大田黒の憂鬱俺は辻峰高校弓道部2年大田黒賢有だ。
弓道部はじっちゃんが弓道をしていたことがきっかけで入部した部だが、今となっては本当に入って良かったと思っている。俺の美的な筋肉を活かせるし、何より県大会優勝、全国大会でもいい成績を残せた。
その功績は間違いなく二階堂あってのものだ。
指導者もいない、練習環境も悪い、先輩達はいい人達だけど素人同然‥そんな弱小辻峰高校弓道部を創意工夫して引っ張ってきたのは同学年の二階堂永亮。ちょっと変わったヤツだが悪いヤツじゃない。そんな二階堂と俺は射場横にある用具室の中で備品整理をしていた。
「黒ちゃん、ちょっと離れて。暑苦しい」
「お、悪い悪い俺の筋肉が隆々なせいで」
「言ってろ」
狭い用具室に男2人だ。二階堂の言う事はもっともだと俺は早々に用具室を出た。
「なーにやってんの」
そこに不破がやって来た。
「今二階堂と用具室の整理をしてたんだが狭苦しいと追い出されたんだ」
「ふーん」
そう言いながら不破は用具室に入って行った。
不破もまた二階堂に邪魔だと追い出されると思ってたらいつまでたっても出て来ない。痺れを切らして用具室の中を見ると、昔の部誌を読む二階堂とそれをバッグハグしながら覗く不破がいた。
「ん黒ちゃん悪い、ちょっと面白いもん見つけちゃって作業止まってた」
「樋口さんの部誌当番の日、今日何食べたーとか、白ごはんに合うおかずーとか、食いもんのことしか書いてなくてヤべぇ」
「不破、耳元で笑うなうるせーよ」
この間ずっと二階堂は不破からバッグハグされたままである。
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以前から距離感が近い2人だとは思っていたが、ここまであからさまに扱いの違いを見せつけられるとちょっと複雑である。
聡い不破は俺が何を考えてるのかわかったようで、
「これも日々の積み重ね、ってヤツ」
とウィンクをしてきた。
そうだ、不破も二階堂と甲乙つけがたいくらい変なヤツだった
これから俺はこの変人2人と一緒に部をもり立てていかないといけないことに一抹の不安を覚える。
「荒垣部長ー樋口先輩ーどうか戻ってきてくださーい泣」
辻峰高校の運動場の片隅に俺の絶叫が響き渡った。