで?」
「んー」
オレのベッドでうだうだゴロゴロしてるケンチンが、ベッドに腰掛けてるオレを上目に見つめる。背の高いケンチンの、こんな顔を見たことあるヤツはいんのかな。何年も一緒にいんのにさ、オレはドキドキして隣に寝転ぶ勇気もないんだよ。
「オレってほら、カリスマ総長だったじゃん?」
「うん」
半分冗談だったのに、当たり前のように頷かれてちょっと笑う。いっつも真っ直ぐ見てくんだもんなぁ。それに見合うヤツでありたいって、苦しいことがある度踏ん張れた。
「みんなの前に立つの嫌と思ったことはねぇけど。ソイツにはね、隣にいて欲しいなって思ったから」
一人で踏ん張って立つオレに、寄り添おうとしてくれた。隣にいてくれてよかったって、出会ってから今まで、何回思っただろう。
「マイキーなら、誰とだって両思いになれんだろ」
「報われたいっていうよりはさぁ、好きになってごめんって思ってたんだよ」
それが恋愛じゃなくてもオレのこと大事に想ってくれてたのに、ケンチンに彼女ができる度自分が対象外だって思い知って。こんな邪な感情抱えてんの、裏切ってるみたいで嫌だったのに、今までずっと捨てられずにいた。
オレを見上げてたケンチンがくしゃりと顔を歪めて、オレの腹に腕を回した。
「……マイキーのこと、誰にもやりたくねぇ」
なんかさぁ、ずっとずっと、誰にも知られたらいけないと思ってたのに。最近アイツらが見てたら好きなの分かるなんて当たり前みたいに囃し立てるし、ケンチンはこんな独占欲見せてくるし。なんだかもう、たまらなくなってしまった。
「え」
「あ」
引力にでも引っ張られるように、気付けばケンチンにキスをしていた。そっと顔を離すと、驚きのあまり呆然としているケンチンが目に入る。ここにきてようやく、我に返った。
「ほわぁ!?」
雄叫びあげながら後ろに飛び退いて、パニックになったオレはなぜかケンチンを置いて部屋を飛び出した。
いや、ケンチン置いてきてどうする。
オレの部屋にいたのに、財布も携帯も鍵さえも持たずに飛び出してきた。どうすることもできず、街を一周歩いた後すごすごと部屋に帰る。
「なんでまだいんの」
「オマエが鍵も持たずに飛び出してったからだよ」
ケンチン帰っててくんねぇかなぁと思ったけど、普通にベッドに座ってた。居心地わりぃ。
「マイキーの好きなヤツって、オレ?」
「ゔ……そう」
「なんで嫌そうなんだよ」
だってこんな風にバラすつもりなんてなかったんだよ。むしろなんでケンチンは平然としてんだ。
「……じゃあさ、付き合ってみる?」
「は?ねぇわ」
どうしよう、ケンチンがおかしくなった。即座に否定したら、むすっと口をへの字に曲げる。
「オレ振られてんの?」
喧嘩越しのケンチンに、ついオレもカチンときてしまった。さっき不意打ちで唇を奪っておいて、華麗なる逆ギレである。
「キスなんてケンチンには数あるうちの一回かもしんねぇけど!なんてことねぇすぐに忘れることかもしんねぇけど!オレにとっては人生最初で最後のキスになるんだぞ!」
別に、ファーストキスを大事に取っておいたわけではない。ただ機会がなかっただけだ。
なのにケンチンと唇を合わせた瞬間、コレだって思ってしまった。パズルのピースがピタッとはまる瞬間みたいに、初めてなのにくっついてるのが当たり前みたいな。ずっと欲しかったものはコレだったんだって、わかってしまった。きっともう他の誰とも、しようなんて思えねぇ。
「……一生忘れてやんねぇ」
ケンチンの数いる元カノみてぇに、通り過ぎたら思い出すこともないような有象無象にはなりたくない。一生隣で、恋焦がれてその横顔を見ていたかった。そんな願いを、自分の手で壊してしまった。涙が溢れないように歯を食いしばって俯くオレの腕を、ケンチンがそっと引く。
「は」
ちょっと待て、なんでこんな近くにケンチンの顔が……。
「どう?」
「どどどどどどうって」
オレが何も言えずにいると、もう一回唇に柔らかいモノが触れた。一回どころか、ちゅっちゅって音を立てて何度も唇に吸い付かれる。
「勝手に最後になんかすんなよ」
「な、なにごと」
もはやパニックである。これってまさかのもしかして、キスだったりする?
