愛の王国 龍宮寺堅は、自分の人生をそれなりに順風満帆だと自負していた。
中学時代はそこそこ悪いこともしていたが、卒業後はやりたかったバイク屋を開くため真面目に働き、今では小さいながらも店を営んでいる。友人にも恵まれ、仕事終わりや休日には酒を飲み交わして近況を語り合う。
ただずっと、ある時を境に龍宮寺の人生は『それなり』なものでしかなくなった。心のどこかに穴が空いたような、いつもどこか『足りない』という感覚。
原因はわかっている。それがどうにもならないことも。だからこそ龍宮寺は、じっと笑って忘れる努力をして生きてきた。
十年以上も前の記憶が、今も尚龍宮寺の日常を蝕んでいるのかといえばそんなことはない。好きなバイクに触れる時、客の嬉しそうな顔を見た時、気心の知れた友人と会う時。それなりの幸せを感じる瞬間は多い。
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