バラの香りを味方につけて 朝の気配に、英智は目を覚ました。
白い光が、顔を照らす。その眩しさに顔を顰め、思わず寝返りを打っていた。
できることなら、もう少し眠っていたい。
上掛けを肩まで引っ張ると、バラの花の香りに包まれて、ますます心地いい気分になる。
時間的な余裕を欲しがるだなんて、贅沢な話だ。それだけ、穏やかな朝ということだろう。
まるで、夢みたいな世界だ。
横たわるベッドの隣には、温かな、自分以外の存在がある。
手を伸ばしたら触れられる距離に——同じベッドの中に、あの子が……。
ふと、英智は疑問を抱く。昨夜は何をしていたっけ。
——思い出せない。
英智が薄く目を開くと、横たわっているあんずの顔が間近に迫っていた。顔を覗き込むようにして英智の様子を伺っている。
3314