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    小ネタ置き場 麿水ちゃんしかない

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    ・誉桜と麿水ちゃんの話
    ・両片想い→両想いになった直後くらいの親友たち(pixivに置いてある話と地続きです)

    #麿水
    maruWater

    「……終わったな。これで、この時代はもう大丈夫だろう」
    「うん、そうだね」

    任務で訪れた何処かの時代の果てで、今日も首尾よく遡行軍の群れを斬り捨てた水心子の背に武功の証である桜の花弁が舞った。
    夜の帳に翻る見慣れたその薄紅色の幻影は、今宵もいつも通りに清麿の目を奪っていく。敵を斬り伏せて生じた血と骨の残骸を背景に舞い散る桜の花は戦場において明らかに異質なものではあったけれど、それを纏う水心子の姿はそれでもなおその硬質な美しさを失わずにいる。
    何度となく見ているはずの戦場で桜吹雪を背負うその姿に、幾度出陣を繰り返しても同じように毎回視線を奪われる。そうして、この桜を見るたびに自分がこの親友に恋をしていると自覚させられるのだ。

    清麿が恋に落ちたと自覚したのはもうだいぶ前の話になるから、これが何度目になるのかはもう数えていない。底まで落ちてもまだ落ちられるのかと思わなくもないが、たとえここが奈落の底だとしてもそこから見える景色は存外悪いものではないから、それはそれで良いと思っている。
    そんなことを言えば水心子は怒るだろうし、こんなところまで一緒に堕ちてほしいとは思わないから口にはしないけれど――様々な経緯を通して互いの恋心を認めた今となっては、目に映るいつも通りの景色ですらも、どこか色を変えたような気がしている。

    「どうしたんだ清麿、何か問題でも――」

    急に動きを止めた清麿を心配して、水心子が駆け寄ってくる。
    なんでもないよと、そう言って普段通りに意識を切り替えるつもりでいた。だけど、何故だか今夜は気分が高揚しているのか、理性の螺子が何本か外れているのか――理由は分からなかったけれど、普段は隠している獰猛な方の意識が少しばかり顔を出す。

    舞い散る桜を掻き分けて、もう一歩。親友が相手だからと完全に油断しきっている水心子の側に近寄り、そのまま予告なしにその唇を奪った。

    自分はもう少し理性的だったはずだけれど、随分と衝動に任せた行いをしたものだと完全に余所事のように己の行動を振り返る。これは怒られるだろうなと思ったが、やってしまったものは仕方ないかと開き直って親友からの沙汰を待とうとその瞳と改めて向き合うが、水心子の様子が何かおかしい。

    「……………………」
    「……水心子?」

    別に、口付けを交わすのは初めてのことではない。なんなら、もっと凄いことも色々としているはずだ。だというのに、水心子は完全に硬直して信じられないとでも言いたげな顔をしていた。
    先程までの凛々しい顔は一瞬で崩れて、日頃表に出したがらない方の顔を思いっきり晒していても、固まっている今の水心子にはそのことに構う余裕もないようだった。

    「…………あの、大丈夫?」
    「だ、……大丈夫だ」

    ああ、これは大丈夫じゃない方の声だ。なんとか返事はしたけれど、多分頭の中でまた色々と考えていて清麿の犯した不届きな行為を叱りつけるところにも未だ至れていないのだろう。水心子の行動パターンについてはそれなりに予測できるという自信があったのだが、最近はこうして目新しい反応が増えているので想定外の発見が多い。

    「駄目そうだね……」
    「………………」

    黙り込んだまま視線だけで抗議しているらしい水心子は「ここを何処だと思っているんだ」とか、多分そんな感じのことが言いたいんだろうなとは思うが、まだ言葉にはならないようだ。――だが、一呼吸置いた後に戦闘の余韻でささやかに降っていた誉の桜が唐突に質量を増して周囲に吹き荒れたことで、水心子の中で渦巻く感情が悪いものではないということが勝手に証明されてしまった。正直、ここまで物凄い反応が来るとは思っていなかったので仕掛けた側の清麿までその感情に引きずられてしまいそうになる。今の自分に同じ現象が起きていたら、間違いなく大嵐になっただろうなと思うくらいに。

