Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nbsk_pk

    @nbsk_pk

    @nbsk_pk

    文字を書きます

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 87

    nbsk_pk

    ☆quiet follow

    博がモテるシャンプーを使って大騒ぎになる話

    #博♂受

    モテるシャンプーの話「ねぇ、ドクター! ドクターならご存知ですよね! モテるシャンプーの話!」
    「うん? なんだい、それは」
     書類仕事から解放された勢いで飛び込んだバースペースはいつも通り喧騒に満ちていた。誰かのための祝いだと派手にボトルを開ける音が響いたかと思えば、その横では肩を叩かれ失意を慰めてもらっている者がいて、はたまた隣に座った見ず知らずの相手に飲み比べを仕掛ける者やら、酒瓶を抱えたまま床に転がる者まで。それは戦場で見る姿とはまた違った、彼らの彼ららしい姿で、私はそれを眺めるのがとても好きなのだった。なので手招きされたテーブルにふらふらと近づき、やあこの前は大変お世話になりましたと定型句の挨拶からだらだらと、やれ誰かの子供がもう歩けるようになっただの、恋人の誕生日の贈り物で悩んでいるだの、そういうのを聞きながらだいぶん私の顔は緩んでいただろうと思う。
     そうしてエールのお代わりついでにつまめるものをいくつか調達して戻ってくると、完全に出来上がったリーベリの彼が顔を真っ赤にして私の名前を呼んだのだった。
    「ドクターが知ってるわけないだろ!」
    「俺ほんとに聞いたんですって、調達部門の知り合いが使った翌日に向こうから告白されたって」
     知らない、と言われると対抗心がわき出してしまうのは私の悪い癖のひとつだろう。こと知識欲という視点でいえば私のそれは恐らく普通の人よりも大きなものを抱えている。それは記憶喪失であるというどうしようもない事実が多分に影響を与えているのは間違いないのだけれど、ケルシー曰く昔から何でもかんでも知識を詰め込むタイプではあったらしいので、単なる性分であるのかもしれない。ともかく私はそのシャンプーについて非常に興味を惹かれたので、彼らに小皿のナッツを差し出しつつ話の続きを促したのだった。
    「レム・ビリトンの辺境で見つかった新種の花らしいんですけど、現地語の名前の音が炎国語だと『恋人募集中』って意味になるらしくて」
     彼が酔っ払い特有のふにゃふにゃした発音で教えてくれたものを数回舌の上で転がし、ああ成程ね、と笑う。
    「ほら、ドクターなら炎国語も知ってるから正しいってわかりますよね! ほら!」
    「語順がちょっとおかしいけれど、十分意味は通じるかな。へえ、面白いジョークだ」
    「そう、そうなんですよ! で、そこに目を付けたブランドが『恋人ができるシャンプー』って宣伝で売り出して、いま若い連中の間で流行ってるんです」
    「結局よぉ、相手からの告白待ちってことだろ? そういう消極的な態度だからいっつもお前は長続きしねぇんだよ」
    「オレは恋は誰かさんと違ってじっくり育てるタイプなんですぅー」
    「つって前の前の恋人だっけ? 優柔不断すぎて二股かけられてたじゃん」
    「思い出させないでくれ!!」
     とまあその場はたいそう大盛り上がりで、最終的にはオーナーにまとめて追い出されるまで美味しいお酒を飲んだのだった。


     さて、なんでこんなことを今思い出しているのかといえば、理由は至極単純で、目の前にあるシャンプーがそれしかないからである。忙しすぎてうっかり日用品のストックを買い忘れたことすら忘却の彼方に吹き飛んでいた。何度ため息をついてもすでに購買部は営業時間外であり、戸棚の奥には洗剤かこの例のシャンプーしかない。なぜそんなものがあるのかというと、あの大盛り上がりした帰りにその場にいた全員で面白がって注文したからである。人気の商品だったらしく届いたころには季節が変わっていてすっかり忘れていたため、適当にストック棚の奥に突っ込んだのだが、まさかそんなものに助けられるとは思わなかった。
    「まあ、どうせフード被ってるし……ってうわ、結構匂いきついな」
     指揮官から痛々しい若者ぶった香りがしていても、うちのオペレーターたちならスルーしてくれるだろう。してくれるはずだ。多分。真夜中の決断ほど信用の置けないものはないが、私はさっさと寝て明日の大規模演習に備えたかった。次の危機契約に向けた今回の演習は参加人数がいつもよりも多く、普段はロドスに常駐していないオペレーターたちの予定もなんとか無理やりねじ込んだため失敗は許されない。一分でも一秒でも多くの睡眠時間を確保するためにもここでうだうだと悩んでいる時間はないのだ。
     ……今思い返せば石鹸で良かったはずなのに、その時の私は選択肢はただひとつとばかりに大きくもないボトルを掴んでシャワールームへと戻っていったのだった。