「確かにオレは、今までキスとかセックスに特別思い入れなんてなかったけど。さっきマイキーにキスされて、コレだって思った」
「ほぇ」
なんかそれって、オレと全く同じこと思ったってことになるんじゃねぇの?ケンチンの長い指につぅっと唇をなぞられ、ドギマギしながら口を開く。
「もしかしてオレたち、ここにきてテレパシー成功したんじゃねぇの?キスした瞬間、一緒のこと考えたんなら……」
オレの言葉に、ケンチンがふはって嬉しそうに笑う。
「マイキーとなら、一生キスしてたい」
そうしてベッドに体を引き倒されたオレに、言葉通り数え切れないくらいのキスが降ってきた。
「ん……けんちん……はっ……」
唇だけじゃなくて目尻や頬や耳元にまでキスされながら、服の中にケンチンの手が潜り込んでくる。コイツ、さすが手慣れてやがる。
あまりにスムーズに流れていくもんでされるがままになってたんだけど、突然ぴたりとケンチンの動きが止まった。
「……なぁ、男同士ってどうヤんの?」
眉尻を下げて、本当に困ったって顔してるからムード台無し。いや、オレらにムードなんていらねぇけど。
「ぶはっ、カッコつかねぇ」
「しょうがねぇだろ、男相手なんて初めてだし」
笑うオレに、気まずそうに目を逸らすケンチン。いつものオレらで安心する。
「オレにも、ケンチンの初めてもらえるんだ」
思わず呟いたオレに、ケンチンがのし掛かってぎゅうと抱き締められる。
「重い!」
「鍛えてるからな」
ケンチンも笑いながら、オレの隣にごろりと転がった。
「オレたち今日から恋人ってこと?」
「さっきオレ振られたけど?」
オレに口答えするくせに、ケンチンはちゃっかり携帯で男同士のヤり方を調べ始める。その携帯の画面を覗き込めば、いつの間にか日付が変わっている。
「ケンチン!オレの誕生日だ!」
「おめでとう」
がばりと体を起こしたオレは、そのままケンチンの体を跨いでベッドから飛び降りた。
「バイクで走りに行こう!」
「はぁ?今から?」
だって、だってさ。誕生日に、ケンチンが隣にいるんだよ。居ても立っても居られない。
ドアを開けて外に出ると、見慣れた道。だけど隣にケンチンがいるだけで、夜道を照らす街灯さえも輝いて見える。
「どこ行くんだよ」
慌てて追いかけてきたケンチンを振り返れば、オレを見下ろす瞳がキラキラして見えた。ケンチンの瞳の中に、オレがいる。
「どこでも!」
そっからケンチンを後ろに乗せて、思いつくままにバイクを走らせた。
夜アイツらに会って、ケンチンとキスしたと伝えたらなんて言うかな。また当たり前だとでも言うみたいに、驚きもせず騒ぐのかな。
せっかくだから、目の前で誓いのキスでもかましてやろうか。
その後立ち寄ったガソスタで、人がいないのをいいことに手なんか繋いでみたりして。
「誕生日だから、デートする?」
好きなヤツにこんなこと言われて、数時間で人生何回目か分からなくなったキスをしようとしたんだけど、お互いのヘルメットがぶつかって終わった。ムード台無し!
でももう、全然人生最後のキスな気がしねぇから許してやることにした。
「やっぱりオレらが恋人ってさ、ありかもしんない」
「知ってる」
そのわかってるとでも言いたげな甘い笑顔に、何度だってキスがしたい。