頑張り屋さんのきみ/グルアオ手際よく美味しそうなご飯が出来上がっていく過程をじっと見ていく。
「アオイ、ちょっと危ないからキッチンから離れて」
グルーシャさんから注意を受けて 渋々ダイニングまで後退してそこから彼の調理風景を引き続き眺めた。
なんとしても見続けようとする私の様子を見て、グルーシャさんは呆れた顔で呟く。
「…そんなに面白い?」
「はい。いつも美味しいご飯を作ってくれるので、どんな感じか気になってました。
グルーシャさんも結構料理上手ですよね?好きなんですか?」
「いいや。ただ現役時代は体重コントロールしないといけなかったけど、専任の栄養士を雇う余裕もなかったし 自分で勉強して作ってたらできるようになっただけだよ。
ここらへんは飲食店もないから今も継続して自炊してるだけ」
さも なんとでもないと言いたげな雰囲気で話をしているけれど、不器用な私からすればそれって十分すごくないですか?って思った。
多分私は寮に食堂がなかったら、ボタンみたいにインスタント系の食事で済ませちゃっていたと思う。
だって私サンドイッチですら三回に一回は失敗するくらい料理が下手だから。
栄養バランスを考えた上、自分で料理をするだなんて…。
すごいなーって思っていた感情が顔に出ていたのか、ちらっと私の方を見たグルーシャさんが小さく笑っていた。
そうしている間にメイン料理が出来上がったようで、その様子を見て食器棚からお皿を出し食事の準備を進める。
そしてダイニングテーブルの上にサラダ・メイン・パン・スープを置き、彼からフォークとスプーンを受け取ると二人で一緒に食べた。
ご飯を食べ終わる頃には夜の八時くらいになっているだろうから、このまま寮へ帰されるんだろうな。
今日は天気も荒れてないから特に。
本当はグルーシャさんのお家にお泊まりしたいけれど、学校を卒業するまで手は出さないとはっきり宣言されているから、きっと却下される。
前に急な吹雪で帰れなくなったとき、彼はソファーで寝て私は寝室で眠るよう言い渡されたし。
本当はもっと一緒にいたいけれど、ここは絶対に譲ってもらえない部分だからと諦めて大人しく従っている。
告白をした時、この条件は初めから言われていたし それを了承の上 お付き合いが始まったのだから、今更文句は言えない。
そんなことを考えながら脂身が少ないお肉を口に入れると、ハーブの香りと塩胡椒の美味しさが広がった。
「ん〜、美味しいです!」
「そう、よかった」
言葉は淡々としているけれど、グルーシャさんの雰囲気からは嬉しいオーラがダダ漏れだった。
その反応が可愛いなと思いながら彼の顔を見ていたけれど、ふと私の手料理を食べて 美味しいといってほしいなと思った。
いつも作ってもらってばかりだし、私も恩返ししたい。
…いや、恩返しというか 彼女として好きな人のために何かをしてあげたい。
ちらりと壁にかかっているカレンダーを見て、あと三ヶ月すればグルーシャさんのお誕生日が来ることを思い出す。
よし、決めた!
この日付近でサプライズでお料理を振る舞ってみよう!
三ヶ月もあれば、いくら私でもなんとかなるはず。
そうと決まれば、この手伝いをお願いする相手のことを頭に思い浮かべながら何を作ろうか考える。
その間頬が緩み切ってニヤニヤしてしまっていたようで、グルーシャさんから何考えてんのって突っ込まれてしまったけれど、笑顔でなんでもないですよと答えた。
だって言ってしまうとサプライズの意味がないので!
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「と言うことなので、私にお料理を教えてください!!」
「別に…いいけどよぉ…」
久しぶりに訪れたペパーの部屋で、深々と頭を下げた。
私の知り合いで料理できるのはペパーしかいない。
と言うことは、彼から教わるしか方法はない。
だからこうして以前ペパーが欲しいと言っていた調味料セットを持参して、短期間の弟子入り志願をした。
いいって言ってくれたけれど、歯切れが悪い答えに頭を上げてもしかして貢ぎ物が足りないのか聞く。
「そうじゃねぇって。
ただ、あんま張り切って難しいやつにはすんなよ。初心者向けのレシピから始めねーと」
「ハンバーグって難しい?
