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    支部再録 のんびり更新中です

    ##K暁

    暁を 求める紫煙 煢煢と 沈む月光 行先示す 2柔らかな陽の光が差しこむ人の手のほとんど入っていない森に開けた空間があり、床も壁もないのにソファーとテーブル、そしてスタンド式の灰皿がある。突然の人工物は何故か空間に馴染んでいて二つの人影がある。一人はスーツにコートとごく普通の出で立ちをした四十歳程の男だ。自宅のように寛いだ様子で半ばソファーに寄りかかるように立ちながら煙草を吸っている。もう一人は白い小袖に緋袴という巫女装束を身にまとった二十代の男性だ。ソファーにだらしなく寝そべる背にはクッションにするように白銀の狐尾が四本ある。同じ毛の狐耳も頭から生えていて青年がヒトではないことは明らかだった。しかし狐男が中年を見上げる眼差しは慈愛にすら満ちていて、それに気づいた男の表情もまた穏やかだ。
    「オレの顔なんかずっと見てて飽きねえのか?」
    言葉の割に声が弾んでいるように聞こえるのは答えを知っているからだ。
    青年は外見の年齢の割に気の抜けた声でふふふと笑う。
    「KKが煙草吸ってる姿なんて三百年は見てられるよ」
    ただのヒトがそんなに長生きできるわけがない。そんな常識は飲み込んで男はそうかとソファーの背もたれに腕を置くと屈みこんで青年に煙を吐きかけた。
    「わっ、なに!?」
    純粋に驚き目をぱちくりさせる狐男に中年は目を細める。
    「KKたまにその悪戯するよね」
    「悪戯じゃねえよ……意味が知りたいか?」
    この空間に次にどんな家具が増えるのか楽しみだなと男は幸せを噛みしめた。

