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    かがり

    @aiirokagari の絵文置き場
    司レオがメイン

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    かがり

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    (2023.12.31)
    「ご報告」する司くんとKnightsメンバーの話です。

    ずっとちまちま書いていた小話を、1年の総括として……また来年も書いていきたいです。

    #司レオ
    ministerOfJustice,Leo.
    #小説
    novel

    ご報告があります!:司レオ「ご報告があります」

     それは、Knightsの新入りたちとのレッスンを終えて彼らを帰した後に、俺とナッちゃんと新たな『王さま』の3人で、さぁ円卓会議だと意気込んでみせた直後のことだった。
     やっと今の体制にも慣れてきたものの、いつだって少しの寂しさがある。明日は2人が帰国するねぇ、なんて、この場には居ないメンバーについて話を振れば、おずおずと手が挙がり、彼――ス〜ちゃんは先のとおり、重々しく口を開いたのだった。

     思い詰めたように緊張を帯びた声色に、俺は思わず、直近の懸念事項から心当たりを探してしまう。少なくとも、取り返しがつかなかったり、もしくは、そうなり兼ねない事柄は、何も無かったはずだ。
    「どうしたの? 司ちゃん」
     ナッちゃんもそんな緊張感を察しているだろう、何気なさを装いつつ、そっと先を促す。
    「……その、明日、レッスンの後に……」
     珍しく口籠りながら低く続いた声は、思いもよらないものだった。
    「レオさんに、告白しようと思っています」







     ス〜ちゃんが言うことには。
     返事がどうであれ、ユニット内部の人間関係の話だから、常に近くに居る自分達には知っておいてほしい、とのことだった。
     大事な時期であることは承知しているけれど、どうしても伝えるだけ伝えておきたいのだ、と。騎士が放浪する王さまを追うことには正当性がある。でも、王さまが放浪する騎士を追うことには理由が必要で、そのための関係性の名前を欲してしまうのだ、と。
     ス〜ちゃんは、校内で月ぴ〜を見かけなくなってから、目に見えて寂しそうだった。そこに彼は「恋しさ」の感情を見出したのだろう。
     近しい人同士のそういう話は少しだけ気恥ずかしくもあったけど、きちんと報告してくれたことには、俺たちへの信頼を感じて嬉しくも思う。
    「……もし、万が一にもレオさんが、私の告白のせいで思い詰めるようなことがあったら、followしてあげてください」
     うまくいかなかったら、少しだけ慰めてくださいね、なんてしおらしく言う後輩には、普段は決して見せないような可愛げがあった。
    「……いいよ、お兄さまがよしよししてあげるからね」
     そんな風に応じてみせたものの、月ぴ〜が彼の想いを、真っ向から拒絶するようなことは無いのではないかと思う。ジャッジメントで対決を果たした後の2人は、元々の波長は合う方だったのか、着実に理解を深めていっているようだったし、その分、距離も徐々に近づいているように見えた。
     とはいえ、月ぴ〜みたいな人が、恋愛という関係性の中に身を置くという状況がそもそも想像しにくくもあり、「気持ちに応えるかどうかは兎も角」という注釈はつけざるを得ないけれど。
     方々に想いを巡らせながら、我らが王さまを送り出してみれば、翌日、弾むような明朗さを伴って、また先の言葉を聞くことになった。曰く――
    「ご報告があります‼︎」







