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    住めば都

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    住めば都

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    ばーせか2023秋、開催おめでとうございます!
    展示作品です。楽しんでいただけたら嬉しいです。

    ボスキ夢。両片思いの二人がすれ違って傷つけあって、仲直りする話。
    明確な言葉はないけど、今のところボスキさんは十分のようです。

    ボスキさんお誕生日おめでとう! あなたは「執事として魅力がない」ってよく言うけど、そんなことは全くないよ!とても魅力的なひとで、自慢の執事です!

    #あくねこ夢
    cats-eyeDream
    #aknk夢
    #aknkプラス
    aknkPlus
    #ボスキ
    boskis.
    #ばーせか2023秋

    愛の言葉にかえて 入浴を終え、さっぱりした気分で二階の執事室へ戻る途中のこと。ボスキは階段を登りきったところで、主人の寝室から小柄な人影が出てくるのに気づいた。無意識に口角が上がる。かつて負った怪我のせいで片目しか見えていないボスキだが、彼女の姿を見紛うことはないという自信があった。
     声をかけようとして自分の服装を思い出したボスキは、登ってきたばかりの階段を数段降りた。羽織っただけのシャツのボタンを、可能な限り急いで止めていく。
     主人が屋敷で生活を始めたばかりのころは、風呂上がりに上半身裸のままうろついて、気まずそうな顔をさせたものだ。さすがにまずいかと思い、最近は脱衣場を出る際にシャツを羽織るようになったが、暑いのと面倒なのとで、前を閉めずにいることが多かった。
     こんなことなら、いくつかだけでも止めてから出てくるんだった。
     細かい作業に向かない右の義手に苛立って、舌打ちを一つ。あと二つ、というところで角の向こうから名を呼ばれた。
    「ボスキ?」
    「ああ。すまねえが、そこで少し待っててくれ。今、シャツのボタンを止めてるところなんだ」
    「ああ、うん。わかった」
     了承の声に、苦笑が混ざる。困ったような主人の表情が、まざまざと思い浮かんだ。今すぐその顔が見たくなり、ボスキは意識をボタンに集中させた。
    「……よし! 悪い、待たせたな」
    「気にしないで。シャツを着てくれるようになって、私もありがたいし」
     ようやく姿を見せたボスキに、主人はからりと笑ってみせる。立ったまま待たされたというのに、このひとときたら。ボスキは呆れ混じりに嘆息したが、もちろん嫌なわけではない。
     お人好しとでも言うべき寛容さは、彼女の数多ある美徳の一つだ。彼女が主人でなければ、ボスキは執事と名乗ることを許されなかっただろう。自分が貴人に仕える使用人としていろいろと足りていないことは、ボスキ自身が一番よくわかっていた。
    「それで、俺になにか用か?」
    「うん。実は、ボスキにお土産があって」
    「土産?」
     首を傾げたボスキに主人が差し出したのは、品のある包装紙でラッピングされた焼き菓子だった。今日は休日だった彼女は、買出しに行く執事について街へ出たのだという。その際に美味しそうな焼き菓子を見つけ、土産に買ってきたとのことだった。
    「もらっちまっていいのか?」
    「もちろん。というか、ボスキのために買ってきたものだから、受け取ってもらえないと困るな」
     笑顔の主人にそこまで言われては、断るほうが失礼だ。礼を失するだけで済めばまだいいが、ここでボスキが受け取らなければ、彼女は悲しそうな寂しそうな、傷ついた顔をするに違いない。
     ボスキにとって、それは本意ではなかった。できることなら主人には、いつも幸せそうに笑っていてほしい。そういうのは彼の柄ではないのだが、真実そう思っているのだから仕方がない。ボスキは大事そうに包みを受け取った。
    「ありがとな、主様」
    「うん、どういたしまして!」
     晴れ晴れと笑う主人に、ボスキも笑みを返す。わざわざ自分のために買ってきてくれたのだと思うと、最高に良い気分だった。
     用事は済んだという彼女を部屋へ送り届け、執事室に戻るまでの間――大した距離でも時間でもないが、ボスキは気を抜くと緩んでしまいそうな表情を引き締めるため、顔の筋肉を総動員しなければならなかった。