    アジトへの道も慣れたものだ。同行者には珍しいかと思ったが時々洞窟から見てるそうでもないらしく、しかし四本の尻尾が犬のように上下左右に揺れている。
    デートが嬉しいとか可愛いじゃねえか。こちらも四十過ぎて心が浮わついてくる。
    行き先がホテルならもっと良かったのだが。
    その尻尾が心配に思えるが適合者でなければ見えないし余程の能力者でなければ触れないらしい。オレはどっちもいけるのでピンとこないが通りすぎる人にも道に飛び出した看板にも当たることはない。
    ただ暁人の姿そのものは当然見えるので振り返る若い女だけでなく男もチラホラ。
    コイツ、やっぱり顔面偏差値が高いよな。前もモテただろうが家庭環境的にそれどころでなかったか。
    いや、意外と夜な夜な大人の女を引っ掛けて遊んでたかもしれねえなと自分の記憶から思い至ってイラっとする。どうせコイツに聞いても覚えていないしオレも他人のことは言えないが。
    「どうしたの?」
    「いや、何でもねえ。着いたぞ」
    アパートの階段を上り封印された扉を見せると
    「こうするんだよね」
    とチャイムを押した。すると札が光って扉が開いた。
    「お邪魔します」
    これが神か。思い返せばここに来るまでの信号全てを青だった。
    「お待ちしておりました」
    般若が恭しく出迎える。心なしか部屋が綺麗だ。当たり前だがオレと扱いが違うな。
    ただ面と向かえているだけ立派なのかも知れない。凛子と絵梨佳は顔を青くして奥に下がっている。エドとデイルは反対側の部屋で何か計測をしている。事前に本人に許可を取っているので大丈夫だろう。
    暁人は神様扱いに慣れているのか、猫又や狸がそうだったな、悠然とソファーに腰掛けて手招きした。
    「KKも座ってよ」
    「おう」
    虎の威を借る狐、ではなく狐の威を借る人間と化しているがむしろ暁人を調査研究馬鹿どもから守るためである。コイツら悪意がないので厄介だ。
    幸い、表の職業柄仲裁には慣れている。
    「般若も座って。貴方に聞きたいことがあって来たんだ」
    そう、デート先にアジトを指定したのは暁人の方だ。だからオレは般若らを無下にできず絵梨佳にコーヒーを頼む。
    「あっ、暁人さん?も飲みますか!?」
    「ありがとう、僕はいいよ」
    「絵梨佳、私の分も頼む」
    「わかった!」
    さて、と般若が腰を落ち着け手を組む。
    「私どもにどのようなご用かお伺いしても?」
    コイツの敬語、胡散臭えな。絵梨佳曰く普段から演技じみているのはフレンドリーにしてるつもりらしい。
    「貴方は頭がいいとKKが言っていたから、聞こうと思って」
    「お答えできるとは限りませんが」
    実は般若も緊張で冷や汗が凄かったらしい。
    全く気にしていない暁人はいいよとにっこり笑って
    「僕が神格を落として寿命を減らすのとKKを僕の使徒にして寿命を延ばすの、どちらがいいと思う?」
    と爆弾を落とした。
    一斉に声が上がる。貴重なエドの肉声も混じっていたはずだが追求する余裕はない。
    「何だそれ初耳だぞ!?」
    「同時に話した方が早いと思って」
    「突然合理性を出すな!」
    後ろでも使徒って何だ!?神格を落とすとは!?KKどうなっちゃうの!?と喧しいが般若が手を叩いて静かにさせた。
    「……正直に私の所見を申し上げても?」
    「いいよ。それにそんなに畏まらなくてもいい」
    「彼からA世界とB世界の話は聞きましたか?」
    暁人が頷くのを見て話を続ける。
    「統計ではなく彼の感覚ですが、A世界の怪異はB世界より少ない。考えうる理由は私が妻を甦らせるため冥界に接続しようと試みていないことと貴方がいることです。勿論前者の影響が大きいと推定しますが後者の数値を無視することはできません。何故ならこの世界には『新型コロナウィルス』が蔓延していない」
    そういや中国でそんな話が出て日本にも感染者が出たがすぐに弱毒化して沈静化したな。スペイン風邪と違って医療が発達したのと、島国故に水際対策が功を奏しているかと思っていたが。
    「僕は特に何もしてないけど」
    十中八九オマエがそう思ってるだけだろう。
    「他にも挙げればキリがありませんが。そして何よりもB世界に比べA世界の我々はエーテル能力を育てられていない。貴方の護りを失って、マレビトにどれほど対抗できるか」
    「それもそうか」
    暁人は般若の回答に納得したらしく、じゃあKK頑張ろうねとオレに笑顔を向けてきた。
    「いやオレは納得してねえんだが」
    「KKは僕と生きたくない?」
    可愛らしいおねだりにそのつもりではあるがと前置きして説明を求める。
    「オマエの使徒になるってのを具体的にどうやるんだ」
    「やり方は秘密、だけどKKは狐とか動物じゃなくて……前の世界の痩術鬼に近くなる、かな?」
    嫌な名前に思わず顔をしかめると暁人は慌てて顔の前で両手を振った。
    「でも見た目はそんなに変わらないはずだよ! 僕みたいに角とか隠せば人間社会でやっていけるから安心して」
    オレとしてはあの空間で二人でのんびり隠とん生活でもいいんだが。
    「私からも一つ宜しいですかな?」
    般若が割り込んでくるので睨み付けるがコイツに雰囲気は通じない。
    「本当の御用は他にあるのではないですか?」
    オレのは勘だがコイツのは理屈がある。それを聞いても聞かなくても結果は変わらないのでオレは暁人の方に顔を向けた。
    暁人はオレの顔を見て律儀に嬉しそうな表情を見せてから、初めて見るほどの真剣な雰囲気に変わった。
    「ダイダラボッチが来るんだ」