この前さりげなく聞いてみたら、しばらく食べてないから食べてみたいって言ってたんだ」
この前お邪魔した時、食べたいものはあるのか ばっちりリサーチ済みだ。
お魚よりお肉の方が好きみたいだけど、なんとなくヘルシーな食べ物を作りがちだそうで、長いこと食べてないって言ってたから。
そこになんかおしゃれそうなサラダとスープと、簡単なデザートがあればお誕生日ディナーとしていかがですかね、ペパー先輩!?
望みをかけて目線を向ければ、ペパーは安心した表情を浮かべていた。
「ハンバーグなら、なんとかなりそうだな!
いいぜ、オレの弟子になるからにはダチだからって容赦しねーぜ!」
「ペパー先生、ありがとうございます!」
気持ちいいほど爽やかな笑顔で了承してくれたから、感謝の気持ちを込めて 私はもう一度頭を下げた。
これからきちんとした当日のメニュー考案から行うことにして、それが決定後 材料をスーパーで買ってから練習をスタートすることになった。
そしてサプライズ誕生日ディナーは、ハンバーグ、ミネストローネ、チョップドサラダにレモンムースで決定した。
品数は多いけれど、ペパー曰く簡単なものばかりだそうだし 三ヶ月間何度も練習してものにしてみせる!
メニュー決定後、えいえいおーと二人で掛け声を上げて気合を入れた。
夕食の時間になったから、とりあえずスーパーの買い出しと練習は明後日からということにして、今日は食後に別れた。
最初は遠慮されたけれど、食材費だとかは全て私持ちで話をまとめたから、練習日以外はおまもりこばんをつけて たっくさんポケモンバトルをしよう!
練習日当日、二人で話し合った結果、まずはハンバーグから練習することにした。
材料も買って手を洗ってから印刷してもらったレシピを見ながら、家庭科室で取り組み始める。
「アオイ、オマエちゃんと手はニャオハの手にしろ!
怪我するし、そんな勢いよく包丁振り落とすな。指切る気かよ!」
「だって怖いし…」
「オマエのやり方の方が怖いって!」
玉ねぎを切ろうとしたところ、いきなり大声で注意される。
家でもあんまり料理の手伝いなんてしたことないし、調理実習時も班内で戦力外扱いされてしまい 基本洗い物担当だったから、これまでまともに包丁を使ったことなんてない。
だから怖いよー、怖いよーと言いながらガンガン包丁をまな板に叩きつけるように切っていた。
「オレが手本見せっから、ちゃーんと見とけよ」
そう言いながら包丁を取られてお手本を見せてもらうけれど、手際が良すぎて全然参考にならないし、そもそも玉ねぎ切ってると目が痛くて開けてられない。
気がついたらもうみじん切りになっていて、ヤドンみたいな顔でペパーを見るしかなかった。
結局、その日は包丁の扱い方だけで練習は終わってしまった。
みじん切りされた大量の玉ねぎは、ペパーがオニオンスープにしてくれたからその日家庭科室にいた他の生徒達と一緒に美味しくいただき、残りは彼の方で使ってくれるとのことだったから任せることにした。
とりあえず週一での練習予定だったけれど、間に合うのかな。
私って不器用過ぎでは?って思ったけれど、ペパーとしては予想の範囲内だったらしい。
え、私そんな風に思われてたの?