     執事室へ戻ると、作業の合間の休憩か、ハウレスが焼き菓子を食べていた。
     こんな時間まで仕事をしているのだから、まったく呆れてしまう。仕事は自分の好きなことか、本当に必要なこと以外はやりたくないタイプのボスキには、ハウレスの考えは全く理解できなかった。
     ボスキはハウレスの食べている焼き菓子を一瞥した。食べ物を視認して、ボスキの腹はぐうと情けない鳴き声をあげる。夕食が野菜をメインにした料理ばかりだったので、ボスキはあまり食べられなかったのだ。
     調理担当のロノは、好き嫌いをするなと怒る。ボスキとて、ロノが丹精込めて作った料理を残すことへの罪悪感が皆無というわけではないのだが、野菜はダメだ。こればかりは譲れない。
     好物というだけあり、ハウレスの買ってくる焼き菓子はなかなか美味い。いつもなら「よこせ」と声をかけるか、一つ二つ勝手にもらっていくところだが――今日のボスキには、主人からもらった土産がある。
    「……珍しいな。ボスキが焼き菓子を取っていかないなんて」
     ボスキはハウレスの横を素通りして、自分のベッドに身を投げた。ハウレスは独り言ち、奇異を見るような目を向けてくるが、ボスキの機嫌は上向いたままだ。主人の土産の効果は絶大だった。
    「お前からもらわなくても、いいものがあるんでな」
     ボスキはにやりと好戦的な笑みを浮かべると、大事に抱えていた袋から菓子を一つ取り出した。そして見せつけるように、それを口へ放り込む。
     途端、口の中にじゅわりと広がるのは、バターの滋味。はちみつの優しいけれどコクのある甘さ。そして、焼けた小麦の香ばしい匂い。ボスキ好みの味だ。主人が自分の好みを把握してくれていることが、また嬉しかった。
    「……美味そうだな」
    「ああ、美味いぜ。お前にはやらねえけどな」
     より正確に言うのなら、“ハウレスには”ではなく“他の誰にも”だが。あのとき主人は「ボスキに」と言った。だからこれは、ボスキだけのものだ。
     幼稚な独占欲だと思わなくもない。その一方で、普段は主人を囲って独占するのを我慢しているのだから、もらったものを独り占めするくらいは許されるべきだろうとも思う。
     彼女はこの屋敷で暮らす執事たち全員の主人だ。ボスキだけの主人であればいいのにと時折考えるけれど、それは叶わない。
    「くっ……お前、いつも散々俺の焼き菓子を食っておいて……」
    「ちっ……うるせえな、そのうち返してやるよ。だが、これは絶対にやらねえ」
     いつものボスキなら、知らねえなととぼけるところだ。だが、仕返しにこの焼き菓子を取られてはたまらない。ボスキは代わりの焼き菓子を買いにいくため、脳内でスケジュールを調整し始めた。
     そんなに美味いのかと首を傾げるハウレスに、真実を教えてやる義理はない。ボスキはあしらうように鼻で笑って、袋を大切そうに棚の奥へしまうのだった。



     そんなことがあってから、主人はちょくちょくボスキに土産を持ってくるようになった。
     最初はボスキも純粋に喜んでいたのだが、回数を重ねるにつれ、徐々に疑問を抱き始める。こればかりは生来の性分なので仕方ない。ボスキはよく言えば慎重で――言葉を選ばずに言うなら、疑り深い性格だった。
     というのも、主人から定期的に土産をもらっているのは、どうやらボスキだけのようなのだ。なにか理由があるのではと、邪推したくもなるだろう。
     ボスキは主人やほかの執事たちに気づかれぬよう、探りを入れることにした。
     といっても、行ったのは特別なことではない。昼寝の場所を最近彼女が気に入っている散歩コースのそばにするとか、暇を見つけては彼女とほかの執事が談笑しているところに顔を出すとか、その程度だ。
     主人の行動を訝しく思いはするけれど、その人柄を疑っているわけではない。彼女がひたすらに善良であることを、ボスキはもう知っていた。
     ただ、知りたかった。ボスキだけに土産を買ってくるその意味を。手渡される焼き菓子に込められた思いを。それがもし、ボスキの抱えている感情と同じものであったなら。そんな淡い期待もあった。

     ボスキは丁寧に刈り込まれた生垣の影で、ごろりと身を横たえていた。主人の好きな散歩コースの、休憩地点のすぐそばだ。
     夏の盛りに比べればだいぶ穏やかになった陽光が梢の隙間から差し込んでいる。なんとはなしにその景色を眺めていたボスキは、夏の終わりに彼女の散歩につき合ったときのことを思い出した。
     まだ夏の暑さが抜けきらずにいたあの時期、主人のお気に入りは森を抜けて湖まで向かうコースだった。青々とした葉の天蓋に夏の日差しが燦々と降り注いで、木漏れ日がきらきらと輝いていた。
     あのとき、眩しげに目を細め景色を楽しんでいた主人は、ふとボスキを仰ぎ見て「ボスキの目の色に似てるね」と言ったのだ。
     片方しかない自分の瞳が、美しいものとして彼女の目に映っている。そのことに、新鮮な驚きを覚えたものだ。
     右目の傷を負ってからというもの、ボスキは顔を仮面で隠し、ろくに鏡を見ることもしなかった。醜いばかりだと思っていたから。なのに、あのひとときたら。唇が、溢れた感情を隠し切れずに歪む。
     彼女のそういうところが、たまらなく――――。ボスキは彼女の、執事だというのに。
    「……ふむ」
     ふと思いついて、普段はなかなか入らないボスキの仕事のスイッチが入る。なんとかして、この景色を彼女の寝室かシッティングルームのどちらかに再現できないものか。
    (……窓の大きいシッティングルームのほうが再現しやすいだろうな。蔓性の植物を、吊るしたネットかなんかに引っ掛ければいけるか? あとでアモンに相談してみるか)
     観葉植物にはリラックス効果がある。これまでにない大胆な設置になるだろうが、主人を癒すためだと言えば否を唱える者はいないだろう。陽を受けて輝く緑を見るたび自分を思い出せばいいなどという下心は、ボスキが黙っていれば誰にもわからないのだから。
     そんなことを考えていると、屋敷のほうから楽しそうな声が近づいてきた。一つは鈴を鳴らすような声。聞いているとなぜか心が落ち着く、主人のものだ。もう一つは穏やかな低い声。毎日、耳にタコができるほど聞いているハウレスのものだった。
     そういえば、今日の主担当はハウレスだった。ここで休憩していることがバレたら面倒だ。
     ボスキは素早い動きで身を起こすと、元いた場所から少し離れた木の影で息を潜める。その場を離れるタイミングを伺っていると、運動着姿の二人が生垣の向こうに姿を現した。
    「主様、ここで少し休憩しましょう。こちらへどうぞ」
    「うん。ありがとう、ハウレス」
     ハウレスが木陰に敷物を広げ、そこへ主人が腰を下ろす。完璧な仕事ぶりが鼻につく同期はさらに、腕に下げていたバスケットから飲み物のボトルと軽食を取り出した。もはや休憩というよりピクニックだ。
    「そういえば、最近ボスキにストックしている焼き菓子を取られることが減ったんです」
     主人がマドレーヌを食べるのを見守っていたハウレスが、思い出したように言った。真面目を絵に描いたような男が、愚痴とも弱音ともつかない内容を主人に話しているのは甚だ意外だった。
     だがまあ、その気持ちはわからなくもない。彼女と話しているとどうにも調子が狂うのは、ボスキも一緒だから。
     誰にも知らせず心の奥にしまっておこうと思っていたことを、主人にはうっかり零してしまう。それは、彼女がボスキたち悪魔執事を、一人の人間として扱ってくれるからに違いなかった。人間なのだから弱いところがあっていいのだと、赦されているような心地になるのだ。
     事実、許してくれているのだと思う。ボスキが心の暗がりを吐露すると、彼女はいつも嬉しそうにする。話してくれて、頼ってくれてありがとうと、礼を言いさえする。そんな人間は、この世界のどこを探したって、彼女以外には見つけられないだろう。
    「そうなんだね。……ふふ、そっかそっか。そうなんだ」
     得難いひとを主人に得た幸いに思いを馳せるボスキの向こうで、主人がハウレスに相槌を打っている。彼女は思わずといったふうに笑みを零し、楽しげに声を転がした。そして、満開の笑顔を浮かべる。幸福を煮詰めたようなとろりとした三日月の瞳を、ボスキではない男に向けていた。
    「良かったね、ハウレス」
     その表情と喜悦の滲んだ声は、ボスキに一つの確信をもたらした。ボスキに贈られたあの土産の数々は――全ては、ハウレスのために成されたことだったのだ、と。

