タコパする夏尾「おい、夏太郎、これ……」
靴箱の上に置かれていたサンタの帽子を被った小鳥の置物を手にした尾形が部屋に入ってきた。尾形の手の上で小鳥はぴよぴよと楽しそうにクリスマスソングを歌っている。
これは何だと問おうとした尾形は、ダイニングテーブルに乗せられた見慣れないものに言葉を切る。
「おかえりなさーい。あ、それ可愛いですよね」
「急にどうした」
「うーん、目が合ったといいますか……可愛かったので」
にぱと笑う夏太郎と、くちばしと首をかちゃかちゃと動かす小鳥を見比べる。
「可愛くないですか? 他にも色あって……トナカイのツノが生えてる帽子被ってるやつもあったんですよ」
「トナカイ」
「クリスマスですからねぇ」
そう言いながら夏太郎はキッチンから大きさの異なるボールを二つ、ダイニングテーブルに運ぶ。目の前を通り過ぎるときに尾形がその中身を覗くと、何かの生地と一口サイズに切られたタコとエビが入っていた。
ぴよぴよかちゃかちゃ小鳥が歌う。
「玄関で鳴いてたら可愛いかな〜って思ったんですけど、邪魔でした?」
「……邪魔ではない」
「よかった」
クリスマスソングってなんか楽しくなりますよね、と夏太郎が尾形の手から小鳥を取る。玄関に戻すつもりだろう。尾形はコートを脱ぎながら寝室に向かう。
「ビールとハイボール、どっちにします?」
「ビール」
「はぁい」
たこ焼きの具材として夏太郎が用意したのはタコ、エビ、ツナコーン、キムチ、チーズ、チョコレートだった。たこ焼きができるまで、ビールを飲みながらサラダをつまむ。
たこ焼き器なんてどうしたんだ、と尾形が聞けば、先輩に来週まで預かっててくれって言われて、とあまり納得できない返事がきた。
「来週まで?」
「なんか、俺もよく分かんないんすけど」
くるくると竹串でたこ焼きを回しながら、夏太郎はその理由にあまり興味がなさそうだ。
「せっかくだからタコパしたいな〜って」
「まぁ、悪くはないな」
わざわざたこ焼き器を買おうとは思わないが、変わり種を試せるのは家でたこ焼きを作るときぐらいだろう。ビールを飲み、尾形は一人頷く。
キムチをそのままつまむと夏太郎が「あ!」と声を上げる。
「たこ焼きに入れるんですよ?」
「チーズと一緒にだろ?」
「そーです! だから……あ! もう!」
今度はたっぷりのマヨネーズで和えられたツナコーンを食べる。夏太郎の両手には竹串があり、次々といい焼き色になるたこ焼きが待っているのでつまみ食いを続ける尾形をどうすることもできない。
「ははは」
尾形は笑いながらビールを飲む。
テーブルの下で夏太郎が尾形の足を軽く蹴った。グラスを口につけたまま尾形はその足を自身の両足で挟む。多少の抵抗を見せた夏太郎の足だったが、意識がたこ焼きを回転させる方に向くと動かなくなった。
相手をしてもらえなくなった尾形は、夏太郎のパジャマの裾に足の親指をかける。爪を引っかけないように気をつけながら、すすーっと裾を上げて空いている左足でふくらはぎを撫でた。くすぐったそうに夏太郎が笑う。
「もー……はい、できましたよ」
「タコと」
「エビです」
ひょいひょいと器用にたこ焼きを小皿に取り分けるのを待ってから、尾形はそれらを全て半分に割っていった。
ソース、マヨネーズ、鰹節、青海苔を各々好みの量かける。尾形は鰹節多め、夏太郎はマヨネーズ多め。
「いただきまーす」
「いただきます」
大きく口を開けて熱々のたこ焼きをそのまま口に入れた夏太郎は、はふはふと声にならない声を上げている。尾形は半分に割ったおかげで少し冷めたたこ焼きを食べた。
「んまい」
「んふふ」
言葉にはなっていないが、夏太郎の表情を見れば言いたいことはよく分かる。たこ焼きが美味しくて熱くて、美味しいのだろう。
熱いのが分かっているのにどうしてそのまま食べるのか、と思いながら尾形はビールを飲み干した。夏太郎を見ると、向こうも飲み終わったようだ。
「シャンパンでも開けるか」
「たこ焼きにですか? おっしゃれ〜」
空き缶を回収した尾形が立ち上がると夏太郎も後からついてくる。今日は酔い始めるのが早いな、と思った。
「えへー!」
流しに缶を置いて夏太郎の頭を撫でる。顔を少し赤くした夏太郎は嬉しそうに棚からグラスを二つ出した。
シャンパンを開けながらパーティーだもんな、と呟いた尾形の声は泡と一緒に消える。
「尾形さん、乾杯しましょ!」
「はいはい」
これから朝晩お見送りとお出迎えをしてくれる小鳥を思い出す。あれはクリスマスが過ぎてもあそこにいるのだろうか。それとも電池がなくなるのが先なのか。
「かんぱーい!」
「乾杯」
夏太郎のことだからそのまま置いておくのだろうな。真夏に聞くクリスマスソングも悪くない気がした。