    「由々しき事態だよ、ナッちゃん」
    「あら、何かあったかしら?」
     そう、ここまでは話の導入だった。
     かくして、ス〜ちゃんの「ご報告があります!」の一言は、惚気話の開始の合図と相成った。
     これは、さらにその先のお話だ。
    「ス〜ちゃんの『ご報告』についてなんだけど」
    「ああ! 昨日も確か、いつぞやの花鳥園に2人で行ってきたって話してたわね。結構順調じゃない?」
    「順調〜〜〜? それなら尚更、そろそろ『Kissしました!』とか『お泊まりします!』とか言ってきても良い頃じゃない??」
     あら、と少しきょとりとした後で、ナッちゃんは苦笑する。
    「2人の進展ペースなんて、外野からどうこう言えないわあ」
    「そうは言ったってさあ、そうは言ったってだよ。お兄ちゃんは心配です!」
    「お姉ちゃんは余計なお世話なんじゃないかと思うわ……」
     ナッちゃんの控えめな反応に、おや、と意識して片眉を上げる。
    「なぁにナッちゃん、普段はもっとノってくるんじゃない」
     じとりとした視線もどこ吹く風で、大人びた横顔に跳ね返された。
    「アタシは普段の司ちゃんからの報告の塩梅で満足してるの」
     そんな反応に、少しだけ梯子が外されたような気持ちになってしまう。
    「俺が下世話だって言いたいのっ?」
    「違うの?」
     ぱちりと長いまつ毛が揺れて、そのままナッちゃんは、綺麗な仕草で小首を傾げた。
    「違うの! 俺は土台がちゃんと盤石なんだってことを確認してから安心して茶々を入れたいだけなの!」
     ス〜ちゃんの話を聞いていると、どこかに出かけた、なんてどちらかと言えば大ニュースな方だ。「今までそんなこと全然なかったのに、自分が楽譜を揃えているところをじっと見つめていた」とか、「ふらっと帰ってくる時に連絡を入れてくれる頻度が増えた」とか、「集めた楽譜の中にふと『スオ〜』とだけタイトルがふられていた譜面があった」とか。
     どうにもいまひとつ進展が見えにくいというか、そもそも関係性の変化も見出しにくいというか。
     かわいい後輩のかわいい報告を信用していない訳ではないけれど、少しばかり天然な面もある2人ではある。コントのような行き違いは無い、とは断言できないだろう。だから――。







    「月ぴ〜、ス〜ちゃんと付き合ってるってほんと?」

     画面の向こうでぴたり、と動きを止めた『元・王さま』兼、うちの天才作曲家は、集中が途切れたのか、パッと勢いよく顔を上げた。そうして、猫っ毛がふわりと揺れて落ち着くまでの一瞬、彼は大きな瞳を瞬かせたようだった。
    「ウン、スオ〜、つきあってる……」
    「なんでカタコト?」
     月ぴ〜にも照れがあるのだろうか。この人はこんななりで、割合ポーカーフェイスや演技が上手なので、よくよく注意しないと実態が分からない。
     ユニット単位のミーティングではさすがに憚られて、ちょっとした連絡事項があって個人通話を繋いだこの時を、良い機会だと思った。用事を済ませて早々に『霊感』に拐われていった月ぴ〜を画面越しにしばらく眺めてから、そっと疑問をぶつけてみた形だ。
    「スオ〜から、リッツたちには報告したって聞いてたんだけど、やっぱり2人いっしょに言った方がよかった??」
     タイミング合わなくってさぁ、と何てことないように笑う月ぴ〜はやっぱり少しだけぎこちなくて、照れているようにも見える。ス〜ちゃんの一人相撲、というわけではないようで、そこは少し安心した。
    「んーん、ス〜ちゃんから聞いてはいたよ。いろいろ『ご報告があります!』って進展おしえてくれるから〜」
    「進展??」
    「そ」
     まあ、少しだけ盛っているけれど、嘘ではないはずだ。
    「……んん?? それなのにリッツはおれ達が付き合ってることに確信がもてなかったってこと?」
     それは、月ぴ〜にしては常識的な「まあ、そうだよね」と言えるようなツッコミだった。
    「うーん、何というか、ス〜ちゃんの話だけだと恋人やってる二人の想像がつかなかったからさぁ。……二人きりの時って普段なにしてるの?」
     そうしてやっと気になっていたことを切り込んでみる。
    「ん〜〜〜ふつうだと思うぞ? スオ〜って経験豊富ってわけじゃない分、ちょっとベタなことしたがるし。そこが可愛いんだけどっ!」