    「あ、ボスキ!」
    「……主様」
     その日の夕食後。ボスキは言葉に表せない苛立ちを発散しようと、庭で剣を振るっていた。
     気分が晴れないときは、体を動かすに限る。疲れたら心ゆくまでサウナに入り、さっぱりしたら、後は寝てしまうのだ。朝になれば、大抵のことはどうでもよくなっている。
     主人が訪ねてきたのは、乱れた感情を整えようとしている途中のことだった。タイミングが悪いなと思ったが、まさか主人に向かって悪態をつくわけにもいかない。ボスキは刀を鞘に納め、運動着の袖で適当に汗を拭った。
    「ここにいたんだね。こんな時間まで、鍛錬お疲れさま。これを渡そうと思って探してたんだ」
     そう言って、彼女が差し出したのは、ほんのりと甘い香りの漂う小さな包みだった。
     ボスキは頭にカッと血が上るのを感じた。せめてこれが明日の朝であればと、僅かに残った冷静な部分が嘆息する。鬱憤を発散した後であったなら、もっと違う応えができたのに、と。
    「…………ぇ」
    「うん? なあに?」
    「いらねえ、って言ったんだ」
    「え……?」
     ボスキが示したのは、完全なる拒否だった。痛いくらいの沈黙が、細い糸となって二人の間に張りつめた。主人は二の句も告げず、包みを差し出した姿勢のまま固まっている。
    「用がそれだけなら、俺はもう行く。……主様も早く部屋に戻れよ。夜は冷えるからな」
     ボスキは視線も合わせずそう言って、動けないままの彼女の横をすり抜けた。
     だから、気がつかなかった。暗色の瞳が、涙の幕に覆われていることに。彼女の手の中の包みが、いつもの土産に比べるとやや歪なラッピングであることに。



