最終的にアニメのフラッシュバックにたどり着きます陽気で人懐っこくて、悪く言えば何も考えていない。そんな同級生の一面に気づいたのは共に過ごしてから半年程経った頃だった。
(灰原が寝ているのを見たことがないな)
お互いを補える術式の都合上、学外でも共にいることが常となっている。同室で寝泊まりする任務も数多くこなしてきた。だが、七海は未だに灰原が睡眠を取っている姿を見たことがなかった。
(私が起きた時には既に身支度を整えているし、夜もなんやかんや言い訳をしながら私より遅く寝る。何故?)
そんな些細なことが気になり出したのは彼に向ける自分の感情を自覚したから。相手のいろんな姿を見たいと思うのは自然な事だった。
(任務の時は私も体力気力を温存したい。となると…)
***
「おやすみ七海、また明日!」
「おやすみ」
翌日は授業も任務もなしという週末の夜、七海は作戦を実行することにした。
(そろそろいいかな)
互いの部屋に戻って数時間後。薄い壁に耳を当て隣室が鎮まりかえっていることを確認して部屋を出た。向かうは隣の灰原の部屋。自分の部屋と同様に鍵のついていない個室のドアを開けると室内は暗く静まり返っていた。
(仕事柄、夜目には自信がある)
ドアを閉め暗闇となった部屋の中、記憶を辿りに突き進む。寝床の横にたどり着いた時にそれは起こった。
「だれ?」
「ぅわ!?」
「ななみぃ?」
普段より舌足らずな口調で名前を呼ばれる。ベッドに横たわる彼の瞳はいつも通りこちらをまっすぐ見つめていた。
「どうしたの?」
本格的に覚醒した彼は体を起こしこちらを見つめる。手を握られてしまい逃れられそうになかった。
「…灰原が寝ている所を見たいと思って…」
「…なんで?」
「気を使わせているのかと思って…」
嘘ではない。自分にもう少し気を許してほしいと言うのは事実だった。
「別に七海にだけ気を使っているわけじゃないよ。僕、あんまり眠れないというか、眠っていてもすぐ目が覚めるんだよね、昔からそうだったから」
「どうして?」
健康優良児の彼が不眠のような状態だなんて何か病気だろうかと不安になったが、帰ってきた答えは意外なものだった。
「だって、寝てる時に呪霊が襲ってきたら守れないでしょ?」
「え?」
「僕はお兄ちゃんなんだから」
聞くと、見えるが祓えない妹のために身につけた術だという。その努力に感心する一方、少し腹がたった。
「私は兄弟でも、守られるような存在でもない」
「七海強いもんね」
「そうじゃない。もっと私を頼ってくれと言っているんだ」
その言葉に灰原は目に見えて狼狽えたがそれを指摘せずに話を進める。
「今まで二人で呪霊を祓ってきた。…あの人たちみたいなことを言うのはなんだが、灰原と一緒なら最強になれると思うこともある。だから、灰原が私の支えであるように、私も灰原にとって頼れる存在になりたいと思っている」
握った手に力を込める。灰原は視線を少し逸らしながら口篭った。
「…急に言われても難しいかな…」
「少しずつでかまわない。時間はたっぷりあるんだから」
暗闇の中で自分のはもちろん相手の頬が赤いのは、気のせいではないと思いたい。
***
(そんなこともあったな)
腕の中の寝顔を見つめながらふと数ヶ月前のことを思い出す。二人の関係はこうして寝床を共にするまで発展していた。
感情をまっすぐに表現する彼の表情は就寝中の今、なりを潜めている。生きているか不安になるくらいに。起こしたくなる衝動を抑えながら彼の腰に回した腕に力を込めた。