Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    春巻@はわい

    @wrappedharumaki

    @wrappedharumakiの書き散らし置き場です

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    春巻@はわい

    ☆quiet follow

    気づいちゃいました、な小話。
    盛り上がりもえろもないけど、そしてあんまり一緒に居ないけど(最近こういうの多いな)マクダノです。

    #マクダノ
    mcdano.
    #まくだの
    justInFrontOf

    無自覚と自覚 それはいつも通りの週末のはずだった。蓋をしていた『それ』に気づいてしまうまでは。

    「なあ、夕メシどうする?」
     金曜日の夕方、もうすぐ定時という頃合い──この特別捜査班にも定時という概念はあるのだ──に、ダニーはメインテーブルの向こうで武器庫に施錠しているスティーヴへ声をかけた。
     いつもならスティーヴは子どもたちの当番ではない日のダニーを当然のような顔をして自分の行きたい店へ連れ出すのに、その日のスティーヴは何も言ってこなかった。
     軍の予備役のミーティングだとか、恋人がいる時にはその約束だとか、何か予定がある時にはあらかじめスティーヴの方からダニーに報告があるものだ。
     ダニーは「別にあいつの予定をいちいちおれに知らせろなんて言ってねぇのによぉ」と言うものの、それと引き換えに言外にダニーのスケジュールも全て教えろと圧をかけるスティーヴに大人しく従っていた。
     スティーヴとダニー二人とも恋人のいないここ最近、ダニーのもとに子ども達がいないときは──居るときにもしばしば──二人は仕事終わりの時間を共に過ごしていたのだった。だから、この金曜日の夜も当然二人で何かを食べ、ソファに並んで座って何かの番組を観て、下らない言い合いをするものだとダニーは当然思っていた。
     だが、スティーヴはダニーの問いかけに言いにくそうに答えた。
    「あー、すまない、今日は予定があるんだ……」
    「へ?そうだっけ。あ、おれ、聞いてたのに忘れてたか」
     視線を宙に浮かせ、聞き落としていたらしい相棒のスケジュールを思い出そうとするダニーに、スティーヴは口ごもりつつ訂正する。
    「いや、あー……お前に言いそびれてたかも……知事からの頼まれごとがあってな」
     機密事項以外は全て話してくる相棒が言い淀むのを見て、ダニーはすぐにあることに思い至った。
    「あれか、航空会社のお偉いさんの姪っ子!」
    「お前、なんでそれを……?」
     驚きを隠せずにスティーヴはダニーを見遣る。知事から、とある女性と会ってほしいと懇願の形をとった命令を受けていたことをスティーヴはダニーに何故か言えずにいたのだ。
     ファイブオーは知事直轄の捜査班であり、基本的には責任者であるスティーヴ単独で知事とやりとりをする。だがHPDとの橋渡し役や副責任者として、ダニーも知事から連絡がくることがあるのだ。知事からの直々の電話での会話のついでにダニーはそのことを耳にしていたのだった。
    「なんだよ、お見合いなら早く帰れよ。そんなポロシャツとカーゴパンツじゃ相手に失礼だろ」
     ダニーに野良犬を追い払うように手を振られ、スティーヴは何か言いたげな表情のまま本部を出ていった。
     エントランスのガラスドアが閉まった後、二人のやりとりを無言で見ていた若手のうちの片方、ジュニアがようやく声を発した。
    「あ、ダ、ダニー!もし良ければ俺たちと一緒にメシ行きますか?これからダウンタウンに新しくできたベトナム料理屋に行くんです!」
     その隣に立つもう片方の若手であるタニも頷いている。だが、誰が見ても「良い雰囲気」の二人の若者の間に入って邪魔をするなど、ダニーには到底できないし、若者に気を遣われるくらい今の自分は寂しそうに見えるのかと心外だった。
    「バカ言え。週末のディナーに上司がいちゃあ楽しめないだろ。二人で行けよ。それに、おれもたまには子供もあいつも無しでゆっくりしたいからよ」

