とある少年の失恋「悠仁どうしたの?泣き腫らした顔して」
「五条先生……」
公園で一人涙を流す虎杖の前に、高校生の五条が現れた。
「ナナミンに恋人ができてた……」
「……もしかして灰原?」
「えっ?」
先ほどあの人が名乗ったものと同じ苗字に驚き顔を上げる。
「先生、灰原さんと知り合い?」
「そりゃもう、七海と一緒。僕の後輩だよ〜」
いつも通りおちゃらけた様子に他意は見られない。
「先生から見てナナミンと灰原さんは前世から恋人同士でしたか?」
「いや?ただの同級生だったけど」
「そうですか……」
それならやはり、ナナミンを取られるのは納得がいかない。
「でも、七海に恋人ができるならあいつだろうなって気はしてた」
「…?」
どういうこと?と続きを促すと、眉を下げ悲しそうに笑った。
「七海のやつ、灰原が死んでから隣に誰も置かなかったから」
確かに、ナナミンと横並びで立てる人というのは想像できない。自分は子供扱いされてるし、成人している猪野ですら守るべき後ろの人、五条は言わずもがな前に立つ人だ。隣に並んで立つ人があの人だといわれると、妙に納得できるものがあった。
「灰原がまだいないなら悠仁にもチャンスはあると思ったけど、そっか、出会ってたのか」
そうだとしても納得できないことがある。
「五条先生」
「なんだい」
「ナナミンはどうして、最期にあんな綺麗に笑ってくれたんだろう」
自分に向けられた笑み。あれを見た瞬間、自分が愛するあの人がまた自分を愛してくれているのではと錯覚した。そうでないとしたら、あの笑顔の意図はなんだったのか。
「悠仁はさ、走馬灯って知ってる?」
「死ぬ前に見るやつっすよね」
「そ。で、走馬灯って噂じゃ幸せだった頃の記憶を見ることが多いらしいよ」
ということは、つまり…。
「俺のことを思って笑ってくれてたんじゃないってこと?」
「それどころか、灰原の幻覚を見ていた節まである」
「…それじゃあ」
俺がバカみたいじゃんと拗ねると、五条は虎杖の頭に手を置いた。
「恋なんてバカにならないとできないし、立ち向かうだけで偉いよ」
頑張ったなーと頭を撫でる手は暖かかった。