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    menhir_k

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    多分最終話クロディ、諦めて3分割にしようと思いました

    #クロディ
    clodi

    何か良い感じのタイトル考えなきゃな 鳥の囀りが聞こえる。窓ガラスに映り込んだ影に誘われるように、クロードは外へと目を向けた。針槐に似た木の枝に、尾の長い鳥が二羽止まっている。木には白い房状の花がたわわに咲き、その甘い芳香が家の中にまで漂っていた。
     頬杖をついて欠伸を噛み殺す。平和だ。
     窓から、規則正しい音の聞こえてくる調理場へと視線を戻す。夕飯の支度をする母と娘が、仲の良い様子で肩を並べている。玉ねぎでも炒めているのか、花の香りに芳ばしいバターの香りが溶けて、クロードの鼻腔を突いた。
     軽く椅子を引いて立ち上がる。いくらもてなされる側とはいえ、ただ座っているだけというのも居心地が悪い。何か手伝えることはないかと調理場へ向かうと、切り分けた鶏肉を串に刺している最中の少女がクロードに気が付いた。

    「どうしたの、クロード」

     星の映える夜空を思わせる瑠璃色の髪を肩口で揺らしながら少女は振り返った。

    「なにか、ぼくにも出来ることはあるかい」

     食器洗いでもゴミ捨てでも何でもするよ。付け加えて言った。けれど少女は形の良い眉を顰めて、難しい顔をしながら首を傾げる。

    「三人で立つには、ちょっと狭いわね」

     少女の言う通りだ。その上、クロードの家事の手際は決して良いとは言えない。旅を始めた頃に比べれば随分と上達した筈だが、それでも彼女の足元には遠く及ばない。
     すると、野菜を切っていた少女の母親がその手を止めて提案した。

    「レナ、だったらクロードさんにディアスを呼んで来て貰ったら」

     予測の出来ない流れではなかった。レナを一緒にアーリアへ送り届けよう、とディアスに提案したのはクロードだったし、レナも喜んで彼の腕を捉えた。渋るディアスをアーリアへ連行したのは、レナとクロードの二人に他ならない。それでも、その名前を聞いて無防備な心臓は大袈裟に跳ねる。
     エクスペルを取り戻す最後の戦いを前に、クロードは少しディアスと話をした。そのとき、様々な偶然と失言が重なって不幸な出来事が起きた。今でも思い出すと頭を掻きむしって叫びだしたくなるし、未だディアスに真意を問い質すことも出来ずにいる。何となく、彼と二人きりになることを避けてきたからだ。

    「クロード、お願いできる?」

     クロードとディアスの間に何があったのか知りもしないレナが、無邪気に問う。断る上手い理由も見付からず、あの夜の当たり障りのない説明も出来ないクロードはしぶしぶ母娘の提案に頷いた。



     家の外に出ると空の青が薄らいでいた。東の地平線は夜の気配が漂い、家路を急ぐ子供たちと擦れ違う。
     ディアスを呼んで来て貰ったら。何でもないことのように、レナの歳若い母親は言った。けれどクロードはディアスが何処に居るのか見当もつかない。母と娘の再会を見届けると、早々に村を発とうとした彼を三人がかりで慌てて捕獲したのが二時間ほど前のことだ。不服そうなディアスから夕食の約束を取り付けて解放すると、彼は行き先も告げずに外に出かけてしまった。ディアスが家族と共に過ごした家もアーリアに残っているらしいが、場所までは知らない。呼んで来るにしても、探し出す宛てがない。
     ほとほと困り果てたクロードは取り敢えず村の出入り口へと向かうことにする。もしかすると夕食の時間まで、外で魔物でも倒して時間を潰しているかも知れない。そのまま黙って村を発ってしまった、という可能性は除外する。言質は取った、ディアスを信じたい。
     すっかり顔なじみになったアーリア村の門番が、「やあ勇者様」とクロードに声をかけてきた。

