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    かみすき

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    ゼン蛍

    #ゼン蛍
    ##ゼン蛍

    《ゼン蛍》あいのかたち ダイスの転がる音に、時おりわあっと歓声が上がる。かちゃかちゃと什器がぶつかり、その賑やかさに合わせてコーヒーミルが音を立てた。
     挽きたての豆の香りに満ちた昼下がりのカフェの隅、気持ちよさそうに眠るパイモンを抱えた蛍はアルハイゼンと向き合っていた。
     コーヒーと共に机上に並ぶ本は、昨日貸したはずのそれ。いつも一日足らずで返ってくる。蛍は一週間かけて読むのに。それだけ時間をかけたって、文字を追うのに精一杯で内容なんかほとんど覚えていないが。
     さらに目の前の男は、毎度律儀に本についての感想を寄越した。それにわかったような表情で頷くのが、ここ最近のお決まりだった。ちんぷんかんぷんなのはばれているだろうが、アルハイゼンがそれを咎めることもない。声に出して思考を整理したいだけなんだろう、と蛍は本の表紙を見つめながら首を振るだけだった。
     そうしていつも通りコーヒーを飲み干した蛍が席を立とうとすれば、珍しく問いが投げられる。

    「君は、愛とはなんだと思う」
    「あ、愛? ……割り切れない枚数のクッキーを相手に多く渡すこと、とか?」

     突然の質問に少々動揺しながら、目の前の出来事をそれらしく答える。
     すでに空になった皿には、先ほどまで八枚の菓子が載っていた。アルハイゼンに促されるままに蛍とパイモンが一枚多く食べたが、その行動は愛と呼んでもいいだろう。
     哲学めいた提題だったが、我ながらいいことを言ったかもしれない。

    「自らを不利な状況に置くことが愛か? 君が西日の当たるほうの席を選んだことも?」
    「まあ……そうかも」

     少々いびつな表現にも思えるが、それがアルハイゼンらしいといえばらしい。
     ほぼ無意識の気遣いを指摘されるとどうも面映ゆいけれど、そういった小さな思いやりの重ね合いが、人と人を繋ぐ愛なのだと思う。
     愛は、一方通行では成り立たない。

    「あとは」
    「あと!? うーん……じゃあ、相手が好きなコーヒーの飲み方を覚えること。ミルクとかお砂糖とか、そういうの」
    「それは、何度も相手の好みを確認する手間を省くためとも考えられないか」

     そうだったとして、それでも、相手の好みを叶えようとすること自体が、立派な、大きな愛だ。
     そんな蛍の返事を、銀色の髪から覗く鮮やかな瞳が受け止めた。長い沈黙を引きずりながら、ゆったりと瞬きを繰り返す。

    「君は角砂糖三つにミルクなし、だったな」

     たったそれだけのなんてことない言葉が、やりとりのせいで意味を持つ。アルハイゼンから蛍に向けられた愛が、じんわり胸の内に広がっていった。愛はあたたかい。
     嬉しさを隠さずに頷けば、ほんの少しだけ、アルハイゼンの口角も上がった。
     能面のように見えるその顔も、正面からじっと観察すればその変化が見て取れる。実は表情が豊かなところは、この一方的な読書会を始めてから知ったことだった。

    「他にはあるか」
    「ええ……口を開けてよだれ垂らして寝てても、かわいいなあって思うこと?」

    膝の上に転がるパイモンが二人分の視線に気づくことはない。よだれを拭けば、むず痒そうに顔を顰めた。

    「醜い姿も受け入れることだと」
    「醜い、は語弊がある気がするけど……でも、何でも受け入れるばっかりじゃなくて、悪いところはちゃんと叱るのも愛じゃないかな」
    「では、今の君の姿勢が悪いことを指摘することは愛か」
    「それは……どうだろう」

     決まりが悪くて素直に認めなかった蛍をじっと見つめるその視線に、そっと背筋を伸ばす。
     逃げるようにカップに口を寄せたものの、流れ込むのはたった一滴と、溶け残った砂糖だけ。ざりざりと甘ったるさが口内で踊った。

    「愛と恋とは、何が違う」
    「質問ばっかり。アルハイゼンはどう思うの?」
    「……いつまでも話をしたくて無理に引き延ばすこと、はどちらだろうか」

    蛍の見解を聞きたかったというより、独り言のようなそれは。

    「……恋、じゃないの」
    「そうか」

     やや小さい声で答えたアルハイゼンが手慰みに持ち上げたカップの底の、すっかり乾いたコーヒー渋。飲み干してからそれだけ経った時間を示している。
     片隅の本の内容とは一切関係のない、唐突な問いかけも。
     自惚れでないとしたら、きっと。
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