「けけの幸せな日常」暁人が朝と晩と天気予報を気にする季節が来た。今晩のテレビからは沖縄九州辺りの梅雨入り情報が気象予報士から伝えられる。こちらはまだ晴れが多いが、土日は生憎の雨模様、それも局地的に強い雨が降るとか。本格的に冬物を仕舞い込み夏支度をしたいのだろう。冬布団は既にオレを率いてコインランドリーで洗濯し、圧縮し終えているが季節外れの寒波に備えて厚手の長袖をいくらか残している。
生乾きは許されない。
暁人は計画を立ててトドメまで見守るタイプで、これに関してはオレは黙って指示に従うのみ。だが、オレも暁人に出会い、様々な経験を経て成長している。提案くらいは許されるだろう。
ハヤシライスのルーを入れて混ぜる暁人にさりげなく声をかける。
「暁人、オレが平日休みに洗濯しようか?」
「あ、その手があったね」
できるの?と疑いの目を向けられなくて安堵する。オレだってもう洗剤と柔軟剤を入れて特定のコースで洗濯機を回し、干すこともできる。更に言えば畳んで所定の場所に置いておくことも可能だ。
会社勤めの暁人と違い、オレはフリーランスだ。余程緊急の事態がなければ呼び出されることはないし特に日中はその確率も激減する。
「代わりに土曜は仕事が入った」
スマホにたった今入った通知を見て伝えると慣れている暁人はオッケーと軽い調子で応じた。オレも皿とスプーンとコップを出してテーブルに並べる。
「じゃあ朝の内にカゴに入れておくね」
「ああ、代わりにビール頼む」
箱で買っているがそろそろ尽きそうだ。一日一缶を許してくれる暁人はこれまた軽く返事をし、僕も買おうかなあと溢した。
「いいじゃねえか、華金と行こうぜ」
外で飲むのも勿論良いが、業務用スーパーや暁人お手製のつまみをアテに二人で気兼ねなく時間をかけて飲むのも良い。そのまま寝られるのも気が楽だ。
「いいけど、土曜は仕事が入ったんだろ」
「仕事は夜だから問題ねえよ。運転もないしな」
今回も近場の依頼だ。雨なら尚更天狗移動しても見つからないだろう。
濡れないよう合羽着なよ、という暁人君のありがたいお言葉を頂戴しながら出した皿に炊き立ての飯をよそう。旨そうなハヤシがかけられて、まあこういう普通の食事も十分に楽しいけどな。
「まあビールは別腹だよな」
「デザートみたいなこと言うなよ」
笑う暁人のいる生活を噛み締めてオレはプルタブに力を込めた。