ささやかな失恋円が一番大切な人を自覚するとほぼ同時にささやかな失恋をしたのは、桃吾と久々に数日間ずっと一緒にいた中一のゴールデンウィーク最終日、夕焼けの練習の帰り道だった。
「限定フレーバー出とる」
「プリンうまそうじゃのー」
「アカン、フルーツにするつもりやったのにプリンは気になる……」
邪魔にならないようアイスキャンデーを売る店頭のカウンターから少し離れたところで、期間限定フレーバーのプリンにするかもともと食べようと思っていた果肉がたっぷり入ったフルーツにするか、桃吾は真剣に悩んでいた。中学生の懐事情では、一人で二本食べる選択肢はない。去年一昨年の限定フレーバーには見向きもしなかった桃吾が今年は本気で迷っていて、プリン味が気になるということはよくわかった。
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