愛してるじゃ足りない「ダメだ。オマエはもうアジトに来るな」
あの夜を二人で生き抜き、全員無事に戻ってきた。直後は魂の復元などバタついていたが、それも落ち着き日常を取り戻してきた頃、KKから面と向かって投げかけられた拒絶の言葉。一瞬理解が出来ずに、時が止まったのかと錯覚した程だった。
「…はぁ?!なんでだよ!!」
今このアジトに居るのは後凛子さんとエドさんだけで、僕の大声で二人の肩を跳ね上げさせてしまった。
「何でもだ。いいな」
「ちょっ、KKぇ!!!」
引き留めようとする手をすり抜け彼はアジトから出ていってしまう。取り残された僕は、空を切った手を下ろすことも出来ずに閉められた扉を見つめるしか無かった。実際には数秒だろうが、体感何十分も経った頃に後ろから凛子さんの溜め息が聞こえてくる。
「あのバカ、言葉が足りなさすぎるのよ」
物凄く呆れた、とでも言わんばかりの声だ
カチッ『現状を鑑みるに、事情を知っている伊月兄妹の協力は欲しいところだ。よって、二人を失うのは非常に非効率。それはKKも理解しているはずだと言うのにあの発言は理解できない』
「それもあるけど、そういうことじゃないのよエド」
二人の会話を聞き流しながら、一度ひとつになった魂から伝わってくる彼の気持ちに集中する。殆どが恐怖、恐れだ。何故?
「いつも一番重要な文を省くから拗れるってのに。これ以上危険な目には会わせたくないって」
KKはもしかして、僕を危険に晒す事が怖い…?また、自分のせいで失う事を恐ている…?浮いていた手を下ろし、硬く拳を作る。僕がそう簡単にやられるタマじゃない事は、あの一夜で存分に証明したはずだ。眠ろうとしたKKを、どうして取り戻したと思っているのか。伝わっていない事に、怒りと悔しさが湧き上がってくる。麻里との事で学んだ事。魂で物理的に繋がっている相手だとしても、やはり言葉で伝える事は必須な様だ。
「ここはもう大丈夫よ。行ってらっしゃい」
「ありがとうございます凛子さん」
言い終わるか否かの内にアジトを飛び出す。KKの場所はこの繋がりで丸わかりだ。人のいない小さな公園まで全速力で走る。パルクールも駆使した為直ぐ到着すると、ビンゴ。ベンチにどっかりと座ってタバコをふかす彼の後頭部を見つけた。
「KK!!まだ話は終わってないぞ!!」
「うおっ!?」
相当驚いたのかタバコを取り落とした。それを拾って携帯灰皿にしまう所を睨みながら、KKの前にまわって仁王立ちになり見下ろす。
「もう話すことはねぇよ」
「勝手に終わらせるな。僕にはある」
ベンチの背もたれに両肘を引っ掛け目をそらす彼を見下ろしながら、右手の手のひらを自分の胸の真ん中に置き魂ごと伝える。
「僕はあんたが好きだ。愛してる」
「……ちっ」
KKの眉間のシワが増えた。これはしっかりと伝わっている証拠。
「言葉じゃ……愛してるじゃ足りないくらいの気持ちなんだ。伝わってるだろ!だから、あんな事言うなよッ」
自分の胸元の服を握りこみ、強く強く想う。すると、魂に伝わってきていた恐怖、恐れ、焦燥。それらがガラリと変わり、煮えたぎる様な熱さで満たされた。
「…逃がしてやったッてのに」
「僕はもう逃げない。分かってるだろ」
彼は後頭部を乱暴に掻きむしり、観念したと言わんばかりに両手を上げた。
「あーあー、そうだったな、ったく…後悔も入る隙はねぇなこの熱さ」
バシッと自分の胸を叩くKK。やっぱり僕の熱も彼の魂に伝わっていたみたいだ。言葉を伝え合うことは必要だけど、魂で繋がっている僕達には言葉以上の事も伝えられる。