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    かがり

    @aiirokagari の絵文置き場
    司レオがメイン

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    かがり

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    (2022.10.17)十五夜に託けてあげようとしていたけど十五夜の話ではない
    ズ‼︎ 春先くらいを想定で多分付き合ってる

    (2023.6.25再録集発行に伴い微修正)

    #司レオ
    ministerOfJustice,Leo.
    #小説
    novel

    満ちては欠ける月へ:司レオ その人の有り様は、まさに千変万化。
     なんて表象をしてしまえば、「Amazing☆」と長髪をうねらせる先輩の姿を想像されてしまうだろうか。思考の先に居るのは仮面の道化師ではなく、鮮やかな鬣(たてがみ)を一つに括ったかつての我が王、その人だ。
     ただし、朱桜司は確かに知っている。彼の在り方が、「演じること」とはまるきり異なっているだろうこと。加えて、根本的な変質を伴っている訳ではないのだろうということを。それを確かに、私は知っている。
     鋭くて、柔らかい。優しくて、厳しい。繊細で、大雑把。いくつもの相反する印象をその身に抱えてなお、あの人はいつだってあの人としてそこにある。
    「気のいい人だ」という評と「ナイーブな人だ」という評を同時期に聞いては、きっと見えている球面の違いなのだ、と私はひっそりと納得した。その時に何が照らされ何処を見たのか。それがきっと、あの人のさまざまな印象に対する答えとなる。
    「月光のような男だ」
     いつかの機会に聞いた敬人の言葉に、なるほどと腑に落ちる思いだった。
     月永レオは、満ちては欠ける月のような人だ。