     ダニーは一人、残業を済ませてからマノアの端にあるカフェバーの前にカマロを停めた。
     自宅からそう遠くないこの店はチャーリーの友達の叔母が営んでおり、親同士の集まりで使って以来、何度か来ているのだ。
    「ハーイ、ダニー。久し振り」
    「よお、イライザ。相変わらず流行ってるな」
     店内はほぼ満席で、僅かに空いているカウンターの一席にダニーは陣取る。
    「そうでもないの。金曜の夜だからこうだけど、平日はそこそこ。不景気よ」
    「それでもちゃんと客は入ってるだろ。イェルプでも評価高いもんな」
     まずは一杯、とクラフトビールをオーダーし、ダニーは乾いた喉を潤す。近所の小さいブリュワリーから仕入れているペールエールは、夕方から彼の胸に巣食う靄を払うような爽やかさだ。
     ダニーはひと息つき、落ち着いた心持ちでスティーヴにテキストを一通送った。
    「あら、うちの店のページを見てくれたの?気にかけてくれてありがとう」
    「そりゃ知り合いには成功してて欲しいだろ。シュリンプトラックのオーナーは会うたびに『良い口コミを書いてくれよ』ってうるさいぞ」
     ソーセージの盛り合わせをテーブルに供したイライザは「知ってる。カマコナでしょ」と笑った。
     オアフ島の牧場で作られたソーセージは、ディルの風味が効いて贔屓目なしでも美味しく、ダニーはこの店にくるたびに注文するのだ。
    「口コミも良いけど、お友達を連れてきてもらって直接紹介してくれた方がありがたいな。貴方いつも一人でくるじゃない……あ、一回だけあったわ。あの軍人さん」
     先程送ったテキストの返信がないかと何度もモバイルを確認している相手である相棒が急に話題にのぼり、ダニーの身体が小さく反応する。
    「ああ、スティーヴ・マクギャレット少佐な。奴は今絶賛お見合い中なのよ」
    「へえ!あの人、ハンサムだけど怖い顔してたのにね。お見合いなんて大丈夫なの?」
     イライザが目を見開いて驚いたのを、ダニーは怪訝な顔で見遣る。
    「怖い顔?あいつは仕事ではハチャメチャだけも女の人相手にはムカつくほど優しくイケメン振り撒いてるぞ」
    「そうだっけ?ダニーに話しかけるとなんだか睨んできた記憶しかないわね」
     ふーん?とダニーは釈然としない表情でモバイルのテキストアプリをタップする。
    「まぁそんな奴だからさ、ちゃんとやれてるか心配でテキスト送ってんだけど返事がないんだよな」
    「もうどこかにしけ込んでるんじゃないの?」
     そう笑うイライザの言葉にダニーの肩はまた跳ねる。
    「そ、それはないだろ。そこまで手は早くないはずだ」
    「あら、だって女性相手だと優しいイケメンなんでしょ?もうディナーは流石に終わってる時間じゃない。二軒目で良い雰囲気になってるか、お互い好みのタイプで家に誘ってるかじゃないの?」
    「いーや、自己中ゴリラなのが早々にバレてフラれたから返事してこないのかもしれないし」
     頑なに否定するダニーに、イライザは眉を上げる。
    「そんなにムキになって、そのスティーヴを取られたくないみたいね」
    「へ?なんでそうなるんだよ」
    「だってそうじゃない。相棒に恋人ができるんならもっと嬉しそうにしてもいいのに」
     他の客に呼ばれて行ってしまうイライザに慌ててビールをもう一杯頼み、ダニーはグラスに残った液体を呷る。ぬるくて苦い液体は、もうさっきのようにダニーの心の中の曇りを晴らしてはくれなかった。
     ダニーの眼の前のスキレットに乗ったソーセージは、冷めながらもゆっくりと四分の一本ずつ減っていったが、その度に彼のオーダーするグラスは空いていき、徐々に濃いものになっていった。
    「ちょっとダニー、飲みすぎじゃない?」
    「いーや、大丈夫だ。ここのところ仕事が詰まってたからさぁ、久し振りに飲みたい気分ってだけよ」
     しばらくしてイライザがダニーの前に戻ってきたときには、ダニーは両肘をカウンターに突き、うつらうつらとしていた。
     ようやく空になったソーセージのプレートを押しやり、ダニーはクレジットカードをイライザに渡す。
    「でも確かにそろそろ帰るわ。ごっそさん」
    「ちょっと待ってて、ダニー。ねえ、あなたそんなんで帰れるの?」
     少しふらつきながらスツールから降り、カウンターに寄り掛かるダニーを心配そうにイライザは見遣る。
    「だいじょぶ、だいじょうぶ。……まぁでもおれのカマロはガレージに置かせてもらおうかな」
     流石に一晩車を路上に停めておくのも怖いからな、とダニーは言う。
    「ああ、どうぞ……でも、それなら貴方も泊っていけば?ガレージの裏は私の仮眠室にしてあるの。店は一時半には閉めるつもりだから、それまで勝手に使ってて」
     イライザは意味深な笑みをダニーに向け、カードを返す指でダニーの手のひらをなぞった。それの意味するところが分からないではないダニーだが、クレジットカードを胸ポケットにねじ込むと、緩く微笑んでカウンターから身体を起こした。
    「ん-、ありがと。でも今日は帰るよ。飲みすぎたわ」
     店を出たダニーは慎重にカマロをガレージに駐車した。その一角にあるドアの向こうの部屋に入ってみても、曇った気持ちは消せないのはわかりきっていた。

