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    shino_sino6

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    shino_sino6

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    過去のイベントで配布したSS
    swが大学のコーチ、fkがプロの設定。
    台風の夜に二人で晩酌しながら、swが不安を吐露する話。

    #沢深
    depthsOfAMountainStream

    「あちゃー、関東直撃だ」
    沢北が夜のニュースを見ながら、やや大袈裟に嘆いた。恐らく、台風の話だ。一昨日までは関東からやや逸れる予報だったが、急に進路変更をした台風は、見事に関東を直撃していくようだ。

    「温帯低気圧に変わらないピョン?」
    「変わらないどころか、威力増し増しって感じ」

    中部地方をゆっくり北上している台風は、生中継でリポートしている女性キャスターを吹き飛ばす勢いで、激しい風を吹かせていた。
    そろそろ連絡が来るだろう。そう思った瞬間に、俺と沢北の携帯電話が同時に振動した。

    「大学からだ。お疲れ様です、沢北です」

    余所行きの声を出した沢北が、携帯を持って自室に引っ込んだのを見届けて、携帯の画面に表示されているチームメイトの名前を確認して、通話ボタンを押した。

    「もしもし、明日の試合は中止ピョン?」
    『用件先取りすんな。でも正解。明日と明後日の試合中止。で、自宅待機だとよ』
    「そんな気はしてたピョン」
    『風すごいもんな。これ以上になると思うと、外出なんてする気になんねぇよ』

    その言葉に、同意の意味で「ピョン」と呟く。窓の外に見える街路樹は、風に煽られて左右に大きく揺れ動いている。イチノなら飛ばされるかもしれない、と失礼なことを考えていたら、チームメイトがからかうように笑った。

    『畑とか田んぼの様子見に行って、飛ばされんなよ』
    「そんなやわじゃないピョン」
    『外に出んなって話だよ。お前、テンション上がって買い物とか行きそうだし』

    そんなことしない、と否定しようと思ったが、高校の時、台風による強風でテンションが上がってしまい、野辺を誘って外に出たら、飛んできた小石が頭を直撃して流血沙汰になったことを思い出してしまい、口を噤む。チームメイトはそんな俺の様子を気にすることなく、電話を切ってしまった。アイツなりに心配してるんだろうと頬を緩ませていると、自室に入って行った沢北がリビングへ戻ってきた。

    「明日と明後日、大学休みだって。自宅待機って言われちゃった」
    「俺も試合中止で、自宅待機だピョン」

    俺の言葉に、沢北が目をキラキラと輝かせた。そして、嬉しそうに俺を抱き締め、甘えるように首筋に顔を埋めてきた。

    「二日間、二人きりで家にいれるってこと?」
    「……ピョン」
    「嬉しい」

    ついでに、とでも言うように、俺の首筋に吸い付いてくる沢北の頭を軽く撫でる。犬が戯れついて来るような吸い付き方だったのが、徐々に熱を持ち始めてくると、俺の身体の熱も簡単に上げられてしまう。流されそう、と思った瞬間、沢北がハッと顔を上げ、窓の外を見た。

    「今のうちに買い物行ってくる」
    「……? 買い物なんて行かなくても、食糧も消耗品も、ちゃんとストックあるピョン」
    「いや、じゃなくて……」

    するりと、沢北の長い指が俺の首筋を撫でる。その指先の熱さに思わず身体を跳ねさせると、沢北が熱の籠った視線を俺に向け、ゆっくりと俺の耳に唇を寄せた。

    「ゴム、足りないかなって」
    「え?」
    「せっかく二日も一緒にいれるんだよ? ゴム三つじゃ足りない」
    「……っ、ばかピョン」

    身体の奥で燻り出した熱を誤魔化すように、沢北の肩を軽く殴る。沢北は腹が立つほどに爽やかに微笑み、そのまま財布だけを持って風の中を出掛けて行った。
    俺も一緒に行くという提案は、俺をか弱い男の子だと思っている沢北から却下されてしまったので、俺は大人しくシャワーを浴びて沢北を待つことにした。