    「わあ……」
    「………………そこで喜ばないでくれ」

    綺麗だねと吹き荒ぶ花弁に手を伸ばす清麿に、水心子が頭を抱えながら小声で呟く。これだけで喜んでいることは分かるんだなと、心の内を見事に言い当てられた清麿としてはその時点でまた嬉しくなるのだが、これ以上言うと後で拗ねられそうなので「善処するね」と言うだけに止めた。
    水心子はこういうとき割と思い切りが良い方だと認識していたから堂々と開き直るくらいのことはするかと思っていたのだが、今回はその例には当てはまらないようで、そのことにも少し驚いた。
    これもまた関係性が変わったことによる効果の一つなのだろうか。そう冷静に分析しようとする自分も確かに存在しているのだが、それよりも珍しい反応の方に心が乱されているようなので、そこで自分が浮かれていることをようやく自覚した。

    清麿が「ごめんね」と今度は下心なしに水心子の頬に触れると、外方を向きながらも別に怒ってはいないと返される。これでも怒らないのかあ……とまたしても水心子の意外な返しに感じ入るところはあったのだが、それは顔に出さないようなんとか耐えた。

    「………………でも、後で覚えてて」
    「うん、楽しみにしているね」
    「するな」

    ようやく少しは立ち直ったらしい水心子から眦を釣り上げて抗議の視線を向けられるが、その顔は微かに紅く染まっているのであまり勢いがない。反射的にしっかり覚えておくねと素直に笑顔で返せばさらに据わった目で睨まれた。
    目つきが鋭くなればなるほど可愛げが増してしまうのは恐らく本意ではないのだろうが、その剣呑な視線を向けられたはずの清麿には水心子の意図しているだろう効果は全くない。ごめんね、と思う気持ちは一応あるのだが――まあ、そのあたりは惚れた欲目だから許されたい。恋とは人ならざる者をも狂わせると、この身で学んでいる真っ最中だ。
    水心子はささやかな脅しがまるで効いていないことに唇を尖らせているようだが、あの言い方で自分がこう返すということは分かっているだろうに、律儀なものだ。

    (綺麗だな、本当に)

    静寂に花が舞うこの景色も、花を纏った水心子の面差しも、その素直な心も。何もかもが、清麿にとってはこれ以上なく美しいものとして鮮明に映る。ただそれだけであるのなら、この綺麗なものを己の中に巣食う怪物めいた恋心で汚すことを許しはしなかっただろう。けれど、清麿を恋に落としたのはそれすらも捻じ伏せて全部寄越せと求めてくる、同じくらい欲も愛も深い相手なのだと今はもう知っているから、恐れることは無くなった。
    その代わりに少しばかり自制心を緩めたら、こうして未だ知らない顔を見せてくれるようになったのだから、自分の気持ちに素直になるのも悪くないものなのだなと水心子に教えられたことがまた増えた。
    そんなことを言えば不本意だと返されるかもしれないが、清麿にとって水心子から与えられるものは全てが大切なものだから、これも大事に覚えておこうと思う。

    「……何を笑っているんだ」
    「好きだなあと思って」

    何が、とは言わなくてもこの言葉に乗せた想いの色くらい水心子には簡単に伝わるだろう。清麿が素直な気持ちを口にすれば、水心子がそれを無碍にすることはない。それを知っているから、今日もまた感じたことを素直に声にして紡ぐ。水心子もよく知っている事実を告げただけであっても、きっとそれを言葉にすることに意味がある。

    「……それは、知っている」

    照れ隠しでそっけなく返したつもりなのだろうが、清麿もまた水心子が短い言葉に込めた感情を読み取るのは得意なので、これは肯定的な返事だと勝手に受け取っておく。勝手ではあるが、間違ってはいないはずだ。

    未だ吹き荒れている桜吹雪が一層勢いを増す様子に、その想いの一端を垣間見た気がして――清麿は、またひとつ心が満たされるのを感じた。

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