毎日SS8/20「ねーモリヒト、ちょっとガチャ引いて」
リビングでコーヒーを飲んでいたら、ようやく部屋から出てきたケイゴが隣に座った。
挨拶も何もなく、図々しくも勝手にコーヒーに口を付けたことも気になったが、たまに甘えてくるのは可愛いから良いだろう。
「なんだガチャって」
「今イベント限定のピックアップやってるんだけど、全然引ける気がしなくて」
「お前この間も大爆死だなんだ言ってただろ」
「あっ、あれは諦めたの!今回のが重要だから!」
オレはスマホゲームはやらないから、ケイゴが何をしたいのかわからない。テレビCMで見る、毎日ガチャ無料!とかそういうのと何が違うのかも知らない。
「今日ニコいないんだもんなぁ……」
ガチャについて、ケイゴはよくニコに頼んでいる。ニコがガチャを回すと高レア?な何かが良く出るらしい。そんなことに魔法を使うなよ、と釘を刺したこともあるが、魔法ではなく、単純にニコの引きが強いだけらしい。
「ニコが帰ってきたら頼めばいいじゃないか」
「これ今日の昼までなんだよ」
あと五分。ニコはカンシと出掛けたばかりだ。ガチャなんて確率の問題なのだから、誰が引いても同じだろう。神頼み……魔女頼みはやめた方が良い。
「ラスト十連分の石貯めたからさぁ」
それで部屋から出てこなかったのか。ケイゴは他の誰より自室に籠る時間が長いが、スマホのゲームで朝から顔を見せなかったのは頂けない。
「これさ、ここ」
横向きにしたスマホをオレに向かって見せる。肩と肩をぴったりとくっつかせながら、ケイゴのスマホに手を添えた。
「これか?」
「そう、ここタップして……」
ケイゴの指が画面の真ん中をさす。言われるがまま、スマホをタップして、スワイプした。
画面が変わり、色々なイラストが出てくる。こい、頼む、と小さな声で呟くのがおかしくて、スマホの中よりケイゴを見ていた。
「あーっ!」
「出たのか?」
「出なかった……」
しゅん、と肩を落とす。オレが半分スマホを持っていなかったら、スマホごと下に落ちていそうだ。
ケイゴの言った通りにスマホを操作しただけなのに、こんなに落ち込まれてはオレが悪いことをしたような気持ちになってしまう。
「その石はもうないのか?」
「課金しないとない」
「課金はするな」
「わかってるよぉ……」
ゲームに課金し過ぎたせいで生活費の納入が遅れた時があるからな。ケイゴが遅れたのはその時だけだが、課金禁止を申し渡して以来律儀に守っているらしい。
「まぁ、今回は縁がなかったと思って諦めるんだな」
「そうする……」
スマホを置き、ソファに寄りかかり天を仰ぐケイゴは気の毒だが、馬鹿そうで可愛い。
「そういえばケイゴ、お前朝食は?」
朝食というより、既に昼食の時間だ。オレは朝からほぼずっとリビングに居たから、ケイゴが飯を食べてないのはわかっている。
「なんかある?」
休みだからって昼まで寝ていた奴に食べさせるご飯はありません、そう言った時もあっただろう。
「今から昼飯を作ろうと思っていたところだ」
「オレの分は?」
「……仕方ないな」
本当は、そろそろ起きてくるだろうケイゴに合わせて、昼食の準備も出来ている。
「コーヒー飲むか?」
「今はいらない」
いつの間にか空にされたマグカップを持ち、立ち上がった。落ち込む時間は終えたのか、スマホを横にして何かを操作している。
「じゃあ少し待ってろ」
「うん」
ソファに足を乗せたケイゴの膝を叩き、足が下ろされたのを確認してキッチンに向かった。
ゲームの何が楽しいのかはわからないが、スマホをいじっているケイゴの横顔が可愛いことは、わかっている。