…嘘でしょ。地味にショックだ。
それから次の週も、そのまた次の週と練習は行われたけれど どうしてもまともに包丁を扱うことができなくて、四回目の練習の時についにペパーから包丁はもう諦めろと言われてしまう。
「そんな…。私、どうすれば…!」
絶望する私に対して、彼は神妙な顔で紙袋から二つのある道具を取り出した。
「スライサーとチョッパーだ。
しかもスライサーは八つの切り方できる刃がついた便利ちゃんだから、包丁なくても大体はなんとか料理できるぜ!」
そこからテレビショッピングみたいな感じで実演で玉ねぎを切らせてもらったけれど、本当にこのチョッパーは紐を引っ張るだけで簡単にみじん切りができた。
「…!これならできそう!」
「おう!でもスライサーは、指ごと切らねーように気をつけろよ」
「はい、わかりました ペパー先生!」
料理の練習をはじめてから一ヶ月経過したところで、ようやく野菜を切る作業から前に進められそうで安堵する。
あー、でも今後のためのことを考えるとちゃんと包丁を使えるようにならないとな…。
グルーシャさんのために料理するのは、これっきりってことにはしたくないし。
まあ、とにかく今は目の前のハンバーグができるようになることが先だから、集中しよう!
第一の壁を思い切った方法で突破できたから、あとはスムーズに行けるはずだと思っていたんだけれど…。
目の前に出来上がったのは、真っ黒焦げになった哀れな物体。
「…こっからは、火加減だな」
「…はい」
不出来な弟子で、本当にごめん。
焦げた部分をなんとか取り外して、可哀想なハンバーグを食べてみたけれど、味がちょっと薄かった。
そこについては、念のためソースを作ってかけることで調整すれば良いとアドバイスをもらえたから、たった一ヶ月で年季が入ってしまったレシピに追加でソースの作り方を書き記す。
包丁の次はどこまで火を通せばよくわからなかったから、それを体に叩き込むためそれからはひたすら焼き続けた。
まだまともに一品もできてない状態なのに、本当に間に合うのかな…。
最悪間に合わないことを想像して不安な気持ちになるけれど、それでも大好きな人が喜ぶ顔が見たいため 私は一生懸命料理の特訓に取り組んだ。
「ねえねえ、これ結構いい感じなんじゃない!?」
「な、長かったぜ…!」
興奮気味に話す私の横で、ペパーは泣きそうな顔で頷いていた。
ちょっと焦げているけれど、いい感じに出来上がったハンバーグを二人で実食する。
やっぱりハンバーグ自体の味は薄いけれど、その代わりに上からかけたソースのおかげでちょうど良く味の補強ができて美味しかった。
残り一ヶ月間…つまりあと四回で他のレシピの練習もしなくちゃいけないけれど、大体材料を切ればなんとかなるものだから 多分大丈夫なはず!
そしてあまりにもハンバーグ作りに手こずってしまったから、グルーシャさんの家で料理を振る舞う日は ハンバーグとチョップドサラダだけを作ることにして、残りのミネストローネとレモンムースは前日に作って持って行くことにした。
今の私じゃ二品しか作れないことに悔しさを感じたけれど、何も出来上がらない大惨事になりよりマシだし 仕方ない。
誕生日ディナーなのだから、無事成功するための対策はきちんと立てなきゃ!
「オレのクーラーボックス貸すからよ、あとで取りにこいよ。
あと、絶対にオレと料理の練習したこと言うなよ!」
突然神妙な顔でそんなことを言ってくるペパーに、私は驚いた。
「え、なんで?」
「だってオマエの彼氏って嫉妬メラメラちゃんだろ?
いつか会った時におっかない目に会いたくねーし!絶対だぞ!
振りとかじゃねーから、マジで言うなよ!」
「…グルーシャさんは、そんなことしないと思うけど…」
あの人はいつだって静かでクールな人だよって言えば、男心がわかんねーやつと悪態をつかれる。
え、普通に意味わかんないし、酷くない?