    「うーーーん、さすが月ぴ〜って感じの回答だったなぁ」
    「……凛月ちゃん、一応、何の話か聞いてもいいかしら?」
     放課後にレッスン室へ向かう道すがら、合流することになったナッちゃんは、俺の何てことのないぼやきもしっかりと拾ってくれる。
    「ス〜ちゃんとの話。聞いてきちゃった」
    「……聞いてきちゃったの?」
     ナッちゃんは、ちょっと呆れたような、それでいて興味はありそうな様子で嘆息した。
    「月ぴ〜、あれで結構鋭いし、すっとぼけるみたいな感じあったから、多分躱されちゃったな〜って」
     あんな風にふんわり惚気るくらいの経験はありそうだったけど、月ぴ〜は結局のところ、具体的なことは何ひとつ明かさなかった。
    「……だからね、ナッちゃん」
     Knightsの溜まり場なんて揶揄されるいつものスタジオは、炬燵などの私物は流石に整理されつつあるものの、体制が変わった今も変わらず利用を続けている。そうして俺は、そこへ律儀に早めにやって来て、個人レッスンを始めているであろう存在を見越し、意気揚々と扉に手を掛けた。
    「俺はもう、ス〜ちゃん本人に聞いてみるしかないんだよ」
     扉が開く音に向き直ったス〜ちゃんは、スマートフォンを片手に、悠然とした表情で微笑みかけてくる。 
    「お二人とも、お疲れさまです。今ちょうど瀬名先輩から、」
    「ス〜ちゃん家ってやっぱり婚前交渉って駄目なの??」
    「…………はっ?!」
    「ちょっと凛月ちゃん! ほら、それが必ず到達点って訳じゃないでしょ?」
    「いや、何の話で、」
    「『ご報告』を聞かないから、ちょっと気になるなぁって」
    「……ッ?! ……そ、」
    「そ?」
    「……そ、そ、」
     混乱しつつも意味は伝わったのか、ぶるぶると震える彼は、そういう機能が付いたぬいぐるみのようで少し面白い。
    「そんなことッ、報告できるわけないじゃないですかっ?!」
     エコーが掛かるような声量でスタジオにその声は響いて、通話が繋がっていたらしいセッちゃんから大目玉をくらった。



    ♪♪♪



    「今度のさ」
    「はい」
    「2人で行くシンガポールロケ? なんかよく分からんけどテンシが『行ってこい〜』ってしてるやつ」

     時間がゆったりと流れているホテルの一室は、簡素過ぎず、かといって豪華過ぎないグレードのビジネスホテルだった。
     ツインルームのベッドの片一方は、単なる荷物置きとして機能している。成人直前の二人の人間を受け止めるもう片一方のベッドは、ひとかたまりになって寝転んでも少し余裕があるくらいなので、まずまずの大きさだと言えた。
     仕事の移動に託けた逢瀬には、どうしてもこうした辻褄合わせが必要になる。それでもスオ〜は多分、完全なプライベートとは異なるこういった雰囲気を、少しだけ楽しんでいる節もあると思う。
     おれがうつ伏せに寝転んで足をゆらゆらと揺らす傍ら、スオ〜はベッドボードを背にメールのチェックをしているようだった。バスローブと浴衣の中間のようなホテル備え付けの寝巻きから投げ出された足に、何となく腕を絡めて頬を寄せている。
     それほど明るくない間接照明はさらに絞られていて、彼の表情に影を作っていた。それがなんとなく面白くなくて、のっそりと身体を起こしては、同じくらいの位置にある彼の肩に体重を乗せる。
    「そのシンガポールの時の、おれとスオ〜のホテルの部屋を相部屋にしたって聞いたけど」
    「……はい」
     こうした暗黙の了解じみた下心に、スオ〜はいちいち照れたような仕草をしてみせる。可愛くない部分が増えてきたコイツの、未だに残る可愛い部分だ。
    「そういうのを『ご報告する』の?」
    「ぶふっ……?!」
     そうして何気なく問いかけた言葉に、顔を背けて盛大に吹き出した。
    「…………凛月先輩、ですか?」
    「なんか、鎌の掛け方がよく分かんなかったから。どんな話してんのかなって思って」
     そのままスッと居住まいを正すように正座に移行した歳下の恋人を面白く眺めている。
    「スオ〜が言ってないならと思っておれは特に何も言わなかったぞ? 箱入りだけど相応に欲は出すし行動力もあって、今回とか、今度のシンガポールみたいな手の回し方もするからちょくちょく機会を持ってることとか」
    「……その配慮は痛み入ります。というか、すみませんレオさん、名誉にかけて、あなたとの間のことをあれこれ吹聴していたわけではないということは弁明させてください……」
    「わはは、律儀なやつ! おれは別にリッツとかナルになら何話してくれてもいいって思ってるのに!」
    「それは私が嫌です」
     きっぱりと言い切ってみせる彼は、確かにロマンチストと言える部分もあり、こういう逢瀬の明け透けな話はしないのだろうな、とぼんやりと思う。
    「というか、逆にどんな話してんの?」
     単純に気になってしまって問い掛ければ、一呼吸の間を置いて、淀みなく答えが返ってきた。
    「……少し前に花鳥園に行きましたよね? そんな風に、お付き合いする前にも行ったことがある場所では、関係性が変化したのだということを結構意識してしまうとか……それから、そうですね。作曲を終えたあなたが、まるで待ってくれるみたいに、楽譜を集めている私を見ていたことがあって、その視線の優しげな感じ、とか……、楽譜の紙面の中に、私の名前が書き付けられていることが増えているのに気付いたこととか……、あと、最近は、帰国する時によく個別でmessageをいただくので、あなたも会いたいと思ってくれているのか……とか」
    「分かった分かった、もういいぞ?!」
     そんな風に列挙していくスオ〜の表情は幸福感に満ちていて、本人の前で憚ることなく惚気る様子にはこちらが恥ずかしくなってしまう。
     が、確かにスオ〜の有り様に反して、話す内容が些細すぎるのではないか、ということは否めなかった。
    「まあ、惚気てんな〜って感じではあるけどさ、確かに、わざわざ報告する内容がそんな感じだから、リッツは『大丈夫なの?』って思っちゃったんじゃないか?? ……というか、スオ〜のその、報告する・しないの線引きってなに?」
    「線引き、ですか……」
     あまり考えたことがなかったですね……と、顎に手を当てて生真面目なポーズで考え込んだかと思えば、スオ〜はおれの身体にぴったりと添うように自身の身体を寄せてくる。そうして髪を弄んでは、静かな声で返答があった。

