続々·大田黒の憂鬱俺は辻峰高校弓道部2年大田黒賢有だ。
今俺はとても気まずい場面に出くわしていた。
(また不破が女子から告白されている‥今週に入って何度目だ)
12月に入ってからの不破のモテぶりは異常だ。おそらくはクリスマスまでに彼氏が欲しいと考えてのことだろう、女子達の気迫を感じる。
(まぁ不破は断るんだろうがな)
これは確信に近い予想だ。
「悪い、今は部活に専念したいから付き合えない。ごめんな」
(やっぱりな)
予想通り不破は断わっていた。
(不破を落とせるとしたらアイツしか思い浮かばないな)
そんなことを思いながら前方に目を向けると今頭の中に浮かべていた人物がそこにいた。
(二階堂‥)
二階堂は俺の存在には気がついておらず、不破の背中をジッと見つめていた。
「‥見てはいけないものを俺は見てしまったのかもしれん」
「なになに大田黒のぞき〜」
動揺してその場を離れることを忘れていた俺は不破に見つかってしまった。
「断じて違う不可抗力だ」
「その割に焦ってんじゃん」
「な、なんでもない」
「あやしーの」
「何とでも言え」
まぁいいけど、と興味を早々に無くした不破に胸を撫で下ろす。今見たものを俺の口から言うわけにはいかない。
「大田黒はクリスマスってどうすんの」
「ウチで寿司パーティだ」
「寿司屋の寿司パーティって笑」
「そういう不破はどうなんだ」
「俺は誘ってフラれたから1人淋しく過ごす」
「フラれたお前が」
「だって相手二階堂だから」
「あ〜〜」
「納得すんの早」
不破はどこか諦めた目をして笑っていた。
「大田黒はもう流石に気がついてるよな」
「何がだ」
「俺が二階堂のこと好きなの」
「ああ。あれだけあからさまだとな‥」
「だよなー普通気がつくよなでも全然意識されてねーの、俺」
(本当にそうだろうかだってさっき見た二階堂の顔は‥)
「不破、諦めるのは早いんじゃないか」
「お、励ましてくれんの大田黒やっさしー」
「茶化すんじゃない」
「いやー真面目な話。お前は優しいよ。あと荒垣さんと樋口さんも。それに俺は感謝してる」
「急になんだ」
「多分俺なんかより二階堂のがずっと感謝してるとは思うけどあのツンデレはなかなか本心言わねーから。俺が代わりに感謝伝えとく。辻峰の5人がこの5人で良かった」
「よくわからんが、どういたしまして‥」
二階堂と不破にだけ通じ合ってることがあるんだろう。前からそういう2人だったので深く突っ込むのはやめた。
「大田黒にも励まされたし、もうちょい悪足掻きしてみますか」
「おお、当たって砕けろだ」
「それ当たって砕けたヤツから言われるのはなー‥」
「古傷を抉るな」
不破は二階堂を探すと言って校舎に戻って行った。
それを見送りながら不破の二階堂への想いはおそらく砕けないだろうなとまた確信に近い予想をする。
恋愛経験=失恋回数の俺にはわかる。
あの時不破を見ていた二階堂は「不破を取られたくない」という顔をしていたからな。
ークリスマス当日ー
親族揃っての寿司パーティ中、ドリンクが足りないから買って来いと言われ俺は街へ出ていた。
クリスマスソングが鳴り響き、LEDのイルミネーションが街中に溢れている。いつも通っている大通りは恋人達の為だけの空間になっていた。
(羨ましい‥本当なら俺も妹尾さんと‥うっ‥)
あの日の失恋を引き摺りながら歩いていたら、見知った姿を見つけた。
(不破‥と二階堂)
こちらから2人の顔は見えないが相変わらずの近い距離感で歩いてるのを見てああ、良かったなと思う。
面倒くさいヤツらだとは思ってるが、なんだかんだ俺はあの2人が好きだ。大切な仲間だと思ってる。そんなヤツらが幸せならそれでいいのだ。
「あー‥俺も彼女が欲しい‥」
恋人達が行き交う中、俺の呟きは寒空の下虚しく消えた。