とにかく今回 ペパーが料理の特訓に協力してくれたことと、私が作った料理を食べたことを絶対にグルーシャさんには伝えないことを約束するよう執拗に迫られた。
うーん、ペパーのおかげでここまでできるようになったのに、本当にいいのかなって思ったけれど、彼のあまりにも必死な様子が本当に不思議だった。
グルーシャさんはそんなことで怒るような人じゃないんだけどな…。
けれどもし約束を破った場合は、もう教えることはできないとまで言われてしまうと、了承するしかなかった。
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グルーシャさんに料理を振る舞う日、私は朝からトラブルでバタバタしてしまっていた。
まさかの課題の提出漏れや、手持ちポケモンの体調が若干おかしかったからポケモンセンターに駆け込んだりと慌ただしくて、気がついたらとっくの前に出発予定時間を過ぎていた。
体調不良の原因もただの食べ過ぎだったから安心したけれど、もう時間の余裕もないからそのまま荷物を持ってナッペ山にあるグルーシャさんのお家へ出発した。
まだ彼は帰宅していないだろうけれど、今日行くことは伝えているし合鍵を受け取ってるから大丈夫。
そこから急いで支度をして…。
「う、うそ…。スライサーとチョッパーがない!」
材料や先に作っていた料理が入っているクーラーボックスの中だとかを必死に探したけれど、大事な調理グッズが見つからない。
…もしかして、昨日ミネストローネとデザートを作っていたから、洗ったまま持ってくるのを忘れた!?
ど、どうしよう…。
まだ暖房もそれほど効いていない状態なのに、じんわりと汗が滲み始める。
今の時間は十七時半。
大体グルーシャさんが帰ってくるのは十九時くらいだから、あの調理グッズがあればギリギリ間に合うけれど…ううん、考えてる時間なんてない!
とにかくやらなきゃ!
シンク下の収納スペースから包丁を取り出すと、刃先を見つめごくりと口の中に溜まった唾を飲み込む。
材料を洗ってまな板の上に置くと、ペパーからアドバイスされていたニャオハの手にして包丁を下ろしていく。
切っているものが玉ねぎのせいで、目が痛い。
「痛っ…!」
涙でぼやけそうになる視界に気をつけながら慎重に進めていたはずなのに、思いっきりざっくりと指を切ってしまう。
驚いた拍子にまた別の指を切ってしまい、痛みで顔が歪む。
食材に血をつけるわけにもいかないし、流水で血を流している間、時間ばかりが過ぎていって焦りが出てくる。
どうしよう、どうしよう。
このままじゃ間に合わない!
早く血を止めて料理を続けなきゃ…!
タイムリミットに急つつも、包丁を置いて鞄から絆創膏を取りに行こうとした時だった。
ガチャリとリビングと玄関を繋ぐ扉が開いて、グルーシャさんが現れる。
お、終わった…。
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今日は挑戦者の数ややらないといけない事務処理も少なく、さらに今日はアオイが来ると聞いていたから いつもより早い時間帯に帰宅することにした。
スタッフ達にも声をかけて外に出ると、少し前にフリッジタウンから来てもらっていたそらとぶタクシーに乗り込む。
少し前からアオイと会う度に なんだかそわそわしていたし、何か企んでいるのかな。
本人は感情がすぐに顔に出てきてしまうことが子供っぽくて嫌だと悩んでいたけれど、ぼくとしてはそんな変に背伸びするより そのままのアオイの方が十分魅力的だと常々思っている。
何度かそれを伝えてはいるけれど、年頃のせいかすんなりと納得してくれない。
…まあ、そこが可愛いところなんだけれど。
スマホロトムで時間を確認すれば、現在十七時半を少し過ぎたところ。
あの子から告白をされて、付き合うと決めた時から 卒業するまでハグ以上のことはしないと決めているし、今日も二十時には帰すつもり。
いつもなら一時間くらいしか一緒にいられないけれど、今日はほんの少しだけでも長く過ごすことができるから、いつもより心が弾んでいる。
アオイと出会ってからどんどん自分が変化していっていると感じるけれど、悪くないな。
そんなことを考えているうちに自宅付近に到着したから、タクシーから降りて家の鍵を使って中に入った。