     ハウレスとの模擬戦を終えたボスキは、動き回って乱れた髪をアモンに整えさせていた。
    「ねえ、ボスキさん」
    「なんだよ」
    「ちょっ、頭動かさないで!」
     アモンが名を呼ぶから見上げただけだというのに、力ずくで元の位置に戻される。首筋からぐき、と嫌な音がした。
     模擬戦でいつものように実力が発揮できず、ただでさえ苛立っていたボスキは、後輩の振舞いにも腹を立てて盛大に舌打ちをした。だが、ここで感情任せにアモンの手伝いを断って、後で困るのはボスキのほうだ。そもそもは、細かい作業に向かない義手のせいで、仕方なしに他人の手を借りているのだから。
    「ったく……用もないのに呼ぶんじゃねえよ」
    「用っていうか……いつになったら主様と仲直りすんのかな〜と思って」
    「……仲直りもなにも、別に喧嘩したわけじゃねえ」
    「でも"なにか"はあったんでしょ?」
     アモンは「オレらの主様は、嘘のつけないお人ですからね〜」と続ける。その楽しげな様子は苛立ちを煽ったが、ボスキは沈黙を返した。しかし、主人が嘘をつけないという点に関しては、完全にアモンと同意見だった。
     あれから――主人は、あからさまにボスキを避けるようになった。
     一応、顔を合わせれば挨拶くらいはする。だがこれまでの彼女は、ボスキの姿を見かけるや否やニコニコと駆け寄って、あれこれと話しかけるのが常だった。態度の差は歴然としている。
     極めつけとばかりに、先日ボスキが主人の担当を務める予定の日、彼女は屋敷に顔を出さなかった。これではなにかあったと吹聴しているようなものだ。よほどの朴念仁でも、二人の間になにかがあったと気づくだろう。
     実際、心の機微に疎いハウレスやバスティン、そもそも他者に興味のないラトまでもが、なにかあったのかとボスキに聞きに来たくらいだ。
    「そんなことより、アモン。この間頼んだ件は調べてくれたのか?」
    「ああ、シッティングルームに木漏れ日をつくるって、あれっすよね。もちろん、ちゃんと調べてありますよ」
     アモンは丁寧に櫛を通していた長髪を手早く結うと、燕尾服のポケットからメモを取り出した。
    「要するに、グリーンカーテンみたいにしたいんすよね? 秋冬にかけて作るとなると、アイビーか、四季咲きのクレマチスか……種類は限られてくるっす。どちらにせよ、手入れのことを考えると室内、それも高いところにってのは、かなり難易度が高いっすね」
    「それをどうにかすんのがお前の仕事だろ」
    「それはまあ、そうっすけど……でも、日差しを遮る内装にしちゃうと、これからの時期は部屋が寒くなるんじゃないっすか? やるならシッティングルームより、コンサバトリーのほういいと思いますけど。あっちのほうが多少は手入れもしやすいし」
    「……まあ、そうだろうな」
     無茶振りを正論で叩き返される。ボスキを慕って世話を焼いてくるこの後輩は、仕事が関わると相手が誰であれ容赦がなくなるのだ。それだけプライドを持って仕事に取り組んでいるということでもある。
     インテリアのことならばともかく、植物の知識ではボスキはアモンに敵わない。反論の材料を失って、ボスキは組んだ足に片肘をついた。
     このところ、上手くいかないことばかりだ。ため息をついても、腹の辺りに蟠った靄は一向に晴れる気配がない。
    「これは……かなり重症みたいっすね〜」
     呆れた調子のアモンの言葉に、ボスキは聞こえなかった振りをした。