    *****


     その日、ロドス最大の演習場に激震が走った――――
     ロドスの戦術指揮官といえば胡散臭いフードで顔を隠した得体の知れない人物というのが一般的な評判である。彼の顔を見た者は誰もおらず、ただ声のみで背筋が凍るほど的確な指示を与えてくる謎の人物。記憶喪失だという噂話もあるが、あの指揮の冴えを一度でも見た者の中で信じる人間は多くはないだろう。だがその謎の人物が、オペレーターの中では一種のカリスマ的人気を誇っていることは疑いようもない事実である。人気どころか崇拝や思慕とも言い換えてもいい。本日の大規模演習とてその人物の声かけひとつで、外勤からはたまた協力会社の社長職までのリストを見るだけで目を剥くようなメンバーが今か今かと彼の号令を待ち望んでいた。そんな中に、渦中の人物が『恋人募集中』の看板を背負って現れたのである。現場は無言のままパニックに陥った。
     戦場に立つ者は往々にして嗅覚が鋭いものである。場の異変を文字通り嗅ぎ分ける能力は数少ない生への近道を保証する有利な能力でもあるし、種族によっては嗅覚をコミュニケーションのひとつとして常用している者もいる。誰もが正確にその近年有名になりすぎた香りを嗅ぎ分け、ざわりと動揺が広がっていく。ある者は尾をピンと立てたまま固まり、またある者は耳を伏せ周囲のたった今から手ごわいライバルとなった同僚たちを冷静に値踏みし、ある者は興味などないと無関心の顔を作りながらも利き手が得物から外されることはなかったし、すでにどこかへと着々と通信機で連絡を取り始めている者まで、演習場には先ほどまでとは違った緊張感で爆発寸前となっていた。
     そうした表面上は静かな一触即発の空気の中、しかし彼は(今日はみんなはりきってるなぁ)と感心するだけでスルーし、その優秀な頭の中身を作戦指揮のことだけでいっぱいにしていた。若干寝坊したため設備担当との打ち合わせの時間が押していたというのも大きな理由であった。そもそも彼はその卓越した頭脳から周囲の注意を集めることなど日常茶飯事であり、この程度の異常な注目などただの環境音の一種でしかない。
     であるため、そんな一触即発の空気の中を勇気を持ったオペレーターの一人が進みだした時も、配布資料にミスがあったかなとしか考えずににこやかに迎えたのだった。
    「やあ、パフューマー」
    「あのね、ドクター君。人間、やっていいことと悪いことがあるのよ?」
     両肩に食い込む指の強さはなるほど普段から土に親しむ者たち特有のものだったと、湿布をもらいにきた彼は疲れた表情で語っていた。大きな通る声で十五分の休憩を言い渡した療養庭園の主は有無を言わせぬ笑顔で彼を私室まで案内させ、目の前で原因のシャンプーを没収した。そして帰還したのちに「誤報でした」とだけ場内一斉放送で伝えられたことで一気に緩んだ緊張感と、何がどうやらさっぱり理解できていない指揮官の下で、その日の大規模演習は再開されたのであった。


     後日、何故だかよくわからないまま始末書を書かされた彼は最後まで首をひねっていたが、すれ違うオペレーターたちは軒並みちょっと残念そうな表情を隠しもしなかったとか。

    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💯💘💘💞❤👏💘☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺💘❤💗👏☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    nbsk_pk

    DOODLE岳博ギャグ、自分のもちもちロングぬいぐるみに嫉妬する重岳さんの話。博さんずっと寝てます。絶対もちもちロングおにい抱き枕寝心地最高なんだよな…
    180センチのライバル 重岳は破顔した。必ず、この眼前の愛おしいつがいを抱きしめてやらねばならぬと決意した。重岳は人という生き物が好きだ。重岳は武人である。拳を鍛え、千年もの年月を人の中で過ごしてきた。けれども、おのれのつがいが重岳を模したもちもちロングぬいぐるみを抱きかかえて、すやすやと寝台の上で丸くなっていることについては人一倍に敏感であった。


    「失礼、ドクターはどちらに」
    「ドクターでしたら、仮眠をとると私室へ」
     あと一時間くらいでお戻りになると思いますが、と教えてくれた事務オペレーターに礼を伝え、重岳はくるりと踵を返した。向かう先はもちろん、先ほど教えてもらった通り、ドクターの私室である。
     この一か月ばかり、重岳とドクターはすれ違いの生活が続いていた。ドクターが出張から戻ってきたかと思えば重岳が艦外訓練へと発ち、短い訓練ののちに帰艦すれば今度はドクターが緊急の呼び出しですでに艦を離れた後という始末で、顔を見ることはおろか声を聞くことすら難しかったここ最近の状況に、流石の重岳であっても堪えるものがあったのだ。いや流石のなどと見栄を張ったところで虚しいだけだろう、なにせ二人は恋仲になってまだ幾ばくも無い、出来立てほやほやのカップルであったので。
    2835

    nbsk_pk

    DOODLE岳博、いちゃいちゃギャグ。寒い日に一緒に寝る姿勢の話。岳さんが拗ねてるのは半分本気で半分はやりとりを楽しんでいる。恋に浮かれている長命種かわいいね!うちの博さんは岳さんの例の顔に弱い。
    「貴公もまた……」
     などと重岳に例の表情で言われて動揺しない人間はまずいないだろう。たとえそれが、冬になって寒くなってきたから寝ているときに尻尾を抱きしめてくれないと拗ねているだけであったとしても。