    『ダイダラボッチは日本の各地に伝承が残された巨人だ。足跡や土を掘った跡地が湖沼になり土盛りした場所が山になるという国造りの神だ。フジヤマや浜名湖も彼らに作られてたという伝承もある。由来は定かではなく「大太郎法師」やたたら製鉄法による土地開拓や災害とも言われているな』
    エドのボイスレコーダーに暁人はうんうんと頷き。大きくて強かったよねと言い出す。
    そうだ、オレたちはあの夜にダイダラボッチを見た。儀式の最終局面で黒くデカいヒトガタのダイダラボッチが東京タワーを囲んで、その腹の中が冥界と繋がっていたのだ。
    「待て、あんなモン勝てる気がしねえぞ?!」
    あの時は中に入って般若をぶっ飛ばして、それで消えたと思うが倒したわけではない。
    「倒さなくてもいいんだ。彼らは現象の具現化だから意思はない」
    「事象の収束ですね」
    「ああ!?」
    「本来起こるべきだった未来は事前に知って阻止しようとしても起こってしまう、ということよ」
    般若の一言に対する凛子の補足に暁人がまた首を縦に振る。
    「今コイツをぶちのめしてもしょうがねえってことだな」
    「ダメだよ!」
    飛び出してくる絵梨佳に冗談だと流して倒さないならどうすると問いかけると追い払うだけだと簡単なようで難しいことを言うので流石の般若も詳細を求める。
    「まず般若には冥界の門を開く儀式を行ってもらう」
    「ダイダラボッチをそこに追い払うのですね。妻と娘の力を借りても?」
    勿論と返す暁人に絵梨佳が喜ぶ。前は自分の無力さを嘆いていたし父親の助けになれるのは何よりも嬉しいだろう。
    「僕が狐の姿でダイダラボッチを門まで追い込むけど一体ずつじゃないと無理だからKKたちはダイダラボッチを誘導してほしい」
    「奴らの動きに法則性はあるのか?」
    「えーっと、儀式をするところを門にするとそこに集まるから」
    じゃあそれでいいじゃねえかと言えば般若たちも冥界に引きずり込まれて死んでしまうと返ってくる。流石のオレも今のヤツを殺したいわけでもない。
    『門を別の場所にすることは可能かい?』
    「試してみよう」
    コイツならやり遂げるだろう。非常に癪だが。そこでオレは矛盾に気づく。
    「だがダイダラボッチは儀式の方に行くんだろ?」
    「うん……だから……えっと???」
    『なるほど理解した、ボクらに任せてくれ』
    混乱する暁人に対してエドは何かしら思い付いたらしい。頭脳はアイツらに任せるのが一番だ。オレと暁人は現場を走り回るのが似合っている。
    「ねえ、一般の人はどうなるの?」
    絵梨佳の疑問にそういえばと考える。あの夜は儀式のせいで霧に飲まれて肉体を失い霊として回収されそうになっていたのをオレたちが邪魔した。
    これはわかるのか暁人の耳がピンと立つ。
    「ダイダラボッチに魂が引き寄せられて気絶する。そのままだ肉体と魂が引き剥がされるけど僕がいるから一晩なら大丈夫だよ」
    何にせよぶっつけ本番が過ぎる。しかも一つたりとも失敗ができない。あの夜は暁人に出会えた以外何一つ上手く行かなかったのに。
    大丈夫だよと暁人は呑気に笑みを浮かべる。
    「だってKKは渋谷のヒーローだから」
    それはオマエだよ。
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    32honeymoon

    TRAINING・先日アップした画像版に修正を加えて、今までとおなじ横書きにしました。前回読みにくかった皆様はよければこちらで。
    ・修正したのは暁人くんの心情描写が主です。まだKのことを好きになりかけてきたところで、信じる心と無くしてしまう不安の板挟みになっている雰囲気がちょっと出てないかなと感じたので、台詞回しを少し変えてみました。まあ内容は同じなので、再読頂かなくとも問題ないと思います…単なる自己満足。
    【明時の約束】「ねえ、KK。たとえば今、僕がこの右手を切り落としたとして、ーあんたの宿っているこの魂は、何処に宿るのかな」

    ー突然。自らの右手に在る、そのあたたかな光と靄のかかる手のひらに向かって、突拍子もないことを言い出したその体の持ち主に、KKは呆れたように何いってんだ、と返した。

    『ーオレの魂が宿る場所は、ココ、だろ。手を失ったとて、消えるわけがねえ。ああ、ただー大切なものが欠けちまったって言う事実に対して、クソみてえな後悔だけは、一生残るだろうな』

    気を抜いたままで容易に操れるその右手。ぶわりと深くなった靄を握り込むようにぐっと力を込めると、とんとん、と胸を軽くたたく。

    「後悔、?」
    『ああ、後悔だ』
    「どうして?これは、僕の体だ。例え使えなくなったとしても、あんたには何の影響も無い筈だよね。それとも、使い心地が悪くなったとでも文句を言う気?ーああごめん、言い過ぎたかも。…でも、そうだろ」
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