    「……ひとに知らせたいか、独り占めしたいか、……でしょうか?」

     そっと会話の合間に髪を撫でつけ、茂みをかき分けるようにして額に口付けが落とされる。気障な仕草は何度されても慣れなくて、ぴたりと身体の動きが止まり、柔らかな感触に弛緩することを毎度繰り返している。こういうことこそが彼の「独り占めしたい」の範疇なのだろうか。
    「……おれも今度セナにやってみようかな、ご報告〜ってやつ」
     右頬にも同様に為された口付けは、このままだと左側にされるのだろうな、とぼんやりと予測する。裏付けるようにもう一方の頬骨のてっぺんをスオ〜の唇が撫でて、思わず息をつくように笑ってしまった。
    「既に似たようなことをなさってるので今更だと思いますよ」
    「うん?」
    「瀬名先輩からときどきclaimが入りますから。あなたの撒き散らした楽譜の内容について」
     惚気も大概にしろ、と。内緒話ようなひそやかな声音を耳に吹き込まれ、また肩が小さく跳ねた。
    「おれたちってちょっと似たものカップルかも?!」
    「ふふ、今度はそれをご報告してみることにしましょうか」
     凛月の反応を想像してくすくすと笑い合いながら、戯れのような口付けに熱が帯び始める。 
     こうして、報告の種が尽きないことの幸せを噛み締めながら、ルームライトの光量を絞った。



    【終】










    「お前らは似たものカップルだよ知らなかったの?」って皆に言われる
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    かがり

    DONE(2025.6.23)
    ラブコレクター・ミニトーク「射止める心」より
    弓道部モブ後輩視点(モブ→司くんは心を寄せているけど恋愛感情ではない)
    司くんが弓道部部長だと捏造しています
    弓道関連用語については薄目で見てください
    正射必中!:司レオ「……朱桜先輩! お疲れ様です!」

