戯れに振り回される二人思いがけず仕事が早く終わり半休を取って帰宅した日。玄関で挨拶をしたが誰も出ず、どうしたものかと裏へ回る。伊地知は昨日から休暇を取っていることを思い出しながら庭までたどり着くと、箒を持った灰原がいた。
「灰ば…」
らと声をかけようとして止まる。どうやら彼はこちらに気づいてないようで、鼻歌を歌いながら掃除をしていた。その可愛らしい姿をもう少し眺めていたくて見つからないように身を顰める。舞うように掃く様子を見てあることに気が付いた。
(葉を避けている?)
落ちてくる葉を華麗に避けながら掃いていく。灰原としてはただの戯れなのかもしれないが、手が届きそうで届かなかった頃の自分たちの関係をを思い出してしまいなんだか面白くなかった。
「あれ?七海?」
殺気が出ていたのか不意に彼がこちらを向く。気まずさで帽子を深くかぶりながら歩を進めた。
「おかえりなさい!早かったね」
「仕事が早く終わったもので」
「じゃあお出かけしない?急いで掃除終わらせるから!」
「待っているのでゆっくりで…ちょっとじっとしていてください」
話している間に灰原の頭についた葉を手に取る。そのことに気づいた灰原は「ありがとう!」とお礼を言いパッと離れて行ってしまった。
「まったく…ん」
手元にある葉は先ほどまで彼の頭にあったもの。手が届かないと思っていたものが、自分が姿を現しただけですんなり手に入ったようで。
「何を考えているんだ、私は…」
灰原のほんの戯れに踊らされていると七海は苦笑するしかなかった。