    ♪♪♪


     星奏館の中庭にその姿を見つけたのは、ひとえに、その日の月がやけに明るいおかげだった。
     深夜と呼ぶほどではなく、それでも、一般的な仕事帰りとしては遅いと言える時間帯。廊下の電気は極力絞られ、今日はどうやら人影もない。さすがに皆がみな寝静まっているわけではないだろうけれど、滞在者そのものの数が少ない日なのか、静かな館内だった。
     濃く影を落とす深緑の中にぽっかりと浮かぶ鮮やかなオレンジ色は、ひどく見覚えのある尻尾を垂らしたまま、じっと動かない。春先とはいえ、まだ夜は冷える。共有ルームにあるブランケットをそっと持ち出すと、入ったばかりだった室内をあとにした。
    「……レオさん?」
    「見てスオ〜、満月だ」
     当然のように。自分が声を掛けることが当然だと言うように、その人は月を見つめたまま自然に応対してみせる。座ってよ、と促されれば、折角持ってきたブランケットを差し出すタイミングを失して、言われるがままに彼の隣へ腰を下ろした。
    「お月見日和だな! 見て、まんまるだ」
     視線を空に向ければ、白い光を放つ大きな正円が、雲一つない夜空に君臨している。刻まれたクレーターまでしっかりと視認できて、彼が言うように、今日は満月だったことを思い出した。
    「Ra*bitsがけっこう十八番なんだろっ? 月にはウサギがいるもんな!」
     上空を向いたままで、レオは楽しげに話を振ってくる。てっきり作曲をしていて、呼びつけたものの放っておかれるものかと思っていたので、こうして会話が続くということは少々意外だった。丁度曲が完成した直後だったのかもしれない。音符を書き連ねた紙面はいつものようにばら撒かれることはなく、彼の手元に控えられている。
    「月のcraterの形をlionだとする国もあるみたいですよ」
     ――レオさん、と獅子を冠する名前をくすぐるように囁けば、やっとこちらへ視線を向けて、身じろぎをするように彼は笑った。
    「そうなんだ! お月見ライブにはおれもちょっと噛ませてもらったというか、巻き込んでいった側なんだけど、必然性? 運命? みたいなのがあったのかもな!」
     レオが言う「お月見ライブ」とは、彼が学院に復帰した直後にRa*bitsと紅月の二ユニットが合同で行ったライブのことだった。もともと依頼の仲介を行う立場だったレオは、ライブのために楽曲を提供したほか、ステージにも立っていたらしい。それは、後になってクラスメイトや部活の先輩から聞いて、やっと司は知ったことだった。
    「……観てみたかったです」
    「お前たちを仕留める練習だったのに」
     ばつが悪そうに、そしてそれをできるだけ隠すように、口を窄めてレオは呟く。
     Knightsに解散を命じたジャッジメント。どうやらお月見ライブは、そのための肩慣らしだったらしい。
     ――そうだとしても。レオが悪役を演じ、最終的に自身をユニットから切り落とすことを勘定に入れていたジャッジメントの前哨戦だったとしても、やはり純粋に、観てみたかったと思う。Knightsとしてではない月永レオ。ブランクがあったとして、それを感じさせないだろう振る舞い。その裏側の葛藤。そして、彼がそのライブのためだけに手掛けた楽曲とパフォーマンスを、この目で。
     月永レオという人は、たくさんの顔を有している。作曲家の顔、兄の顔、王さまの顔、アイドルの顔――そして、そのそれぞれの多彩な表情と感情。刻一刻と入れ替わり、移り変わるたくさんのそれらを、余すところなく見ていたい。それは、彼と共に過ごすうちに、自身の胸に至極自然に生じた感情だった。天体望遠鏡で覗き込むような寂しい観察ではなく、こうして肩と肩とを触れ合わせるような距離で、彼が内包する全てを見たいと思うのだ。
    (……おや)
     ふと隣から漏れ聞こえてきた旋律は珍しく聴いたことがあるもので、そしてさらに珍しいことに、彼が作曲したものではないことに気付く。
    「月の光……ドビュッシーですか?」
     そう、と短い首肯があって、さすがお坊ちゃん、とよく分からない評価をされた。
     先日、教養程度にピアノを習っていた話をしたので、そういう理解をされたのかもしれない。
    「……あなたほど音楽に明るい訳ではありませんが、この曲は月明かりに照らされる情景がありありと浮かんでくるようで、印象深く思っていますよ」
    「わははっ、『明るくない』けど『月明かりだって分かる』、なんか面白いなっ」
     レオはそんな風に何気なく笑うけれど、言語では形容し得ない情景について、多くの人に共感をもたらすことができるということは、音楽が持つ大きな力であると司は認識している。そうした非言語的な共鳴から、この人が普段から浸っている音楽の世界について想起せずにはいられない。この感覚こそがきっと、レオが普段から触れている世界の一端なのだ。
     宵闇に紛れるようなか細い歌声は有名なフレーズから遠ざかって、それが本来の曲調なのか、レオの即興なのか、すでに司には判断がつかなくなってしまった。それでも、その夜そのもののようなメロディラインに、そっと耳を傾け続けた。
     見守るように降り注ぐ月の光は、静かで冷たいまま、確かに夜に灯っている。ハミングも会話もふつりと途切れ、それでもレオは相も変わらず、月明かりに見入っていた。
    夜風が頬を撫でて、そのたてがみをふわりとかき混ぜる。
     ――ああ、静かだ。
     この人は時々、こうして世界の観察者となる。そうして今この瞬間に見たものが、聴いたものが、きっと後に彼の芸術の一部となるのだろう。
     捉え所がなく、いろいろな感情をせっかちに表出している普段のなりは潜められていて、それでも彼の横顔は、真っ白な月の光をさらに反射して、ひどく視線を惹きつけた。率直にその有り様が、この上なく綺麗だと思った。
     肌寒さを感じ始めた頃合いに、持参したブランケットをレオの肩に掛けると、無言のまま、隣に座る自分にもその半分を押し付けてきた。温もりを分け合うように肩を寄せると、何だか本当に、月をこの手の中に閉じ込めたような気持ちになる。
    「……スオ〜、静かだな?」
    「あなたが静かだからです」
    「おれは、『月が綺麗ですね』とか言われたらなんて返そうかなって考えてた」
    「……なんて返すつもりなんですか?」
    「言われてみてから考えよっかなって」
     くすくすと微かな響きが暗闇に溶けて、霧散していく。そもそも、レオの言う文豪の逸話は後世の創作だとされているし、リリックとしての古めかしさすらある。それでも、彼はそれも踏まえて口にした可能性もあるので、指摘するのは無粋なのかもしれない。「『霊感』が湧いちゃうかもっ」なんて笑うその表情は穏やかで優しい。
    「あなたを」
     それは自分にとっても、不意をついて出た言葉だった。
    「綺麗だなと思っていたんです、私は」
     夜を満たしていた虫の声は遠く、静謐が場を支配するように横たわる。
     一瞬、呆気に取られたようだったその人は、すぐにけらけらと笑い出すものだから、少しばかりばつが悪いと思う。
    「それはそれでひとつのテンプレっぽいけど!」
     冗談のような受け取られ方は、どうにも腑に落ちない心地だった。
    「月は人を狂わせるらしいな! スオ〜もちょっと当てられちゃったんじゃない?」
    「ええ、本当に。あなたの隣にいると実感します」
    「……ん? おれが月なの⁇ ……『月永』だから?」
    「私は、あなたがまるで月そのもののようだと思う時がありますよ」
     ふぅん、と不思議そうに片眉を上げる仕草は、幼い顔立ちから浮いてみえる。そのまま首を傾げるようにして、肩にぐりぐりと頭を押し付けられた。
    「そうは言っても、おまえはそんな、心の底から何かに狂うとかは無さそう」
     ふと、ぽつりと零された言葉に、一つの瞬きを返す。
     レオの言うように、普段から、信念に基づいた行動を心掛けている自負はある。それでも、言うほどに自分が清廉潔白な人間だとは思ってはいない。
    「『狂う』とは言い様ですが……それでも。本当に、こんな風に世話を焼くようになるとは思いもしませんでした」
     ふぅん、とまたレオは淡白に返すから、話題への興味が逸れたのかもしれない。それでも、言葉にしておきたくて先を続ける。
    「半年前の自分に言っても、きっと信じてくれません」
    「もう一声、素直に」
     瞬間、鋭く切り返されて、ぴたりと動きを止める羽目になった。
     この人は、こういうところの緩急があり過ぎる。唐突で、思考は本人の中で完結していて、その上せっかちで、人をよく見ている。出会った当初の自分であれば、この切り返しにひるんでしまったかもしれないが、今この瞬間に彼が望むものを、私は理解している。
    「……こんな風に好きになってしまうなんて、思いもしませんでした」
     観念したように言葉を紡いで、流れるようにさらりとその髪を撫でつけた。ふっとからかいの抜けた笑みをこぼしたその人は、見つめ合っていたのも束の間、次の瞬間には「『霊感』が……っ!」と大声を上げる。小さなため息を押し殺しながら、ずり落ちたブランケットを整えると、急ぎ、紙を追加で手渡した。
     満ち欠けを繰り返す月のようなこの人から、やはり片時も目が離せない。その輝きに魅入り、そして振り回されることを、私は、甘やかな響きのように享受した。
              


    【終】










    司くん視点で書きたいなと季節ネタを書きたいなのミックスでした。
    月って本当にいろいろなモチーフがある……
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