     一礼して敷居を跨いだ弓道場で、真っ赤な髪色の人影を見つけた瞬間、反射的に弾んだ声が出た。
     私立夢ノ咲学院の中でも独特の雰囲気を持つ弓道場は、校舎の端に位置しているせいか、その場に相応しい静けさが支配している。思いのほか反響してしまった声を咎めることもなく、その人物は鷹揚に振り返った。スローモーションのように癖のない髪が揺れる。
     ぴしりと背筋を伸ばし、いつも保たれている綺麗な姿勢は弓道着姿がこの上なく似合う。そうして、夢ノ咲学院弓道部の部長たる朱桜司先輩は、悠然と微笑んでこちらに視線を向けた。

    「はい、精が出ますね」

     部で指定している活動日ながら、朱桜先輩以外の人影は見えない。校内ライブが近いから、きっとレッスンを優先している人が多いのだろう。元よりアイドル活動以外にはそれほど力を入れていない校風だし、弓道部も例外でなくそういった雰囲気を持つ部活だ。
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    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。七夕を楽しむ二人と、夏の風物詩たちを詰め込んだお話です。神頼みができない人にも人事を超えた願いがあるのは良いですね。
    >前作:昔の話
    https://poipiku.com/271957/11735878.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    星渡 折からの長雨は梅雨を経て、尚も止まぬようであった。蒸し暑さが冷えて一安心、と思ったが、いよいよ寒いと慌てて質屋に冬布団を取り戻そうと人が押しかけたほどである。さては今年は凶作になりはすまいか、と一部が心配したのも無理からぬことだろう。てるてる坊主をいくつも吊るして、さながら大獄後のようだと背筋が凍るような狂歌が高札に掲げられたのは人心の荒廃を憂えずにはいられない。
     しかし夏至を越え、流石に日が伸びた後はいくらか空も笑顔を見せるようになった。夜が必ず明けるように、悩み苦しみというのはいつしか晴れるものだ。人の心はうつろいやすく、お役御免となったてるてる坊主を片付け、軒先に笹飾りを並べるなどする。揺らめく色とりどりの短冊に目を引かれ、福沢諭吉はついこの前までは同じ場所に菖蒲を飾っていたことを思い出した。つくづく時間が経つ早さは増水時の川の流れとは比べるまでもなく早い。寧ろ、歳を重ねるごとに勢いを増しているかのように感じられる。
    3654

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    DONE鶴丸さんの魔法の袂(漫画まとめ壱[https://www.pixiv.net/artworks/79053351]収録)
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     いち兄から貰ったハンカチを無事見つけ出し、安堵からかうえええと一層泣き始める五虎退に、鶴丸は少し呆れたような顔をして、「見つかったんだから泣くこたないだろう」と呟く。そしてその白い袂に片手を突っ込み、何かを探し始めた。
    「仕方ない、鶴さんのとっときだ」
     す、と引き出された手で掲げられたのは、セロハンで包まれたまるい飴玉だった。五虎退はそれに目を取られ、一瞬涙が止まる。 2560

    たまの

    SPOILERなんかエロいことをしないと出られない部屋胸ぐらを掴まれ、押し倒された。
     ……ええと、二十センチ以上も身長の低い、女の子から。
     強引に唇を重ねてくる。勢いまかせなので、思い切り前歯がぶつかり合う。色気もへったくれもない。ちょっと待った、という言葉は口にする前に封じられた。
     ……正直に言います、本気の抵抗はしませんでした。
     だってこの状況、ちょっとオイシイだろ。困る相手ならまだしも。何してくれんのかな、って、好奇心。これも正直に言ってしまうか、シタゴコロ、ってやつだ。
     懸命に貪られて、舌を絡め取られて。いっそ抱き返してしまおうかと頭をよぎったけれど、もう一度歯がぶつかったところではたと我に返った。舌、切れたんじゃないのか、今の。

    「――ちょっと待っ……ちぃストップ!」

     両肩を押さえて制止する。完全に覆いかぶさる状態だった彼女を、下から支えるような体勢。なんだろな、この状況、どう考えてもオイシイんだけどさ。
     腕一本ぶんの距離で引き剥がされた彼女は、まともにこちらを見ることもできない。耳、真っ赤だぞ。

    「そんながむしゃらにならなくても……」
    「でもっ、だって、こうしないと出られないって、この部屋……」
    「たしかに 1223