外から見た時、リビングの電気がついているようだったから、入り次第思いっきり抱きしめよう。
仕事を頑張った自分へのご褒美と、平日なのに今日アオイが会いにきてくれたことへの感謝の気持ちを伝えるために。
けれど、リビングへのドアを開けて中に入ると 左手の指から血を流すアオイを見かけて、何事かと声をかけようと口を開いた瞬間、彼女の目から大粒の涙が流れ始めた。
「あ、アオイ!?え、何…どどうしたの?」
慌てて駆け寄れば、もうだめだとかなんとか言いながら泣いていて 状況が全くわからない。
とにかく彼女をソファーに座らせて、戸棚から薬箱を取り出そうと目線を遠くに向ければ、なんかキッチンがごちゃごちゃしていた。
色々聞きたいことはあったけれど、先に手当の方が先だと思って薬箱から軟膏と絆創膏を何枚か取ってアオイの元に戻った。
「ふっ…、うぅ…」
「ほら、バイ菌が入って化膿するかもしれないから左手出して」
泣き止まないアオイに対して努めて優しい声で促すけれど、聞こえていないのか 気持ちがいっぱいいっぱいでパニックになっているのか、手を握ったままだ。
仕方なく、一本一本解いて 切っているところに薬を塗り 絆創膏をつけていく。
思った以上に傷口がぱっくりいってたから、綺麗に治ればいいんだけど…。
泣き続ける彼女の体を抱きしめ、刺激しないよう何があったのか問いかけたけれど、聞こえて来るのは嗚咽と咳き込む音だけで、話してくれない。
だから、思い切ってキッチンの様子から出ている仮説を聞いてみた。
「ねぇ、もしかして料理…作ってくれようとしていた?」
腕の中で体が大きく震えて、ぐずぐずと鳴き声がさらに大きくなっていく。
「そうだとしたら、嬉しいなって思ったんだけど…」
茶色のふわふわした頭を撫でていれば、小さく謝る声が聞こえる。
「なんで謝るの?ぼく、別に怒ってないよ?」
「だって…まに、あわなかった…。グルーシャさんに、おどろいて ほしかったの、に。
もうすぐ、たんじょうび…なのに」
そうだっけ?と思い壁にかけたカレンダーを見れば、明後日くらいが本当にぼくの誕生日だった。
…もしかして、結構前に食べたいものないかどうか聞いてきたのってこのためだったの?
「なにそれ。…可愛すぎるんだけど」
どこまでも健気な年下の彼女の体を強く抱きしめる。
ぼく自身でさえ完璧に忘れてたし、なんなら気づいたところで何かしようとも考えてなかったのに…アオイはぼくのために一生懸命頑張ってくれていたんだ。
「でも、だめなんです。ほうちょう、うまく…つかえない、から うぅ… まにあわなかった」
「なら、今から一緒に作ろう。これまでそうしたことないから、いい思い出になるよ。
…もし、料理できないことが気になるんなら、これからぼくが教えるから。
その後にでも、また驚かせて」
アオイは少し納得できない雰囲気だったけれど、泣きながら頷いてくれた。
何事も真っ直ぐな彼女が、何か壁にぶち当たった時こんなにも感情的になるのかと 初めて知った。
しかも、その理由がぼくなんだから。
それに、これまでも頑張っても上手くいかない時は こうやって陰で泣いていたんなら、ぼくと一緒に頑張って 一緒に笑ってくれる方がずっといい。
それを伝えると、アオイはぼくの方を見上げてこう尋ねた。
「かのじょなのにって…げんめつ、しないですか?」
「しないよ、絶対に。だから、泣き止んで…」
努力家だけど、もしかするとちょっと完璧主義も混じっているのかな?
でも、精一杯背伸びして頑張ろうとするアオイが可愛くてしょうがない。
できないことがあるなら抱え込まないで一緒にやろうよ。
その気持ちを教えてくれたのは、アオイなんだよ。
「アオイ、ぼくのために頑張ってくれてありがとう」
しばらくしてようやく落ち着きを取り戻した彼女と一緒に、料理に取り組み始めた。
出来上がったハンバーグはちょっと歪で焦げていたけれど、他の作ってくれた料理も含めて 今まで食べてきた中で一番美味しかったし 多分一生忘れることができないと思う。
そうコメントして なんとか目の前で笑顔を取り戻したアオイを見たぼくは、心の中で閉じ込めていたはずの欲望が芽生え出す。
ああ、こんな可愛い子を 今日は帰したくないな…。
終わり