黒猫を宅配「お届け物でーす」
ソファでくつろぐTETSUの膝に、ずしりと箱が乗せられた。箱の中を満たす黒い物体が小さく動き、二つの金色の目がTETSUを見る。TETSUの相棒である黒猫が、箱にみっしりと詰まっていた。
「へえ、こいつぁ良いもんだ。どこからだ?」
TETSUは箱を持ってきた譲介を見上げる。
「差出人は不明ですねえ」
譲介は機嫌よく答えてTETSUの隣に座る。
これは譲介とTETSUの間で最近流行っているちょっとした遊びである。箱に入った相棒を譲介が箱ごと持ち上げて、TETSUのところに持ってくる、それだけ。
譲介はニコニコしながら、TETSUが相棒の狭い額や下顎の毛を指先で掻くのを眺めている。
「なんだよ」
「いえ、なんにも」
譲介がTETSUに軽く体重を掛けた。TETSUの膝の上では相棒が手にじゃれついている。ひとりと一匹の重みが温かい。
要するに、譲介はTETSUの隣に来るきっかけが欲しいのだ。TETSUはこの遊びをそのように理解していた。変な遠慮などせずとも、勝手にやって来て勝手に座れば良いだろうに。
「そういや届け物に、受け取りのハンコは要らねえのか」
「ハンコ?」
譲介は顔をTETSUに向けた。TETSUはすかさず首を傾けて、譲介の頬に軽いキスをする。
「あ、ど、どうも……」
譲介はTETSUに顔を向けた姿勢のまま、頬を染めて固まっている。TETSUはその様子を見て笑ったのだった。
相棒は箱から出てTETSUの膝を降り、すたすたと歩き去った。