    ***

    徒歩5分の場所にあるドラッグストアに行ったはずの沢北が戻ってきたのは30分後で、ゴムを買いに行っただけなのに、何故か両手に大袋を提げていた。

    「ただいま、深津さん」
    「おかえり。その荷物、何だピョン」
    「そこのドラッグストアに行ったら、店員さんに泣きつかれちゃって……発注ミスで酒が大量に余ってるのに、この天気で客は誰も来ないし、明日と明後日は臨時休業だし、って」
    「なるほど……にしても、買い過ぎピョン」

    リビングのテーブルに置かれた袋の中を覗きこむ。一人で発注ミスを助けるつもりなのか、と心配になるほど、同じ銘柄の日本酒と焼酎の四合瓶が大量に入っていた。それを適当にテーブルに並べ、飲みきれないであろう分を戸棚に仕舞い込み、グラスと氷を用意する。その間に沢北はそそくさとレジ袋の中から紙袋を取り出し、自室へと引っ込んでしまった。おそらく、アレが本来の目的のブツだろう。あの紙袋の中身が全部ソレなら、恐らく大量に買い込んだらしい。

    (台風前日に、大量のゴムと大量の酒を買い込む、NBAのスター選手か……怖かっただろうな、店員さん)

    そんなことを考えていると、部屋着に着替えた沢北が自室から出てきた。そして、酒や沢北が買ってきたツマミがテーブルの上に並べられているのを見て、嬉しそうに笑った。

    「深津さんと家で飲むの、久し振りだね」
    「どっかの誰かが『飲んですぐ寝たり不能になったりするくらいなら、素面で深津さんを堪能したい』って言って、飲む機会が失われていってるだけピョン」
    「良いでしょー。イチャイチャしたいんだもん」

    むぅっと口を尖らせる沢北に、グラスを差し出す。素直に受け取った沢北のグラスに日本酒を注ぐと、沢北は嬉しそうに笑い、そのまま俺のグラスに焼酎を注いでくれた。
    カツン、とグラス同士を触れ合わせ、アルコールを流し込む。「結構美味しいね」と嬉しそうに笑う沢北に微笑み返し、ぺらぺらと喋り続ける沢北の言葉に耳を傾ける。
    練習が厳し過ぎると生徒たちから苦情が来たけど、無視して続行していること、一度山王バスケ部と同じメニューを課したら、部員の半分以上が嘔吐をしたこと、恋人がいることを部員にも公言しているが、詳細は伏せて惚気ていたら『コーチの彼女は、スタイルが良くて適度に恋人を甘やかしてくれる年上の美女』だと思われていること……酒に酔った沢北は、兎に角いろいろなことを話し続けた。ちなみに最後の話の時だけ、沢北の額の最大力のデコピンをお見舞いしてやった。
    そうして一時間ほど経った時だった。笑顔で話していた沢北が、急に真面目な顔で俺を見つめた。

    「深津さんさぁ、いま幸せ?」
    「……急になんだピョン」
    「へへ、気になっちゃって」

    そう言って小さく笑った沢北は、瞳を僅かに揺らしながら、ゆっくりと俺から視線を逸らした。
    「いま幸せ?」「俺のこと好き?」「これからもずっと一緒だよね?」そういう質問をしてくる沢北は、決まって自信満々に俺を見つめていた。貰える答えは知ってます、とでも言いたげな顔に、俺はいつだって意地悪で返していた。
    だけど、今の沢北はどうだろう。俺からの答えに怯えているような、自分の求めている答えを貰えるか不安に思っているような、そんな顔をしていた。
    なかなか答えを出さない俺に痺れを切らしたのか、沢北は視線を外したまま、ゆっくりと口を開いた。

    「俺はね、すげぇ幸せ。深津さんの恋人になれた時から、ずぅーっと幸せだけど、毎日一緒にいられる今が、人生で一番しあわせ」
    「大袈裟なやつピョン」
    「ほんとだよ。いろんな嬉しいことがあったけど、今が一番って思ってる」

