それでもあなたは僕の光 兄という生き物が、たまに理解できない。
フィン・エイムズは寮の部屋で、ぼんやりそう考えていた。
フィンの友人には、妹をとても大切にしている少年がいる。ランス・クラウンはフィンが今まで見てきた中でも、特に兄妹愛に溢れた人物であった。妹をすぐ布教しようとするその姿勢だけは、どうかと思うけれど。
ただ、そんなランスを見ていて思うのだ。
ランスの妹は彼の話だと優しくて明るい天使のような人物で、愛され大切にされるべき女の子である。
そんな彼女と比べて、自分はどうだろうか。
兄と比べて劣等生な自分。兄の顔に泥を塗ってばかりの、ドジな自分。幼い頃から泣いてばかりで、兄の足を引っ張ってばかりだった自分。
そんな自分は、兄に大切にされる弟に、相応しくないのではないか。
ザアッという音がして、フィンは我に返った。窓の外を見ると、強い雨が木々を濡らしている。窓を叩く水滴に、フィンは昔のことを思い出した。
まだ幼く、兄と二人で街を彷徨っていた頃の話だ。
帰る家も食べるものも無く、その日も道端にあったトタン板を屋根にして寝ていた。夜が怖くて、兄に縋って泣いていたことを今でも鮮明に覚えている。
その時、トタン屋根をポツポツと叩く音がして、サーッと細かい雨が降り出したのだ。水に濡れることを恐れてますます身を縮こめたフィンに、レインは頭を撫でていた手を止めて空を仰いだ。
「フィン、見てみろ」
そういうレインの声に顔を上げる。
兄が指差す方向を見やると、兄弟のすぐ上の空は灰色に烟っているのに、遠くの空は晴れていた。
フィンは思わず息を呑んだ。
晴れ間からキラキラと溢れそうなほど光を放つ星々が、雨の向こうに輝いていたからだ。
「わぁ……」
フィンが小さく歓声を上げて見入っていると、兄が微笑んだ。
「ありきたりな言葉だが、止まない雨は無えしいつかは晴れる。……大丈夫だ」
そう言って兄はフィンの頬を濡らしていた涙を袖で拭う。それが嬉しくて、フィンも笑った。
「晴れたら虹も見れるよね、兄さま」
「ああ、多分な」
先ほどまでの恐怖も忘れて、フィンは大好きな兄の手を握っていつまでも空を見つめていた。
今思うと、あの言葉は「オレがきっと大丈夫にさせる」という、兄なりの決意の言葉だったのだろう。
兄は自分に、行動し実現させることの大切さを教えてくれた人だから。
それだけで、とフィンは思った。
レイン・エイムズはフィン・エイムズにとって、いつも自慢の兄で、光だ。
自分が兄の家族に相応しいかなんて、その事実に比べたらどうでもいいことだった。