     それからというもの、ボスキはコンサバトリーに入り浸るようになった。
     麗らかに陽の差すコンサバトリーは暖かく、美しく整えられた植物の癒し効果も相まって、昼寝にはもってこいの場所だ。平生であれば午睡に励むところだったが、ボスキは懇々と思考を巡らせた。
     アモンの言うとおりだった。グリーンカーテンを設置するなら、シッティングルームよりコンサバトリーのほうがよほど向いているのは間違いない。だが、ここにはすでに背の高い植木がいくつかあり、新たに作らずとも木漏れ日を楽しめる。それに、普段彼女が過ごす場所にあの景色を作りたいという、最初の思惑から外れてしまう。
     我ながら女々しいなと思って、ボスキは嘲笑を零した。主人が他の男を見ているとわかっていてもなお、自分を連想する風景を、彼女の生活空間に作ろうとしているのだから。
    (あるいは……だからこそ、か)
     彼女の視線の先に、誰がいたとしても。ボスキと過ごした時間も交わした会話も、決して失われはしないのだと。そのよすがとなるものが欲しいのかもしれなかった。
    「……ん?」
     手入れのしやすさや、部屋の光度の維持、どの植物を使うかなど、課題は山積している。考え込んでいたボスキは、コンサバトリーへ入ってくる誰かの存在に気づくのが遅れた。
    「っ、ボスキ……」
    「……主様。帰ってきてたのか」
     固い声でボスキを呼んだ主人が、表情を凍りつかせる。彼女はわななく唇で、早口にまくし立てた。
    「うん! ボスキは休憩中だった? 邪魔してごめんね、すぐ出ていくから」
    「いや、邪魔ってわけじゃ……」
     引き止めようとしたボスキの言葉を振り切って、主人は踵を返してしまった。追いかけるべきか逡巡したが、彼は結局、その場に留まることを選んだ。
     追いかけて、捕まえて。その後はどうする?
     せっかく用意してくれた焼き菓子を「いらない」と突っぱねたのが、彼女に避けられている原因だとわかっている。だが、あれがボスキのために用意されたものでない以上、受け取るという選択はできなかった。いや、ある意味ではボスキのものなのだろうが、問題はそこではないのだ。
     何度差し出されようとも、ボスキには受け取れない。例えばあの日をやり直せたとして、彼は主人を傷つける結果を知りながら、同じ行動を繰り返すだろう。
     そうである以上、謝るのはきっと違う。彼女との関係をどうにかしたいとは思っているが、取るべき方策がわからない。八方塞がりだった。
    「はあ……。ボスキ、お前がここまで頑なだとは思わなかったぞ」
     むしゃくしゃしているボスキに、声を掛けてきたのはハウレスだった。傍らにはティーセットを乗せたワゴンがある。
     察するに、彼はここにボスキがいることを知っていて主人を連れてきたのだろう。仲直りのきっかけを作ろうとしたのだということは、説明されるまでもなかった。
    「ちっ……余計な真似しやがって」
    「なんだと!? お前、主様のあの表情を見て、なんとも思わないのか!?」
    「……うるせえな」
     低く吐き捨てて、ボスキは奥歯を食いしめた。
     なんとも思わないはずがない。彼女はボスキにとって、世界でいっとう大事なひとだ。彼女を傷つけようとする全てのものから、必ず守り抜くと決めた。幾度となく、声にも出して誓ってきた。
     だというのに――全てから守ると告げたボスキ自身が今、彼女を深く傷つけている。
    「んなことは、俺が一番よくわかってる……!」
    「だったら……!」
    「お前になにがわかる!」
     彼らしい高潔さで諭してくるハウレスがいい加減鬱陶しくて、ボスキはとっさにその胸ぐらを掴んでいた。こんなのはただの八つ当たりだ。だが頭でわかっていても、今さら引き下がれない。相手がハウレスならば、なおさら。
     だいたい、主人が傷ついて落ち込んでいるというなら、ハウレスが寄り添って慰めてやればいいのだ。輝くばかりの笑顔をもらっておいて、ボスキが望んでも手に入らなかったものを手にしておいて、なぜ彼女の震える背を抱きしめてやらないのか。
    「……手を離せ」
    「ああ?」
     不意に、ハウレスの声から感情が消えた。シャツの首元を掴んだままだったボスキの手に、ハウレスの手が伸びる。かと思うと次の瞬間、ボスキは手首を逆方向へ捻られながら引き剥がされる。同時に、顔をめがけて拳が飛んできた。
    「ちっ」
     紙一重で躱したボスキが体勢を立て直すより先に、今度は彼のほうがハウレスに胸ぐらを掴まれていた。
    「うぐ……て、めえ……なに、しやがる……!」
    「先にやってきたのはお前だろう、ボスキ」
     長めの前髪からのぞくハウレスの紅い瞳には、灼熱の怒りが燃えたぎっていた。ボスキは首を締めあげられたまま、体を宙に持ち上げられ、為す術もない。馬鹿力めと、内心で毒づくのが精々だ。
     とはいえ、ハウレスの怒りは最もだった。ボスキとて、自分が彼の立場であれば、やはり胸ぐらを掴んで締め上げただろうし、拳の一発や二発はお見舞いしていただろう。
    「え、えええ!? ちょ、ちょっと、ハウレス!? なにやってるのさ!!」
    「……フェネス」
     緊迫した空気を裂いたのは、長身の同僚の、慌てたような悲鳴だった。我に返ったらしいハウレスの手から、ふっと力が抜ける。
    「わ、わわ! ボスキ、大丈夫!?」
     ボスキは地面に放り出された。せき止められていた空気が一気に肺に流れ込み、苦しげに咳込む。フェネスの大きな手が背を摩ってくれるが、気が動転しているせいか、やや乱暴な手つきだ。気遣ってくれているやら、追い打ちをかけているやら。
    「なんでこんなことになってるの!?」
    「いや……その、なんというか、だな」
     先ほどは容赦なく締め上げてきたハウレスだったが、冷静になった今、やりすぎたという思いがあるらしい。尤も、最初に手を出したのはボスキのほうなのだが。
     言い淀むハウレスに、フェネスの目つきが徐々に険しくなる。膝をついていたフェネスがゆらりと立ち上がり、二人を見下ろした。背が高く、がっしりとした体つきであるせいで、そうしていると妙に威圧感がある。
    「ハウレス、ボスキ」
    「……はい」
    「……ああ」
     普段穏やかな人間ほど、怒らせるとやばいとよく言う。このフェネス・オズワルドという男も、その例に漏れなかった。

    「……なるほどね。ボスキに発破をかけるならハウレスが適任だと思って行かせたけど、ハウレスのほうに火が着いちゃったのか。まあ、気持ちはわからなくもないよ。でも、あれはちょっとやりすぎだと思う」
    「う……すまん……」
     面目無いと項垂れるハウレスは正座をしている。ボスキも正座だ。眠れる獅子をわざわざ起こしてやる必要はない。
    「……ねえ、ボスキ」
    「あ、ああ。なんだよ、フェネス」
     大仰にため息をついたフェネスに名を呼ばれ、ボスキはぴくりと肩を揺らした。今の彼は、いつも自信なさげにしている男と同一人物とは思えないほど、鋭い眼差しをしている。
     主人のことを大切に思っているのは、ハウレスだけではない。この屋敷の執事たちは皆、それぞれ主人に対して特別な思いを抱いているのだ。フェネスの言葉は、ここにはいない残りの十三人と一匹を代表するものなのではと思い至り、ボスキはなにを言われるのかと身構えた。
    「まずは主様と、ちゃんと話をするべきだと思うよ。俺には、二人の間になにか誤解があるように見えるから」
    「誤解……?」
    「うん。……ふふ」
     頷くと、フェネスは笑みを零した。真剣に悩んでいるボスキとしては、もちろん面白くない。目の前にいるのが羊の皮を被った猛獣と知りつつ、つい憮然とした表情になってしまう。
    「おい、なに笑ってんだ」
    「ふふ、ごめん……近すぎて見えないものもあるんだなあと思ったら、なんだか可笑しくてさ」
    「近すぎて、見えない?」
     わけがわからないといったふうのボスキに、正座のままのハウレスまでため息をつく。
    「知らぬは当人ばかりなり、か。全く、世話の焼ける……」
    「お前に世話を頼んだ覚えはねえよ」
    「なんだと!?」
    「ちょっと、二人とも?」
     言い争いを始めそうになった二人に、フェネスがにっこりと笑顔を向ける。その後ろに般若の姿が見えたのは、ボスキの目の錯覚では決してないはずだ。ハウレスもまた、ぴたりと口を噤んでいたから。



