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    Meri0_cherry

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    Meri0_cherry

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    朱桜家の庭に咲く桜の木、その“人格”がこはくに移ってしまったお話

    お分かりの通り特殊設定ですので「何でも許せる方」向けです
    不穏だけどハピエンなこはつかになる予定

    #あんさん腐るスターズ
    ansanRottenStars
    #こはつか
    minorOutstandingPerformance
    #特殊設定
    specialSettings
    #パロディ注意
    parodyWarning

    サクラ、サクラ、巡りゆく 第一話 ある日、小鳥が現れた。白い羽をめいっぱい広げて、一本の木の枝に降り立つ。
    小鳥は枝を一度つつくとピーピーと鳴いた。鳴き声はごく普通の鳥のまま、止まっている木の“魂”に語りかける。
    『心を決めたか』
    それに呼応して木の枝が揺れる。小鳥の“魂”への返事だ。カサカサと葉が重なる音が響く。
    『うん、決めた』
    小鳥がまた鳴く。
    『最後に確認する。お前は想いを告げたら必ずこの桜の木に戻ることとなる。それでも良いのか』
    『うん』
    『今のお前の記憶は“向こう”では不完全になり得る。即ちそれは、お前の想い人の記憶も、その感情も、消えてしまう可能性があるということ。それでもお前は、想い人の傍を望むのか』
    『……うん』
    『承知した』
    小鳥は最後にぴいと鳴くと木の頂点まで飛び上がった。足を着けるとバサリと羽を広げる。
    僅かに起こった風とともに、一段と照り輝く白羽がひらひらと木の周りを舞い降りていった。
    するとどうだろう。青々と茂っていた葉桜は、空に近いところから順に、姿を消していったのだ。羽が地に着いた頃には、葉も幹も根っこも、跡形なく消え去られていた。


    ーーーーーー


    「…くん……はくん…」
    遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえる。
    「…こはくん………桜河!」
    「っ!」
    ぱっと目が覚めた。呼ばれた名前らしきものに反応したのではない。耳元で鮮明に聞こえた声に、神経が研ぎ澄まされるほど聞き覚えがあったからだ。
    「大丈夫ですか、ずっとうなされていましたよ」
    そう言って声の主は顔を覗き込んできた。藤色の瞳と目が合う。……目が合う?
    「っ…?!?」
    わしは勢いよく後ずさりした。ベッドの端に置いた手に体重をかけ、驚いた様子の彼をまじまじと見つめる。
    「…………坊…?」
    「…?はい」
    ガンと耳元で銃弾が放たれたかのような感覚に襲われた。動こうとしても関節が言うことを聞かないほど、体はがちりと固まっている。背中を伝う汗は冷たく、心臓の辺りがぞわりとした。
    見るからに戸惑った様子のこの人は、きっと、恐らく…いや絶対に……
    (坊……坊なんか。“あの”坊なんか)
    朱色の髪、藤色の瞳、白い肌、そして聞き覚えのある凛とした声。
    (まさか、まさか本当に……わしがずっと“上から追いかけとった”、ぬしはんなんか)
    「……ほんまに、坊…なんか……?」
    自身の声、なのであろうものがやけに低く震えているのが分かる。
    「急にどうしたんですか、こはくん。そんなに怖い夢を見たんですか」
    「……」
    訳が分からない。どういうことだ。
    わしはずっとぬしはんのことを、その背丈の何倍も上から見ていたというのに。なぜこうして今、目が合っているのだ。
    「……わしは…誰……?」
    必死に絞り出した声に、彼は呆然とした顔で、こはくん…とぽつりと口にした。

    ーーーーーー

    心配と怯えを混じらせた顔で近づいてきた坊は、わしの隣に腰掛けると確かめるようにしてこの顔の輪郭に手を添えた。
    「貴方は……貴方は、桜河こはくです。……覚えて…いないのですか……?」
    オウカワコハク。残念ながら聞き覚えはなかった。
    ゆっくりと首を横に振る。
    「では…私は……?」
    「……朱桜司」
    「な、なぜ私のことは…」
    じんわりと涙を浮かばせながら、必死に頭で何かを考えている。思い当たる節がないか懸命に探しているのだろう。もしかして頭を打ったのかと、確認にわしの頭を撫でるように触れたが、特段傷もなければ痛みもなかった。