    「やめて下さい」

     米神を押さえてクロードは言った。門番は軽快な笑い声を上げる。これはまた揶揄われるな、とクロードは思った。

    「ディアスを探してるんです。外に出ましたか」

     アーリアに長く住む門番にディアスの行方を訊ねる。すると彼は首を横に振り、「見てないな」と言った。早速宛ては外れたらしい。
     門番に礼を言ってクロードはその場から離れる。
    困った。本当に、何処を探せば良いのか分からない。アーリア村におけるディアスの交友関係も分からない。手あたり次第、アーリア中の家々を「フラックさんちのご長男がお邪魔していませんか」と訪ねて回った方が早いかも知れない。駄目だ。どう考えても不審者だ。レナの家の客人として招かれている以上、節度ある捜索をしなくてはならない。
     思いとどまったクロードはとぼとぼと歩き出す。一度レナの待つ家に戻った方が良いのかも知れない。若しかするとクロードと入れ違いに、ディアスはレナの待つ家に帰っているかも知れない。
     不意に、クロードは足を止めた。ディアスはレナの待つ家に帰っているかも知れない——そうだ。二人は幼馴染みだ。離れていても、その繋がりが断たれることはない。ひどい去り方をして二年の月日が経っても、レナはディアスを放っておくことは出来なかったし、ディアスもレナの干渉を許した。レナの存在は、いつまでもディアスにとって帰るべき故郷そのものだった。
     なら、クロードはどうだろう。クロードとディアスの間には何もない。ほんの少しの間、共に宇宙の命運を賭けた大きな旅をしただけだ。レナと彼との間にあるような、決して解けることのない強固な結び付きがあるとも思えない。
     きっと、そう遠くない未来にクロードは地球へ帰る。先延ばしにすることはあっても、いつまでも母を独りにはしておけない。地球に帰っても、再びクロードがエクスペルの地を踏むことも或いは可能性の一つとしてあるのかも知れない。けれど、そうであったとしてもディアスと今までのような距離感で再会出来る保証はない。確信めいた予感が、無性に悔しくて寂しかった。
     どんなに近しい痛みを共有し合っても、それはただの傷の舐め合いに過ぎない。たかだか一過性の感傷で優越感に浸れるなど、勘違い甚だしい。何て安い自尊心だ。クロードは自分で自分が情けなくなった。
     クロードはレナにはなれない。ディアスに安らぎを与えることも、癒すことも許すことも出来ない。クロードはディアスにとっての何ものにもなれない。
     あまりにも惨めで愚かで情けない。いつの間にか落ちていた視線を無理やり上げる。このまま俯いていたら涙が出ると思ったからだ。
     矢張りレナのところへ戻るしかない。そう思って歩き出そうとしたクロードの丁度目の前で、教会の扉が開く。中から出て来たのは、アーリア村の村長のレジスだった。

    「こんばんは、クロードさん」
    「こんばんは」

     挨拶を返して通り過ぎようとしたところで、レジスが少なくない荷物を抱えていることにクロードは気が付いた。教会で作られたであろう酒瓶や、育てた花を持っている。

    「良ければ持ちますよ。レナの家に向かうところなので」

     申し出てレジスから荷物を受け取った。エクスペルに来て間もない頃この老人には随分と助けられたし、気も滅入っていたので誰かと話をして気持ちを切り替えたかった。
     道中、レジスが旅の話を聞きたがったので、マーズの誘拐事件やラクールの武具大会での出来事を話して聞かせた。エル大陸の惨状を話し終えたところで、レジスの家に着いた。

    「ここで大丈夫ですよ、クロードさん」

     ありがとう。レジスが言った。

    「少しお茶でも飲んで行かれませんか」
    「いえ、レナを待たせているのでお気持ちだけ。それに、ディアスを探さないと」

     机の上に預かっていた荷物を置きながらクロードは言った。

    「ディアスですか」

     クロードの言葉を受けて、レジスの視線が窓へと向かう。西日で輪郭を金色に輝かせる雲の下に、広大な森の影が横たわっているのが見えた。

    「あの子なら、家族のところにいるのではないでしょうか」

     ぽつりと静かに、レジスは言った。

    「あそこには家族の墓がありますからな」

     そう言って、レジスは机の上の荷物へと手を伸ばした。教会の花を数本抜き取るとクロードに差し出す。

    「行っておやりなさい」

     名前も知らない素朴な花が目の前で揺れた。クロードは躊躇った。

    「……いいんでしょうか。ディアスの、そんな大事な場所にぼくなんかが入り込んでも」

     こんなことをレジスに言っても仕方がない。それでも気が付けば零れ落ちていた。
     レナであれば許される。確信が胸を締め付けた。
     レジスはクロードの手を取ると、そっと花を握らせた。

    「あの子はきっと、あなたを待っていますよクロードさん。武具大会で剣を交えたあなたならわかるでしょう」

     そう言ってレジスは微笑んだ。
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