     ロウソクに照らされたシッティングルームには、暖炉の火が爆ぜる音だけが響いていた。
     ボスキは主人が来るのを待っていた。日中、少々乱暴に背を押してくれた同い年の二人が、絶対にそうしろと言うので。
     しかし、本当に主人が来るのか、正直なところボスキは半信半疑でいる。昼のコンサバトリーで、逃げるように去っていった彼女を見たあとではなおさらだ。
     とはいえ、唐変木のハウレスはともかく、他者をよく見ているフェネスが一枚噛んでいるとするなら、可能性はゼロではないかもしれない。その思いが、ボスキをその場に留まらせていた。
     主人に会って、最初になにを言うべきか、まだ考えはまとまっていない。
     フェネスは、互いに誤解があるようだと言っていた。その誤解とやらがなんなのか、ボスキには見当もつかない。だが、それがわかれば、言うべきことはおのずから明らかになるような気もしていた。なにより、これ以上彼女から避けられるのは、ボスキが耐えられない。
     コン、コン、コン。やがて、控えめにノックの音が聞こえた。ボスキは大股で部屋の出入口へ移動して、ゆっくりとドアを開け、向こうを伺う。
    「あ、えと……こんばんは、ボスキ」
    「ああ……こんばんは、主様」
     久々に向かい合った二人は、ぎこちなく夜の挨拶を交わした。主人に立ち話をさせるわけにもいかないと、ボスキは彼女を部屋へ招き入れ、椅子を勧める。
     腰を下ろした主人の膝に、ボスキはさっとブランケットを被せた。すぐに飲み物も用意して、カップを傍のテーブルに置く。ひとまずはこれで、ハーブティー一杯分の時間は確保できたはずだ。
    「……ありがとう」
    「いや。他になにか必要なものがあれば言ってくれ」
    「うん……ごめんね、ボスキ」
     主人はしょんぼりと項垂れて、後悔の滲む声で言った。ボスキは息を呑んだ。まさか彼女のほうから謝ってくるとは。どうやって話を切りだしたものか、何十パターンも考えていたボスキからすれば、完全に出鼻を挫かれた形だ。
     困ったように頬をかき、ボスキは彼女の足元に跪く。見上げるように顔を覗き込むと、ようやく視線が絡んだ。涙こそ浮かんでいなかったが、炎の光で煌めく瞳は、不安そうに揺れていた。
    「主様が謝ることなんか、なにもないだろ。俺のほうこそ、悪かった。せっかく用意してくれたもんを、あんなふうに突っぱねちまって」
     謝罪の言葉は、ボスキが予想していたよりずっと簡単に口をついた。こんなにあっけないものかと、拍子抜けするくらいだ。
     主人はふるふると首を横に振った。見上げた顔がくしゃりと歪む。彼女が瞼を伏せたせいで目が合わなくなって、それがボスキには無性に寂しく感じられた。
    「……私が、調子に乗ったから。ボスキが私の渡したお菓子を食べてくれてるって知って、嬉しくて。もしかしたら手作りでも受け取ってくれるかも……って」
    「はあ!? 手作り!? 主様の!?」
     思いがけない言葉に、ボスキは床についていた膝を浮かせた。その勢いのまま椅子の肘掛けに手をついて、身を乗り出す。自然、椅子に座ったままの主人と顔が近づいたが、ボスキはそれどころではない。
     彼女のほうは驚いて、背もたれに限界まで身を寄せた。だが、いずれにせよ行き止まりのため、思うようには離れられない。ボスキの片目に自分の顔が映っているのに気づいて、彼女はドギマギしながら答えた。
    「え? う、うん。……あれ? 気づいてたんじゃないの?」
    「いや……まったく……」
     ボスキは椅子の手すりに手をかけたまま、くずおれた。そういう大事なことはもっと早く言ってくれと、恨み言が喉元まで出かかったが、話を聞かずに「いらない」と突き放したのはボスキだ。
     主人の手作りを食べる機会をふいにしてしまうとは、なんともったいないことをしたのか。顔を覆って語彙の限りに、しかし声には出さず自分を罵倒していたボスキは、重要なことに気づいて顔をばっと上げた。
    「主様! 俺にくれるはずだった手作りの菓子は、その後どうしたんだ!? ほかのやつにやったのか!?」
    「え、いや……自分で食べたよ。あれは、ボスキに渡そうと思って作ったものだから。ほかの人に渡す気にはなれなくて……」
    「そ、そうか……ならいい。いや、良くはないな……ああ、くそ……」
     主人の手作りを食べ逃したことを、ボスキは本気で悔しがっている。彼女は最初こそ呆然としていたが、やがてふくふくと笑い声を立て始めた。くしゃりと笑顔が綻ぶ。久々に見る主人の楽しげな表情に、ボスキも毒気を抜かれてしまった。
    「ねえ、ボスキ。食べたかったって、思ってくれた?」
    「当たり前だろ。あの日の自分を、殴り飛ばしてやりたい気分だよ」
    「ふふ、そっか」
     じゃあさ、と。そこで言葉を切った主人が、ボスキを見つめる。浮かんだ切なげな表情は、ボスキの態度がどれほど彼女を傷つけたのか物語っていた。
    「どうして受け取ってくれなかったのか、聞いてもいい?」
     問いかけられて、ボスキはぐっと息を詰めた。
     ここまで主人の話を聞いた限りでは、ボスキが的はずれな勘違いしていたことは明らかだった。早とちりで傷つけてしまったのだから、きちんと説明をしなければ、彼女も納得できないだろう。
     だが頭ではわかっていても、ありのままを伝えていいものかどうか、ボスキは判断しかねた。なぜならそこには、執事が主人に向ける感情としては、あるまじきものが混ざっているからだ。
     幾ばくかの逡巡の末、ボスキは詰めていた息を吐き出した。
     ここで気持ちを隠すことに、どれほどの意味があるだろう。ボスキは先日、言葉が足りずに大切なひとを傷つけた。ならば、同じ轍を踏むことは避けるべきだ。今度こそ、彼女を全てから守り抜くために。
    「あんたが俺に菓子をくれるのは、ハウレスのためなんじゃねえかと思ったんだよ。俺が、あいつの買ってきた焼き菓子を勝手に食っちまうから。それを防ぐためなんじゃねえかってな。それが、面白くなかっただけだ」
     ボスキはやや俯きながら、あの日の苛立ちを偽りなく主人に伝えた。とてもではないが、彼女の顔は見られない。
     要するに、ボスキはハウレスに対して、幼稚で身勝手な嫉妬心を抱いたのだ。言葉にするとそれが非常によくわかって、いたたまれない。
     答えを聞いた主人は、沈黙を守っていた。呆れられたか、嫌われたかと、恐る恐る彼女の様子を伺って、ボスキは目を瞠った。顔を真っ赤に染めた彼女が、小さな口を両手で押さえて震えていたからだ。
    「主様……」
    「えっと……えっとね」
     耳まで朱に染めたまま、主人は一生懸命言葉を紡ごうとしていた。羞恥のせいか潤んだ瞳は、まっすぐにボスキを見つめている。
     誤解があると、フェネスは言っていた。確かにそのようだ。
     どうして、ハウレスに気があるなどと思ったのだろう。この様子を見れば、彼女がボスキに心を傾けていることは、疑いようもないというのに。
    「ゆっくりでいいぞ。ちゃんと聞いてるからな」
     そう言って、ボスキは両膝を床に立て、椅子の肘掛けに腕をついた。左手で、すべらかなりんご色の頬を撫でる。彼女はぴゃっと身を跳ねさせて、俯いてしまった。なんとも愛らしい反応だ。
    「言い訳に……してたところは、あるの。ボスキはハウレスのお菓子を食べちゃうからって。それなら、ボスキだけにお土産を買っていく理由にできたから。でもね――」
     離れがたくて触れたままの手に、主人が手を重ねる。
    「ボスキに、喜んでほしかった。ただ、それだけだったんだよ」
     ふわりとはにかんだ顔に、ボスキは見覚えがあった。
     夏の終わりごろ。木漏れ日を見て、ボスキの目の色に似ているねと言った彼女は、確かこんな顔をしていた。それはあのときハウレスに向けられていた笑顔より、よほど眩しく、輝いていた。
    「なあ、主様」
    「うん」
    「今、この部屋の新しい内装について考えてるんだ」
    「そうなんだね! どんな内装にするの?」
     わくわくする気持ちをそのまま映した表情を向けられて、ボスキは愛おしさに目を眇めた。
    「木漏れ日を作ろうと思ってる。あんた、あの景色が好きだろう」
    「うん! だって、ボスキの瞳みたいだから」
     衒いなく返された言葉は、愛の告白にしか聞こえない。ボスキは仮面だけでは隠せないほど頬を赤らめ、小さく呟いた。
    「ったく……勘弁してくれ」
     その景色を、共に過ごした時間の、交わした言葉の証明にするつもりだった。だが、この室内に木漏れ日が完成するころには、帯びる意味合いがまったく異なっているかもしれない。
     そうであればいいと願って、ボスキは口角を上げた。どちらにせよ、日を浴びて輝く緑を見るたび、主人がボスキ思い出すことには、変わりなさそうだ。
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    住めば都