    カラン、と氷がグラスに当たる音が響いた。慣れた手つきでグラスを呷った沢北は、幸せとは程遠い表情を浮かべ、そっと視線をテーブルの上に落とした。

    「でも、たまに不安になる」
    「不安……?」
    「そう。これで良かったのかなーって」
    「……」

    泣き出しそうに笑う沢北に、何も言葉を返せなかった。
    これで良かったのかな、という不安は、後悔からくるものなのだろうか。俺との関係を、後悔してるのだろうか。もし、そうだとしたら……
    最悪な思考回路を断ち切るように首を振り、震える手を握り締めながら口を開いた。

    「……間違えたって、思う時もあるピョン?」
    「ふふ、まさか。俺的には大正解だよ。俺が隣にいて欲しいのは、深津さんだけだもん」
    「だったら、」
    「でも、深津さんにとっては正解じゃないかもしれない」
    「え……?」
    「俺のワガママで、深津さんの人生縛り付けてるのかもしれない。もしかしたら、深津さんには別の幸せがあったのかもしれないって……そう思う時が、時々あるかな」

    今更深津さんを手放せる訳ないのに、何でだろうね。そんなことを呟いて、沢北は再び日本酒を呷った。
    その考えには、覚えがあった。俺も何度も考えてきたからだ。沢北を手放した方が良いのではないか、スタープレイヤーの人生を俺が縛り付けてて良いのか、沢北には『普通の幸せ』を選ぶ権利もあるのに……それを沢北にぶつける度に、沢北は感情を剥き出しにして俺に食って掛かってきた。「俺の幸せを勝手に決めんな」と怒鳴られる度に、沢北がそこまでして怒り狂うことに首を傾げていた。
    だけど、今はっきりと分かった。確かに、俺の幸せを勝手に決められるのは、腹立たしい。
    俺はその怒りを全て沢北にぶつけるように、形の良い耳を思い切り引っ張った。

    「いだだだだだだっ!! 待って、痛い!! 深津さん、痛いって!」
    「うっせぇピョン。天罰ピョン」
    「て、天罰!?」

    涙目で俺を見つめる沢北に追い打ちをかけるように、柔らかい頬を思い切り抓る。何やら叫び声を上げてのた打ち回る沢北を無視して、俺は沢北が僅かに残していた日本酒を一気に流し込んだ。

    「俺は、沢北のワガママに付き合ってやってる訳じゃないピョン」
    「……」
    「お前の隣にいるのは、全部俺の意思ピョン」

    今度は、自分のグラスに入っている焼酎を呷る。度数の高さに喉が焼け付くような感覚に襲われるが、それを無視して更にアルコールを流し込む。空になったグラスを叩きつけるようにテーブルに置くと、沢北の肩がビクッと揺れた。心配そうな、それでいて怯えているような、そんな複雑な視線を向ける沢北と視線を合わせると、安心させるようにフッと口角を緩めてみせた。

    「お前の告白を受け入れたのは、俺もずっと沢北が好きだったから」
    「え、」
    「遠距離恋愛になるって分かった時、それでも沢北と別れなかったのは、沢北を手放す方が辛いと思ったから」
    「……」
    「沢北の熱愛報道が出る度に、別れてやった方が良いんじゃないかと思ったけど、それでも別れずにいるのは、毎回毎回死にそうな声で電話してきて『俺を捨てないで』って泣き喚く沢北を、もう少し信じようと思ったから」
    「……」
    「全部ぜーんぶ、俺の意思ピョン」

    ふにっと沢北の鼻を摘む。ふぎゃっ、と情けない声を出す沢北の肩に頭を預け、小さく息を吐く。投げ出された沢北の手に、自分の手を絡めると、いつもより控えめに握り返された。

    「伝えるのが苦手なのは、自分でも分かってるピョン。でも、」
    「……うん」
    「もう少し、俺に愛されてるって、信じて欲しいピョン」

    握りしめる手に力を入れると、沢北が息を呑むのが分かった。それに気付かないフリをして、沢北に甘えるように肩に擦り寄る。そんな俺を、沢北は長い腕で強く抱き締めた。その手が僅かに震えているのに気付いて、俺もそっと抱きしめ返した。

    「ごめん、深津さん。俺、深津さんを傷付けるつもりは、」
    「分かってるピョン。愛なんて目に見えないものを疑いたくなる気持ちは、俺も分かるピョン」
    「……」
    「だから、信じられなくなったら、ちゃんと俺に言って欲しいピョン。そしたら、特別に甘やかしてやるピョン」