     ダニーはぬるい空気の中をゆっくりと歩く。さっきまで重く頭に溜まっていた眠気はようやく少し抜けたようだ。ダニーの中に、バーの中で執拗に浮かんできていた思考が再び持ち上がる。
     ──スティーヴは今何をしているんだろうか。今日会ったという相手とうまくいったのだろうか。どんな顔をして女を口説くんだろうか。
     捜査中やHPDで時折見せる、紳士的な態度や親切そうな笑顔を思い浮かべる。それは次第に、いつもスティーヴが自分に向ける眼差しに変わる。あんな顔を他の誰かに見せるのか。その顔で誰かに「愛してる」だなんて言うのだろうか。
     イライザに言われたことは図星で、スティーヴを誰かに取られたくないと心の底では思っていることにダニーは気がついてしまった。それを持て余し、何度も溜息をつくダニーの眼に鈍い光が映る。自宅近くの小さなリカーショップの灯りだった。
     ダニーは鉄のフレームのついたドアを開け、店内に入る。食事らしいものはソーセージだけしか食べず、炭酸の入ったアルコールで満たされていた腹は、真夜中の散歩で多少の隙間ができた。
     ロコ御用達のチップスの小袋とビッグウェーブの缶を半ダース抱え、カウンターで支払う。店主に身分証を見せると、「ほどほどにしときなよ、刑事さん」と皮肉っぽく言われ、「あんたもな」とキャッシャーの裏に置かれたバドワイザーを指さした。
     自宅に到着し、カフェテーブルにビールのパックを置きながら一本抜き出して呷る。シャツとスラックスを脱いで洗濯機に放り込み、顔を雑に洗ってソファへ戻ってくる間に缶は空になった。
     仕事終わりに一緒に家で飲むときはスティーヴ宅で過ごすことが多いとはいえ、突然押しかけてきたりチャーリーのリクエストだったりして、スティーヴがダニーの家へくることも多い。
     自分の家なのに、スティーヴの痕跡がそこここに残るこの空間で、彼のことを考えないのは無理だった。
     ダニーはダメ押しのアルコールで早々に夢の中に逃避することに決めたりもしかしたら明日の朝にはこの思いがすべて気のせいになっているかもしれないと期待もしていた。買ってきたチップスが、スティーヴのお気に入りの銘柄であることには気がつかなかった。

