子供部屋には小さいながらも天体望遠鏡がある。悟天が生まれて立ち歩きを始めたころのクリスマスに、チチが悟飯にプレゼントとして贈ったものだ。
学ぶことが好きな悟飯はとても喜び図鑑を手に夜な夜な覗き込み、ときいは脚にしがみついてくる弟を抱き上げて見せてやり星について話聞かせている光景も見られた。
悟飯は父である悟空が二度目の死を迎えてからは悟天の父親変わりも担うようとするようにも見えてチチとしては心配していたのだが、生来の知的好奇心に眼を輝かせて星を見る悟飯は年相応の少年に見えほっとした。
その日は満月ということで、悟飯は月がよく見えるよう家の外に天体望遠鏡を持ち出していた。夢中になって望遠鏡から月を見ていた息子を好きにさせてやりたかったが、さすがに遅い時間になったためチチは悟飯に声をかけて寝るように促した。
夜も更けていたし子供部屋ではすでに悟天が眠っていたので望遠鏡は明日片付けることにした悟飯を見送った後、チチはそっと望遠鏡を覗き込んでみた。
空の高い場所で煌々としている月を、かつて、チチは夫である悟空と一緒に眺めたことがある。
夫婦で密として過ごす時間の中の言葉遊びで、もし自分達が距離的に離れることになった場合、さみしくなったらその日の夜の月を見上げようなんて話したことがあった。
望遠鏡から覗き込んだ月は地上から見るものと全く違っていて、科学的には感動するものだったけど。
「あたりめぇだけど、やっぱ悟空さはいねぇだべなぁ」
あの世の住人となった彼がもしかしたらそこで自分達を見守っていてくれて、その姿を見ることができたら…などとほんの少しでも思ったことは到底息子には言えないチチだった。