薬指は鉄の味 入鹿は葛城の指を掴んだ。握ればすぐに折れそうなほど、しなやかで華奢だった。
袖の奥から引き出された手の甲は白く、冷たい。薬指に目をやる。
入鹿は、ゆっくりと口を開いた。
そして、歯を立てる。「っ……」
葛城が息をのむ気配があった。だが、それだけだ。制止する声はない。入鹿は構わずに顎に力を入れた。皮膚に歯が食い込み、やがて小さな血だまりができる。
口の中に鉄の味が広がったとき、入鹿はようやく口を離した。唾液と血液で濡れた薬指には、赤い痕が残っている。
「抵抗しないのか」
葛城は答えない。ただ、少しだけ目を細めるだけだ。
その仕草は、入鹿の何かを試すようなものだった。入鹿は葛城を睨みつけるが、その瞳にはどこか迷いがある。
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