    DONEあくねこ、ルカス夢。
    いつもドキドキさせられて悔しい主様が、意趣返しのつもりで「ルカスは冗談ばっかり」と返したら、実は全部本気の本心だったと暴露される話。

    交渉係を務めて長い男が、自分の思いに振り回されて本音を隠せず、苦し紛れに冗談だよって見え見えの誤魔化し方しかできないのめちゃくちゃ萌えるなと思うなどしました
    いっそ全部、冗談にしてしまえたら 目の覚めるような美人ではない。愛嬌があるわけでも、聴衆を沸かせる話術を持つわけでもない。
     至って普通。どこにでもいそうな、地味で目立たないタイプ。――それが私だ。
     おおよそ三十年かけて築き上げた自己認識は、異世界で出会ったイケメン執事たちに「主様」と呼ばれ大切にされたところで、簡単に揺らぐようなものではない。
    「フフ、主様といられる時間は、本当に幸せです♪ この時間が、永遠に続けばいいのになあ……」
    「はいはい。全く……ルカスったら、冗談ばっかり言うんだから」
     上機嫌に微笑む担当執事を、私は半眼で睨みつけた。
     ルカスとアモンは、口説くようなセリフをよく言ってくる。恋愛経験の少ない私はそのたび顔を赤くしてドギマギしてしまうのだが、彼らの思惑どおりに翻弄されるのを、最近は悔しいと感じるようになっていた。
    1884