    あやすとうに優しく沢北の背中を叩く。それに呼応するように俺の首筋に顔を埋める沢北の耳に唇を寄せ、わざとらしく甘ったるい声を出した。

    「ちなみに、」
    「ん?」
    「俺を抱き潰すために、強風の中ゴムを買いに行くお前を止めなかったのも、ちゃんと俺の意思だピョン、栄治くん」
    「ひょぇ……」

    耳に吹き掛けた甘い声と言葉に、沢北は不思議な声を上げてフリーズしてしまった。見慣れた光景に苦笑いしながら、そのマヌケ面を眺めていると、急に我に返ったらしい沢北が、何かに気付いたように俺に視線を向けた。

    「ねぇ、深津さん」
    「ん?」
    「不安になったら、甘やかしてくれるって言ったよね?」
    「ん、言ったピョン」
    「じゃあ、今すぐ甘やかして。お願い」

    何かを期待するような、そして何かを乞うような視線を俺に向けて、沢北が俺を見つめた。可愛い恋人のおねだりに応えるように、俺は向かい合うように沢北の膝の上に座り、坊主頭をぎゅっと強く抱き締めた。

    「よしよし。随分大きな赤ちゃんだピョン」
    「良いでしょ、別に。甘えたいし、甘やかして欲しいんだもん」
    「ふふ、仕方ないから、目一杯甘やかしてやるピョン」

    沢北の全てを慈しむように、目の前にある坊主頭をゆっくりと撫でる。時折額や頬にキスをすると、沢北が嬉しそうに目を細めるから、どうにも堪らない気持ちになってしまう。
    目の前のこの男が、好きで好きで堪らない。
    その気持ちを伝えるように、ゆっくりと沢北の耳元で囁いた。

    「沢北」
    「んー?」
    「大好きピョン」
    「……え?」

    パッと沢北が顔を上げる。大きな目を更に大きく見開いた沢北は、驚いたように目を数回瞬かせた。そして、薄らを頬を赤らめた。

    「い、いま好きって言った……?」
    「……? いつも言ってるピョン」
    「いや、それはそうなんだけど……いつも俺が好き好き言って、『俺も』って言われるパターンが多かったから……」

    そう言っている間も、沢北の顔はどんどん赤くなっていき、気が付いた時には首から上が真っ赤に染まっていた。そんな沢北を見るのは高校の時以来で、俺は再び沢北の坊主頭を愛でるように撫で回した。

    「……こんなに可愛い反応が見れるなら、もっと早く言うべきだったピョン」
    「じゃあ、これからいっぱい言ってよ」
    「酔っ払いの戯言は聞かないピョン」
    「酔ってないからね!」

    むぅっと口を尖らせる沢北の唇に、軽く口付けをする。一瞬で離れると、驚いた沢北の瞳が俺を捉えた。そして再び頬を赤く染め上げていくから、堪らずに沢北の頭を再び抱き締めると、沢北の逞しい両腕が俺の腰に回された。

    「もぉ、可愛いぃ……こんなに可愛い人が俺の恋人とか、すげぇ嬉しい……」
    「……もう不安じゃなくなったピョン?」
    「うん、深津さんのおかげで元気出た。……大好きだよ、深津さん」
    「ん」
    「明日も明後日も、絶対に離してあげられないから、覚悟しててね」

    腰を抱いていた沢北の手が、俺の背中や腰回りを這いずり回る。ぐっと上がる熱を抑えるように息を吐き、非難するように沢北の目を覗き込んだ。

    「……明日も明後日も、ずーっとベッドの上で過ごす気ピョン?」
    「良いじゃん。どうせ外に出れないんだから、二人で楽しもうよ」
    「動けなくなったら、こき使ってやるピョン」
    「勿論! 身の回りのこと、ぜーんぶ俺がやってあげるね」

    そう言って沢北が悪戯っぽく笑い、「さっきのお返し」とでも言うように、俺の唇を食むようなキスをした。そのキスを受け入れるように、俺はゆっくりと目を閉じた。
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