魔法少女尾形「お前の願いを叶えにきたぞ」
突然そう言って、フリフリのかわいいミニスカドレスを着た成人男性が部屋にやってきた経験したことがあるの、クラスで俺だけじゃね? クラスっていうか、学年でも、いや学校でも俺だけなんじゃないか?
ちょっと暑いかもな〜って言いながら、窓を開けっ放しにしていたのが悪かったんだと思う。クーラーをつけるには気温が足りない気がしたんだ。風が吹けば涼しかったから、窓を開けて扇風機を回しておけばいいと思ったんだ。俺が悪かった。
俺が悪かったから
「お、お引き取り願います……」
今すぐ帰って欲しい。
「それはできねぇな」
「ど、どうしてですか……」
「お前の願いを叶えないと次のやつのところにいけない」
「はあ……いや、行けばいいんじゃ」
「そういう仕組みだから、いけないんだよ」
ベッドの上に正座する俺と、その向かいであぐらをかくお兄さん。フリフリのスカートの中にはフリフリが詰まっているからパンツは見えない。けど、ミニスカートだから太ももの際どいところまで見えている。
できたらそのブーツを脱いで欲しいけど、見た感じ汚れてなさそうだからギリギリセーフなのかな。でもやっぱ気持ち的に脱いでほしいよな。なんて、言えないけどさ。
「次の人のところに行けないと、何があるんですか……?」
「あー、魔力が集められないから、弱体化するな」
「魔力……?」
「俺は魔法少女だから」
「まほおしょおじょ?」
驚いて変な声が出た。
魔法少女って言った? 魔法? 少女? どこからつっこめばいいのか分からないが、違くない? いわれてみれば、魔法少女っぽい服だけど、でもそれしかイメージ通りなものなくない?
見た目、フリフリの服着たお兄さんっていうか、おっさんだぞ? いやおっさんがフリフリの服を着ちゃいけないって話じゃなくて、少女じゃなくね? っていう、もうほんと、それだけで……。
「お前、今失礼なこと考えたな」
「ひ」
俺は背筋を伸ばす。お兄さんはニヤニヤ笑いながら持っていたステッキを一振りした。
「お前の願い叶えるまでここに住むことにした」
「え?」
「今から俺は従兄弟のお兄さんだ、よろしくな? 夏太郎」
「え、いや、ん? ……んん?」
俺、名乗ってませんけど?
お兄さんは大きなあくびをするとそのままベッドに横になる。俺はお兄さんの動きの邪魔にならないよう、自然と壁際に寄った。いやいや、寄ってるんじゃないよ、俺。人と人は譲り合って生きていくものかもしれないけど、今この状況でやることか?
え? てか待って、ここで寝るの? そもそも願いを叶えるって何。魔法少女? 従兄弟のお兄さん? 俺の名前何で知ってるの?
ここ、マンションの五階ですけど? 窓はあるけど、足場はないぞ?
もしかして全部「魔法少女だから」の説明で終わらせるつもり?
だとしたら、その魔法少女ってなんだよ! と、俺は疑問をぶつけたかったけど、ベッドで丸くなって眠るお兄さんを見ると、何も言えなかった。寝るの早すぎる。起こさないといけないやつじゃん。
俺は頭の中にはてなを残したまま、できる限り体を細くしてお兄さんと壁の隙間に挟まった。ここ、俺のベッドなのに、なんで俺の方が狭いんだろう。
朝になったらいなくなってるかな。もしかしたらコレ、俺が見てる夢かもしれないし。とはいえ当たる背中で感じるお兄さんの体温は本物で、俺は「さっさと願いを叶えて、出ていってもらおう」と強く誓った。
誰かに叶えてほしい願いっていうのは、全く浮かばないけど。