     彼と私が寝台をともにし始めてから季節が三つほど巡った。彼と初めて枕を交わしたのはまだ春の雷光が尾を引く暗い夜のことで、翌朝いつものように鍛錬に向かおうとする背中に赤い跡を見つけ慌てたことをまだおぼえている。それからほどなくして私の部屋には彼のための夜着がまず置かれ、タオルに歯ブラシにひとつまたひとつと互いの部屋に私物が増えていき、そして重ねる肌にじっとりと汗がにじむような暑さをおぼえる頃には、私たちはすっかりとひとかたまりになって眠るようになったのだった。彼の鱗に覆われた尾にまだ情欲の残る肌を押し当てるとひんやりと優しく熱を奪ってくれて、それがたいそう心地よかったものだからついついあの大きな尾を抱き寄せて眠る癖がついてしまった。ロドスの居住区画は空調完備ではあるが、荒野の暑さ寒さというのは容易にこの陸上艦の鋼鉄の壁を貫通してくる。ようやく一の月が眠そうに頭をもたげ、月見に程よい高さにのぼるようになってきた頃、私は名残惜しくもあのすばらしいひんやりと涼しげな尾を手放して使い古した毛布を手繰り寄せることにしたのだった。だが。
    2030

    related works

    落書き

    MOURNING博♂←モブ
    何も起きません
    路傍の小石 検査のために取っ払われた装備の中から覗く、うねるように跳ねた毛先が気になるのは私だけなのだろうか。朝、定刻、ケルシー医師の冷めた声色、ペンが滑る音、静けさに雫を垂らすような淡々とした診察、その他数名の医療オペレーターからドクターへ注がれる視線。定期健診は何もかもいつも通り、滞りなく進んでいる。
     私の頭の中は二つの並列な思考に支配されていた。一つはこの健診を無事に終わらせるために医療機器を正確に操作すること。もう一つは彼の頭の爆発具合について。毛先が奔放に跳ねるさまはある種芸術的と言えるかも知れないが、社会人としては失格だ。と、一般論として私はそう考えている。このような注釈を入れるのは、この場に同席する他の医療オペレーターの誰一人としてそのことを指摘しないからだ。あのケルシー先生ですら何も言わない。この場に於いて一番の新参者である私だけが知らぬ、一種の決まりごとのようなものがあるのかもしれなかった。或いはとうの昔にドクターは身だしなみについて注意を受けたのかもしれない。改善の意思が見られない患者に、口酸っぱく同じことを言い含めるほどケルシー先生は愚鈍ではないし優しくもないだろう。我慢の限界に達すれば別の手段を取って有無を言わさず目的を達成する。私は日が浅いながらも、ケルシー先生と、先生のドクターに対する遠慮の無さをそういうふうに解釈していた。その距離感は彼らの信頼を表しているのかもしれないが、ドクターはケルシー先生に叱られることを恐れていて、頭が上がらないことも知っている。そういった小市民のような一面を持ち合わせているドクターに、私は少なからず親近感を覚えていた。
    4715

    recommended works

    nbsk_pk

    DOODLE博の本名が知りたかっただけなのに特大の爆弾落とされたScoutさんの話
    名前を呼んで[Sco博♂]「■■■・■■■■……ああ、呼びづらいでしょうから、よろしければ”ドクター”と」
     彼はその立場が立場であるので、このような商談や交渉の席に呼ばれることが非常に多い。『私にもできる数少ないことなんだ。ほら、私のボウガンの成績は知っているだろう?』などと嘯く口調は本気そのものだったが、その内容を真実ととらえるような人間はどこにもいないだろう。不発に終わった冗句に肩をすくめながら、彼は本日もまたにこやかにそのふくよかなキャプリニーの男性と握手を交わすのだった。


    「■■■・■■■■?」
    「驚いた。君はとんでもなく耳が良いな。だがそれは今回だけの偽名だからおぼえておく必要はないよ」
     ということは、ここに来ることはもう二度とないのだろう。交渉は順調に進んでいた様子に見えたのだが、彼の中ではもう終わりということらしい。せっかく、と思いかけてScoutはその理由を自覚し、そっと飲み込んだ。なにせその見つけた理由というものがあまりにもみっともない――せっかく彼の真実の一端に触れたと思ったのに、というものだっただなんてウルサス式の拷問にかけられたって口を割れるものではなかった。などと葛藤するこちらのことなどまったく気にも留めずに、彼はいつも通りの温度のない口調で言葉を続けている。
    1247