    「そうだ、私の他に覚えている方はいませんか。天城燐音先輩、HiMERU先輩、椎名先輩…あとは白鳥くんとか」
    知らない名前が次々と出てくる。
    「……分からん。わし、ぬしはんのことしか見えてへんかったから」
    「……どういうことですか…?」
    「……だってわしは、…」
    説明しようと口を開き、止まる。言葉が続かないのだ。何と言おうとしたのか、急に忘れてしまった。
    「……わしは…」
    (あれ、何やったっけ)
    わしは…、その続きが分からない。思いつかない。勢いに任せれば口から出そうだった記憶が、突然抜け落ちてしまった。

    『ぬしはんのことしか見えてへんかった』
    それはどういうことなのか、たしかに分からない。紛れもなく自分の発した言葉であるはずなのに、まるで他人のもののようだ。

    なぜ坊のことしか見えなかったのか、なぜ坊の記憶だけがあるのか、オウカワコハクとは誰なのか。どれも分からない。
    ただはっきりと分かるのは、この目の前の人物に関する記憶は全て、“上からの視点のものである”ということだけ。
    (一体この記憶は誰のもんなんじゃ。“わし”のもの?それとも、オウカワコハクの?)
    そもそもオウカワコハクとは別人物であると自覚する“わし”が誰なのか、それすら分からない。

    わしは、誰?

    「……すみません、無理に答えなくて大丈夫ですよ。一番戸惑っているのは貴方自身でしょうから」
    「……」
    申し訳なく俯くと、隣からゆっくりと腕が伸びてきた。そのままわしの背中に回される。坊は座った状態でわしを抱き締めてきた。
    近づいた距離に、途端にどきりと心臓が跳ねる。何故か?やっぱり分からない。

    「……こはくん…」
    坊の腕にぎゅっと力がこもった。あたたかくて心地が良い。

    少し経つとわしの肩に埋めていた顔を上げて、姿勢を変え始めた。腕はわしの背中に回したまま、正面に向けていた足をベッドの上に持ち上げる。坊は膝立ちの状態で、わしと正面で向き合うようにした。
    顔が良く見えるようになったな、と坊の表情を覗き込む。すると重なる髪の隙間に見えたその目には、今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた。
    「坊……」
    「…っ、すみません…」
    隠すようにして、顔を背ける。そのせいで目の縁に留まっていた涙がいくつも頬を伝っていった。

    流れる涙を、坊は拭こうとしない。抱き締めた腕をわしから離したくないかのようだ。
    無意識にわしの手が坊の頬に触れる。そのまま親指で涙を優しく拭った。
    坊が小さく微笑む。その悲痛さがわしの胸を締めつけた。
    (この涙はわしのせいなんじゃ。……ごめん。わしでごめん。ぬしはんの大切なオウカワコハクを、奪ってしまって……ごめん)
    贖罪のように、次から次へと溢れ出てくるものを拭ってやった。

    「……こはくん」
    坊がわしの手に自身のを重ねる。
    「私のことは覚えているんですよね」
    「………うん」
    「……では、私たちの関係は……これからも、続きますよね…?」
    関係?一体どんな、と開きかけた口が不意に何かで塞がれる。
    何が起きたのか理解が追いつかなかった。異様に近い坊の顔、唇に感じる柔らかさ。それでやっと、今キスをされたのだと分かる。
    心臓がゾクリとした。つまり、つまりオウカワコハクは……坊と“こういう関係”にあるのだ。
    「……坊」
    心の底から何かが沸き立ってくるのを感じた。ほんの束の間に自分が目の前のこの人に夢中になっているのが分かる。
    しかしこの感情が、鳴り止まない鼓動が、“わし”のものなのかは疑問だ。コハクの体に“乗り移っている”今、コハクの感情を疑似体験しているようにも感じてしまう。
    そう思うと、離れた唇に今度は自分から、なんて思っていた勢いが止まった。坊に今口付けをしたいと思ったのは“わし”ではなくコハクかもしれないからだ。

    坊はわしの背中に回していた腕をゆっくりと戻し、立ち上がる。一度自身で涙を拭いてからドアに向かい、ドアノブに手をかけた。
    「……取り敢えず、明日病院で診てもらいましょう。暫くはお仕事も休業です。燐音先輩には私の方から連絡しておきますから…今日はもうゆっくり休んでください」
    「……うん、おおきに」
    坊が部屋を出た。
    わしは見知らぬ部屋に、一人取り残されてしまった。
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