    住めば都

    DOODLEあくねこ。ナックとハンバーグの話。友情出演、ロノとテディ。
    執事たちの話題に上がるだけですが、美味しいもの大好き自称食いしん坊の女性主様がいます。
    後日、お礼を伝えられた主様は「私が食べたかっただけだから」と苦笑したそうです。

    お肉が苦手なナックに豆腐ハンバーグとか大根ステーキとか食べさせてあげたい気持ちで書きました。
    美味しいは正義 今日に夕食のメニューは、ハンバーグだ。
     食堂に向かう道すがらで会ったテディが、鼻歌混じりで嬉しそうに言うのを聞いて、ナックは落胆の気持ちを曖昧な笑顔で濁した。
     ナックは肉全般が苦手だ。メインが肉料理の日は食べられるものが少なく、空腹のまま夜を過ごすことも多い。
     だが、ハンバーグを心から楽しみにしているらしい同僚に、それを伝えることは憚られた。食事は日々の楽しみだ。テディには心置きなく、好物を味わってほしい。
     食事の時間は一応決まっているが、執事たちは全員揃って食事を取るわけではない。一階や地下の執事たちはそろって食べることが多いようだが。
     決められた時間内に厨房へ顔を出し、調理担当に、食事に来たことを告げる。そうして、温かい料理を配膳してもらうのだ。
    2130

    住めば都

    MEMO2023クリスマスの思い出を見た感想。
    とりあえずロノ、フェネス、アモン、ミヤジ、ユーハン、ハナマルの話をしている
    執事たちが抱く主様への思いについて現時点で、あるじさまへの感情が一番純粋なのはロノかなという気がした。
    クリスマスツリーの天辺の星に主様をたとえて、でもそこにいるのは自分だけじゃなくて、屋敷のみんなも一緒でさ。
    主様と執事のみんながいるデビルズパレスを愛してるんだなあということがとてもよく伝わってきて、メインストのあれこれを考えると心が痛い。ロノの感情と愛情が純粋でつらい(つらい)

    なぜロノの贈り物にこんなに純粋さを感じているかというと。
    手元に残るものを贈っている面々は、そもそも根底に「自分の贈ったものを大切に持っていてほしい」という思いがあるはずで、贈った時点である意味主様からの見返りを求めているのと同じだと思うんですよね。
    ただ、消え物にするか否かは思いの重さだけでなくて、執事たちの自分への自信のなさとか、相手に求めることへの拒否感とか、なにに重きを置くかの価値観とか、いろいろあると思うので、消え物を選んだ執事がみんなロノほど純粋な気持ちではいないんだろうなと思っている。
    1511

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    住めば都

    DONEばーせか2023秋、開催おめでとうございます!
    展示作品です。楽しんでいただけたら嬉しいです。

    ボスキ夢。両片思いの二人がすれ違って傷つけあって、仲直りする話。
    明確な言葉はないけど、今のところボスキさんは十分のようです。

    ボスキさんお誕生日おめでとう! あなたは「執事として魅力がない」ってよく言うけど、そんなことは全くないよ!とても魅力的なひとで、自慢の執事です!
    愛の言葉にかえて 入浴を終え、さっぱりした気分で二階の執事室へ戻る途中のこと。ボスキは階段を登りきったところで、主人の寝室から小柄な人影が出てくるのに気づいた。無意識に口角が上がる。かつて負った怪我のせいで片目しか見えていないボスキだが、彼女の姿を見紛うことはないという自信があった。
     声をかけようとして自分の服装を思い出したボスキは、登ってきたばかりの階段を数段降りた。羽織っただけのシャツのボタンを、可能な限り急いで止めていく。
     主人が屋敷で生活を始めたばかりのころは、風呂上がりに上半身裸のままうろついて、気まずそうな顔をさせたものだ。さすがにまずいかと思い、最近は脱衣場を出る際にシャツを羽織るようになったが、暑いのと面倒なのとで、前を閉めずにいることが多かった。
    14008

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    DOODLEぽいぴく試し書き。
    💮💍(💮🌸)夢。
    💮の力の代償を捏造しています。
    続きは夜プラ予定。
    #aknkプラス
    ハナマルの力の代償に応えたい「ハナマル…大丈夫かな」
    宿屋の窓越しにすっかり暗くなった外を眺めていた私は思わず彼を思い浮かべそう呟いていた。


    ***

    時刻は3時間程前に遡る。

    ある依頼の為に私はハナマルと二人で街に出ていた。依頼の内容を卒なくこなしたハナマルのリクエストにより街で一杯飲んでから屋敷に戻ろうかと話していた時だった。運悪く天使の襲撃に遭ってしまったのだ。相手は知能天使ではなかったものの、数が6体と多かった。いち早く力の解放を行い、ハナマルは見事天使を倒したのだったが…。

    「…悪い、主様。ちょっと疲れちまった。馬車まで歩けそうになくて…何処か泊まれる宿屋ってありそうかい?」
    天使を倒しホッとしたのも束の間、そう言ってハナマルはよろよろした足取りで路地裏に入ると、壁にもたれ掛かりズルズルと座り込んでしまった。大丈夫?と声をかける私の声が聞こえるのか聞こえていないのか、ハナマルは浅い呼吸をするばかりだ。これはマズイと、私は近くにいた通行人に声を掛け急いで宿屋を探す。幸いにも空きのある宿屋を見つけたため、途中で薬等を買込み宿屋へ向かった。
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