    「──おい、ダニー!おい、起きろ!ダニー、ダニー!」
     肩を強くゆすぶられ、ダニーは眉間に皺を寄せて薄目を開ける。目の前には、さっきまでの煩悶の相手が眉を下げて自分を見下ろしていた。
    「んー……?スティーヴ?え?あれ?ここ、おれん家だよな?」
    「おい、何してたんだよ。お前からテキスト送ってきてたのに、俺が返信送っても返事寄越さなかったろ」
     上半身を起こし、ダニーはソファに座り直す。その横にスティーヴが腰を下ろした勢いで、ダニーの身体は傾いた。
    「……へ?テキスト?」
     体勢を立て直したダニーが自分のモバイルを確認すると、電源が切れていた。いつでも出動の可能性がある特殊捜査班のメンバーとしては失態であり、素直にそれを謝罪するとスティーヴはダニーの方を向いて言った。
    「そんなのはいいんだよ!仕事なら俺が迎えに来るんだから。それより、お前の身に何かあったのかと思ったじゃないか!」
    「いや、ただバーで飲んでただけだ……。倉庫を改装した店だから電波が悪くて、電池を消耗したんだろ」
    「マノアの店だろ?」
     よくわかったな、と言おうとしたダニーの眼の前に、スティーヴが車のキーを掲げた。
    「お前と連絡が取れないから、カマロのGPSを確認したんだ。そうしたらあの店の場所だった」
     わざわざ本部まで行きGPSでカマロの居所を確認したスティーヴは、イライザの店へ向かった。だが既に閉店した後で、スティーヴはイライザの仮眠室の入り口を見つけたのだと言う。
    「えっ……お前、この時間に人んちに突撃したのか?」
    「お前がいると思ったから……。ちゃんとノックはしたぞ。店主が出てきた」
     ダニーが腕時計を確認すると、三時を少し過ぎたところだった。店からここまでは車で十分もかからない。
     一時半に店を閉めるといっていたイライザがようやく部屋で一息ついた頃だっただろう。そこに突然の訪問客で、彼女がどれほど驚いたか想像に難くない。
    「お前、おれがそこにいたらどうするつもりだったんだよ」
    「ん?連れて帰るつもりだったぞ?」
     夜中に男女が同じ部屋にいてすることのヴァリエーションはそう多くはない。実際、今夜は明らかにイライザに誘われていたのだ。
     その可能性を考えていなかったのか、コトの真っ最中でも全裸の自分を引き摺り出して連れ帰るつもりだったのか、いずれにせよ目の前の男は自分たち二人が共にいることを疑いもしない様子だった。
    「でも、ダニーは部屋には来てない。帰ったわ、って言われて、部屋の中を覗いても本当にいなさそうだったからカマロで帰ってきた」
     シルバラードは近くのパーキングに停めてきた、と言ってカマロのスペアキーをカフェテーブルに置くスティーヴの顔をダニーはまじまじと見る。
    「お前さ、なんでそこまでするわけ?朝になってからおれに連絡すりゃいいじゃねぇか」
    「……だって、お前……今日俺とメシ行きたかったんだろ?だから一緒に飲み直そうと思ったんだよ」
     何を当然な、といった顔で答えるスティーヴにダニーは脱力する。
     この横暴で自信満々な相棒への想いに気付いて、いじらしくも煩悶していた自分が馬鹿らしくなってきたのだった。
     いつかまた、きっと近いうちにその想いに苦しむときが来るのだろう。だけど、今はとにかくスティーヴの横にいることを楽しもうとダニーは腹を括った。すっかりぬるくなったビールの残りの二本のうちの片方をスティーヴに渡す。
    「仕方ねぇなあ、二次会だ。……っていうか、お見合いはどうだったんだ?」
    「おお、大変だったんだよ!それがさぁ……」

     今日もいつも通りの週末だ。……ダニーの心の蓋が開いてしまったのを除けば。


    おしまい


    ※どうでもいい設定
    スティーヴのお見合いは、本土の航空会社の専務が元海軍のアヴァエイターで、ハワイへの出張に姪っ子(30代バツイチ)を連れてきて、伝説のシールズに会ってあわよくば姪っ子の婿にしたいと思いついたのに振り回された、みたいな感じでした。
    姪っ子本人は明るくてさっぱりした性格でパートナーもいる。上記全てをスティーヴにぶっちゃけててスティーヴには「ごめんなさいねー、叔父さんのお金で美味しいもの食べてね!」て感じだったんだけど、滞在先のヒルトンまで姪っ子ちゃんを送って行ったら叔父さんに捕まって延々と海軍あるある話や思い出話に付き合わされてしまったかわいそうなスティーヴだったのでした。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💞💞💞💞💞💘💘💘💘💘💖❤💖💖💖💖👏👏👏👍👍💞💞💞💞💞💗💕☺☺💕
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works

    わかめごはん

    DONEお題「お前に言ってなかったことがある」
    中の人のイメージから、勝手に歌が上手なダニーさんのお話。
    金曜の夜、二人の酔いも深まったマクギャレット邸で、なんとなく見ていた退屈なアクション映画は、エンドテロップが流れるばかりになっていた。カウチに沈んだダニーは、自分の隣に陣取るスティーヴを見る。その腕はカウチの背もたれの上に伸ばされていて、ダニーの肩には落ちてきていない。
    「なぁ」
    「ん? そろそろ寝るか? 泊まるだろ」
    カウチに寝るダニーのためにブランケットを取ろうと、立ち上がったスティーヴの手をダニーが掴んだ。
    「ギター」
    「なに?」
    「俺がやったギター。持ってこいよ。演奏会しよう」
    「え……今から?」
    「あぁ。嫌とは言わせないぞ、俺がやったんだからな。弾いてるか? あれ」
    「あ、いや……うん。実は、たまに」
    「一人で?」
    「だって、聞かせるやつもいないし」
    「ここにいるだろ。早く持ってこい」
    スティーヴはわずかに逡巡しながらも、二階の自室からギターケースを持って降りてきた。
    テーブルに置いて、観念したように勢いよく蓋を開ける。手にすると、わずかなチューニングで良い音が鳴った。まめに弾いているようだ。
    「何が弾ける?」
    「メジャーな曲なら。コード鳴らすだけでよければ」
    「そうだな。… 1168